2016年はスポーツ界で女性の日本代表監督が次々と誕生する節目の年となった。「ガラスの天井」を破り、サッカーや卓球では初の女性指揮官が誕生。一方、柔道のように女性監督への待望論がありながらも先送りとなっている競技もある。柔道の元世界女王で、日本オリンピック委員会(JOC)女性スポーツ専門部会長を務める山口香・筑波大准教授に女性指導者を巡る現状と課題を聞いた。
■必要なのは選ぶ決断だけ
バレー女子代表の中田監督。指導者の分野で女性の活躍が目立ってきた=共同
――サッカー女子代表「なでしこジャパン」で高倉麻子氏、卓球女子では馬場美香氏が監督に就任。34年ぶりの女性監督となったバレーボールの中田久美氏も含めて、指導者の分野で女性の活躍が目立ってきた。
「着実に状況が動いてきていると感じる。現役時代に男子と比べて支援が少ない中で自立して強くなった女子選手が、引退後に指導者として育ってきた。五輪の成績を見ても近年は男女で差はないし、引退後にJOCの指導者海外研修などで経験を積んでいる人も多い。人材がいないなんていうことはもう理由にならない」
――夏季五輪のメダル獲得数を比べると、1964年東京から88年ソウルまでの6大会では男子の142個に対して女子はわずか12個だが、92年バルセロナ以降の7大会では男子が102個で女子は93個とほぼ互角だ。
「選手としても指導者としても経験は十分に積んでいるのだから、必要なのは選ぶ決断だけ。基本的に女子スポーツは女子のものであっていい。男子代表の監督には必ず男性指導者が選ばれるわけだから、女子代表監督は女性が務めるべきだろう。代表監督のポストはいわば看板。一般の人たちの目に触れやすいし、選手たちにも『私たちも監督になれるかもしれない』という夢を与えることになる」
■個々人の資質比べた議論が大切
――女性監督の方が女子選手とコミュニケーションをとりやすいとされる。男女の指導者それぞれの利点は。
指導者の男女差についての議論はナンセンスと語る山口准教授
「その議論自体がナンセンス。教師に男女どちらが向いているかなんていわないのと同じで、技術指導力や情熱という必要な資質は男だろうと女だろうと変わらない。体育の授業で女性教師が男子生徒を教えるのは普通だし、海外では柔道の女性コーチが男子選手に教えている例もある。選手とのコミュニケーション力についても、男女差というよりは個人差の部類でしょう。個々人の資質を比べて議論をすべきだ」
「女性が監督を務めるメリットは何なのかとよく聞かれるが、男性以上の何かがないと女性は監督になってはいけないのか。たとえば柔道の場合、実際に選手と組んで教えられるのが男性の利点といわれる。でもそれは指導者の資質とはかけ離れている。競泳の平井伯昌コーチは自分で泳いで手本を示すわけではないでしょう。ラグビー前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏だって自分でプレーして見せるわけじゃない。きちんと指導のノウハウを持っていることが大事で、そこに男女の違いはない」