景気の屈曲点、すなわち、いつ下降に転じ、いつ底入れし、いつ加速するかを、事前に予測するのは困難である。それどころか、足元がどういう状況に在るのかすら分からず、半年も経って、ようやく屈曲点を過ぎていたと気づくのが普通だ。そうした中、本コラムは、昨秋からの失速、2月頃の底入れ、そして、この秋の加速を、ほぼリアルタイムで読み取ることに成功した。これは、「不況下では、追加的需要が決定的役割を果たす」というアプローチによるものである。
………
11月の経済指標は、供給側が極めて好調であった。まず、商業動態の小売業は前月比+0.2と小幅上昇だった。前月が+2.6と非常に高かったのに、反動もなく上乗せできた意味は大きい。天候不順による生鮮食品の高騰で、財の物価指数(下図・淡青線)が跳ね上がったため、11月の実質がマイナスに変わるなど、かなり割り引かれるものの、それでも10,11月の平均は7-9月期を+0.8上回る。日銀の消費活動指数は、商業動態に近い動きをするので、11月は低下するにしても、10-12月期に2%成長を期待できる範囲に収まるだろう。
鉱工業指数については、報道されているように、大変、良い結果だった。生産は前月比+1.5、出荷は+0.9、そして、在庫は-1.6である。生産予測指数も12月+2.0、1月+2.2と強い。10-12月期の生産は、7-9月期の前期比+1.3を上回ることは確実だろう。各財に目を移すと、消費財出荷の10,11月平均は、前期より+3.4と高く、設備投資の目安となる資本財出荷(除く輸送機械)は+3.9、建設投資を推し測る建設財出荷は+2.0となった。いずれも、2%成長が期待できるレベルだ。ただし、在庫減が大きく進んだことから、これがGDPのマイナス要因になるおそれはある。
一方、11月の住宅着工は、季節調整済の年率換算値が-4.3万戸となり、10,11月の平均は、7-9月期と比べ、-2.2万戸となった。高水準にはあるが、駆込み需要前の水準を既に超えており、ここから更に伸びると考えるのは無理がある。今後、住宅は景気の牽引役からは降り、建設需要は企業や公共向けが担う形となろう。建設業の人手は逼迫しており、それが無理のない成長の姿でもある。
(図)

………
こうした中、需要側の11月の家計調査は、生鮮食品の高騰により、攪乱を受けたようだ。今回ばかりは、消費支出の低下をお天気のせいにしても構わないだろう。二人以上世帯の実質消費支出は、10月の前月比-1.0に続き、11月も-0.6だった。対前年同月における実質減の寄与度は、食料が2か月連続で最大項目となっている。勤労者世帯の前月比が10月-2.9、11月+2.2であったことからすると、無職世帯への影響は深刻だったようだ。消費総合指数は、家計調査の影響を受けるため、消費活動指数より低下幅が広いと考えられるが、こちらがGDP速報の消費に近いこともあり、どのくらいに収まるかが注目される。
需要側と供給側の食い違いについては、ソフトデータでもみられる。消費動向調査と景気ウォッチャー調査は、10、11月に、前者が悪化、後者が改善と、連続して方向が逆であった。おそらく、需要側の消費者にとっては、生鮮食品の高騰に伴う物価上昇が強く意識され、実質値的に捉えているのに対し、供給側のウォッチャーは、名目値的に売上げが伸びていると感じられ、このズレが映し出されていると思われる。
次に、雇用だが、11月の労働力調査の失業率は3.1%へ上昇し、就業者数は前月比-11万人、雇用者数は-27万人となった。男性は、減少する中でも、後方6か月のトレンドを上回る水準にとどまったが、女性は、これを下回る減少となった。また、有効求人倍率は、前月比0.01の上昇でも、新規求人倍率は、「フル」が横バイ、パートが-0.04の低下である。雇用は非常に好調な状況にあるものの、こうした揺らぎが敏感な家計調査に影響しているのかもしれない。
………
さて、とかく批判の多い異次元緩和であるが、改めて図を眺めると、サービス価格については、まっ平らだったものが、わずかながら上昇傾向にあることが分かる。円高や原油安の関係で、財の価格が低下基調にあることで相殺されて、物価全体では横バイになるが、サービス価格の上昇は、デフレ脱却に向けて、非常に大切な要素である。サービスの「原料」は労働だから、人間の価値の高まりを示唆する。サービス価格を上昇させつつ、食料などの財の価格を安定させることが、生産性を向上させ、経済を成長させる道となる。
