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マスター:栗山 飛鳥
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2017/01/01


みんなの思い出

1
1

オープニング

 5年前――
 海上を移動中だった撃退士の一隊がディアボロに襲われた。
 小型とはいえ船に巻きついてなお余りあるシーサーペント(海蛇)の上半身が、嘲笑うかのように、呆然としている撃退士達を見下ろしている。
 凪の海だったはずの海上は、その海蛇が身じろぎするだけで荒れ狂い、先に逃がしたクルーを乗せた救命ボートを木の葉の様に呑み込んでいった。
 そして、撃退士達が成す術も無く食われていった。海蛇の巨大な口腔が、撃退士をひとりひとり丸呑みにしていく。反撃しようにも、不安定な足場がそれを許さなかった。
 その男は最後まで生き残った。船に乗り合わせていた撃退士の中でも特別に強かったわけではない。ただ、運よく、ディアボロに攻撃される順番が最後であった。それだけである。
 ディアボロが最後の一人となった男に襲いかかる。
 その瞬間、海蛇に巻きつかれていた船が限界を迎えた。真っ二つに折れた船体から投げ出され、男は喰らいついてきたディアボロの牙から難を逃れる。痛みも感じないほどあっさり、右腕と右脚をもぎ取られながら。
 海に落ちた男は、波間に沈みながら、雄叫びをあげるディアボロを見ていた。その声に共鳴するかのように、荒波は激しさを増していき。
「!!!」
 船の部品であったのだろう、鉄片が男の左目に突き刺さり、男の意識はそこで途切れた。


 5年後――話は現在に戻ってくる。
「ついに完成した……」
 右腕と右足にそれぞれ簡素な義手義足を取りつけた男が、巨大な鉄塊を見上げていた。左目には眼帯まで付けており、その姿はまるで海賊のようである。
 ただし、彼が見上げる先にある巨大な鉄塊は、海賊船ではなく潜水艦であった。水圧を効率よく逃がすようにカプセル状の胴体。上部には柵が取りつけられており、浮上した際には甲板の役目を果たすのだろう。
 だが、最も特徴的なのは、下部に取り付けられた巨大なアンカー(錨)である。
「あれからすぐ、あのディアボロの討伐指令が発せられた。だが、ディアボロの攻撃に耐えうる戦艦に、精鋭の撃退士を乗せて挑んだその時、ディアボロは彼らを相手にしなかったのだ」
 はじめに撃退士達が襲われた海域にディアボロは潜んでいたが、敵わないと見るや、それは海の底へと逃げてしまうのだ。いかに精鋭の撃退士とは言え、海底までは手出しができず、彼らは退却を余儀なくされた。
 勝てない戦いはしない。強大な力を持ちながら、ディアボロは狡猾な性質も兼ね備えていたのだ。
「それを聞いた俺は、ディアボロ討伐のための秘密兵器を開発するチームに志願した。……もう撃退士としては再起不能だったしな。
 そして5年の歳月をかけて完成させたのが、この潜水艦というわけだ。これでディアボロの巣に直接乗り込み、このアンカーでディアボロを海上まで引き摺りだす。
 ディアボロには透過能力がある? 心配無い。このアンカーは、砲手でもある特別な訓練を受けた撃退士と繋がっている。言ってしまえば、巨大な魔具なのだ」
 よく見ると、潜水艦の底にも阻霊符が貼り付けられていた。ディアボロに内部から攻撃されないためだろう。
「潜水艦のクルーはこちらで用意した。皆には、ディアボロを海上へと引き上げた後、そいつの討伐を頼みたい」
 5年の歳月が流れ、精鋭部隊の再招集は困難となっている。ディアボロを討伐するには、その5年で育った新しい力に賭けるしかないのだ。
 男はそこまで語り終えると、左目の眼帯をはずした。そこには、よく脳にまで達さなかったと思える深い傷跡が、ぽっかりと口を空けていた。
「無くしたはずの俺の左目には、いまだにあの日の光景が映っている。お前達にもこの絶望を味わせてしまう事になるかも知れないと思うと恐ろしいが、それでも頼む……俺の仲間達のカタキを取ってくれ」


