今度はトヨタ自動車がトランプ次期米大統領の標的となった。同社がメキシコで進めている新工場建設についてトランプ氏が、「工場は米国に造れ。さもなくば高い関税を支払え」とツイッターで圧力をかけた。
メキシコでの新工場建設をめぐっては、米国のフォード・モーターがトランプ氏の要求に沿う形で計画を撤回したばかりだ。今後もこうした個別企業の経営に政治介入が続くのであれば、由々しきことである。
「トランプ流」の問題点は、事実関係や歴史的経緯、詳細に及ぶ議論などを飛び越えて、一方的批判を展開するところにある。過激かつ単純な短文のメッセージをツイッター上で発信し、相手に圧力をかける。攻撃の対象は自分の都合で選ぶ。
大統領となる人のなすべき行為ではない。影響力では圧倒的に有利な立場にある。実際、トランプ氏のトヨタ批判が伝えられただけで、同社の株価は一時、3%以上下落した。
トヨタによると、同社は米国内に10の製造拠点を持ち、過去30年で計2500万台以上の車を生産してきた。全米で約13万6000人の雇用を直接支えている。
米国内で生産実績のない企業であっても、投資先の選択について大統領が介入するのは正しいことではない。加えて、すでに企業市民として根付いているトヨタを一方的に攻撃し、着工した建設をやめさせようとするのは、あまりにも理不尽だ。
トヨタは自らの経営判断を貫いてほしい。ただ、一社で大国の大統領に抵抗するのは容易ではないだろう。国際的に活動する企業の経営者には、原理原則を守るための連帯を望む。国家による恣意(しい)的な企業経営への介入を許さない、という断固とした態度を示すことだ。
政府にも役割がある。権力の乱用に反対する姿勢を明確に示していかねばならない。
トランプ氏のトヨタ攻撃について政府は、「まだ就任前で、コメントは控えたい」(菅義偉官房長官)、「民間企業の問題。政府として伝えるべきことがあれば伝えるが政権が発足してから検討したい」(世耕弘成経済産業相)としている。なぜ、守るべき価値をもっと強調しないのだろう。「就任前だから」と言うが、大統領選挙からわずか9日後に安倍晋三首相はトランプ氏に会いに行き、「信頼できる指導者だと確信した」と述べていたではないか。
トランプ氏の一方的な圧力発言に対抗するうえで有効なのは、世論の応援だ。企業経営者も政府も、事実や経緯、ルールを市民にわかりやすく説き、民間活動の自由を守るという原則に対し、支持を獲得していく必要がある。