【ワシントン=河浪武史】トランプ次期米政権の通商政策は、中国などへの強硬姿勢が一段と強まりそうだ。3日には次期米通商代表部(USTR)代表に、保護主義色の強いロバート・ライトハイザー同元次席代表の起用が決まった。「米国第一」を掲げる次期政権は貿易赤字の縮小を公約。管理貿易にシフトして相手国に米国からの輸入目標導入など強硬策を求めていく可能性がある。
トランプ次期政権はホワイトハウスに通商政策の司令塔となる「国家通商会議」を新設する。各国との通商交渉を担うUSTRと、米国製品の輸出振興策を練る商務省が、その実務部隊となる。
3組織のトップはいずれも対中強硬論を唱える。国家通商会議のトップには「Death by China(中国がもたらす死)」と題した著作や映画監督作品があるピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授が就く。商務長官には著名投資家のウィルバー・ロス氏が指名された。
ナバロ氏とロス氏は選挙戦中、トランプ氏の経済政策を立案した中心人物だ。両氏は昨秋まとめた経済成長戦略で「輸出を増やし、輸入を減らして貿易不均衡を是正することが成長につながる」と主張。貿易相手国には米国製品の輸入目標導入を求め、天然ガスや産業機械など輸出振興品目まで具体的に示している。
ナバロ、ロス両氏の通商政策案は、自由取引を原則とする輸出入市場に政府が深く仲介する「管理貿易」の色彩が強い。レーガン政権でUSTR次席代表を務めたライトハイザー氏も、通商政策の専門家として管理貿易の導入に実績がある。
ライトハイザー氏は1984~85年の日米鉄鋼協議の交渉役で、日本側を異例の輸出自主規制に追い込んだことで一躍名を上げた。その後は鉄鋼大手USスチールの顧問弁護士を務め、オバマ政権には中国製品の反ダンピング(不当廉売)関税の適用を再三にわたって働きかけてきた。トランプ氏が好む「強い米国」の体現者ともいえる。
トランプ氏は2日のツイッターで「中国は一方的な貿易で米国から巨万の富を奪った」と批判した。米国のモノの対中貿易赤字は過去最悪の3674億ドル(約43兆円、2015年)。中国の世界貿易機関(WTO)加盟前の00年比で4倍強に膨らんだ。過剰生産による中国の鉄鋼の不当廉売は世界的な通商摩擦に発展している。
国際通商筋は「ライトハイザー氏は米当局にWTOルールを拡大解釈して対中交渉を有利に進めるよう進言してきた」と分析。中国の通貨安誘導を加算して反ダンピング関税の税率を上げたり、中国製品の緊急輸入制限(セーフガード)を発動したりする案を検討しているとされる。
トランプ政権が通商摩擦を辞さない強硬策に打って出れば、対米貿易黒字の大きい日本も標的になる可能性がある。トランプ氏は日本製自動車の関税引き上げに触れたこともあり、円安を「通貨安誘導」と批判したこともある。日本経済にはトランプ氏の大統領選勝利後の円安相場に期待感があるが、次期政権の強硬策が為替相場にまで及べば、対米貿易にとどまらない打撃となる。
トランプ氏は環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を表明。その後想定される2国間交渉ではライトハイザー氏が最前線で交渉手腕を発揮することになりそうだ。