サグラダ ファミリア


 

 
第八話


 なんだか妙な組み合わせの中に入ってしまった。
 目の前にいるのは、弥生さん、みちるさん、ヒトミさん、そして……ミサキさん。




「ほらほら、祥平君、これ、これもおいしいよ〜」
「い、いや、僕、もう、さっきのチョコパフェでもうおなか一杯で……」
「あ、祥平君、ブチョーのパフェは食べられても、みちるのチーズケーキは食べられないというのだね?うう、さては胸?胸なのね?やっぱり祥平君もおっぱいの大きい女の人のほうが好き……あいた!」
「みちる、いい加減になさい。祥平君、こまってるでしょ?」

 テーブルを挟んで、僕の右前にいるのがみちるさん、左前にいるのが弥生さんだ。

「祥平君、調子が悪いなら、無理しなくていいんだよ?送っていこうか?」
「あ、だめだめヒトミ、抜け駆け禁止。祥平君、気をつけなさいよ。こういうの、送り狼っていうんだよ」
「お、おくりおおかみ……?」
「ち、違います、私、そ、そんなつもりじゃ……」
「を、ヒトミ。送り狼、という言葉にカマトトぶりもせずそのストレートな反応。捨て置けませんな捨て置けませんなあ」

 そして僕のすぐ左側、通路側にいて、わたわたしているのはヒトミさん。あいかわらずみちるさんにいじられている。

「…………」
 ……そして、僕の右側の窓側で、ひとりさっきから黙りこくったまま、時折紅茶をすすっているのが、ミサキさんだ。

 髪の毛は少しウェーブ気味で、背は高い。スタイルも抜群。目が少し釣り目っぽくて気が強そう……うん、この前、音楽室であったときとおんなじ。
 だけど、なんだか不思議な気がする。前に彼女にあったときは、こう……そう、ハルナさん、だっけ?なんというか、取り巻きっぽいひとを引き連れて、そして、本当に意地が悪い感じで……まあ、そりゃ、優華さんをいじめていたから当たり前なんだけど、……なんだか、とりつくシマもない感じだったけど、今は少し、違う感じがする。
 といっても、――相変わらず、やっぱり冷たい感じではあるんだけど。


 ここはいつも僕が通っている病院と駅との間にあるチェーン系のファミリーレストラン。
 いつもどおりの病院からの帰り道だったんだけど、そこで部活の対外練習の帰り道だったチア部の4人組に遭遇して捕まってしまい――いや、正確には、みちるさんに「だほ」されてしまった僕は、そのままこのファミレスにラチレンコーとなってしまった。


「……そういえば、……えっと……あの……その……アネは……」
 優華さんはどうしてんですか?と言おうしたところで、人前で自分の「家族」のことを「さん」づけしていったものかどうか悩んでしまった僕は、言いなれない言葉遣いにどうも違和感が抜けきらず、思わず言いよどむ。
「……アネ?……ああ、優華のことですか。今日は委員会の仕事があって、練習に来られなかったんです」
「そう……ですか……」
 僕の声音に、何か落胆の響きを嗅ぎ取ったのだろうか。みちるさんは素早く、
「あ、祥平君。やっぱりお姉さんがいないと寂しい?」
「そんなんじゃ、ありません」
「んー、いいなー祥平君、そうやって強がるところもすごくそそるんだよなぁ〜♪」
「み、みちるさん!祥平君、困ってます!!そんなふうにからかっちゃ、ダメですよ!!」
「んー、だったらヒトミが祥平君を慰めてあげればいいじゃない。祥平君、ほっぺたスリスリ攻撃に弱いから、ヒトミ、そっちからやってあげるといいよ?一緒に祥平君のほっぺ、挟みっこしよ♪」
「え、そ、そうなんですか……」
 僕のほうをちらりとみるヒトミさん。
「え、いえ、ぼ、ぼく、間に合ってますから!」
「おや、祥平君は優華姉君の頬っぺた以外はお気に召さないようですね。残念残念」
「そ、そうなんですか!いつもお姉さんにほっぺた、すりすりしてもらってるんですか?祥平君!!」
 うーん、みちるさんからのからかいにもだいぶ慣れてきたが、ヒトミさんのぼけっぷりもなかなかすごいものがある。
 僕は気を落ち着けることを兼ねて、オレンジジュースをちゅるる、とすする。

 そこで僕は、ふと、一つのことに気が付く。

 目の前の弥生さん、みちるさん。この二人とも、この前、えっとその……僕は、えっちをしてしまったんだけど、その時に、優華さんに「催眠」をかけられてしまった。その時にキーワードは仕込んである。
 そして、隣のヒトミさん。この人も、この前の音楽室で優華さんに催眠にかけられた。キーワードがいまだに有効なのは、この前のみちるさんの家での実験で証明ずみ。
 ということは、逆サイドに座っているミサキさん――優華さんをいじめていた人のリーダー格――も、たぶんキーワードがまだ効くはず。

