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今日の社説

2017/01/03 01:40

小浜-京都ルート 2030年開業へ北陸が一つに

 「北回り新幹線」の提唱から半世紀を経て、ようやく北陸新幹線の全線開業が見通せるところまできた。これからなすべきことは、はっきりしている。財源確保に総力を傾注し、小浜-京都ルートの早期着工と工期短縮を実現することだ。

 福井県の西川一誠知事は「やる気になれば、2030年度末の北海道新幹線札幌開業よりも早く完成できる」と強調している。ルートの詳細調査に1、2年、環境影響調査に4年程度の時間がかかる。敦賀開業を待たずに着工し、15年とされる工期を10年に圧縮できれば、2030年開業が射程内に入ってくるとの見立てである。

 安倍政権は、新幹線などの交通網を整備する「地方創生回廊」を掲げる。人口の東京一極集中が地方を疲弊させ、日本の発展をいびつにしているとの認識が根底にある。北陸新幹線の金沢開業は、都会にヒト、モノ、カネを吸い取られる「ストロー現象」が懸念されたが、現状を見る限り、メリットの方がはるかに大きかった。小浜-京都の開業が早ければ早いほど北陸が得る利益は大きくなる。北陸3県が一丸となって財源確保に努め、早期開業を実現したい。

 小浜-京都ルートの決定に際し、ある大手紙は社説で「北陸や関西の政財界からは早期着工を求める声が相次ぐが、あまりに前のめりだ」と疑問を呈した。国の財政が厳しい中で、北陸新幹線の延伸を特に優先する必要性はないという主張である。

 中央のメディアは、北陸新幹線の金沢開業や九州新幹線の全線開業以前にも、同じような主張をしていたのを思い出す。北陸や九州で新幹線の開業効果を目の当たりにしてもなお、十年一日のごとき主張を繰り返す理由が分からない。なぜ整備新幹線事業をさしたる根拠もなしに無駄な公共投資だと決め付けてしまうのだろう。

 整備新幹線の収支採算性は、公共事業の中では例外的といってよいほど厳密に試算されている。事実、開業後の実績は、全ての路線において事前想定を上回り、大きな利益を稼ぎ出している。例えば鉄道建設・運輸施設整備支援機構は昨年3月、開業から5年目を迎えた東北新幹線八戸-新青森間と、九州新幹線博多-新八代間の事後評価を実施した。

 それによると、八戸-新青森間の費用対効果は東日本大震災があったにもかかわらず、「1・1」と投資を上回る利益が得られた。博多-新八代間は九州新幹線全線が開業したこともあり、「2・1」と高い投資効果が確認された。おそらく長野-金沢の5年目の事後評価も高い数値が出るだろう。

 国交省の試算では、小浜-京都ルートは費用対効果が「1・1」であり、投資した以上のリターンが得られる。1850万人の人口を擁する関西圏と1時間余で結ばれるメリットは極めて大きく、金沢開業に匹敵するインパクトがあるのは間違いない。関西経済界の期待が高い理由もそこにある。

 北陸新幹線の大阪延伸は、災害に強い国土の強靭化(きょうじんか)を後押しする。首都圏と関西圏が北陸回りでつながれば、東海地震などの災害時に、東海道新幹線の代替機能を果たしうるからである。大規模災害などで東西間の幹線交通網が寸断された場合、航路や高速道路での迂回路をフルに活用しても、1日当たり20万人の足が奪われるという。北陸新幹線が全線開通していれば、「回復困難流動量」の約50%、1日当たり9万7千人の足が確保でき、被災地救援や復興の助けになる。

 日本は今、マイナス金利政策をとらねばならぬほど、資金需要がない。返済が確実で、投資に見合うリターンが得られる北陸新幹線の延伸事業は極めて有望な投資先ではないか。地方創生はもとよりデフレ対策にもなるだろう。人口減少が続くからこそ、今のうちに効率的な交通インフラを整備し、活力を維持していく必要がある。

 敦賀-京都ルートの財源については、民間からの借り入れ資金を財投に切り替えるほか、敦賀-新大阪の施設使用料(貸付料)を前倒しで活用する案がある。だが、一にも二にも国費投入枠を大幅に増やす「政治決断」がぜひとも必要だ。早期に全線開通を目指すことが、北陸のみならず、日本全体の利益を最大化する早道である。