「最も高くて最も硬いガラスの天井はまだ砕けていない」。

 米大統領選で敗れた民主党のヒラリー・クリントン前国務長官は11月、女性の昇進を阻む「ガラスの天井」についてこう語った。日本の女性政治家として初の防衛相、東京都知事と、この天井を破り続けるのが小池百合子知事。東京五輪会場見直しを検討するなど、既定路線への挑戦を続ける。(聞き手 加納裕子)

インタビュー 「自分=商品」を年齢ごとに開発する自己マーケティング

 −−ガラスの天井を感じたことはありますか

 小池 自分で選んだ道を自分の責任で自由にやってきて、あまり壁にぶち当たるというのはないですね。ぶち当たったとしても、次の道を考えます。仕事をする上では男性も女性も関係ない、良い仕事をと思ってここまで来ました。

 ただ、もともと日本社会の設計図は男性仕様になっている。例えばクールビズでは、オフィスの温度設定も“重武装”した男性の快適な温度にエアコンを設定し、CO2を出すわ、エネルギーを消費するわ、女性は震えるわ。

 女性や子供を優先しない社会作りが、話は飛ぶようですが、少子化を呼び、人口減につながり、国際競争に負ける。そして社会変革ができない。私個人というよりも、日本の女性にはそういう天井や壁がいっぱいあると思います。

 −−東京五輪・パラリンピックの会場整備の経費削減を模索するなど、これまでの知事ができなかったことに切り込んでいます。過去の男性知事と自分が違うと思うところは

 小池 視点がまったく違うと思うし、何よりも社会の構造も変わってきている。(過去の男性知事が行ってきた)開発や五輪の招致の役割は大きいと思うけれども、50年後の東京を考えて今はギアチェンジが必要です。私の読む本は、だいたいマーケティングの本か、経営・経済本。ピーター・ドラッガーとか、アルビン・トフラーとか。経営の視点は、いつも持っていますね。

 −−エジプト留学、政界への転身など思い切った決断をされてきました

 小池 失うものがないからじゃないでしょうか。しがらみがなく、思い切った決断ができるのは、女性にとってプラス。(男性には)メンツや、あの人にお世話になった、男同士の仲間意識などがあるから日本社会は変えられない。男性は群れとして動くから、方向が間違ったらみんなでドボン! するわけですよね。女性の方が個として活躍する人は多く、その方が可能性は広がります。

 −−女性であることはキャリアに影響しましたか

 小池 高校生の時に留学や行き先、方向性も決めていました。スキルを身に付けようと思ったのは、日本の組織の中では女性は下働きで終わり、意思決定にはなかなか行けないから。

 だったら自営業でやった方が意志を貫けるし、働きやすい。スキルとしての外国語は、みんながやっていなくて日本にとって必要と思うアラビア語を選んだ。

 振り返ってみると、自己マーケティングをやっていました。日本における女性の居場所、女性の今後伸びる方向、その中で自分はどういう位置にいて、10代で何をして、20代でどういうスキルを得て…。自分を商品としてずっと商品開発を考えていた、恐ろしい高校生でした(笑)。

 −−私たちが見習うとすれば

 小池 自己マーケティングでいうと、10代、20代はかわいいとか外見で判断される。そこで力を蓄えておいて、30代、40代でプロフェッショナルに徹するわけです。できる人は世の中にたくさんいるので、その中で自分でなければならないスキルをさらに磨くことも必要です。

 私の場合、20代後半からキャスターになりましたが、自分でなりたいと言ったのではなく巡り合わせ。いろんなチャンスは向こうからやってきたんだけど、政界入りと知事選は自分から飛び込みました。

 −−そのとき、それまでに蓄えた力が後押しになったということでしょうか

 小池 力があるという自信はないけれども、やってみる価値はあると思った。

 −−働く女性にメッセージを

 小池 人生で自分のやりたいことは何なのかを見つめ直してほしい。自分は今どの位置にいて、その方向性のためには何が必要なのか、子育て中の人は、お子さんの成長と合わせて今自分が何をすべきなのか。あと、あんまり前へ、前へとあごを出していたらかえって遠ざけられる。肩肘張らずに自然体で行くことですね。

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今週の言葉「突破力」

 ガラスの天井を破った人をたたえる「女性初」という言葉は名誉なようだが、実は批判や中傷の対象になることも少なくない。ガラスの天井を破って指導的地位に就いた女性の足下をすくう「ガラスの崖」という言葉もある。

 ふくれあがる東京五輪・パラリンピック整備費や築地市場の移転問題、議会の反対勢力…。小池知事は早くも、ガラスの崖に立っているようにも見える。だが、山積する課題と過密スケジュールの中でインタビューに応じた小池知事は終始にこやかで、堂々として見えた。これまでもメンツやしがらみを捨て、崖から飛び降りる覚悟で結果を残してきた自信があるからだろうか。だからこそ、高い天井を破り続けることができるのかもしれない。(加納裕子)

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 【プロフィル】小池百合子(こいけ・ゆりこ)  昭和27(1952)年、兵庫県芦屋市生まれ。46年、関西学院大を中退し、エジプト・カイロに留学。51年にカイロ大文学部を卒業し、アラビア語通訳や株式番組キャスターを経て昭和63(1988)年、テレビ東京系経済ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」初代キャスターに。平成4(1992)年、日本新党から比例代表で参院選に初当選。5年、旧兵庫2区から衆院選に立候補し当選。15(2003)年に環境相、16年に内閣府特命担当相(沖縄および北方対策)を兼任。17年の郵政選挙で刺客として東京10区に国替え、当選。女性初の防衛相などを歴任。28年8月、女性初の都知事として就任。