 つまり、ここにいる4人を、僕はいつでも催眠に落とせる、はず。
 
 ここはファミリーレストランの中でも、植木やらツイタテのせいで、ほかのお客さんや店員さんから死角になる場所にある。
 さっきから、なかなかオーダーに来てくれないって、みちるさんはぶーたれていたし。


 いつまでも僕を子ども扱いしてからかってくるみちるさん。普段であれば、僕ももう小さな子供じゃないんだし、なんとなく合わせていられるんだけど、『あんなこと』があった後、みちるさんの『本性』を知った後だと、そんなに素直ではいられない。

「んー、あれだね、やっぱり、まだまだ祥平君には、お姉さんたちのアダルトな世界は、早すぎたかな。ごめんね、祥平君、妙にからかっちゃって」
 しばらく黙りこくっていた僕の雰囲気に、何かを気取ったのだろうか、珍しくみちるさんは早めに矛を収めにかかってきた。
 でも、そのみちるさんの言い様も、また僕の神経にかちんと来る。

  みちるさんはどこまでも僕を子ども扱いする。
   だけど、みちるさんだって、この前、『初めて』だったわけで。
    別に自分でいうほど、大人ってわけじゃなし。

 改めて、この4人を見渡す。
 みちるさんと弥生さんと、僕はえっちをしている。
 ヒトミさんは……たしか、フェ●チオ、させてる。
 ミサキ……さんとだけは、まだ何もしていなかったけど、少なくとも、4人中3人は、僕はエッチなことをしてるわけで、たぶんそれは、この4人の中では一番「経験」を積んでるんじゃないかと思う。


「みちるさん、祥平君困ってますよ、いい加減にしてあげましょう」
「ごめんね、祥平君、みちる姉さん、口から先に生まれてきたせいで、ちょっとしゃべりすぎちゃったかも。ごめんね?許してくれるよね?祥平君?」

 困った顔で諌めるヒトミさん。そしてそれを受けて舌を小さく出すミチルさん。

「……そうですね。僕はまだ子供かもしれません。………………だから、玩具をつかって、遊ぶのが、まだまだ好きなんです」
 
 僕の声音が少し変わったのに気づいたのかもしれない。みちるさんは少しだけ目を見開く。

 うん、みちるさんは、たぶん見かけよりずっとずっと、賢くて用心深い。
 だけど、もう手遅れ。

『みちるさんは、僕の操り人形』

 僕の言葉に、みちるさんの動きが止まる。見開いたままの目が、そしてコーヒーに手を伸ばしかけた手がそのまま凍り付く。

「え?」「み、みちるさん?」「……なに?……どうしたの?」
「………………すみません、僕、男の子なんですけど、家に小さな女の子、瑠美ちゃん、って子がいて、お人形遊び、いっしょによくするんです。だけど、お人形さんが最近ほつれちゃって、新しいのがほしいなあ、っていうものだから、みちるさんに、お人形さんになってもらおうと思って……みちるさん、みちるさんは、僕の何?」
 みちるさんは、僕の声に、ガラスのような瞳をして、コーヒーに手を伸ばしかけたままの腕をそのままにして、生気のない声で、
「……はい……みちるは、祥平君のお人形です……」
 と答える。

「ちょ、ちょっと、これ、どういうこと?」
「しょ、祥平君、みちるが悪ふざけをしてたのは謝る。けど、これはちょっと……」
「ねぇ、もとに戻してあげて」
 ミサキさん、弥生さん、ヒトミさんが口々に僕にお願いをする。

「……そうですね。お人形さんが一人じゃ、寂しいですよね。それじゃ、ミサキさん、ヒトミさん。みちるさんを元に戻すおまじないをしますから、僕のこの指を見てください……」
 僕の両隣の二人の視線が、僕の指先に集まる。その瞬間、

『貴女は私の操り人形』

 優華さんが音楽室で、二人に入れ込んだキーワード。だから、少しだけ大人っぽい、というか女の人がいうみたいな言葉になってる。だから、僕は少しだけ大人っぽく発音してみる。

 とたん、僕の両隣から、人の気配が消える。
 僕が左を向くと、さっきまで心配そうな表情でみちるさんのことを気遣っていたヒトミさんが、口を小さく開いたまま――驚きのあらわれだろうか――、目から光を喪って呆けたような表情になっている。
 そして僕が右を向くと、さっきまで甲高い声を出して、少し動転をしていたかのような表情をしていたミサキさんが、やはり虚ろな目をしたまま凍り付いている。

「うん、3人ともいい子だね。そしたら、僕が手をたたくと、3人は力が抜けて、そのままソファに体を沈み込ませてしまうよ、それはとてもとても気持ちがいい体験です……それでは、いち、にの、さん!
 僕が、パン、と手をたたくと、さっきまで奇妙な姿勢のまま凍り付いていた3人の体から力がふっと抜け、瞼も閉じて、ソファに体が沈み込む。

