売れたときね、何か変わるのかなと思った。でもなんも変わらんかった。売れ始めたころ、寿司屋へ行って、トロとかウニとか高いもんばかり食ってたけど、3日で飽きたわ。結局、3食以上はメシ食えんし、スーツもいっぺんに10着もきて歩かれへん。車も1台あればいいし、家も1軒しか要らん。ばあさんがよく言ったのは「自分が食べておいしいと思ったやつが高級品や。そやから腹すかせて食うたら全部高級品や」て。売れたときも、その日腹いっぱい飯食えたら十分やった。
──そういう考え方ができたから、漫才ブーム後の雌伏期も楽しく過ごせた?
(写真:川口正志)
ばあさんは夫を亡くして、42歳から79歳まで働いた。三つの学校のトイレと職員室の掃除。朝の4時から働いていた。そんなん見てたら、アホなカネの使い方はできんし、どんなことをしても働こうと思う。漫才の仕事がなくなったときも、ばあさん「世の中に仕事なんて1万種類ぐらいある」って励ましてくれた。
──名言ですね。
「成功した人もそうでない人も、生まれて50年たてば、誰でも50歳になる」とか、「60歳過ぎたら要らんもんはいっぱいある」とか、いろいろ言ってた。だから僕はうまくいかない時代でも、くよくよしなかった。僕はちょっと前に還暦を迎えたけど、実際、60歳になれば学歴はまず用事ないし、美人だろうがブスだろうが、60歳になったら、もうみんな一緒や。講演でも話すけど、60歳からが人生やと思う。それには多少のおカネと、あとは健康が一番。「60歳過ぎたら紙のおカネより、心のおカネの方が大事や」って、ばあさんよく言うてましたね。