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日体大・秋山清仁選手,箱根駅伝2年連続区間新記録はどれだけすごいのか? 

スポーツ
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(画像出典:http://www.hochi.co.jp/sports/feature/hakone/20170103-OHT1T50111.html

はじめに

2017年1月2日・3日に開催された第93回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)が終了しました.

今大会は青山学院大学の三連覇で幕を閉じました.しかも往路復路完全優勝.7区田村選手のアクシデントをものともせず強かったです.

個人的に注目していたのは,6区で昨年に続き区間新記録の走りを見せてくれた日体大4年の秋山清仁選手.大会最優秀選手に贈られる金栗賞に選ばれました.

ところで,秋山選手の2年連続区間賞でしかも区間新記録はどれだけの偉業なのでしょうか?

2年連続区間新記録を達成するにはいくつかのハードルがあります.

2年連続での区間記録であること,
前年の記録を翌年の記録が上回ること,
なおかつ前年の記録が区間新記録である.

これらのハードルを乗り越えた選手はこれまで何人いたのでしょうか?

秋山選手の記録がどれだけすごいのか,その希少性を明らかにするため,このエントリーでは以下について調べました.

①2年連続区間賞を獲得した選手
②前年の自己記録を更新した選手
③前年の記録が区間新記録であり,翌年その記録を更新して連続区間新記録を達成した選手

興味ある方はぜひ続きをご覧ください.

 

2年連続区間賞を獲得した選手,前年の自己記録を更新した選手

秋山選手は6区で2年連続区間賞を獲得しました.そこで,キリがいい50年前の第43回大会以後,秋山選手と同じ6区で2年連続区間賞を獲得した選手のみを抽出,と思いましたが,せっかくなので全10区について調べてみました(3年連続,4年連続含む).

なお,「第93回大会でコース変更。第92回大会以前の第4区、第5区、往路、総合の各記録は参考記録となった。(http://file.hakone-ekiden.jp/pdf/93_Record_all.pdf)」とのことですが,どのくらいの方が当時のコースで偉業を成し遂げたのかを知りたかったので,それらのデータも含めました.

元データはこちらです.
箱根駅伝−区間賞(往路)
箱根駅伝−区間賞(復路)


では結果にうつりましょう.

①2年連続区間賞を獲得した選手(太字は前年自己記録を更新したことがある選手)

<1区:2名>
大迫傑  早稲田大(87回,88回)
武井隆次 早稲田大(67回,68回)

<2区:9名>
服部勇馬 東洋大(91回,92回)
M.J.モグス 山梨学院大(84回,85回)
渡辺康幸 早稲田大(71回,72回)
S. マヤカ 山梨学院大(69回,70回)
J. オツオリ 山梨学院大(65回,66回,67回) 
大塚正美 日本体育大(58回,59回)
瀬古利彦 早稲田大(55回,56回)
服部誠 東農大(91回,92回)
井上俊 国士舘大(44回,45回)

<3区:8名>
秋山雄飛 青山学院大(92回,93回)
設楽悠太 東洋大(89回,90回)
O. コスマス 山梨学院大(87回,88回)
竹澤健介 早稲田大(84回,85回)
北島吉章 帝京大(76回,77回)
大津睦 大東文化大(66回,67回)
岩佐吉章 順天堂大(61回,62回)
山本吉光 東京農大(50回,51回)

<4区:7名>
田村和希 青山学院大(91回,92回)
田中宏樹 東洋大(80回,81回)
野口英盛 順天堂大(76回,77回)
榎木和貴 中央大(72回,73回)
豊福嘉弘 早稲田大(62回,63回)
高橋雅哉 早稲田大(60回,61回)
中島修三 順天堂大(57回,58回,59回)