「しょ、祥平君!こ、これ、いったい、どういう……」
 一人だけ正気の弥生さん。だけど、残り3人がお人形さんになってしまった挙句深い眠りについた今、一番慌てている。
 僕は落ち着き払って、少しぬるくなってしまったオレンジジュースをすすりながら、
「大丈夫ですよ。弥生さん。3人とも、ちょっとばたばたしてたみたいなんで、リラックスしてもらう『魔法』をかけたんです。3人とも、今、とてもいい気持ちになって眠っているだけですから」
「ま、まほうって……」
「弥生さんも、魔法にかかってみたいですか?」
 僕は弥生さんの目を見つめると、弥生さんの目が泳ぐ。
「じょ、冗談はだめよ。祥平君。ねえ、お願いだから、3人を戻してちょうだい」
「そしたら、弥生さん、ゲームをしましょう」
「げ、ゲーム?」
「そう。3人を戻せるかどうかのゲーム。弥生さんがもし僕の目を、3分間見つめて、魔法にかからなかったら弥生さんの勝ち。だけど、弥生さんが魔法にかかったら、僕の勝ち。どう?」
「どう、って言われても……」
「弥生さん、さっき、冗談、って言いましたよね。ってことは、魔法なんて、信じてないんでしょ?」
「あ、当たり前です!」
「だったら、全然問題ないですよね。だって魔法なんてないんだから、弥生さんは絶対に勝てる。もし負けると思うんだったら、弥生さんは魔法を信じてる、ってことですよね?」
「そ、そりゃ、魔法なんて、あるはずないけど……」
 弥生さんの声音が小さくなる。それはそうだろう。魔法なんてない、としても、今目の前にで3人の部員が瞬く間に人形のように凍り付き、そして深い眠りについてしまっているのは紛れもない事実なのだから、「何かあるかもしれない」と思うのは当たり前。いや、実際、「何かある」のだけど。

 弥生さんはしばらく沈黙していたもの、意を決したのか「わかった」というと、
「そのかわり約束して。これに祥平君が負けたら、もう二度と、こんないたずらしちゃ、だめよ。もし今度こういうことをしたら、私、優華に言いますから」

 弥生さんは真剣な目で僕を見つめる。


  ああ、弥生さんって本当にやさしい人だ。

    この期に及んで、まだ、「もし今度こういうことをしたら」なんて言うってことは、この場は、僕のやったことは、黙っていてくれる、ということだ。


      変な話だけど、僕は、みちるさんやミサキさんが今までしたことを考えると、この2人を催眠にかけるのは、あまり心が痛まない。
      ヒトミさんは――別にヒトミさんが悪いわけじゃないんだけど、なんだか、優柔不断というか芯が弱い、というかで、少しイライラしてしまうところがあるし、たとえ巻き込まれていたとはいってもミサキさんと一緒になって優華さんをいじめていたことは事実なわけで、そういう意味では、催眠にかけられるようなきっかけをつくったのも……フェ●チオをするような羽目になったのも、ある意味身から出た錆、と言えなくもない。


      だけど、弥生さんは、この中で、唯一、優華さんにも僕にも何も悪いことをしていない人。
       だから、僕が、弥生さんに同意なく催眠をかけるのは、掛値のなく「ズル」だし、いけないことだし、セートーなリユーが何もない。
 
        僕は、弥生さんを催眠に落とせる「キーワード」を知っている。
         だから、ここで、もう終わりにして、弥生さんを催眠に落として、
          そしてみんなの記憶を全部無しにして、何事もなくこの場を解散にすることもできた。

           でも、弥生さんは、まだ僕のことを、よく言えば信じている、悪く言えば、……どこかで甘くみている。


            僕は、弥生さんにとって、ただの、無害な男の子だって思われているんだ。
             すでに、弥生さんのはじめてを奪ったのが、僕だってのも知らないで。



            僕は、体の中に、何か疼きを感じながら、

「じゃあ、弥生さん、僕の目をじっと見て……そう、じぃっと見る、じぃっと見ている……そう。弥生さん、わかるかな?僕の目の中に、弥生さんが映っているよね?僕を見ているつもりで、弥生さんは僕の目の中の自分を見つめている。そう、ずぅっと見つめていると、だんだん、だんだん、だんだん、ほかのことが分からなくなってくる。頭の中が僕の目と、僕の目に映る自分でいっぱいになってくる……そう、だんだん、瞼がぱちぱち、ぱちぱちしてきた。だんだん瞬きが多くなってくる……」

 そういっていると、弥生さんの瞬きが多くなってくる。
 これはどちらかというと自然現象だ。ずっと目を開いていれば瞬きが増えるのは当たり前。だけど、弥生さんは、僕の言葉に抵抗をしようとするのか、体を固くして、なるべく瞬きの回数を減らそうとしている。だけど、なかなかうまくいかず、まぶたが、ぴく、ぴく、と震えている。

