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「知る権利」ないがしろに 菅英輝・京都外国語大教授

菅英輝氏
菅英輝氏
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 「『徹底した、正確で信頼できる』編さんに向けて」。これは、「合衆国の対外関係」として知られる米国務省外交史料集の編さん史について歴史学者らが執筆した共著のタイトルである。ところが、この精神を踏みにじるような申し入れを外務省が行っていたことを示す文書が明るみに出た。外務省が米公文書公開作業に口を挟んできたことは、これまでも指摘されてきたが、この文書は、それがいかに度が過ぎる介入だったかを物語っている。

 安保改定交渉時の記録の全般的な非開示を求めていたとは驚きだ。その他の項目も含めると、関連する2巻の史料集の約3分の1から6割以上の分量に当たるというから米担当者の怒りも当然だろう。密約についても、表で存在を否定し続け、裏では隠蔽工作をしていたことが確認できた。改めて国民への背信を露呈した形だ。

 外交交渉経過を明らかにすることで問題点の有無が分かる。世論の批判に耐え得るのか後世に検証できなければ外交力は鍛えられない。外交の民主的コントロールも困難になる。最も肝心なのは、これは国民の「知る権利」への侵害ということだ。民主主義が機能するための前提を、外務省はないがしろにしていたことが鮮明になった。

 国民の知る権利を制約するさまざまな問題をはらむ特定秘密保護法が施行されて約2年になる。今回、明らかになった「何でも隠せ」という外務官僚の秘匿習性が改善されたとは思えず、この文書は同法の危うさを、時代を超えて警告している。

=2017/01/03付 西日本新聞朝刊=

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