プレイング

ちのうしすうがたかい・雪室 チルル(ja0220)
高等部3年1組 女 
心情:
「久々の大物退治ね!腕がなるわ!」

目的:
敵を撃破

準備:
・作戦
初手に相手を引き寄せ、一気にダメージを稼ぐ。
それと同時にバステ・マーキングを撃ち込み、妨害を仕掛けていく。
3ターンほどで解除し、その後は適宜潜水したら引き寄せにかかる形で対応。
また、陣形が崩れたなどで動けない場合はアンカーを大きく緩めて距離を開け、
自軍の体勢を立て直す時間を稼ぐ。
また、相手が瀕死な場合は一気に詰めて勝負を仕掛ける。
敵の位置識別にはマーキングを使用する。

・準備
万が一溺れた場合を考慮してライフジャケットを用意。
また、事前に靴底を滑りにくくするためにスパイクを用意。

行動:
・基本
前衛として行動。
敵が近づいてくるまでは範囲攻撃で着実に削っていく。
範囲攻撃を撃ち切ったら弓に切り替えて遠隔攻撃で対応。
遠隔攻撃で狙う場合は胴体、可能であれば尾を狙っていく。
基本的に物理攻撃は盾で受けていくが、
ノックバックを仕掛けてきた場合は不動を利用して対処。

・接近時
真正面から近接武器で殴り合う。
基本的に当てやすい胴体を中心に狙っていく。
但し、アンカー周辺は切断することで外れやすくなる可能性を考慮し、
アンカー周辺は狙わないようにしていく。
また、攻撃後に尾を出している隙が見えたら、
奥義を使用して尾の切断を試みる。

・追い出された時
基本的には船に向けて泳いで戻る。
難しいようであれば仲間に助けを求める。

歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
大学部8年2組 男 
目的
依頼の達成

行動
阻霊符使用
間下さんの方針に従う
方位磁針使用

飛行して戦う
敵と艦との間に居て、艦を攻撃しにくくする
敵が移動不能なら攻撃し、そうでないのなら潜水対策の為に待機して審判の鎖を準備し阻止する
審判の鎖や仲間のBS攻撃の効き具合から、審判の鎖が使い終わったら胡蝶の妖撃で代用するか幻影の鎖に交換して使用
BSが効きにくいのなら胡蝶の妖撃は普通に使用

海に投げ出された人がいたら救助
もし誰も救助にいけないとかなら、バナナボート少しでも溺れるまでの時間を稼ぐ

戦闘
防御優先で基本浮遊盾
近は槍、遠は本
魔法攻撃をする時は本の使用考慮
前衛

胡蝶の妖撃0でVジャベリンや吸魂撃等の攻撃スキルに
生命の芽は最初に重体になった人に
Lヒールと神の兵士を使い分け
スキル交換は連携で

補足
臨機応変
怪我人は手当

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部2年1組 女 
【心情】
「これは、大蛇と言うよりも龍と呼ぶのが正しそうですね」

【準備】
方位磁針を見やすい位置に取り付けて固定する

【行動】
リーダーからの指示を元に敵の位置を推測する
戦闘になったら水上歩行を効果が切れ居ない様に注意しながら継続使用
闘気解放を使用して、戦闘初期に毒手を使用して長期戦に備える
「あれだけ体が多きなら体力もかなり高いはず、早めに毒を付与した方が良さそうですね」

相手の側面に位置取って、兜割りを使用して動きを止める
感知を使用して尾の位置に注意をして、弾かれそうになったら出現位置真上に移動して上空に弾かれるように誘導して、敵頭部に移動
眼やピット器官を潰す為に風遁・韋駄天斬りを使用する
潜水されたら潜水艦上に移動して、足場を確保 昇竜に備える

攻撃をする際に胴体に対して近接武器の効きが悪い場合はソムニウムD99で目などを狙うか仲間と連携して前後から同時に挟み込む様な攻撃をして威力を逃がされない様にする
「これなら柳に風の様に衝撃を逃がす事は出来ないでしょ」

※アドリブOK

超絶回避・エイルズレトラ マステリオ(ja2224)
中等部3年1組 男 
飛行スキルを使用し空中で活動
基本的には囮、敵の攻撃を自分に向けて回避する回避盾
水上歩行スキルを使用しておきバランスを崩す、水中に叩きつけられる等したとき水面で受け身を取れるようにしておく
リーダーの指示に従い、また仲間の言葉は聞いておく
敵が水上に現れたらクラブAで攻撃
水中にいて手出しできない間に回復スキルで自分や傷ついた味方を回復
敵が水中で他にやることないなら召喚獣を召還、水中戦をさせる
召喚獣を囮に使い、海面まで誘い出す
味方が水中に落ちた場合救出
召喚獣を召還中なら手伝わせる
激しい波や風等で空中で姿勢を保持できない時は甲板におりて手すりにつかまる等する