「そう。弥生さん、抵抗しようと頑張ってるね。だけどダメだよ。もう弥生さんは催眠にかかっている。だから抵抗すればしようとするほど、瞬きが増える。そう、抵抗しようとすればするほど、体がガチガチになってくる。さっきのみちるさんを見たよね?ヒトミさんをみたよね?あんな風に体が固まっていくよ……そう……やよいさんも、おにんぎょうさんになってしまうよぅ………………」
 弥生さんは、一瞬僕から目をそらそうとする。僕はその瞬間をとらえて、
「はい!弥生さんはもう顔が動かせない!目もそらせない!!そのまま、体はかちこちに固まっていく、もう弥生さんはお人形さん、動けない、動かない、体が動かないから、心も動かない、頭も動かない、何も動かせない、だけどそれがあたりまえ。だって弥生さんはお人形さんなんだから、そのまま、ずぅっと、ずぅっと弥生さんの心は、ふかい、ふかぁいところに沈んでいくよ……僕が3つ数えると、弥生さんはお人形さんになるよ。でもお人形さんはとっても素敵、とっても気持ちがいい。弥生さんはとってもとってもきれいで素敵で、世界で一番美しいお人形さんになります。今、ガチガチの体から力が抜けて、瞼もすぅっと閉じて、僕に抵抗しようという気分が全くなくなってしまいます。いえ、逆に、お人形さんですから、僕の言葉がそのまま自分の意思となって、心も体もそのとおりに動いてしまいます。必ずそうなりますよ、さあ、いち、にの……」

 僕は一呼吸置いた後、

『弥生さんは僕のお人形さん!』

 その呪文とともに、ぼくはパン、と手をたたく。

 弥生さんは、その瞬間、深く息をはきだし、体から脱力して、ほかの3人と同じようにソファに体を沈ませる。瞼が閉じた瞬間、いままで目の表面に浮かんでいた涙がつつ、っと頬をつたってこぼれる。
 それは、弥生さんが最後まで僕を信じようとした、そして僕に抵抗しようとした尊い、そして無為な努力の証のように見えた。


   僕は弥生さんのキーワードを知っているから、何をしたところで、弥生さんは負けてしまうことは決まっていたのだから。






 僕は、ふぅっと息を深くつくと、改めてあたりを見渡す。
 僕の右にはミサキさん、左にはヒトミさん、左前には弥生さん、そして右前にはみちるさんがいて、全員、深い眠りについている。


 さすがに、こんな人がいるところでは、これ以上のことは何もできない。


 僕は、そんな中、僕の右側にいる人がずっと気になっていた。

 ミサキさん。
 優華さんをいじめていた人。
 ヒトミさんもいじめてたけど、ミサキさんがいなければ、こんなことにはならなかっただろう。
 それに。
 ヒトミさんも、みちるさんも、『罰』を受けたけど、ミサキさんだけ、まだ罰を受けてない。





 僕は、4人に対して、
「それではいいですか?『お人形さん』たち。これから、僕が手を叩くと、みんなは目を覚まします。自分がお人形だったことも忘れ、また、このファミレスの座席に入ってから今までのことはすべて忘れてしまいます。ただ、おいしいケーキと楽しいおしゃべりを楽しんだ、という記憶だけが残っています。だけど、僕がまた『●●さんは僕のお人形さん』というと今と同じ、幸せなお人形さんの状態に戻ってしまいます。
 そして、もう一つ。今から目を覚ますと、みんな、これから、みちるさんの家に遊びに行きたくなります。みちるさんは、提案をしましょう。みんなは、みちるさんの家に一緒にいきたくていきたくてたまらなくなります。そして、その提案に賛成します。必ずそうなりますよ、いいですね……、それでは3つ数えると目が覚めます。はい、いち、にの、さん!」

 ぱん!

 僕が手をたたくと、4人は目を覚ます。

「あれ」「ん……」「ここは……」「わたし……何をして……」

「みんな大丈夫ですか?そろそろ時間ですよね」
 僕がそういうと、みちるさんは目をぱちくりさせて、
「うーん、もう少し長くいたいけど、あんまりいるとケーキ代、飲み物代、かさんじゃうしね。ねえ、せっかくだから、みんなでうちに来ない?うち、広いから、これくらいの人数は簡単に入れるし、買い置きの食べ物や飲み物もたくさんあるし。どう?」
「え……いいんですか?」
「モチのロンよ」
「みちるの家ならいいかもしれないわね」
「……私が行っても、邪魔じゃない?」
「ぜんぜん。ミサキ先輩も歓迎ですよ、ああ、もちろん祥平君も大歓迎。サービスたくさんしちゃうからね?」
「はい、喜んで」

