アメリカのスクワッター(不法占拠者)、チカーノ・ギャング、フィリピンのスモーキーマウンテン、モンゴルのマンホールチルドレン……。世界各地のハードコアな現場を撮り続けている写真家・名越啓介氏が3年間住み込んでまで迫った新たな被写体は日本の団地だった。『Familia 保見団地』という愛知県にあるマンモス団地の写真集を発表した名越啓介氏に話を聞いた。
⇒【写真】保見団地
――なぜ保見団地を撮ろうと思ったのですか?
名越:これまでサンフランシスコのスクワッターや、フィリピンのスモーキーマウンテンなど海外で撮影して来ましたが、僕はそういう場所に生きる人のデタラメでファンキーなところに惹かれます。まさか日本国内の、しかも団地でそういう人々に出会えるとは思わず、気がついたら3年もいましたね(笑)。それだけ面白かったんです。
愛知県豊田市の「保見団地」は、1972年に造成が開始された東京ドーム約13個分の広さに3949戸を擁するマンモス団地だ。県営、UR、分譲で構成される67棟の団地には現在6951人が暮らし、うち外国人は3392人。中でもブラジル人は2975人と、実に88%を占めている。90年、入管法の改正により日系人の単純労働が認められると、トヨタなど自動車工場での労働力として多くの移民がやって来た。本来は日本人向けに建てられた保見団地であったが、予定どおり埋まらないことから、企業が買い上げ外国人労働者の社宅として利用されるようになり、いつしか「保見団地」は「ブラジル団地」と揶揄されるほどになる。1/3・10合併号の週刊SPA!特集「貧困の未来」でも現状を紹介しているが、写真集では、そこで暮らすブラジル人の若者の日常が坦々と記録されている。
――文化の違いから来る日本人住民とのトラブル、右翼団体との諍いで街宣車が燃えたなど……。どうしても危険な場所というイメージがありましたが、写真集を見ると、思いのほかピースな雰囲気です。
名越:住民との軋轢やゴミの問題は、今もすべて解消されているわけじゃないけど、団地の自治会、豊田市の国際まちづくり推進課など、この20年住民と行政が一丸となってブラジル人との共生に取り組んでいる成果は確実に現れていました。ただ、僕が何より惹かれたのはそこに暮らす人間の強さ、自由なマインドです。彼らには決して恵まれない環境でも、それを笑いに変える力強さがあるんですよね。最初は、警察だと思われていたみたいで多少警戒されていたんですが(笑)、僕みたいな部外者にでも、誰とでもオープンマインドで接して、コミュニケーションを取るんです。それは家族に対しても同じで、何でも話し合う親子関係があったり、実はそれって理想的な家族のありかたなんじゃないかと思わされました。
決して恵まれていない環境であっても、明るく過ごす。貧困とグローバル化が進むであろう日本の未来。彼らの底抜けの明るさと、日本人と共存していこうとする姿勢は見習うべきなのかもしれない。
●「Familia 保見団地」
世界37ヵ国で展開するデジタルメディアVICEの日本支部が手がけた初の写真集。現地の様子はこちらの動画(https://www.youtube.com/watch?v=oDqaiyKN69s)でも確認できる。
<取材・文/日刊SPA!取材班>
日刊SPA!
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