郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
Community News Web Site

庄内のインフラ(中)
増便、国際化など難関多く
庄内空港 利用は堅調に推移

 庄内空港は昨年10月、開港から満25周年を迎えた。定期便の東京(羽田)線は、過去10年間の平均搭乗客数が年間36万5千人、平均搭乗率は62・4%と、ビジネス客を中心に利用は堅調だ。地元では国内外の観光客など、交流人口を増やすため、さらに利便性を高めようと、1日5便への増便や運賃の引き下げ、国際化、滑走路の延長を求める声が高まっている。しかし、実現にはさまざまな壁を突破する必要がある。

8年ぶりに37万人超え

定期便搭乗客数の推移
定期便搭乗客数の推移

 県のまとめによると、東京線のみとなった10年以降、搭乗客数は35万人弱〜37万人弱で推移し、ほぼ横ばい状態が続いている=右表参照=。こんな中、16年は8年ぶりに37万人を上回った。
 全日空では、提供座席数の増加という、供給面での改善も影響したとみている。東京線には、ここ数年、地方路線の主力機とされる小型のボーイングB737(167人乗り)が中心に就航していた。
 しかし、ビジネスでの利用が多い産業界などから「曜日や便によっては予約が取りづらい」といった改善要望も多かったため、16年は通年で1日1便、中型のB767(270人乗り)を就航させた。機材が大きくなった分、需要を取り込むことができた。
 県内では、海外から旅行者を呼び込むインバウンドの取り組みはまだ鈍いが、観光関係者によると、外国人旅行者向けの割引運賃を使い、飛行機で庄内を訪れる個人旅行客も散見される。
 需要と供給が合えば、空港の利用がさらに増える可能性を示したが、B767は全日空の保有数が少ないこともあり、全国の路線で奪い合いの状況という。さらに増やせるかが課題となっている。

高校の修学旅行には使えず

庄内各高校の修学旅行(2016年度)

 大きな機材を求める声はほかにもある。庄内の高校は16校全校が、16年度の修学旅行で飛行機を利用しているが、16校(19団体)のうち、片道だけでも庄内空港を利用したのは5校(7団体)に過ぎず、半数未満にとどまっている=右表参照=。
 せっかく大きな需要があるにもかかわらず、なぜ応えられないのか。
 その理由は機材の大きさと、乗継運賃が高いこと。
 各高校によると、修学旅行は集団行動が原則。全員が1機に乗れず分散して行くことは迷子やけがなど、万一の場合の安全面から好ましくないという。そこで小型機が多い庄内空港は敬遠される。
 また、各校の目的地は海外か関西方面となっているため、庄内空港からの直行便は無く、羽田空港での乗り継ぎが必要になる。しかし、乗り継ぎになると経費がかさむ。
 このため目的地まで直行便を運航している空港まで、わざわざバスで移動する高校が多いようだ。鶴岡東高校や羽黒高校のように成田空港を利用する場合は、バス移動に約8時間もかかる。
 複数の高校では「庄内空港を使えば近くて便利。使いたいのはやまやまだが、飛行機に2回も乗ると予定の経費を超えてしまう。むしろ何とか安くならないのかという気持ち」と不満を口にする。

国際チャーター便は低迷

庄内空港と山形空港の国際チャーター便数
山形県を訪れた外国人宿泊者数

 20年夏の東京五輪開催に向け、国を挙げてインバウンドに力を入れている。かつては中国黒竜江省ハルビンとの間で、国際チャーター便が頻繁に往来していたが、近年の現状は厳しい。
 庄内空港を利用した国際チャーター便の運航状況は、2012〜14年度が各2便、15年度4便、16年度2便と低迷している。一方、山形空港では12、13年度は各4便だったが、14年度は12便、15年度は31便、16年度は18便と順調に伸びている=右表参照=。
 山形空港が多いのは、紅葉見物や雪遊び、温泉などを目的とした秋〜冬の台湾からの便がほとんどで、特に蔵王の人気が高いから。庄内空港発着便を増やすには、台湾での庄内の知名度を高める必要がある。秋〜冬の魅力的な観光商品も必要になる。
 庄内の特性を生かして誘致することも一つの手。庄内空港では、16年9月に韓国からのチャーター便が10年ぶりに復活し、出羽三山や山居倉庫などを訪れた。背景には韓国での登山ブームがある。特に遊佐町が誘致に力を入れる鳥海山は、韓国でも人気の高い山の一つとなっている。
 酒田市商工港湾課の箭子英雄・港湾空港交通主幹は「羽田、沖縄を経由した飛行機のコンテナで、果物など、庄内の食材を中国などに輸出し、庄内の知名度を上げたい」と話す。

