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電通過労死事件で考える「人材使い捨て職場」改革法

ダイヤモンド・オンライン 2016/12/9(金) 6:00配信

● 「電通女性社員自殺」の根本原因は、 「働きすぎ」だけではない! 

 先週話題になった、こんな記事をご存じだろうか。

 〈NHKの出待ち取材で「自浄能力のない会社だ」等と感想を述べた20代の電通社員に、始末書を書かせて「戒告」の懲戒処分を下していたとのことだ。〉(出典My News Japan:「電通、NHK取材に「自浄能力がない」と感想を述べた若手社員を「戒告」の懲戒処分にして自浄能力のなさを改めて示す」)

 実際に懲戒処分が下されたかどうか確かではないにもかかわらず、このニュースは連日ネット上で話題となった。この報道が真実であれば、履歴書に残る「戒告処分」で20代の若者の将来を奪うことになる。

 今回の懲戒処分の件を除いても、一連の電通報道を見るうちに、ある言葉を何度も思い出した。それは、経営の神様ピーター・ドラッカー博士の言葉「Culture eats strategy for breakfast.」だ。

 和訳すると「文化は戦略を朝食に食べる」となる。意訳では「文化は戦略を簡単に食べてしまう」、さらに「どんな緻密な戦略を立てるよりも、優れた企業文化を構築することが重要である」という言い方ができるだろう。

 筆者にはこの言葉が重く感じられる。経営者や人事担当者、企業のリーダーたちの一番の仕事は、優れた企業文化を創ることなのだ。

 そしてもう1つ、気になることがある。一連の電通問題の発端となった、「電通女性社員自殺」の根本原因だ。

 「働き過ぎで尊い命を落とすことがなくなるように、(中略)働き方改革をしっかり進めていきたい」というコメントを見ると、政府としても「長時間労働」の改善に注力しているように見受けられる(出典:産経ニュース【安倍晋三首相「政府としても『働き方』見直す」】)。

 だが、ここで筆者は考えた。「働きすぎ」だけが自殺の原因ではない。「人」を死ぬほどまでに追い詰める原因は「人」だ。そして人がつくり出した「企業文化」が、皆を追い詰め苦しめているのではないか、と。

● 「企業文化の育成」のために 欧米企業がしていること

 筆者は7年ほど前までは、コンサルタントとして日本、シンガポール、アメリカと3ヵ国で働いていたが、その当時、欧米企業の社内体制に驚いたことを今でも鮮明に覚えている。

 欧米企業は「企業文化の育成」こそが重要だと考えており、「企業文化の育成」のために「人を大切にする」社内システムをつくろうとする。そこに予算、エネルギー、時間などの多くの経営資源を投入していたことに、感動を覚えたものだ。

 東南アジアに進出していた日系企業のほとんどが、現地の人材を「使い捨てマネジメント」していた時代。「使い捨てマネジメント」で大事にされていないことは、日系企業のローカル労働者にも伝わってしまう。だから1ドルでも給料が高い仕事を見つけると、その会社に見切りをつけ転職してしまうのだ。

 「使い捨てマネジメント」といえば、かつてこんな信じがたい話を聞いたことがある。某大手日系企業のシンガポール法人の社長と話していたときのことだ。その社長はふとこんなことを、笑い話のように話した。

 「部下のインド人たちの顔が全員同じ顔に見える。名前も覚えられなくて年次評価に困る」

 グローバル社会では個人を尊重する。初対面でも名前で呼びかけるのは、グローバル社会の常識だ。そんなグローバル時代の中で、日本を代表して海外拠点のリーダーを務める人が、訴訟問題に発展してもおかしくない発言をしたのである。

 日本国内でも同様に、もし外国人マネジャーが私たち日本人のことを「全員同じ顔」などと言って笑っていたら、憤りを感じるであろう。そのときの社長の様子を見て、同じ日本人として恥ずかしく、情けなく感じた。

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最終更新:2016/12/9(金) 6:00

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