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ゅぃゅぃ日記

声優、小倉唯さんを応援しています。

烏丸千歳の魅力について

アニメ 雑記

 2016年、いちばん好きなアニメヒロインは烏丸千歳でした。

 「生まれた時から烏丸千歳単推しでした。」と言い換えてもいい。俗な言い方をするなれば「俺の嫁」というやつである。一般的にオタクは毎クール新しい嫁群と出会い、クールの終わりを境にその大半との別れが伴うものである。過度に供給される美少女は留まるところを知らず、一人の美少女に執着している暇はない。しかし、烏丸千歳は特別であった。彼女は先例を見ないほどの魅力を備え、それ故に愛おしく、ボクのアニメ史に刻むに相応しい女性であると断言できる。今日はその話をしたいと思う。


 烏丸千歳はTVアニメ『ガーリッシュナンバー』に登場するメインヒロインである。
基本的なスペックは以下、公式サイトに記されている通り。

烏丸千歳 烏丸千歳


烏丸千歳|TBSテレビ:ガーリッシュ ナンバー

 まず目を引くのが「性格はクズ」の一文かと思う。TwitterGoogle で検索すると、クズ、嫌い、うざいなどとサジェスト汚染されていた時期もあったが、作中の彼女の振る舞いに感化されたのか、現在はおおよそクズを除いて好意的なものに成り代わっている。*1

 ガーリッシュナンバーは近年増えてきた「業界お仕事モノ」と呼ばれる群像劇にカテゴライズされる。アニメ・声優業界モノであれば「SHIROBAKO」や「それが声優!」などが直ぐに思い浮かぶだろう。これらの作品群は、ボクたちオタク側に公開されている業界の華やかな一面とは裏腹に、普段は秘匿されている裏方での衝突や葛藤、不条理な現場、涙ぐましい努力や尊い犠牲などを通じ、主要ヒロインの心的な成長や集団の結束の様子をコミカル描いたものである。ところがどっこい、ボクの大好きな烏丸千歳ちゃんは全12話を通して一貫してクズのまま完走してしまうのだ!


ガーリッシュナンバーの物語の構造

烏丸千歳の魅力を十二分に理解するには、当然その周囲を構成している物語そのものを理解する必要がある。登場人物がそれなりにいるので、以下に簡単な相関図を用意した。 f:id:hetyo525:20170103214325p:plain

図1: 烏丸千歳を取り巻く人間関係

 図を見てもらえれば分かる通り、千歳は仲間に恵まれている。彼女らは、作中に登場する架空のTVアニメ『九龍覇王と千年皇女(略称:クースレ)』で共演した声優仲間である。クースレは近年稀に見るクソアニメであり、そのメインヒロインに抜擢されたのが我らが千歳ちゃんとなっている。そして、ピンハネした経費でCV:佐倉綾音のキャラが働くキャバクラに入り浸り、「アニメの発展のために犠牲はつきもの」と声優を沖縄水着ロケに連れ出す非道なプロデューサ九頭の主導のもと、過酷な収録やイベントを乗り越えた彼女たちは、次第にお互いのことを理解し、認め合ってゆくのである。

 ……と、ここだけ切り出すとなにやら王道な展開の様相を呈しているが、全くそんなことはなく、物語は第9話「焦燥千歳と疾走ルーキー」から変貌を遂げてゆく。

焦燥千歳

 「私はかわいい」「私は人気が出る」「私を評価しない世間が悪い」
 千歳ちゃんは賢い女の子だ。当然、自分の演技が下手くそなことには気づいているし、自分の努力が足りていないことも自覚している。着実に次の役を掴んでいる久我山八重や片倉京と自分を比較し、圧倒的に劣っていること、このままではダメなこともわかっている。そんな焦燥に駆られた千歳に追い打ちの如く降りかかる災難が桜ヶ丘七海である。

 七海は、千歳の所属する声優事務所、ナンバーワンプロデュースの主催する次世代オーディションの大賞受賞者である。実力があり、千歳より若い。事務所の難波社長は七海のポテンシャルを高く評価し、一方で役をつかめず長いことくすぶっている千歳のことを蔑ろにし始める。しかも最悪なのは、七海がクソアニメジャンキーということだ。「自分はクースレの大ファンである」と千歳の下手くそな演技に無垢な態度で称賛を送り、千歳を激しく当惑させるのだ。

 そして、各事務所1人しか受けられない大役オーディションの選考に、千歳ではなく七海が推薦されることとなる。事務所の方針として、七海の育成に注力する決定を難波社長が下したのだ。際して、悟浄くんは千歳の担当から七海の担当に変更されてしまう。

