SMAPの解散報道がきっかけでファンの声が大きさが可視化された2016年。今、音楽の力とは? SMAPなき後に残ったものとは?
音楽業界の構造的変革を論じた話題書『ヒットの崩壊』の著者・柴那典氏(音楽ジャーナリスト)と、ジャニーズを戦後日本のあり方に関わるカルチャーとして捉えた『ジャニーズと日本』の著者・矢野利裕氏(批評家)による新春特別対談をお届けします。
ネットを活用しないジャニーズの特異的な姿勢や、SMAPが背負ってきたテーマを代表的な楽曲から論じた第1回、J-POPにおける「踊る」楽曲のヒットや新たなスタイルの隆盛を分析した第2回、SMAP解散後のジャニーズを担う次世代グループを考えた第3回に続き、最終回では2017年以降のトレンドを予測します。
柴 2017年の年明けだからこそ、この対談でぜひ話したいと思っていたことがあります。『ヒットの崩壊』にも書いていますが、2016年は一年を通して、「ファンの声」がひとつの経済活動として大きな力を持つという異例の事象がありました。
SMAPの解散報道を受け、『世界に一つだけの花』のCDが40万枚近くの売上を成し遂げ、300万枚の大台に乗った。解散に反対する署名もたくさん届けられた。朝日新聞に全8ページの全面広告も掲載された。実際にかなりの金額が動きました。
ただ、残酷な言い方をすれば、これらの動きは事務所の方針を左右することはなく、結局、願いは空に帰してしまった。ただ、僕はその空に帰してしまった願いとか、報われなかった経済活動とかは、とても大きな力を持って2017年を左右する気がするんですよ。
エンターテイメントのあり方だけでなく、世の中のムードみたいなものにも影響しうる可能性がある。そのあたり矢野さんはどう感じますか?
矢野 それこそ『ヒットの崩壊』に良いことが書いてありました。東日本大震災後に、中居正広が「音楽の力」や「歌の力」という言葉を使って、大型音楽番組をスタートし、テレビと音楽の歴史を変えていった話です。僕は「音楽の力」というのは、言葉にすると凡庸だけれども、そういうものを素朴に信じているところがある。
いきものがかりの水野良樹は「歌うことには社会的な影響力がある」と言っていますけれど、ビジネスの話以上に、そこには「歌う」という行為が根本にあります。『ヒットの崩壊』にも式典と音楽の話がありましたが、例えば今、MONGOL800の「あなたに」がどこで歌われているかといったら、合唱コンクールで歌われていますからね。
歌は、さまざまなかたちで残っていくんです。人が労働を中心として何かを営むときは、傍らには歌が絶対にある。これは歴史的に、太古の昔からそうです。売れようが売れまいが、カラオケでみんなが歌う。学校でみんなが歌う。もしかしたら鼻歌でみんなが歌う。
そういう意味では、やはりSMAPに共通体験としてのヒット曲があって本当に良かったと思います。一連の騒動を経て、逆説的に歌の存在が浮かびあがっているふうにも見えます。それはすごく大きな希望だな、と。
柴 ベストアルバムの『SMAP 25 YEARS』に選出された曲にも、その一端が見えるようです。
矢野 あの順位は一般の人から見たらよくわからないものですよね。でも、それらの歌にはいろんなメッセージが込められている。投票1位になった『STAY』という曲は、その歌詞にあるように「SMAPもちゃんと手を繋いでいて欲しい」というメッセージなわけじゃないですか。
だから、SMAPというグループはなくなるかもしれないけれども、みんなの中に歌は残っているし、芸能も残り続ける、と言えると思います。CDやネットなど時代ごとのメディアによって、いつでも音楽に接することができる。
そういう意味で今後も売上が伸びるかどうか、ミュージシャンやアーティストが今後どういうふうになっていくかの社会的な予測は全くできないんだけれども、柴さんが言っていることを僕なりにロマンティックな解釈をすると、中居くんが言うところの「音楽の力」や「歌の力」をもった根源的な音楽として残り続けるんだろう、という楽観的な気持ちはあります。
だから、そういう意味では『ヒットの崩壊』で書かれているのは、CDが売れなくなっても音楽は残るという話だと思うんですね。そこには強く共感します。