<5区:9名>
柏原竜二 東洋大(85回,86回,87回,88回)
今井正人 順天堂大(81回,82回,83回)
柴田真一 東海大(75回,76回)
平山征志 日本体育大(63回,64回)
木下哲彦 早稲田大(61回,62回)
岡俊博 日本体育大(58回,59回)
上田誠仁 順天堂大(55回,56回)
大久保初男 大東文化大(50回,51回,52回,53回)
石倉義隆 日本体育大(48回,49回)

<6区:11名>
秋山清仁 日本体育大(92回,93回)
千葉健太 駒澤大(86回,87回)
野村俊輔 中央大(79回,80回,81回)
金子宣隆 大東文化大(77回,78回)
中沢晃 神奈川大(74回,75回)
広瀬諭史 山梨学院大(68回,69回)
谷口浩美 日本体育大(57回,58回,59回)
酒匂真次 順天堂大(55回,56回)
塩塚秀夫 日本体育大(52回,53回)
金田五郎 大東文化大(50回,51回)
内野幸吉 日本体育大(43回,44回)

<7区:2名>
小椋裕介 青山学院大(91回,92回)
揖斐祐治 駒澤大(76回,77回)

<8区:3名>
下田裕太 青山学院大(92回,93回)
榎木和貴 中央大(70回,71回)
松田卓也 順天堂大(64回,65回)

<9区:4名>
高橋正仁 駒澤大(77回,78回)
坂口泰 早稲田大(58回,59回)
斗高克敏 日本体育大(53回,54回)
藤田国夫 日本体育大(43回,44回)

<10区:1名>
土谷和夫 日本大(43回,44回)

合計56名でした.2区,5区,6区で29名と半数以上を占めています.

5区と6区は特殊なコースのため,山登りもしくは山下りに適性のある選手が固定される傾向のためか,平地コースよりも連続区間賞獲得選手が多くみられました.同様に,「花の2区」と呼ばれる最長距離区間2区もエース選手を固定する傾向があるようです.特に山梨学院大は2区に外国人留学生選手を投入しますしね.

こうしてデータを眺めてみると,なんと言っても5区山登りで4年連続区間賞を獲得した柏原選手の活躍が圧巻ですが(85回,86回,87回,88回),同区での4年連続区間賞はすでに大久保選手が成し遂げていたことは知りませんでした.

②前年の自己記録を上回った選手

上述の通り,太字の選手は前年自己記録を更新した選手です.

数えたら合計37名,2区,5区,6区で23名となっていました.やはりメンバーを固定する傾向が強いこれら3区で記録更新が生じやすいようです.

2年連続区間新記録

2年連続区間賞達成者のうち,2年とも区間新記録,すなわち自分が打ち出した記録を自ら更新したのは,第34回大会以後,次の選手たちだけです.

データ出典は箱根駅伝−区間新記録(1区・10区) です.他の区間についてはリンクがありますのでそこからご確認ください.なお,2年連続区間新記録については参照HPに青塗りがされているものを参考にしましたが,走者名・タイム・中継点及び距離等の変更についてもチェックし,2年連続区間新記録と読み取れたものについて以下に記載しました(42回大会だが10区の土谷を含む).このため,公式発表とは異なるかもしれません.

<1区>
武井隆次 早稲田大(67回,68回)

<2区>
M.J.モグス 山梨学院大(84回,85回)
瀬古利彦
 早稲田大(55回,56回)

<3区・4区>
該当者なし

<5区>
柏原竜二 東洋大(85回,86回)
今井正人 順天堂大(82回,83回)

<6区>
秋山清仁 日本体育大(92回,93回)
中沢晃 神奈川大(74回,75回)
谷口浩美 日本体育大(58回,59回)
塩塚秀夫 日本体育大(52回,53回)

<7区・8区・9区>
該当者なし

<10区>
該当者なし
参考:土谷和夫
 日本大(42回・43回)

以上,10区土谷を除く合計9名.

50回の大会の歴史において,2年連続区間賞達成者でさえたった56名.その中で,2年連続区間新記録を叩き出したのは秋山選手を含めわずか9名しかいません.

