“幸福”を探して 人類250万年の旅 ~リーダーたちも注目!世界的ベストセラー~
世界が注目のベストセラー “幸福”を探すヒントとは
イギリスのEU離脱やトランプ次期大統領の登場。
異次元の金融緩和や資本主義の停滞。
そして、人工知能やバイオテクノロジーなど、科学の急速な進歩。
2017年の私たちは後の時代から見れば、大きな歴史の岐路に立っているのかもしれません。
そうした混迷の時代を生き抜くヒントが詰まっているといわれているのが、こちらの本。
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が書いた、「サピエンス全史」です。
世界48か国で200万部以上を売り上げています。
世界中のそうそうたる知識人、著名人たちが、この本にコメントを寄せているんですが、皆さんこの本のどこにひかれているんでしょうか。
この本の特徴は、人類250万年の歴史を全く新しい切り口で解釈している点です。
7万年前に起きた認知革命。
1万2,000年前の農業革命など、人が発展を遂げたターニングポイントを4つの時代に分けているんですが、作者が全ての時代において重要だと考えているのが、私たち人間がフィクションを信じる力なんです。
一体、人類の発展とどんな関係があるんでしょうか。
“幸福”を探す 人類史の旅 “フィクションを信じる力”?
「今年の正月、あっという間だったな。
でも、得意先も仕事始めだし、しょうがないか。」
と、正月明けから愚痴モードの鈴木さん。
都内の会社に勤めています。
で、いきなりですが、会社って何なんでしょうか?
建物のこと?
社長や社員?
株式や登記簿?
どれも会社の一部ではあるけれど、よく考えると会社って、実体があるようでないですよね。
鈴木さんに昼が来た!
「あぁ、満腹満腹。
お会計。」
「ありがとうございます。
780円になります。」
ここにも!
鈴木さんが払ったお金。
お札は紙だしコインもただの金属。
なぜ価値を持つんでしょうか?
こうしたお金や会社は、実は全てフィクション。
みんながあると信じているから成り立つもの。
国家や法律など、私たちの社会はフィクションだらけと、本には書かれているんです。
そして、この“フィクションを信じる力”こそが、人類が繁栄した鍵だというのです。
一体、どういうこと?
もう少し、ご説明しましょう。
今から、およそ7万年前。
私たちの祖先、ホモ・サピエンスです。
当時、より力が強い、ネアンデルタール人という別の種族もいましたが、生き残ったのはホモ・サピエンス。
一体、どうして?
ネアンデルタール人は、リンゴなど、実際に見えるものしか、言葉にして周りに伝えられなかったそうです。
でも、ホモ・サピエンスは、神様のようなフィクションを想像し、それを全く見知らぬ他人に伝えることができたといいます。
フィクションを想像し、みんながそれを信じる。
そのことで多くの仲間と協力し、大集団での作業が可能になったのです。
これが人類の最初のターニングポイント、認知革命。
私たちの祖先が集団で大きな力を発揮し、地球上の覇者になった源です。
人類史研究の第一人者、海部陽介さん。
フィクションを信じる力で人間が発展した証拠は、古代遺跡にも残っているといいます。
国立科学博物館 人類史研究グループ長 海部陽介さん
「ラスコー洞窟の壁画です。
黒で描かれたバイソンと、それから人間がいるんですけど、よく見ると、その人は頭が鳥のような姿をしている。
現実に存在しないものを創り出している。
そういう物語を生む能力が、ここにすでにあった。
こういう能力を持った人たちだったからこそ、大きな社会を作っていったという仮説をバックアップする。」
この本の斬新な視点は、これだけではありません。
「文明の発展が人間を幸せにするとは限らない」と、この本は言うんです。
およそ1万2,000年前に始まった、農業革命。
集団で力を合わせて小麦を栽培することで、食料の安定確保ができ、人口が増加。
社会は大きく発展したというのが、通説ですよね。
ところが、この本は、ここで全く新しい考え方を持ち出します。
集団としては発展したけれど、人間一人一人は、狩猟採集時代より働く時間が長くなり、不幸になる人が増えた。
しかも、貧富の差まで生まれたというのです。
“食糧の増加は、よりよい食生活やより長い余暇には結びつかなかった。
平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。
農業革命は、史上最大の詐欺だったのだ。”
作者は更に、大胆な仮説を展開します。
小麦という植物から見れば、人間を働かせて小麦を増やさせ、生育範囲を世界中に広げた。
つまり農業革命とは、“小麦に人間が家畜化された”とも言えるというんです。
びっくりですね!