 僕は小さく笑った。




 そして、みちるさんの家。
 何度来ても――といってもたった2度目だけど――すごくゴージャスな感じだ。


「じゃーん、こんなこともあろうかと!たくさん取っておいたんだー」
 みちるさんがうきうきしながら、カステラやドーナツ、シュークリームにゼリー。いろいろなお菓子が並ぶ。
「わぁ、すごい。結構高級品なんじゃないですか?」
「うん、うちのお母さんとかお父さん、いろいろな人から貰い物、してくるからね。この大甘党みちるさんの胃袋をもってしても、食べきれないんだ〜♪」
 上機嫌のみちるさん。嫌味な感じではなく、本当にみんなと一緒に甘いものを食べられるのが嬉しいんだと思う。邪気のない笑顔だ。
「……お茶、入れますね。それともコーヒー?祥平君はジュースがいいかな?グァバとかあるよ、ぐぁば」
「いえ、……僕もコーヒーで」
「お、祥平君、大人への階段を登り始めてるね。うちのコーヒー、煎りが深いから、苦いよ?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
 実はまだコーヒー6級くらいのレベルしかない僕は、少し見栄を張る。……うーん、自分でもこういうところは子供ぽいと思うけど、みちるさんにからかわれるとどうしても対抗してしまう。
「ほかの人は?コーヒー以外も、紅茶はダージリン、アッサム、イングリッシュブレックファストとかあるよ。ああ、コーヒーもエスプレッソマシンがあるから、カプチーノやエスプレッソにもできるし、ハーブティやほうじ茶もあるよ?」
「わ、私は、……ハーブティ、とかがいいです」
「私は、カプチーノでお願いします」
「……私は、アッサムで」
「うわぁーみんな割れるねー。じゃあ私は渋く緑茶で」

 皆、思い思いのドリンクをオーダーし、それをヒトミさんとみちるさんが手分けして淹れていく。
 みんなの手前にお菓子とドリンクがいきわたったころ、
「それじゃ、二次会の開始を祝しまして、かんぱーい」
「……か、かんぱぁーい」
「ごちそうになります」
「同じくです」

 みんながドリンクに手を伸ばしかけたその時、僕は、

 ぱちん。

 と手をたたく。

 すると、全員の動きが止まる。


   ここに来た時に、この4人には、「僕が手をたたくと時間が止まる」という暗示を入れた。だから、4人の時間は、今、凍った状態にある。

 僕は生唾を飲む。
 4人とも、すごくきれいで、僕よりずっと大人の、制服を着たお姉さんたちが、まるで映画のワンシーンを切り取ったように凍り付いてしまっている。

 僕は立ち上がると、隣に座っているヒトミさんのほっぺたをちょん、とつつく。ふるん、と柔らかく、白いほっぺたが、僕の人差指につつかれてへこみ、そして僕が手を放すともとに戻る。

 僕はさらに回り込んで、みちるさんの髪の毛をなでる。みちるさんのトレードマークの2つに結わえた髪の毛。この前、みちるさんに催眠をかけて、エッチしたときに、まるで馬を引っ張る紐のように乱暴に扱った髪の毛……ちょっとあの時は心配したけど、相変わらずきれいなつややかなうるおいを保って、僕がなぜるとポニーの尻尾のように弾力をもってふわふわと揺れる。
 向かいに移って弥生さん。澄んだ、やさしい眼は、今はガラスのように虚ろで、何も映していない。目を下にやると冬服の上からでもわかる胸の二つのふくらみ。そしてプリーツスカートから伸びる、丸みを帯びた太もも、そして、チアリーディングで鍛えたうっすらとした筋肉があるものの、女性らしい丸みを帯びたふくらはぎ。黒いストッキングに包まれて、少しテラテラした光沢を帯びているのが艶めかしい。
 僕は、弥生さんの唇に触れる。ぷるん、と柔らかい弾力のある感触が返ってくる。もちろん、弥生さんは反応がない。
 この前にエッチしたときの記憶、仰向けになった僕の上で激しく腰を振る姿、そして上下に揺れる白い乳房、そして、涙を流しながら僕に許しを請う姿が思い起こされる。

 ……最後、ミサキさん。ミサキさんは、モデルさんみたいな感じがする。いや、弥生さんもすごくきれいなんだけど、弥生さんが静かな日本人形みたいな美しさだとすれば、ミサキさんは華やかな感じだ。瞼も彫りが深い二重で、目も少しつりあがってきつい感じ。顔も小さくて脚が長くて、いわゆる8頭身体型とかいうやつなのかもしれない。腰も普通の制服を少し詰めているせいか、胸のふくらみが逆に強調される形になっている。たぶん、自分に自信があって、自分のどういうところが一番きれいで、どうすればそれをアピールできるか、よく知っている人なんだ、と思う。



 この4人に、すごくいやらしいことをいろいろしたい気持ちがむくむくと頭をもたげてくるけど、僕はそれをぐっとこらえる。催眠は、万能でもなければ魔法でもない。ここまでは、もし催眠が解けても「子供のいたずら」で済む。これ以上は、まずい。

 何かあった時に、優華さんを呼ぶ、という手段はある。学校からこのみちるさんの家まではそれほどかからない。委員会の仕事、といっても、家族の一大事とかなんとかいえば抜けてこられるだろう――いざとなれば、優華さんの「催眠」を発動してもらえばいいわけだし。
 
 だけど、それは最後の手段。リーサルウェポン。
 
 それに、ここに4人を連れてきた段階で、僕の中で、「ずる」はしない、というのを決めている。ずる、というのは、本人の意思に反して「えっち」なことをすること。本人が望むなら別だけど、そうでなければ無し、としておく。これは、どちらかというと自分に対しての歯止めだ。