こうした観点からは、ひたすら金融緩和をやり、円安にするほど良いというものではないことが理解できよう。日銀に国債を買わせ、金利を下げて国債費を節約し、円安による輸出増で緊縮財政を補うのが「最善」という大蔵官僚的な価値観では上手く行かない。今や、日本は若くなく、二人以上世帯の1/3は無職である。穏健な財政で需要を安定させ、内需の圧力を高めつつ、輸入物価が消費を冷やさぬよう、購買力平価を踏まえ、頃合いの為替水準を模索すべきである。
昨秋からの景気失速は、異次元緩和で円安にしていたにもかかわらず、世界経済の停滞で輸出が失速したのに加え、消費増税の翌年まで緊縮財政で臨むという無策によるものだった。今年に入り、円高に振れたのに、輸出は底入れし、建設需要も民間の支えで盛り返したことにより、2月頃を底に景気は回復に向かった。そして、この秋には、未だ公共の低迷が続く中、回復が鮮明になり、消費に滲み出して、景気が加速してきている。
不況下では需要管理が決定的に重要と達観し、追加的需要をつぶさに追えば、正確に景気の現状を把握できる。人はリスクを恐れるがゆえに、金利や金融ではなく、需要や財政に期待が動かされる。これが証明された1年であった。惜しむらくは、こうした需要管理を中心に据えたアプローチは、現実を見通せても、正しさを分かってもらえないことだ。価値ある見方ほど理解され難いというのは、宿命のようなものではあるが。新たな年には、誰でも明快に先が読める好調一方の経済となってもらいたいね。では、良いお年を。
(今日までの日経)
人民元、対ドル6.6%下落、資本流出を警戒。黒田日銀総裁「緩和、まだまだやれる」、構造改革と緩和、一体で成長期す。生産回復が加速、3期連続上昇へ 10~12月鉱工業生産。消費 まだら模様。野菜、今年は高かった。知財収入伸び盛り 10年で5倍、黒字2.4兆円。
※今年もご愛読ありがとうございました。今年の自薦ベストは、底入れを判定した(3/6)かな。閲覧は少なかったけどね。新年の更新は1/8の予定です。
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11月の経済指標は、供給側が極めて好調であった。まず、商業動態の小売業は前月比+0.2と小幅上昇だった。前月が+2.6と非常に高かったのに、反動もなく上乗せできた意味は大きい。天候不順による生鮮食品の高騰で、財の物価指数(下図・淡青線)が跳ね上がったため、11月の実質がマイナスに変わるなど、かなり割り引かれるものの、それでも10,11月の平均は7-9月期を+0.8上回る。日銀の消費活動指数は、商業動態に近い動きをするので、11月は低下するにしても、10-12月期に2%成長を期待できる範囲に収まるだろう。
鉱工業指数については、報道されているように、大変、良い結果だった。生産は前月比+1.5、出荷は+0.9、そして、在庫は-1.6である。生産予測指数も12月+2.0、1月+2.2と強い。10-12月期の生産は、7-9月期の前期比+1.3を上回ることは確実だろう。各財に目を移すと、消費財出荷の10,11月平均は、前期より+3.4と高く、設備投資の目安となる資本財出荷(除く輸送機械)は+3.9、建設投資を推し測る建設財出荷は+2.0となった。いずれも、2%成長が期待できるレベルだ。ただし、在庫減が大きく進んだことから、これがGDPのマイナス要因になるおそれはある。
一方、11月の住宅着工は、季節調整済の年率換算値が-4.3万戸となり、10,11月の平均は、7-9月期と比べ、-2.2万戸となった。高水準にはあるが、駆込み需要前の水準を既に超えており、ここから更に伸びると考えるのは無理がある。今後、住宅は景気の牽引役からは降り、建設需要は企業や公共向けが担う形となろう。建設業の人手は逼迫しており、それが無理のない成長の姿でもある。
(図)