今までの常識をひっくり返す考えの数々。
ホリエモンこと堀江貴文さんは、人間の本質という点で、自分自身の考えと共通する部分があると語ります。
実業家 堀江貴文さん
「別に書いてあることは当たり前のこと。
みんな、当たり前とは思ってないのかな。
今でも満員電車で通っている人たちも農耕社会の名残みたいなもの。
何千年も続いた社会規範をなかなか捨てることができないから、サピエンスとは矛盾をはらんだ生き物である。
矛盾を受け入れる柔軟性がサピエンスのサピエンスたるところ。」
池上彰×ベストセラー著者 人類は幸福になったか?
ジャーナリストの池上彰さん。
これまでの歴史書は国家や権力者を描いたものが多く、この本のように個人の幸せから歴史を見るのは、新鮮だと感じています。
ジャーナリスト 池上彰さん
「こういう人類史の本で幸せかどうかを問題に立てる本にはじめて出会った。
どうしてこういう発想が出てきた?」
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「実は幸せかどうかを考えるのは、最も大事なことなのです。
歴史を振り返ると、人間は集団の力や権力を手に入れても、それを、個人の幸せと結びつけるのは得意ではありません。
現代人は、石器時代より何千倍もの力を手に入れていますが、一人ひとりはそれほど幸せには見えません。」
ジャーナリスト 池上彰さん
「この本を読みますと、むしろ農業を定着してやることになって、私たち人類は、実は生きていくのに大変危険なリスクを背負い込むようになったと。
言われてみれば確かにそうだが、これはちょっとびっくり。」
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「これまでの歴史書の多くは、個人の幸せには目を向けず、国家や権力にだけ注目してきました。
幸せを軽んじると『国家や権力の発展は必ずしも、みんなの幸せにつながらない』ということを忘れ、拡大や成長ばかりを追い求めることになってしまうのです。」
世界が注目のベストセラー “幸福”を探す 人類史の旅
会社やお金だけでなく、宗教法律国家もそうです。
これらは全て、人間が生み出したフィクション。
それをみんなが信じることで人間は発展してきたという、驚きの発想ですね。
また一人一人の幸せから歴史を考える視点も新鮮でした。
農業革命で、確かに人間の集団全体や一部の権力者たちは豊かになりましたが、一人一人はむしろ不幸になった。
これだけ文明が発展した現代でも、過労死だとか貧困が問題になっていることも、この本を読むと納得がいく気がします。
さて、気になるのは私たちが暮らす、2017年の今。
世界はどこへ向かうんでしょうか。
“幸福”を探す 人類史の旅 資本主義は限界なのか?