 ……もっとも、「催眠は、本人が本当にやりたくないことはさせられない」、はず。だから、催眠状態でやっていることは、本人の意思には反していないことになる。だから、彼女たちが「催眠」に基づいて行動している限り、僕が道を踏み外すことはないのだろうけど

 ともかく、ここに来た本来の目的、それは、ミサキさんに「罰」を受けてもらうこと。
 今は、それに専心しよう。




「……はい、みなさんの時間は今、止まっています。だから、今、何が起きているかわかりません。みちるさん、ヒトミさん、弥生さん……そして、ミサキさん……僕が次に命令するまで、みなさんの時間は凍ったままですけど、僕が手をたたいたら、少し楽な姿勢になっていいですよ。ただ、楽な姿勢になると、そのまま深い眠りに入ってしまいます。だけど、僕の声だけは、みなさんの心の中に刻まれます。また時間が動き出すと、僕に言われた、ということは、思い出せませんが、僕に言われたことは、すべてみなさんの中で当たり前のことになります……」

 僕はそういうと、パン!と手をたたく。すると、4人の手が空中にあったのが机に落ち、あるいは膝に落ちて、背もたれのある椅子にもたれかかり、だけど、目はうつろに虚空を見据えたまま、脱力する。

 僕はその4人の脱力する様に、えも言われる興奮を覚えつつ、そのお腹の下にくる疼きを抑えながらも、

「それでは、ミサキさん、ヒトミさん、弥生さん、みちるさん。今から、『裁判』を始めます。被告人は、ミサキさんです。罪名は『優華さんへのいじめ』。証人は、ヒトミさんと僕、検察官はみちるさん。裁判長は、弥生さんです。弁護士は、……えーっと、無しってことで」

 我ながらひどい裁判だなあ、と思いつつ、僕は、4人に、それぞれ耳元で「暗示」を囁く。
 どんな荒唐無稽なことであっても、それは彼女たちの中で真実になる。


 僕は、ある程度の基本設定、例えば裁判だから裁判長の言葉や権限は絶対、とか、検事が求刑をする、とか、そういったものは与えつつも、そしてこの荒唐無稽な裁判の「常識」を彼女たちに刷り込みつつも、あまり細かいことはあえて指示しない。


「それでは、僕が手をたたくと、みなさんの時間が動き出し、裁判が始まります。弥生さんは、裁判を進行してください。それでは、……はじめ!」


 ぱん!


 僕が手をたたくと、全員が目をぱちくりさせている。

「あれ……」
「ここは……」

 全員が一瞬ぼんやりしていた感じだったけど、僕がすかさず、
「どうしたんですか?今から、裁判、ですよね?」

 僕の言葉に、全員が何かを思い出したかのように、
「そうでした……これから、裁判、でしたよね」
「そうです、サイバンチョー、忘れちゃこまりますよ!」
「……早くしてもらえないかしら、私、忙しいんですけど」
「うう、緊張します……」

 全員が思い思いのリアクション。設定は裁判なんだけど、それぞれの性格はそのまんまだから、なんだかおもしろい。

 弥生さんが、コホン、と咳払いをすると、ダイニングテーブルの上の木でできた胡椒をすりつぶす、チェスの駒をばかでかくしたようなアレ……名前、よくわからないけど、あれを手に持つと、テーブルの上を、コンコン、と叩く。

「静粛に。それでは、これから裁判を始めます。被告人は、ミフネ ミサキさん。チアリーディング部員、罪状は、『高坂優華さんへのいじめ』です。ミフネ ミサキさん、よろしいですね?」
「いいわよ。さっさとはじめなさいよ。私、忙しいんだから」
 ふてくされたような感じのミサキさん。
「では、みちる検事。被告人の被疑事実を述べてください」
「はい、サイバンチョー。被告人は、あろうことか、同じ部に所属する副部長たる高坂優華に、あの手この手のいじめを加えました。これは、ヒナンダンガイに値するヒレツセンバンな行為であります!よって、死刑を求刑します!!」

 コンコン、と弥生裁判長は再び机をたたく。

「検事。求刑は、まず被疑事実の証人尋問、そして被告への尋問を経て最後に行うものです。それに死刑は重すぎます。もう少し適切な罰を考え直しておくように」
「えー、みちる、死刑しか知らないんだけど……」
 ひどい検事もいたものだが、弥生裁判長はそれを無視して、
「それでは、証人尋問を始めます。証人その1、ニジョウガハラ ヒトミさん」
「は、はい!!」
 めちゃくちゃ緊張している感じのヒトミさん。それに弥生さんはやさしい声で、
「ヒトミさん、それでは、貴女が、被告人が高坂優華に『いじめ』をしていた、ということに関して、貴女が知っている事実を述べてください」
「は、はい……あ、あの、ミサキ、さんは、優華先輩が、この学校に転入して、うちの部活に入ってきてから、ずっと……優華先輩のことが、気に入らなかったみたい、なんです。最初は、無視とか、わざと部活の時間がかわったことを連絡しないとか、そういうくらいだったんですけど、優華先輩が副部長になってから、ひどくなって、その……ものを隠したり、チアの服に泥と牛乳をかけたり、靴に画鋲を入れたり、……あと、ネズミの死体とか……」
 コンコン、と、机をたたく弥生さん。
「なるほど、しかし、それらの事実の、証拠がありますか?あなたは、それを見たのですが、あるいは、だれかからそうしたことを被告人がやっている、ということを聞いたのですか?」
「え……それは……」
 言葉に詰まるヒトミさん。