非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
大学部2年7組 男 
知性があるなら
想定外で動揺するはず
頭脳戦は
この凡人が引き受けます

錨の指示を担当
引き寄せ指示→イン
緩める指示→アウト
戻す指示→フリー
と表記

指示に徹し
敵の動きに即時対応するため
攻撃せず待機
落ちても指示出せるよう救命胴衣着用
常時膝立ちで転倒予防
回避射撃は前衛担当に使用
常時方位磁針で方角把握

交戦開始時イン
マーキング使用
以降効果終了時再使用
(優先順位は指示>マーキ
3ターン引き寄せたらフリーに

潜水時
浮上の予兆を観測次第
方向と距離を報告
八方位と潜水艦首を12時とするクロックポジション併用で
味方に先回りさせ
文字通り出鼻を挫く
「接近!南南西8m、5時

潜水後回転を観測すれば
昇竜と予測
浮上地点から離れるよう指示
「退避!北5m、12時
一度目のみ撃たせる

以降
昇竜の予兆を観測した場合
先手をうちイン
妨害し反撃開始
「一度『泳がせた』甲斐がありましたね

集中砲火し
次ターンにフリーへ
潜水は浮上・昇竜時に↑の対応を

海に2名以上落ちればアウト
距離を置き復帰・回復に専念
復帰完了次第か
3ターン経過でフリー

ペンギン帽子の・ラファル A ユーティライネン(jb4620)
大学部2年5組 女 
「おっちゃん、俺達似た者同士だよな」
などと学園一のメカ撃退士は言うならば全身義肢義体の撃退士とも言えた。つまりこの潜水艦の船長と同じだ。顔面すらも作り物にされているため男よりも不詳の度合いがひどいかもしれないが本人はさほど気にしてもいねー。
「おいちゃんの存念ぜってーはらしてやるぜ」
と意気揚々と参戦しているように見えて内心はほくそ笑んでいるラファルである。保身が図れる程知能があるってことは八方ふさがりにすれば絶望するってことだよな。俺はいい気になっているディアボロの心を折るのが楽しみだからなー。まさにこいつはうってつけだ。散々弄んでぼろ雑巾のように殺してやるぜ。

ただし機械の体故に海にはめっぽう弱いため水陸両用モード(水上歩行)になる。海に落ちたら海面を走りつつ「壁走り」で船体をよじ登って戦線復帰。

位置取りは全員の正面にて囮担当。敵の遠隔攻撃を一手に引き受ける。
狭い足場ながらも踊るようなステップで敵の攻撃を全て避けきる。ウミヘビ野郎をじらしてアンカーを轢かないまでも接近させてやるぜ。
アンカーを引くか、もしくは向こうから寄ってきたら本領発揮。
奥義にて義体を6体に分離変形して6人のラファルを顕現させ、フルボッコで圧倒。正常な戦況判断を阻害して逃走妨害。その後は仲間と連携しつつ、致命傷を与えていく。
「魔刃〜」により体内にナノマシンを侵入させて内部から爆散。七孔噴血させてやるぜ。

新しき風を生み出す・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
大学部1年4組 男 
アド絡み称号歓迎

心情
「しっかし大物釣り上げたもんやなぁ。しっかり〆とかんとな

準備
作戦行動の確認及び周知
個人行動で乱れが出ないようにする
方位磁針を自分が見える体の位置に固定しておく

行動
戦闘前凶翼使用し飛行し以降継続
上空より敵頭の位置は常に皆に伝える
基本方針としてまっさんの指示のもと動く

「期待してるで?『凡人の非凡な采配』ってやつにな

初手雷菊
スタンさせ見方の各種BSを確実に当てるようにフォロー
そのままスタンしているのであれば黄昏→雷菊→黄昏と連続して攻撃を観光しスキル切れか接近可能時間いっぱいまで攻撃を行う