産業革命を経て飛躍的に発展した私たち。
今世界を動かしている大きな仕組みが、資本主義ですよね。
でも、ここにもフィクションが。
資本主義では経済成長が無限に続き、幸せになるという考えをみんなが信じているだけだと、この本では言うのですが…。
実は今、多くの国で資本主義経済が限界に来ているといわれています。
2010年をピークに、世界全体の経済成長率は上向かず、停滞し続けているのです。
“2014年の経済のパイは、1500年のものよりはるかに大きいが、その分配はあまりに不公平で、アフリカの農民やインドネシアの労働者が一日身を粉にして働いても、手にする食料は、500年前の祖先よりも少ない。
人類とグローバル経済は発展し続けるだろうが、さらに多くの人々が飢えと貧困にあえぎながら生きていくことになるかもしれない。”
資本主義経済が、どんどんグローバル化する一方で、格差はますます広がっていく。
ノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンさん。
この本が指摘するとおり、世界は今後資本主義によって、分断や対立を深めていくと見ています。
ノーベル経済学賞 受賞 ダニエル・カーネマンさん
「この本では、今後一層格差が拡大するといっていますが、私もまったく同感です。
経済の停滞は勝者と敗者を生みだし、自分を敗者だと思う人々は『この世界は不公平だ』と怒りをあらわにしています。
それこそが最近、毎日ニュースになっていることの根源なのです。」
資本主義に代わるフィクションを探すことが必要だという人もいます。
政治学者のイアン・ブレマーさんです。
トランプ次期大統領の登場で、政治や経済、社会が根底から変わろうとしているアメリカ。
これまで、資本主義のリーダーとして世界を引っ張ってきました。
しかし、世界経済が停滞する中、アメリカ中心の資本主義は限界にきていて、新たなフィクションが求められているとブレマーさんは言うのです。
政治学者 イアン・ブレマーさん
「フィクションは人間を発展させる一方で、その考え方にとらわれてしまう恐れもある。
私たちは、アメリカが世界のリーダーだというフィクションを、長年受け入れてきました。
でも、その賞味期限は過ぎました。
フィリピンや中東、ヨーロッパの国々などは、もはや、アメリカが世界のリーダーではないと考え始めています。
みんなが信じてきて『フィクション』は変わることもあるし、その考えを共有できないこともあるのです。」
でも、資本主義に代わる新たな仕組みといわれても、ピンと来ませんよね?
池上さんが再び、本を書いたハラリさんに聞きました。
池上彰×ベストセラー著者 資本主義は限界なのか?
ジャーナリスト 池上彰さん
「資本主義というのは、そもそも人間が作り出したものです。
ところが、その資本主義によって、確かに私たちは豊かになったんですけど、その資本主義によって、私たちは今、翻弄されていますよね。
世界経済が非常にうまくいっていない。
あるいは、世界中の中央銀行がなんとか景気を良くしようとしているんですが、これがみんな、ことごとくうまくいっていない。
私たちが作り出した資本主義というのは、いま限界にきているんでしょうか。」
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「難しい問題ですね。
資本主義は近代で最もうまくいった考え方で、宗教とさえいえます。
でも、そのために大規模な経済破たんや政治的な問題も起きています。
いま、たった一つの解決策は全く新しいイノベーションを起こすことだと思います。」
“幸福”を探す 人類史の旅 資本主義に代わる仕組みとは
新たなイノベーションが必要だというこの本の考えは、経営者たちの間にも広がっています。
インターネットの証券会社をいち早く設立するなど、革新的なビジネスモデルを生み出してきた、松本大さんです。
私たち人類は人口減少や低成長、格差の拡大などに対応した、経済の新たなフィクションを考える時期に来ていると、考え始めています。
マネックス証券 松本大会長
「今の資本主義や貨幣経済に代わる新しい概念というもの、みんなで抱えることができる共同のフィクション。
単なるフィクションではなく、共同で持てるフィクションを作る必要がある。」
世界が注目のベストセラー “未来を生きる”ヒントとは
資本主義に代わる新たな仕組み、なかなか想像できませんが、今よりも幸せになれるなら歓迎したいですね。
さあ、最後に「サピエンス全史」は私たちの未来を展望します。
人間の能力をはるかに超えたコンピューターの登場。
遺伝子を思いのままに操作した、デザイナーベイビーの可能性など、科学技術の進歩で人間を取り巻く環境は、急速に変化しています。
私たちホモ・サピエンスは、一体どこへ行くんでしょうか?
“幸福”を探す 人類史の旅 私たちの未来はどうなる?
