日本ではドコモ、au、ソフトバンクの3キャリア共に新しい電話の仕組みである「VoLTE」への対応をアピールしています。それらのキャリアから設備を借りているMVNOにはどのような関係があるのでしょうか?
MVNOとVoLTEの関係を説明する前に、まずはVoLTEについてあらためて確認しておきましょう。
携帯電話網の中では、次の図のように3G(W-CDMA)の設備と、4G(LTE)の設備がそれぞれ別に設けられています。また、緑色で示したパケット交換(データ通信)のための交換機と、青色で示した回線交換(音声通話)のための交換機が使用されています。スマホのアプリやブラウザなどでデータ通信を行う場合はパケット交換が使われますが、090、080、070番号での通話とSMSの送受信を行う場合は回線交換が使われます。
ここで注目していただきたいのは、青色で示した回線交換のための設備は3G側にしかなく、LTE側にはないという点です。そもそもLTEには回線交換という機能はないのです。そのため、LTEに対応したスマートフォンで電話をしたり、SMSを送受信をしたりするときは、スマートフォン全体の通信がLTEから3Gに切り替わるという動作をします。これをCSFB(CSフォールバック)と呼びます。※(CS: Circuit Switched……回線交換)
しかし、CSフォールバックを行うためには、スマートフォンと基地局の間で一度LTEの接続を切って3Gでつなぎ直すという作業が必要になるため、発信や着信が始まってから通話を開始するまでの間に少し時間がかかってしまいます。また、現在は3Gの設備も平行稼働しているためCSFBが利用できますが、今後3Gの設備が廃止されるとそのままでは電話ができなくなってしまいます。そこで、LTEの設備だけを使って音声通話をできるようにしたのがVoLTE(Voice over LTE)です。
VoLTEでは音声通話のためにもパケット交換のための交換機を利用します。実は、VoLTEの音声通話は、スマートフォンのアプリの通信と同じIP(Internet Protocol)を利用しているのです。スマートフォンのアプリがインターネットと通信を行うのと同じように、スマートフォンから携帯電話事業者の設備に置かれたVoLTEのための設備(サーバ)と通信を行うことで、電話を実現しています。
この方式は、050番号を使ったIP電話と同じです。050番号のIP電話ではインターネットの先に置かれたサーバと通信を行うのに対し、VoLTEではサーバが携帯電話網の中に置かれているというのが大きなポイントです。なぜなら、VoLTEのパケット通信は、インターネット向けの通信と方式は同じですが、携帯電話網内で特別扱いが行われているのです。
携帯電話網内では、スマートフォンはPGWと呼ばれる交換機との間にトンネル(通信路)を設定します。このトンネルを設定する際に使用されるのが、スマートフォンの初期設定で出てくるAPNです。例えば、ドコモのスマートフォンの場合、インターネット向けの通信では「spmode.ne.jp」というAPNが指定されていますが、VoLTE用には「ims」という特別なAPNが指定されます。このimsを指定したトンネルは、他のトンネルと異なり混雑時でも通信が優先されるような特別扱いとなっています。このような特別扱いがされているため、VoLTEでは050のIP電話と異なり、データ通信が混雑している時でも安定した通話が行えるのです。
キャリアから設備を借りてサービスを提供しているMVNOでは、VoLTEはどのように扱われるのでしょうか。先ほど紹介した図にMVNOの設備を追加したのが次の図です(この図ではドコモの携帯電話網を想定しています)。
この図にもある通り、キャリアの設備とMVNOの設備が相互接続されているのは、インターネット向けのパケット交換機のみです。回線交換用の設備だけでなく、VoLTEのためのパケット交換機もMVNOとは接続されていません。したがって、MVNOが独自のVoLTEサービスを提供することはできません。MVNOが提供しているVoLTEサービスは、キャリアの設備をそのまま使ったもので、サービス内容はキャリアと同等となります。
ドコモの場合、3G(回線交換)を使った音声通話と、VoLTEを使った音声通話サービスは一体のものとしてMVNOに提供されます。ドコモがMVNO向けに提供しているSIMカードをスマートフォンに取り付けると、スマートフォンがVoLTEに対応していればVoLTEでの音声通話が行われ、そうでない場合は自動的にCSFBが行われ3Gの回線交換で音声通話が行われます。
ここまで、ドコモの携帯電話網を想定した説明を行ってきましたが、auの携帯電話網では少し事情が異なります。
auの携帯電話網でも、4Gの通信規格はLTEを使用しておりVoLTEも提供されています。また、3Gではドコモが使用しているW-CDMAではなくCDMA2000という通信規格が利用されています。CDMA2000では、通信に使用する交換機の構成がW-CDMAとは異なるのですが、LTE側に回線交換機能がなく、VoLTEを利用しない場合にCSFBが起こることはW-CDMAと同様です。※auではeCSFBという仕組みを利用します
しかし、KDDIがMVNO向けに提供しているSIMカードは、「CSFBを行い音声通話を3G(回線交換)で行うもの」と「音声通話をVoLTEで行うもの」の2種類に分かれています。前者ではVoLTEは利用できず、後者では3G(回線交換)での通話はできません。1種類のSIMで3G(回線交換)とVoLTEの両方が利用できるドコモとは方針が異なるのです。
このため、au回線のMVNOでは、利用するスマートフォンがVoLTE対応かどうかを確認して、適切なSIMを選ぶ必要があります。また、「IIJmio モバイルサービスタイプA」など、au回線を利用したMVNOによっては、3G(回線交換)用のSIMを提供していない場合もあります。その場合は利用するスマートフォンが必ずVoLTEに対応している必要があります。
3G(回線交換)用のSIMを使う場合は、スマートフォンがCDMA2000に対応している必要があります。また、VoLTE用のSIMを使う場合は、スマートフォンがSIMロックされていない必要があります。詳しくは各MVNOの公開している対応機種情報を確認してください。
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