離れた際はKSRに持ち替え狙撃
可能であれば攻撃はできるだけ一箇所に纏めるように行う

自身への攻撃は船に影響が出ないように回避
位置取りは常に注意しまっさんから借りた方位磁針と船首の方向を時計の針に見立て敵位置は常に味方へ連絡する

敵潜水時はスキル0であれば雷菊→破魔の射手(遠距離からの狙撃に使用)黄昏→シールドバッシュに入替え昇龍攻撃の際横っ面を殴る形で使用
味方スタン時は追撃が行かないように釣り出しフォロー
浮上時の波は飛行することによって回避を試みる



リプレイ本文

 限りなく漆黒に近い蒼の中を、潜水艦が進む。
 目標のディアボロはすぐに見つかった。海底の奥でとぐろを巻いている。サーチライトに照らされると、かま首をもたげて、威嚇するように牙を剥いた。
 潜水艦は、船体の底に取りつけてあるアンカーをディアボロに向けた。危機を察知したディアボロがすぐに身を翻そうとするが、間に合わない。
 潜水艦からアンカーが発射される。それはディアボロの胴体に突き刺さると、逆鉤を飛び出させて、ディアボロに食い込んだ。

「よーし、決まった! そのまま浮上するんだ!!」
 艦長席に座った眼帯の男が叫んだ。
「もうすぐ出番だ。お前達も準備しておいてくれ」
 男は背後に居並ぶ撃退士達にも声をかけた。
「まかせとけよ、おっちゃん」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)が軽い調子で請け負った。
「潜水艦、浮上します!」
「よし。学生諸君、出撃だ!!」
 男の号令の下、学園の撃退士達は甲板へと上がっていく。