千歳と悟浄の関係性

 説明を省いてしまったが、千歳の声優マネージメントは悟浄くんが行っていた。声優として駆け出しの頃面倒を見ていたのも、千歳へ仕事を持ってくるのも、悩んだときに相談に乗るのもすべて悟浄くんの役割だった。「マネージャーがアイドルにセクハラ!業界を揺るがす大スキャンダル!これは今の担当を全部はがす必要がありますね!!」悟浄くんが担当から外れたときの千歳の言動は倦怠期の夫婦さながらである。千歳の声優活動は悟浄くんに依存していたと言っても過言ではない。怠惰な千歳のことだ、肉親であり、過保護な悟浄くんがマネージャーでなければ既に声優という職業を辞めていたことだろう。いや、それ以前に、悟浄くんの存在がなければ千歳は声優という職業に執着していなかったはずだ。

 作中では、"烏丸悟浄は過去に声優をやっていた。しかし、夢半ばで辞めてしまった。"というシーンが数回に渡り描写されている。そして、第10話 「闇堕ち千歳と失意のクズ」のCパートでは、クリスマスに薄暗い部屋の中で、落ち込んだ様子の千歳が寝転びながら、悟浄くんが声優を続けていた頃のドラマCDを聴くシーンが訪れる。 f:id:hetyo525:20170103233945j:plain

「悟浄君だって全然ヘタクソじゃん……私と同じぐらいヘタクソ……。」
《お前もきっと変われるよ!頑張れ!なりたい自分にきっとなれるからさ!》
「嘘ばっか……なりたい自分になれてたらこんな自分になってない……。」
「悟浄くん、なんで声優やめちゃったんだろ……。」



烏丸千歳と自己肯定感

 前置きがかなり長くなってしまったが、第11話「揺れる千歳と決意の悟浄」を踏まえながら、烏丸千歳ちゃんのことを大大大好きになってしまった理由を考察してゆこうと思う。烏丸千歳は自己欺瞞であり自己不在であるということは、先に語ったとおりである。千歳は心理的に未解決な問題を抱えたままで、生きていくことへの肯定を求め続けている。とても不安定で、儚く、それ故にとても愛おしい存在に映る。 f:id:hetyo525:20170104011216j:plain

 自己不信に陥りながらも仲間たちに支えられ声優業をなんとか続けてきた千歳であったが、遂には数少ない居場所であったクースレの収録現場にも七海が登場するようになる。クリスマスイベントのサプライズでは、千歳の誕生日を差し置いて七海の1stシングルの発表がなされた。*2
 このとき、千歳は「今日はサプライズがある」と小耳に挟んでいたので、当然自分が祝われるものと思い込んでいたのである。この事件を皮切りに、千歳のアンニュイな姿やため息の描写が次第に増えてゆくが、それとは対象的に収録現場に溶け込んでゆく七海の様子が明るく描かれている。さながら、桜ヶ丘七海はガーリッシュナンバーの悪意そのものである。そして千歳は人間不信に陥ってしまう。

「新人じゃなくなったらどうなるの?誰も見てくれないよ……。」
「わかってるよ!自己満足だって!傲慢で性格最悪だって!見え張って優越感ひたりたいだけだって……。」
「けどしょうがないじゃん!私自分のこと好きでいたいもん!私のこと好きになってもらいたいもん!」
「まだ消えたくない……誰にも負けたくない……ちゃんとちやほやされたい……。」
「私が一番じゃなきゃ、やだ……。」

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 ボクがガーリッシュナンバーの烏丸千歳に求めていたもの、それは彼女の声優としての成長や成功ではない。どうしようもなく怠惰で努力せず、当然のように劣等感を抱いて生活している我儘な千歳(私)でも、目標とする人・好きな人にありのままを肯定されることで満たされる幼児的願望、それこそが最大のカタルシスではないかと思われる。*3

 勘違いしてほしくないことは、あくまでもアニメを介した擬似的な体験だということだ。現実社会に於いて、このような甘えが許されるわけもなく、社会に属したからには自立を求められ、否応無しに責任を背負い込まされる。こうした逃げ場の無い窮屈な世界に囚われた我々は、基本的な欲求を抑圧しながらも、探り探り生活してゆくしかないのである。

 面倒なことはやりたくないにきまっている。働かないで食べる飯は旨い。宝くじで6億円あてたい。石油王になって一生遊んで暮らしたい。そんな我儘・幻想がまかり通らないことを知っている我々は、自己を偽りながら、週末にお気に入りのアニメBDを再生し、大好きなアニメキャラクターに自己を投影しながら精神をやってゆくしかない。



*1:烏丸千歳叩きをしていた人間はガーリッシュナンバーへの興味を無くし、遂には誰も言及しなくなったという可能性については考えないものとする。

*2:時系列としては10話の話である。

*3:ふと、「くまみこ」も同じような構成だよね、と思ったけど話がややこしいことになりそうなので止めておく。ボクはくまみこの最終回大好きです。