「世界の民間航空で働いているパイロットのうち数千人が鬱病か、自殺願望を抱えているが、仕事を失うことを恐れてそれを隠している」。ニューヨーク・ポスト紙など米メディアがこんなショッキングなリポートを伝え、衝撃が広がっている。一体どういうことなのか。

 不気味なリポートを発表したのは、米国のハーバード公衆衛生大学院。2015年3月24日、ジャーマンウイングスの定期便がフランス南東部のアルプス山中に墜落、150人の死者を出した。鬱病だった副操縦士による自殺行為と判明したが、この事件をきっかけに同大学院は8カ月にわたり調査した。

 世界の3278人のパイロットから聞き取り調査し、13%にあたる426人が鬱病かそれに近い状態を経験したと答えたほか、75人は聞き取りを実施した時点から2週間以内に「自殺が頭をよぎった」と答えたという。

 この結果を世界を飛ぶ民間パイロット(14万人、うち半数は米国)に置き換えると、1万8000人が鬱病か、それに近い症状で、5600人に自殺願望があることになるというのだ。

 調査にあたって、同大はこれが精神疾患を見極めるかどうかのテストであることを隠すため、さまざまな種類の質問を用意したほか、匿名を条件にしてパイロットの本音を引き出した。

 CNNテレビは「この記事を読んだ人は飛行機に乗るのが怖くなるかもしれない」とし、「上司からのパワハラ、セクハラのほか、長時間緊張を強いられる仕事で睡眠不足になりやすい。パイロットは精神面に病気があるとわかれば仕事を外され地上に降ろされる恐れから、そうした問題を秘密にしがちだ」と指摘した。

 09年1月、ハドソン川に不時着し、乗員・乗客全員が無事だったことから「ハドソン川の奇跡」といわれたチェズレー・サレンバーガー機長はこの調査結果に「飛ぶのにふさわしくないパイロットはコックピットから出るべきだ」と警告した。

 一方、エアライン・パイロット・アソシエーション(国際乗員組合)はCNNテレビの取材に、「現在、航空機による旅が世界で最も安全な輸送手段であることを忘れないでほしい。米国では毎日2万7000回の離着陸をあらゆる条件の元で安全に繰り返している」と主張した。

 衝動に駆られるのとそれを実行することには大きな差があるといわれるが、何とも怖い数字だ。