1月
私のいた超ブラック企業にとって
年の始まりは責任者の間で
「厳戒態勢」が敷かれる事になります。

なぜなら・・・・・
1月はブラック企業にとって
「離職率」がグッと上昇する危険な月だからです。

なぜ離職率が上がるのか?
それは、
年末休みに家族や友人と再会した
憐れな超ブラック企業社員達が、
普段接する事の無い「良識ある一般人」と接する事で
「あ、うちの会社っておかしいかも?」
と、この世界の真実に気がついてしまうからです。

ヘタをすると、
1月になって出勤すらしてこない知恵者もいます。笑
新年の初出勤日、自分の部下が誰一人出勤して来なかった
あの日の事を今でも覚えています・・・・・。

今考えると、こんなまともに給料も払えないブラック企業
スグ辞めるのが正解だったと思います。
(私は後悔していませんが)
しかし!少なくとも、1月に出勤してきた社員に対しては
モチベーションをグッ!と上げる
「何か」をしなければいけないのです。
そう、そこで!
我が社では
「ハイテンション出勤」
という特別企画が持ち上がったのです。

ハイテンション出勤開始のキッカケ
事のはじまりは、社員の一人ヨシさんが
両足とも、「別々のクツ」で出勤して来た事でした。

それを見た従業員達は
大爆笑

みんな
「すげえ!」「まじかよ!」
と笑いながらヨシさんを褒め?ていました。
褒められて、ヨシさんもどこか誇らしげな顔をします。
(それはヨシさんが・・精神的に病んでいるからじゃ・・・)
と私は内心焦りましたが、考え過ぎでしょうか?

とにかくこの光景を見た社長は
(これは使える・・・・)
と確信したそうです。

そして次の日、
さっそく社長が朝の朝礼で
「今日から1週間、ハイテンション出勤をやろう!」
と言い出したのです。
(ハイテンション?)
ハイテンション出勤とは
・1週間の間、毎朝ハイテンションで出勤する
・元気の無かった社員は帰らせる(これはいつも通り)
・1週間後に投票で、優勝者を決める
(優勝したら社長がゴハン奢ってくれる)
というモノでした。

理由はどうあれ・・・
朝元気良く出勤する事は、良いことです!
モチロン私も大賛成でした!
ハイテンション出勤のはじまり

次の日の朝
「おはようございます!!!」
と、みんな
いつも以上に元気よく出勤して来ました。
(うんうん・・・・素晴らしい)
うちは営業会社なのですから、元気は大事です。
元気なアイサツを聞いていると、
何だかコッチまで元気になってきます。
しかし、みんな3日目にはすっかり飽きてしまい
ドンドン新しい刺激を求め始めます。
始まりは
「ジャンピング出勤」でした。
「おはようございます!」と言うのと同時に
大の字にジャンプしながら出勤してくる、というものです。

ハッハッハ・・・・
これを見た瞬間、
他の従業員達の闘争本能に火がつきました。
一番おもしろいのは誰なんだ・・・・。
すると次の日
「おはようございます!!!」
と言って水着で出勤してくる者が現れました。
しかもビート板をサーフボードのように持っています。

これにはまたみんな
大爆笑
しかし、それを見た従業員の一人が
対抗意識を燃やした結果
シャツを脱いで
真っ赤なパンツ1枚で
「オハヨー!」と再度出勤してきたのです。

(これはマズイ・・・・)そう思いましたが
みんな、これもまた大爆笑
・・・・・でしたが、

「下着はセクハラになるので禁止!」
と社長から下着出勤禁止令が出されました。

それは・・・・・そうでしょう。
とはいえ、火の付いた社員達は
ハイテンション出勤選手権の最終日に向けて
とっておきの準備をしているようでした・・・・・。

ハイテンション選手権、最終日
最終日、みんなとっておきの
ハイテンションを見せつけてきました。
いや、
これはハイテンションというよりも
ハロウィン大会になっていました。
(みんなが盛り上がるなら何でもいいんですが・・・・)
叫んだり、モノマネをしたり
オペラ?みたいなのを歌いながら出勤してきたり
凝ったモノだと
サンタクロースのコスプレ
(夜の店で使ってたヤツだそうで)
ソーセージ?のコスプレ???
なとなど・・・・。
(あとなんだか中途半端だったので忘れました)

しかし一番歓声が上がったのは
女装したイケメン社員でした。

バッチリメイクにウィッグ?
どこから持ってきたのか・・・・。
キャンペンガール?の服に
胸に詰め物まで入れています。
すごい!いや美しい!
やはり、イケメンは強い。
社内は大興奮でした。

