トランプ氏の主張 専門家「関税の引き上げは困難」

トランプ氏の主張 専門家「関税の引き上げは困難」
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トランプ次期大統領がNAFTA=北米自由貿易協定の見直しなどに言及していることについて、アメリカ経済や通商政策に詳しい三井物産戦略研究所の山田良平主席研究員は「アメリカが関税を引き上げると言えば、メキシコやカナダも同じようなことを言ってくる可能性があり、協定見直しの交渉はそう簡単に終わらない。さらに交渉の結果を議会で承認を得る必要もあるが、議会下院のライアン議長は関税の引き上げには反対だと言っていて、批准されることも考えにくい」と述べ、見直しは困難だという見方を示しました。
また、山田主席研究員は、仮にNAFTAを離脱してもWTOに加盟しているアメリカがメキシコからの乗用車にかけることができる関税はWTOの一般税率である2.5%が上限になると指摘したうえで、「アメリカからメキシコには食肉や乳製品が無税で輸出されている。離脱した場合のデメリットにも留意する必要がある」と述べました。
また、今後の日本企業の対応として、「アメリカで活動する日系企業は現地で80万人以上の雇用を創出しているし、アメリカからの輸出全体の5%程度を占めるなど大きな貢献をしている。そうした点を新政権に説明していくことがいちばん重要ではないか」と話しています。

NAFTAとは

NAFTA=北米自由貿易協定は、アメリカ、カナダ、それにメキシコの3か国が参加する自由貿易協定です。23年前の1994年に発効し、2008年までに3か国の間ではすべての物品の関税が撤廃されました。

このため、企業の間で、賃金が安いメキシコで生産を行い、アメリカに製品を輸出するなど、国境を越えた経済活動が活発になりました。メキシコには日本からも自動車メーカーを中心に企業の進出が相次ぎました。
JETRO=日本貿易振興機構によりますと、2015年末の時点で合わせて957社が進出しています。10年前の2005年に比べておよそ3倍に増えています。
日本の大手自動車メーカー6社もメキシコに生産工場をもち、5日、トランプ次期大統領にツイッターで批判されたトヨタ自動車はメキシコで生産した車の91%をアメリカ向けに輸出しています。

NAFTAはどうなる?

また、トランプ氏は5日、「アメリカ国内に工場を作らないのならば、高い関税を払うべきだ」とも書き込んでいます。

しかし、アメリカがNAFTAの加盟国に対し、撤廃している自動車の関税を引き上げようとしても、一方的にはできません。まず、メキシコ、カナダと協議して協定を見直す必要があります。協議が行われたとしても、メキシコ側が対抗しようと、例えば、アメリカから大量に輸入している穀物や牛肉などの農産物に高い関税をかけると主張する可能性もあり、協議は難航することが予想されます。

一方、NAFTAから脱退することはアメリカだけの判断で可能です。しかし、NAFTAから脱退したあともアメリカが各国から輸入する自動車にかけられる関税は2.5%にとどまります。
アメリカがWTO=世界貿易機関に加盟しているからで、これを超える関税をかけた場合は関係国からWTOに提訴される可能性があります。

トランプ氏が自動車に35%の関税をかけるという主張を実現しようとすると、WTOからも脱退する必要があるのです。アメリカがWTOから脱退すれば各国がアメリカ産の製品に高い関税をかけることも可能になるため、政府関係者の間では「現実的な選択肢ではない」という声も上がっています。