「予想以上に大きいね、これは」
 龍崎海(ja0565)が首をほぼ直角に上げながら言った。
 海蛇のディアボロは、海面から上半身だけを覗かせ、浮上した潜水艦に立つ撃退士達を見下ろしている。下半身にはアンカーが突き刺さっているらしく、今も海水にどす黒い血を滲ませ続けている。
 5年の歳月がそうさせたのか、海蛇の体にはフジツボが鎧のようにビッシリ棲みついており、またその背には水草がたてがみのように生えていた。
「これは、大蛇と言うよりも龍と呼ぶのが正しそうですね」
 雫(ja1894)がポツリと言葉をこぼす。
「久々の大物退治ね! 腕がなるわ!」
 ディアボロの威風も意に介さず、雪室 チルル(ja0220)は大剣を構える。いち早く戦闘態勢を取った彼女に触発されたのか、ディアボロはいきなりエイルズレトラ マステリオ(ja2224)に喰らいついた。
「おっと、あぶないですね」
 エイルズレトラはバック宙でそれを避けた。彼の手を離れたトランプの束が四方八方に散らばっていくが、それらは魔法みたいに彼の手の中へと再び収まっていく。
「戦闘開始してくださいー。頭脳戦はこの凡人が引き受けます」
 間下 慈(jb2391)が寝癖の多い髪をかきながら言った。
「期待してるで? 『凡人の非凡な采配』ってやつにな」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)が、そんな彼の肩を叩くと、6枚の翼を広げて甲板上から飛び立った。
 続けて、海とエイルズレトラも翼を生やすと、ディアボロと艦の間に浮遊した。
 ラファルは水圧に強いずんぐりむっくりな水陸両用モードに変形して、水上戦に備える。
「引き寄せてください!」
 今回は指揮に徹するつもりなのだろう。片手に拳銃、もう片方の手で柵を掴みながら膝立ちになった慈が、潜水艦に指示をとばした。
 慈の声は潜水艦に備え付けられた集音マイクで拾われ、潜水艦の船長にまで届く仕組みになっている。
 ギリギリと、すぐさまアンカーが巻き取られていき、潜水艦とディアボロの距離が縮まっていく。
「衝撃に備えて!」
 潜水艦とディアボロが隣接し、軽く衝突しただけにも関わらず、ディアボロの質量を受けた潜水艦が派手に揺れた。
「これなら剣が届くわね!」
 待ってましたとばかりに、チルルが飛び出す。水飛沫を浴びて七色に煌めく氷剣を、一息にディアボロの腹へと突き立てる。
 彼女らしい、出し惜しみの無い渾身の一撃がディアボロを貫き、ディアボロは悲鳴のような雄叫びをあげた。
「ふっ、その図体は見かけ倒しですか?」
 エイルズレトラが気障に笑いながら、無数のトランプをディアボロに投げつける。ばら撒かれたカード達は、まるで意思あるかのようにディアボロにまとわりつき、ディアボロもそれらを鬱陶しそうに身をくねらせて払いのける。
 巨大な怪物の身じろぎに、海面に波が立ち始めた。
「あっ!?」
 気を高めていた雫が、波に足を取られて小さく悲鳴をあげた。咄嗟に柵を掴むことで転倒は免れたが。
「なるほど、これは戦いにくいです」
 と、額についた潮水をぬぐった。
 全てのカードを払い落したディアボロは、海面からひれのついた尾を出現させて、チルルを薙ぎ払う。
 全身を持っていかれそうな衝撃に、チルルは足下にアウルを集中させて対抗した。凍気が足下を凍てつかせ、自身と甲板を繋ぎとめる。
「てやー!」
 強烈な一撃を耐え抜いたチルルが、剣をフルスイングして尾を弾き返す。水面に落ちた尾が、隠れるように水中へと沈んだ。
 先程からいいようにやられている事を忌々しく思っているのか、ディアボロはチルルを睨んでいる。
「そら、余所見してる暇は無いぜ」
 人知れず命を刈る死神の如く、ディアボロの死角へと潜り込んだゼロが大鎌を振るう。電撃を纏った漆黒の鎌刃がディアボロの首元を打った。電光が菊模様に狂い咲く。
「あなたの相手は彼女だけではありません、私達です」
 雫が毒を纏った右手を、ディアボロの腹にできた傷口へと突き入れる。
「そういうことだ!」
 続けて海も自身の周囲から聖銀色に輝く鎖を発生させ、ディアボロの巨体を絡め取る。
「へっ、楽勝じゃねえか」
 ラファルも軽口を叩きながら、手にした刀で斬りつけた。
「油断は禁物ですよー。そろそろアンカーが限界です。いったん、鎖を元に戻しますねー」
 慈が潜水艦に合図を送りつつ、抜け目なくマーキング弾をディアボロの頭部に撃ち込む。
 ほどなくして潜水艦とアンカーを繋いでいた鎖が緩められ、ディアボロと撃退士達の距離が離れていく。
 本領発揮とばかりに、ディアボロが吠えた。
「離れてても攻撃できるんだから!」
 チルルが剣先から衝撃波を放つが、一瞬早く、ディアボロは水中に潜って攻撃をかわした。チルルの一撃が海面を叩き、派手に水柱が立つ。
「あーっ、逃がしたーっ」
 チルルが悔しそうに地団太を踏む。
「まぁまぁ。今のうちに治療しておきますよ」
 エイルズレトラが子供をあやすようにチルルの頭を叩きながら、尾撃を受けた時にできたらしいコブに、トランプを絆創膏みたいに貼りつけた。
「まっさん! 敵さんはどこに隠れおった?」
 ディアボロの消えた水面を睨みつけ、大鴉を模した銃を腕に取り付けながら、ゼロは信頼する友人に尋ねた。
「龍崎さんの鎖が効いているようで、大きな動きは見られませんねー。ああ、そろそろ浮上してくるようです。皆さん、3時方向に迎え討つ準備を!」
 慈の指示は的確ではあったが、敵の規模が規格外すぎた。海中に沈み、浮上する。たったそれだけのことでも、高層ビルに匹敵する巨体が行うと、自然災害ではありえないウォーターハザードが発生する。
 ディアボロの浮上と共に発生した大津波が、海面に浮かぶ潜水艦はおろか、飛行していた撃退士までも、まとめて呑み込んだのだ。
 巻き込まれなかったのは、慈の合図に合わせて高度限界ギリギリまで飛行したゼロのみである、
「くそっ、まっさん! 皆、無事か!?」
 ディアボロを牽制しながら、ゼロが潜水艦の消えた波間に呼びかけた。
 潮が引き、潜水艦が姿を現す。
「な、なんとか……」
 仰向けに倒れたまま、血の気の引いた左手で柵を握りしめた慈が応答した。他の潜水艦上で戦っていた面々も似たようなもので、必死に甲板や柵にしがみついて、全員どうにか波にさらわれることだけは避けたようである。
 空中で戦っていた撃退士達も、頭から高波を受けて前後不覚に陥っているようだった。
 そのような状態でディアボロへの攻撃が続行できるわけもなく、再び、ディアボロを海中へと逃がしてしまう。
 海中へと潜ったディアボロの動きは先程とは違う。潜水艦を中心に円運動を行い、そうして発生した大渦で潜水艦を呑み込もうとしているのだ。
「おいおい、何だかヤバくねーか」
 マーキングした慈でなくとも、その動きの不穏さは伝わったらしい。ラファルが渦を成す海面を覗きこみながら呟いた。
「ちっ、止めてこい、ダイヤ!」
 エイルズレトラが一族に伝わる小柄なストレイシオンを召喚し、水中に飛び込ませる。水中を自在に動けるストレイシオンは、海中のディアボロに攻撃できる唯一の手段と言えた。だが、ディアボロの巻き起こす大渦の勢いは、パワーがあるわけではないストレイシオンでは、すでに止められるものではなくなっていた。何度かディアボロに体当たりを試みるも、弾き返されてしまう。
「!?」
 突如としてディアボロの動きが変わったことに、マーキングをしていた慈が気付いた。これまでとは比べ物にならないスピードで、ディアボロが急浮上を開始したのだ。
「皆、危ないっ!」
 間に合わないという確信がありつつも、慈は叫ばずにはいられなかった。
 ディアボロが竜巻を纏いながら、潜水艦を突きあげるようにして浮上した。