優勝は彼で決まりだろうか?
誰もがそう思っていたでしょう・・・・。
しかし、真打ちは
「足を引きずりながら」
最後の最後にやってきました・・・。

血まみれの優勝者
朝礼の開始は9時なのですが、
みんな5分前には出勤してきます。

そして朝礼が始まろうとしたその時
「おはようございます!!!」
と会社の入り口から、大きな声が聞こえました。
新人のサダさんだ

サダさんは12月に入社したばかりの
「自称元ホスト」です。
元気は良いのですが、
特にコスプレ等をしている様子はありません。
一応課長だった私が
「おはようございますー」
とサダさんを迎え入れます。
サダさんの出勤時間が9時ギリギリだったので、
「もう少し早く着てくださいねー」と言おうとしたのです。

しかし・・・サダさんの様子がおかしい
右足をズルズル引きずっているのです・・・・・。
そして、足を抑えている手とズボンには血が付いています。

(えええ・・・・・・・)
なんでだ・・・・。
朝礼のために集まっていた
みんなの視線がサダさんに集まります。
視線が集まった事に気づくと
サダさんはニヤリと笑い、大きな声で
「彼女に刺されちゃいました!!!!」
と満面の笑みで叫びました。

(ええええ・・・・)
みんなは
「うおおおおおおおおお!!!!」
という大歓声と共に

やっぱり大爆笑でした。
「すげえ!すげえ!」
「マジかよ!」
みんな口々に「すげえ」と「マジかよ」を連呼しています。
(笑うんだ・・・・)
ここまでのハイテンション出勤で作られた
異様な空気感のせいもあったのでしょうが
元犯罪者だらけのブラック企業ですから、
やはり感覚が違うのでしょうか・・・・・。

私は彼の血まみれの足を見て、
チョット気分が悪くなりました。
(吐き気的な意味で)
みんなサダさんの話に食いつきます。
「だれに刺されたんじゃ?」
「ケンカか?」
みんながサダさんに事の顛末を聞くと
サダさんの足を刺したのは、同居している彼女だそうです。

サダくんは以前、みんなの前で自己紹介をした時に
ずっと、彼女の家でヒモ生活をしている事を話していました。

しかし、毎日疲れて帰ってくる彼女を見て
(このままじゃいけない・・・)そう思ったそうなのです。

彼女さんはホステスとかキャバ嬢?とか言ってた気がします。
自己紹介の時に
「これ以上彼女に迷惑かけられないんで!この会社でがんばります!」
と言ったサダさんに対して
みんな
「おーがんばれよー」とか応援の言葉を言っていました。

彼女の愛が・・・サダさんを変えたのですね・・・・。
(いい話だ)
しかし、就職が決まったサダさんから
「オレ・・・これから頑張って働くよ」
と就職の話を聞いた彼女は
激怒しました。
「なんで会社なんていくの?」
「ずっと家に居てくれなきゃヤダよ!!!」

彼女はサダさんに
「ヒモ」で居てほしかったのです。
まさか彼女がそんな事を言うとは思ってなかったサダさんは
パニック状態だったそうです。
という話をみんなの前でして
「オレ働くってのに!おかしいよな!」
と会社のみんなの笑いを誘っていました。
いやー愉快な人です。
こういう人だからこそ、ヒモである事も許されたのでしょうか?
それから毎朝、サダさんと彼女さんは
会社に行く、
行かないで大喧嘩していたそうなのですが・・・・・
サダさん「どいてくれ!おれは働くんだ!」
彼女「ヤダ!いかないで!」
それでもサダさんが、強引に出勤しようとすると
ハイテンション出勤の最終日の朝、ついに
彼女さんがキッチンにあった調理用の尖った棒を持ち出して

フトモモめがけてグサッと突き刺したそうなのです・・・・。

後日サダさんから
「彼女はケガさせれば出勤しないと思ったんだって~」
と聞きました。
(な、なるほど~)
足をケガしたら動けませんもんね・・・・。
私もその場にいたわけではないので、
詳しくはわかりませんが・・・。
まぁ・・・という事なのだそうです。
しかし!
足を刺されたサダさんは
痛みよりも、瞬時にこう思ったそうです。
(これめっちゃおいしいじゃん!!!!)と

今日はハイテンション出勤の最終日、
これをネタに絶対出勤して優勝してやる!
と思ったそうなのです・・・。
(な、なるほどぉ・・・・・)
凄まじい根性・・・・・?
その話を聞いて
みんな、さらに大爆笑

社長は終始困惑していましたが、
みんなが「サダが一番!!!」
と言い出したので
もう仕方がありません・・・・。
社長も
「じゃあ優勝はサダくん!!!!」
と高らかに宣言しました。

こうして・・・・・
やる気の出にくい1月を乗り切るために始めた
ハイテンション出勤の企画は無事大成功?に終わりました。
やっぱり・・・
元気よく出勤する事は大切ですよね!!!!!
ちなみに、
サダくんは、その後すぐに病院に連れて行かれました。

そしてちゃんとブラック企業の仕事に耐えきれず
1ヶ月ほどで無事ヒモ生活へと戻っていきました。

きっと・・・・・・
今でも二人で仲良く生活している事でしょう。
オシマイ