一方,2年連続区間新記録に王手をかけたものの,翌年に更新ならず,という選手もいました.自己記録を更新した選手9名に対し,チャンスをものにできなかったのが以下の4名です.

2区:渡辺(71回)
5区:大久保(51回),石倉(48回)
9区:藤田(43回)

なお,43回大会から93回大会までの,学生連合を含むエントリー校総数は864(http://www.hakone-ekiden.jp/data/data_index.phpにて各年毎に集計).したがって,過去50年間における箱根駅伝延べエントリー選手数は8640人になります.

モグス以来の快挙

大会の年月が重なるにつれて区間記録が短くなる傾向にあるため,区間記録更新は年々難しくなっていくと思われます(無論,区間新記録が途絶えているのは73回大会が最後の8区や,83回大会が最後の1区および10区などもありますが)

そのような状況にもかかわらず,秋山選手は,M.J.モグス(84回,85回)以来の快挙となる2年連続区間新記録を達成しました.6区では中沢晃(74回,75回)以来です.

このエントリーを書くに当たって調べたところ,箱根駅伝の歴史のうち,過去50年に限れば第34回大会からエントリーした延べ8640選手のうち,2年連続区間新記録を成し遂げた選手は秋山選手を含め,わずか9人です.

この数字は第1回大会からの記録を洗い出せば当然変わりますが,2年連続区間新記録を達成することがいかに難しいのか,という1点については数字が変わろうとも説明は不要だと思います.そう簡単にお目にかかれる記録ではないのです.自分が生きている間にまた見られるかどうかもわかりません.

本来は第1回大会から記録をチェックすべきだと思いますが,昭和25年の大学制度改正前後で出場回数制限が異なるため,両者を同列に扱うのはどうかと思い,この記事ではキリの良い数字である50年で区切ってみました.


秋山選手は東京都の順天高校出身です.先月行われた全国高等学校駅伝競走大会女子第28回の東京都代表は順天高校.しかし,順天男子の活躍については聞いたことがありませんでした.

それもそのはず,同校の陸上競技部のHPを見ると女子のことしか掲載されておらず,男子については卒業した秋山選手のことばかり.「高校在学中の秋山選手は、数少ない男子部員として、3年間陸上部で活躍しました。」(高校 陸上競技部 | 順天中学校・高等学校 | Page 6).ほぼ女子陸上競技部としか思えません(失礼).

2017年1月4日読売新聞朝刊東京版の37面にはこう書いてありました.

6区を走る自分の姿を,高校時代から想像してきた.地元・板橋区の中学を卒業後,順天高校(北区)に入学.その時,陸上部顧問から「下りを走っている時のフォームがきれい」と激賞され,「箱根に出るなら6区」と心に誓った.
 同高の陸上部は男子部員が少なく,駅伝大会の出場機会もなかった.それでも箱根を意識し,ジョギングや平地でも走り込みも,下りのように前傾姿勢で進む練習を繰り返した.山下りのスペシャリストとして定着した大学では「下りは苦しさよりも楽しさが勝ってしまう」と思うほど,絶対の自信を持つようになった.

もし,秋山選手が高校時代,「どうせここにいたって駅伝に出られないし」,などと考えて腐ってたら箱根で偉業を達成することはなかったかもしれません.秋山選手は目先の利益を追うのではなく,己を信じ,先を見据えて迷うことなく日々の研鑽を欠かさず積んでいたのでしょう.

秋山選手の進路についても新聞に書いてありました.日体大卒業後は愛知製鋼に進み,「五輪を最終目標としてマラソンに挑戦したい」(2017年読売新聞朝刊東京版20面)とのことです.これからの秋山選手の活躍から目が離せません.

また,今回の箱根駅伝での区間新記録を出したのは秋山選手のみでしたが,来年以後,また連続区間記録更新を成し遂げるヒーローがいつかきっと誕生するでしょう.これまで気に留めることがなかった記録に注目しながら箱根駅伝を視聴する,という新たな楽しみが増えました.

ではまた!