『ASAYAN』以降の空白
では、今の時代に、テレビは次世代のアーティストを世に送り出すことはできているのだろうか?
正直、現段階では、上手くいっているとは言い難い。少なくとも日本においては、かつての歌謡曲の時代、90年代のメガヒットの時代に比べると、苦戦している。
かつて70年代から80年代にかけてはオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)が、文字通り新たなスターを生み出す役割を担ってきた。番組からのデビュー第一弾は「せんせい」でデビューした森昌子。その後も、山口百恵、ピンク・レディー、小泉今日子、中森明菜など、歌謡曲の時代を支える錚々たる歌手を輩出してきた。
90年代から00年代初頭にかけては『ASAYAN』(テレビ東京系)が一時代を築き上げた。「夢のオーディションバラエティー」として、小室哲哉やつんく♂などのプロデュースによってデビューできる権利を争う番組だ。
中でも大きな成果を残したのが1998年にデビューしたモーニング娘。だった。同番組の「シャ乱Q女性ロックヴォーカリストオーディション」の最終選考で落選した5人から結成されたモーニング娘。は、そこからの復活やデビューまでの過程を番組が追うことでブレイクを果たし、国民的なアイドルグループとしての地位を獲得していく。
2002年の番組終了後もグループは続いた。さらにはBerryz工房や℃-uteなど多数の女性アイドルグループを抱える「ハロー!プロジェクト」へと発展し、AKB48や関連グループと共に10年代の女性アイドルシーンの核の一つとなっている。
また、EXILEのボーカリストとして活躍するATSUSHIが見出されたのも、この番組で行われた松尾潔プロデュースの「男性ヴォーカリストオーディション」がきっかけだ。
つまり、『ASAYAN』という番組は、ただ単に歌手やグループを輩出しただけでなく、ハロー!プロジェクトやEXILE TRIBEのように「卒業や加入で代替わりする多人数グループを中核に複数のグループが集いファミリーを形成する」というフォーマットを生み出す一つの契機を作り上げたと言える。
これほどの影響力を持ったオーディション番組は、2002年の『ASAYAN』終了後は、日本では生まれていない。
もちろん、今の時代も様々な形でスターを生み出す試みは続けられている。その成功例の一つが、2015年にスタートした『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)だろう。
ラッパー同士のMCバトルにRPGゲームのテイストを加えてエンタテインメント化したこの番組。深夜の放送ながら、チャレンジャーが〝モンスター〟と呼ばれる実力者ラッパーに挑み、勝ち抜きを目指すドキュメント性が注目を集めた。
中でも〝ラスボス〟と称されるラッパー「般若」とチャレンジャーの熱いバトルが繰り広げられた放送回が話題を呼んだことを契機に、長らくアンダーグラウンドなイメージが強かった日本のヒップホップシーンに再び注目が集まっている。
テレビと音楽の関係は、今なお更新され続けていると言えるだろう。
世界的スターは今もテレビから誕生している
一方、海外では、今もなおテレビ番組からスターが生まれている。その立役者となったのが、やはり数々の公開オーディション番組だ。
その先駆けとなったのが、2001年にイギリスでスタートした『ポップアイドル』、そしてそのフォーマットを転用し2002年にアメリカでスタートした『アメリカン・アイドル』だった。
1年を1シーズンとして一人ずつ候補が脱落していく勝ち抜き形式のオーディションは、リアリティ番組の人気もあいまって、世界的なブームを巻き起こす。
同番組の辛口審査員として名を上げた音楽プロデューサーのサイモン・コーウェルは、2004年にイギリスで『Xファクター』という同様のオーディション番組を立ち上げている。ケリー・クラークソンを生み出した『アメリカン・アイドル』同様、『Xファクター』もレオナ・ルイスやワン・ダイレクションを送り出した。スーザン・ボイルを一躍世界的なスターにした『ブリテンズ・ゴット・タレント』や、そのアメリカ版『アメリカズ・ゴット・タレント』も大きな注目を集めた。
中でも興味深いのは、2011年のデビューから瞬く間に世界的なブレイクを果たしたワン・ダイレクションの成功だろう。
ワン・ダイレクション(PHOTO: Getty Images)
彼らは2010年に放送された『Xファクター』の第7シーズンのオーディションの最終選考に残った面々から結成されたボーイズ・グループだ。番組は社会現象的な人気となり、一時は視聴率60%を超えた。
注目すべきは、彼らが登場したのが、前述した「島宇宙化」の時代以降であったこと。デビューは2011年。メンバー全員がデジタルネイティブ世代で、SNSで自ら写真や日常を積極的に発信し、そのこともあって、ソーシャルメディアを介して人気が一気に広まった。
アルバム『テイク・ミー・ホーム』が全米、全英チャート共に1位を獲得するなど2016年に活動休止するまで数々の記録を打ちたて、トップグループとして君臨した。
つまり、人々の興味が細分化し、それぞれの価値観が「島宇宙化」した10年代の情報環境においても、海外においてはグローバルなレベルで人口に膾炙するモンスターヒット、世界的な大スターが生まれているわけである。
ネットが人々の生活に行き渡った今もなおこのようなスターが生まれている事象は、この時代のもう一つの側面を象徴していると言えるだろう。
次回につづく!