 黙りこくって下を向いたままのヒトミさんに、弥生さんは、やさしい目をして、
「ヒトミさん。安心してください。貴女がこの法廷で証言したことで、貴女が訴追されることはありません。また、貴女に危害が及ぶこともありません。ですから、安心して、証言をしてください」

 弥生さんの言葉に、ヒトミさんは背中を押されるように、

「それは……私も……一緒に……優華先輩を……いじめ、て、た、から、です……」
 消え入りそうな、かすれた声で、そうつぶやいたヒトミさんは、そのあと、顔を両手で覆って、しゃくりあげながら小さな声で泣き始めてしまった。

 見かねた僕が、背中をさすると、ヒトミさんはそのまま僕にもたれかかるようにして、ひく、ひく、としゃくりあげながら、体を震わせ続ける。

「わかりました。では、その次の証人、高坂祥平君」
「はい」
「証人は、高坂優華さんの弟さん、ということでいいですね」
「はい」
「それでは証言してください」
「はい。ぼくは、その、……アネから、誰からかはわからないけど、ずっといじめを受けていたと聞きました。以上です」
 本当は、学校で、実際に現場を見てるんだけど、それをいうととっちらかってしまうので、言わないことにする。

「わかりました。それでは、被告人、ミフネミサキさん。何か反論することはありますか」
 ミサキさんは、つまらなそうに、自分の長い髪の毛をいじりながら、
「……裁判長。今の証言、証言に値しますか?どちらも、物証、ないですよね。片方は自分がやった、ということを私になすりつけてるだけ、もう片方は、身内の伝聞でしょ?そんなの、証拠になりませんよね。『疑わしきは罰せず』が、裁判のルールだと思いますけど、違いますか?」
「わ、わたし、嘘ついてません!なすりつけてもいません!!」
「どうだか。ヒトミ、貴女、『副部長って感じ悪いですよね』とかいってたでしょ?だから、貴女一人でそういう嫌がらせしてたんじゃないの?」
「そ、それは、ミサキ先輩が、そういうふうに話振ってくるから、私、自分が……いじめられたくなくて……その……」
 もごもごして、やがて下を向いてしまうヒトミさん。
「検事。何かありませんか?何か、物的証拠はそろえてないんですか?」
「え、あ、うー、そ、その、あいにく、証人しかなくて……」
 うーん、頼りにならない検事様だ。
「祥平君。君からは、何かありませんか?このままだと、無罪を言い渡すことになりそうですけど」
 弥生裁判長が僕に振ってくる。
「……そうですね。ちょっとみなさん、こっちを見てもらえますか?」
 僕がそういうと、全員の視線が僕に向う。その瞬間。

 ぱん!

 僕が手をたたくと、全員の動きが凍る。

 僕は、ミサキさんの脇に立つと、ミサキさんの両頬に手をそえて、その虚ろな瞳をのぞき込む。
「ミサキさん、僕の目を見てください」
「はい……」
「ミサキさんは、今、お人形さんです。だから僕の言葉は、ミサキさんの心の底にしみこんで、彫り込まれて、ミサキさんの心そのものになります。だけど、ミサキさんはそれを自覚できません。
 ……ミサキさん、ミサキさんは、正直に今から僕の質問に答えていきます。いいですね?」
「はい……」
「それでは、今から3つ数えます。3つ数えると、ミサキさんは目が覚めます。今の僕の言葉はミサキさんは意識には思い浮かべることはできませんが必ずその通りになります。いいですね?それではいきますよ……いち、にの、さん!」

 ぱちん。

 僕が手をたたくと、ミサキさんは、はっと目を覚ます。

「あ、あれ?」

 目をぱちくりさせているミサキさん。

「ミサキさん、どうしたんですか?」
「え、いえ、えっと、……いえ。別に何も……」
 ごにょごにょときまり悪そうにしているミサキさん。
「裁判長、僕に、ミサキさんを、直接尋問させてはいただけませんでしょうか」
「証人の尋問を許可します」
「ありがとうございます……では、ミサキさん、自己紹介、改めてしますね?僕、高坂優華の弟の、高坂祥平、っていいます」
「え!?……あ、ああ、うん……」
 明らかにさっきまでとは違うリアクション。僕の視線を、あからさまに避けている。
「ミサキさん。僕。聞きたいことがあるんです」
「え?」
「実は、僕、アネ、優華から、相談を受けまして……その、アネ、学校でいじめられてる、らしいんです」
「……」
「いじめ、って、卑怯ですよね。アネ、ネズミを靴箱に入れられたり、ひどいときは画鋲をいれらたり、もの、隠されたりしてるらしいんです。僕くらいの年なら、そういうことするのも、あるかと思うけど、いい年になって、そんなことしてるって、おかしいですよね」
「……あ……」
 あからさまに目を泳がせているミサキさんに、
「ねえ、ミサキさん。アネ、その人をかばっているのか、教えてくれないんです。誰がいじめてるか。ミサキさん、心当たり、ありませんか?」
「そ、それは……」
「……アネ、普段は明るく振舞ってますけど、実際は、すごく苦しんでました……僕、その人に、アネに、もう二度といじめしないってことを約束させないといけないんです」