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こうした中、需要側の11月の家計調査は、生鮮食品の高騰により、攪乱を受けたようだ。今回ばかりは、消費支出の低下をお天気のせいにしても構わないだろう。二人以上世帯の実質消費支出は、10月の前月比-1.0に続き、11月も-0.6だった。対前年同月における実質減の寄与度は、食料が2か月連続で最大項目となっている。勤労者世帯の前月比が10月-2.9、11月+2.2であったことからすると、無職世帯への影響は深刻だったようだ。消費総合指数は、家計調査の影響を受けるため、消費活動指数より低下幅が広いと考えられるが、こちらがGDP速報の消費に近いこともあり、どのくらいに収まるかが注目される。
需要側と供給側の食い違いについては、ソフトデータでもみられる。消費動向調査と景気ウォッチャー調査は、10、11月に、前者が悪化、後者が改善と、連続して方向が逆であった。おそらく、需要側の消費者にとっては、生鮮食品の高騰に伴う物価上昇が強く意識され、実質値的に捉えているのに対し、供給側のウォッチャーは、名目値的に売上げが伸びていると感じられ、このズレが映し出されていると思われる。
次に、雇用だが、11月の労働力調査の失業率は3.1%へ上昇し、就業者数は前月比-11万人、雇用者数は-27万人となった。男性は、減少する中でも、後方6か月のトレンドを上回る水準にとどまったが、女性は、これを下回る減少となった。また、有効求人倍率は、前月比0.01の上昇でも、新規求人倍率は、「フル」が横バイ、パートが-0.04の低下である。雇用は非常に好調な状況にあるものの、こうした揺らぎが敏感な家計調査に影響しているのかもしれない。
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さて、とかく批判の多い異次元緩和であるが、改めて図を眺めると、サービス価格については、まっ平らだったものが、わずかながら上昇傾向にあることが分かる。円高や原油安の関係で、財の価格が低下基調にあることで相殺されて、物価全体では横バイになるが、サービス価格の上昇は、デフレ脱却に向けて、非常に大切な要素である。サービスの「原料」は労働だから、人間の価値の高まりを示唆する。サービス価格を上昇させつつ、食料などの財の価格を安定させることが、生産性を向上させ、経済を成長させる道となる。
こうした観点からは、ひたすら金融緩和をやり、円安にするほど良いというものではないことが理解できよう。日銀に国債を買わせ、金利を下げて国債費を節約し、円安による輸出増で緊縮財政を補うのが「最善」という大蔵官僚的な価値観では上手く行かない。今や、日本は若くなく、二人以上世帯の1/3は無職である。穏健な財政で需要を安定させ、内需の圧力を高めつつ、輸入物価が消費を冷やさぬよう、購買力平価を踏まえ、頃合いの為替水準を模索すべきである。
昨秋からの景気失速は、異次元緩和で円安にしていたにもかかわらず、世界経済の停滞で輸出が失速したのに加え、消費増税の翌年まで緊縮財政で臨むという無策によるものだった。今年に入り、円高に振れたのに、輸出は底入れし、建設需要も民間の支えで盛り返したことにより、2月頃を底に景気は回復に向かった。そして、この秋には、未だ公共の低迷が続く中、回復が鮮明になり、消費に滲み出して、景気が加速してきている。
不況下では需要管理が決定的に重要と達観し、追加的需要をつぶさに追えば、正確に景気の現状を把握できる。人はリスクを恐れるがゆえに、金利や金融ではなく、需要や財政に期待が動かされる。これが証明された1年であった。惜しむらくは、こうした需要管理を中心に据えたアプローチは、現実を見通せても、正しさを分かってもらえないことだ。価値ある見方ほど理解され難いというのは、宿命のようなものではあるが。新たな年には、誰でも明快に先が読める好調一方の経済となってもらいたいね。では、良いお年を。
(今日までの日経)
人民元、対ドル6.6%下落、資本流出を警戒。黒田日銀総裁「緩和、まだまだやれる」、構造改革と緩和、一体で成長期す。生産回復が加速、3期連続上昇へ 10~12月鉱工業生産。消費 まだら模様。野菜、今年は高かった。知財収入伸び盛り 10年で5倍、黒字2.4兆円。
※今年もご愛読ありがとうございました。今年の自薦ベストは、底入れを判定した(3/6)かな。閲覧は少なかったけどね。新年の更新は1/8の予定です。