 大渦が高波となって、海上にいる全てに襲いかかった。回転運動によって極限まで研ぎ澄まされた水圧は、螺旋の刃となって、撃退士達の全身を斬り刻んだ。
 今回ばかりは、最も高いところを飛行していたゼロですら例外ではない。何せ、トン単位の重量を誇る潜水艦ですら巻き上げられて、宙を浮いているのだから。
 まずは潜水艦が勢いよく着水した。
 続いて、潜水艦上で戦っていた者達が、次々と落下して甲板に叩きつけられていく。例外はラファルで、彼女のみディアボロの大技を察知し、あえて海に飛び込むことで竜巻の範囲から逃れていた。水陸両用形態に変形していなければ即死だった。
 最後に、空中で戦っていた者達が、水面に叩きつけられる。ここにも例外がいて、エイルズレトラのみ竜巻の範囲外へと退避することに成功していた。
「とんでもない威力ですね、まったく」
 エイルズレトラがトランプをばら撒いてディアボロを撹乱し、その間にラファルが潜水艦の側面を駆け登って甲板上へと戻る。
「おーい、生きてるかー!?」
 ラファルが声を張り上げると、雫とチルルは武器を杖代わりに立ち上がった。
「どうにか、無事なようです……」
「うう、頭がグラグラするー」
 だが、慈が倒れたまま動かない。
 海とゼロも翼を大きく広げて海面から脱出するが、立ちあがらない慈を見て顔色を変えた。
「いけない! すぐに治療を」
 海がすぐに慈のところへと飛ぶ。
「立てよ、まっさん!」
 ゼロは叫んだ。
「お前がこんなところで終わるわけないやろ!」
 その声に応えるかのように、慈の指が微かに動いた。
「僕はまだ戦える、僕はまだ戦える、僕はまだ戦える」
 うわごとのようにそれだけを繰り返し、慈が上半身を起こした。
「自己暗示で致命傷すら誤魔化している……!?」
 医学に精通している海が、驚きの声をあげた。
「僕はまだ皆を守れるんだ!」
 慈が両足で完全に立ちあがる。
「ご心配おかけしましたー。けど、僕は大丈夫ですので」
「……次はドクターストップだからね」
 海は苦笑いしつつ、慈に治療を施しはじめた。
 全員が立ちあがったことに気付いたディアボロは、またもや海中へと姿を隠した。
「逃がすな!」
 エイルズレトラが鋭く叫んだ。他の誰にでもない、自らの分身に向けて。
 そう、海へと潜ったディアボロを、ストレイシオンが待ち受けていた。
「!?」
 絶対安全なテリトリーに侵入を許した驚きで、ディアボロが一瞬硬直する。その隙に、ストレイシオンがディアボロの首筋に喰らいついた。
「!!」
 だが、地力はディアボロが圧倒していた。ディアボロはすぐさまストレイシオンを振り払うと、回転運動を開始する。今度こそ完膚無きまでに――
「――完膚無きまでに僕達を仕留めるために、なーんて思ってるんでしょうねー」
 甲板上で、慈は呟きながら潜水艦に合図を送った。
 急ピッチでアンカーに繋がる鎖が巻き取られ、ディアボロの巨体が強制的に海上へと引き上げられる。
「2度も同じ手は通じませんよー。ま、一度『泳がせた』甲斐がありましたね」
「では、終わらせましょう」
 ディアボロが浮上させられた際に発生した高波を剣で斬り裂いて、雫がディアボロめがけて突進した。我に帰ったディアボロが尾で彼女を払う。
 それを剣で受け止めた雫だったが、衝撃は殺しきれずに弾き飛ばされてしまう。柵も突き破って、水中へと落下……する前に空中で一回転して体制を立て直し、水上歩行も発動して、水面に着地した。
 僅かな飛沫を後に残して、雫が再び駆けだした。
 ディアボロも再び尾を振るう。
「やらせるもんかあっ!!」
 チルルが己のアウルを全開にして飛び出した。猛る荒波ですら凍てつかせるかのような白く輝く一閃が、ディアボロの尾を貫き、破壊する。
「ああぁぁっ!?」
 ただ、勢い余って海上にある尾を攻撃してしまったため、そのまま海に落ちてしまったが。
「今ですっ!」
 慈が声を張り上げる。
「怒りを、打ち込めっ!」
 それは事前に打ち合わせていた合言葉だった。