仙台には台湾からLCC

 観光庁がまとめた本県の外国人延べ宿泊者数は、15年が5万7240人で5年ぶりに5万人台を突破。16年は9月末までに4万8720人が訪れており、前年同期比で24・9%増となっているため、前年を上回る可能性は高い。
 外国人観光客が訪れる際は、羽田空港経由のほか、仙台空港や新潟空港の直行便を利用する事例も多い。16年7月に民営化した仙台空港では、格安航空会社(LCC)のタイガーエア台湾が同年6月から台北線を週4便運航している。
 本県の課題は知名度不足。県は知名度向上のため、相手国の商習慣に合わせた情報発信を強化する。例えば韓国では、海外旅行商品をテレビの通販番組で買うことが多いことに着目し、仙台空港に委託して通販番組用の旅行商品を企画した。
 これまで宣伝先は海外の自治体や旅行会社、航空会社などが多かったが、今後は本県と縁のある海外企業に働き掛け、報奨型の旅行を作ることも考えている。
 受け入れ環境の整備では、Wi−Fi整備や標識の多言語表記、トイレの洋式化などを行う民間企業への補助金を、今年度に作った。これまでに想定の3倍の申請があり、来年度も継続して補助を続ける。

庄内空港の沿革

羽田空港の枠取れず困難 通年5便化など求めるも

東京線を有する国内空港の比較

 庄内空港利用振興協議会(会長・丸山至酒田市長)は、地元産業界や旅行業界、一般利用者など、庄内空港利用者の声を受け、全日空に対して▼需要の増加に応じた機材での運航▼利便性の高い時間帯での通年5便化▼運航ダイヤの改善▼運賃割引制度、乗継割引運賃の拡充、割引座席数の増加▼観光需要の喚起につながるような安価な団体向け運賃の設定▼大阪線の復活等、国内線の拡充―を要望している。
 需要の増加に応じた機材での運航は、一部実現したが、それ以外は良い返事をもらっていない。
 特に通年5便化は、運航ダイヤの改善にもつながる要望だが、全日空庄内支店の良田泰久支店長は「羽田空港の発着枠が満杯状態で、新たに枠を取るのが難しいことが最大の課題」と説明する。
 東京五輪の開催やインバウンド拡大に向け、国土交通省は飛行機の進入ルートの変更を計画。しかし、その変更に伴って生じる発着枠は、ほとんどが海外線に振り向けられ、国内線向けには割り当てが無い。
 航空会社によっては、整備新幹線の開通などに伴う国内線の減便で生じる枠もあるが、より収益の高い路線や海外路線に振り向ける場合が多い。
 東京線は運賃が高く、割引運賃の拡充を求める声も多いが、国内各空港の東京線の運賃と比べても、やはり庄内空港は割高に見える=右表参照=。堅い需要が見込める上に、ビジネス客の利用が多く、競争が無いことが理由と考えられる。
 競争とは、航空会社同士の競争だけでなく、新幹線など他の交通機関との競争もある。スピードという点で飛行機にかなう競争相手がない庄内では、あえて安くする理由が無いのも実情。
 日本航空での勤務経験がある佐藤聡県議会議員(鶴岡市地区選出)は「18年にはJR新潟駅で新幹線と特急いなほの対面乗り換えが実現する。航空運賃引き下げのきっかけになり得るのではないか」と指摘する。
 観光需要につながる対策としては、需要を増やしつつ、できるだけ座席数の大きな機材を投入するよう努めるというのが、全日空の姿勢。団体割引は、今は制度自体が無いという。

滑走路延長は動きなし

 同協議会は、県や国に対して▼滑走路の延長(2500メートル化)▼国際化への対応、CIQ(税関、出入国管理、検疫)の体制整備―を求めているが、今のところ、特に動きは無い。複数の航空会社やLCCの導入を求める声も強いが、まだ情報収集の段階だ。

トップへ戻る