SF映画では、よくロボットやコンピューターに人間が支配される未来が描かれますよね。
この本では、近い将来科学の進歩によって、人類は今の姿と変わってしまうと驚きの指摘をしているんです。
“未来のテクノロジーの持つ真の可能性は、乗り物や武器だけではなく、感情や欲望も含めて、ホモ・サピエンスそのものを変えることなのだ。
おそらく未来の世界の支配者は、ネアンデルタール人から私たちがかけ離れている以上に、私たちとは違った存在になるだろう。”
科学の進歩で人間の姿が変わる?
一体どういうことなのでしょうか?
ジャーナリスト 池上彰さん
「コンピューターのソフトに例えますと、人類の生まれた時は『人類1.0』だった。
それが認知革命によって1.1になり、農業革命で1.2になり、今度は『人類2.0』になるということでしょうか?」
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「ええ、これまでは次の革命が起こるまで何千年もかかったのが、これからは、ほんの2、30年で済んでしまうのです。」
更に著者のハラリさんは、こんな衝撃的な予測を。
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「今後1、2世紀のうちに人類は姿を消すと思います。
でもそれは、人間が絶滅するということではなく、バイオテクノロジーや人口知能で、人間の体や脳や心のあり方が変わるだろうということです。」
人間の能力を超える人工知能の登場。
生命を自在に操るバイオテクノロジーの進化。
科学が猛烈な勢いで発展する。
一方で、そのスピードを人間がコントロールできなくなるのではないか。
ロボットと人工知能の開発で世界をリードする、山海嘉之さんです。
筑波大学大学院教授 山海嘉之さん
「人間が作り出した技術でありながら、人間自身がその技術によって追いつめられていく、そんなことにもなりかねない。
身の丈をはるかに超えた科学技術を扱う人たちが、安易にそこを推進することにはかなり危うさがある。」
私たちはどんな社会を作りたいのか。
そのために必要な科学技術は何か。
未来を想像する力が今こそ人間に求められていると、山海さんは指摘します。
筑波大学大学院教授 山海嘉之さん
「こういう社会であった方がいいということをみんなで共有する。
社会で生きている人も含めて、科学技術にもう一度目を向けて、適切な科学技術の進化、どのように扱っていくかを考えながら生きていく。」
この先、私たちはどんな未来を選択していくのか。
2人が重要だと考えるのは、科学技術と政治や社会の関わり方です。
ジャーナリスト 池上彰さん
「私たちはこれから、さまざまな課題、困難に立ち向かうことになるわけですけど、AI(人口知能)の技術がどんどん進んでいる。
それに対して政治のシステムは、なかなかそこに追いつけない。
そこのギャップがいろんな問題を引き起こす。
では私たちはどうすればいいんでしょうか?」
著者 ユヴァル・ノア・ハラリさん
「人工知能は短い時間で大きく世界を変える可能性があります。
いま学校に通っている子どもが40歳、50歳になったときに、どんな仕事に就いているか、誰にもわかりません。
どんな未来を過ごしたいのか、しっかりビジョンを持つ。
そして、幸せな道に進む賢い選択をする。
そのためには、科学と政治は、もっと協力しあわなければならないと思います。」
世界が注目のベストセラー “幸福”を探すヒントとは
iPS細胞などの生命科学の発展は、私たち人間という種そのものを変えてしまう可能性があります。
また、AI(人工知能)が進化していった時、私たち自身はどう変化するのでしょうか?
そうした将来の人間のことを、この本の中では、超ホモ・サピエンスと呼んでいます。
そうした未来、ちょっと想像がつきません。
この先、人間は自分たちが作った科学にのみ込まれてしまうのか。
それとも、うまくコントロールできるのか。
作者のハラリさんは、本の最後で「未来を切り開く鍵は、私たち人間が欲望をコントロールできるかどうかだ」と説いています。
“私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれない。
私たちが直面している真の疑問は「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。”