「ふっ、こんな俺にも見せ場を与えてくれるのか」
 潜水艦内では、艦長が笑みを浮かべていた。
「総員、衝撃に備えろ! これより本艦はディアボロに体当たりを敢行する!!」

 これまで不動で撃退士の足場となってきた潜水艦が水上を往く。ただでさえ至近と言えた距離を限りなく零に。
 ラファルがたまらず拳を振り上げる。
「おっちゃん、ぶちかませぇ!」
 潜水艦がディアボロに突貫した。その衝撃でアンカーが食い込み、ディアボロの内蔵をえぐる。
「ふっ!」
 続けざまに、鋭い息を吐く音と共に、雫の剣がディアボロの頭部を打ちすえた。
 屹立していたディアボロの頭部が、ついにグラリと傾ぐ。
「さて、釣り上げた大物は、しっかり〆とかんとな」
 6枚の翼を最大限に広げ、ディアボロの頭上を取ったゼロが大鴉の嘴をディアボロに向ける。
「これで終わりや!」
 蒼い光がディアボロに降り注ぎ、その頭部を貫いた。ディアボロの瞳から生気が失われていく。だが、本能か、それ以上に原始的な脊椎反射か、ディアボロは口をカッと開くと、最期に血の混じった鉄砲水を吐き出した。
 ゼロは避けなかった。そうするまでもなく、赤い水圧砲はゼロの隣を掠めて、あらぬ方向を薙いでいった。
 力尽きたディアボロの巨体が揺らいだかと思うと、水面に横たわった。
 その衝撃で、潜水艦とディアボロを繋いでいた鎖が千切れ、破片を煌めかせながら、アンカーがゆっくりとディアボロを海底へと引きずりこんでいく。
 戦いは終わった。
 アンカーに込められた怒りと怨念は、ディアボロを二度と暗い水底から解放することは無いだろう。


 一方、海に落ちたチルルは、海とエイルズレトラに救出されていた。
「ふー、ありがとう。あっ、見て見て!」
 二人に服を掴んで吊り下げられた状態で、チルルを上空を指さした。
「ああ、あの怪物も、最期に粋な土産を残していったね」
「あれだけ水遊びしてたんですから、そりゃできるでしょう」
 彼女の指さす先には、雲一つ無い青空にくっきりと虹が浮かんでいた。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:5人
MVP一覧
 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
重体一覧
 −

ちのうしすうがたかい・
雪室 チルル(ja0220)

高等部3年1組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部8年2組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部2年1組 女 ナイトウォーカー
超絶回避・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

中等部3年1組 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部2年7組 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

大学部2年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
新しき風を生み出す・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

大学部1年4組 男 阿修羅


依頼相談掲示板

【相談卓】海蛇狩り
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)|大学部1年4組|男|阿修
最終発言日時:2016年12月24日 00:11
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年12月20日 22:42


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