 ミサキさんは、ずっと口を閉じたり開いたりしていたけど、やがて、僕のほうをじろりとにらんで、

「そ……それは……私……よ……だから何?何か悪い?」
「……悪い?」
「そうよ、もとはといえば、あの子が悪いのよ!このチア部で、2年間、私、どれだけ頑張ってきたと思う??毎日、毎日、一生懸命練習して、夜遅く、朝早くから部活に出て、夏休みも冬休みもないくらい練習して……なのに、あの娘、突然うちの部活に入ってきて、全然経験ないのに、すごく上手で、……あっという間に副部長にまでなって……少し、私が厳しく、後輩を指導したら、そのあと、トンビが油揚げをさらうみたいに、優しくして、それで、私、どんどん、後輩にも……嫌われるように……なって……顧問の先生とも……うまくいかなくなって…………なにもかも、なにもかも、あの娘のせいよ!」
 
 今の僕だったら……そう、あれから、いろんなことがあって、今に至っている、このノートを書いている今の僕だったら、ミサキさんの言葉の裏にある、それがたとえ如何に身勝手な感情であったとしてもその苦しみが、確かに心の底からの彼女の「正直な思い」であることを理解できたかもしれない。ミサキさんのそのほとばしるような苦しみを、感じ取ることができたのかもしれない。
 だけど、拙いミサキさんの言葉から、その時の僕は、単に身勝手な言いぐさのようにしか感じられず、心がどんどん冷たくなっていくのを感じていた。

 コンコン、とそこで間のいいことに裁判長がテーブルをたたく。

「静粛に、静粛に。……ミサキさん。良し悪しは、私が判断します。ひとまず事実関係については認める、ということでよいですね?」
「…………いいわよ。好きに判決、出せばいいでしょ?」
「わかりました。それでは、被疑事実には争いがないということで。では、検事。求刑をしてもらえませんか?」
「はい!こういうときのお仕置きは、古今東西老若男女、だいたい相場は決まっているものです。検事みちる、被告に、お尻叩きの刑を求刑します!!」
 大真面目に、びしっと指を突きつける。

 ちょっと予想してなかった求刑。

「い、いや、ちょっとそれは……」
 おもわずたじろぐ僕に、コンコンと、ひときわ大きな音。
「静粛に、静粛に。…………祥平君。検察官には求刑の権限あります」
 どこどこまでも、まじめな表情の弥生裁判長。
「それでは、判決を下します。被告人を有罪とし、その罰は、被告人に対する、お尻たたきの罰とします」
 コンコンコン、と3回叩くと、弥生さんは、
「それでは、裁判長として命じます。高坂祥平君。被告人に、刑を執行してください」
「え。ぼ、ぼくがですか?」
「そうです。本来であれば被害者である優華が執行するべきですが、残念ながらここにはいない以上、身内の貴方が執行するのが最も適切です」

「…………」


 ゆらり、とミサキさんが椅子から立ち上がり、僕を見下ろす。

 その瞳の色は、相変わらず冷たい色だったけど、ミサキさんは、黙ったまま、自分が座っていた椅子ともう一つの椅子を二つ並べるようにして、そのうえに四つん這いになるみたいな形で姿勢を変えて、ミサキさんの脇に座っている僕のほうに、制服のスカートに包まれたお尻を突き出した。


 僕は少しアワをくい、思わずあたりを見渡す。だけど、弥生さん、ヒトミさん、そしてミチルさん。誰も、弥生さんの言っていることが変だと思っていない。全員が、僕が刑を執行するのを、息をのんで見守っている。


 ……まあいい。どうせあとで記憶を操作すればなかったことになるだけの話。ここで慌てたら男がすたるとばかりに、僕は一つ咳払いをして、

「わかりました。じゃあ、僕がアネに代わって、ミサキさんにお仕置きをします」

 そうすると、しゃちほこばって、ミサキさんの脇に立つと、大きく息を吸って、はいて、

「それじゃあいきますよ、……せーの」

 ぺし。


 僕は手加減をして、ミサキさんのプリーツスカートの上からお尻を叩く。
 ちょっとやわらかい感触があったけど、そこは顔色を変えないよう最大限努力。

「じゃあ、こんなところで……」

 まるでお茶のお点前でも披露したかのような具合でそこからそそくさと退散しようとした僕の手を、みちるさんが、がしっとつかむ。
「待って!そんなんじゃ全然ダメ!!おしおきにならない!!!」
「え……」
「もっと思いっきり叩いて!10回!最低10回!!ハムラビ法典にもそう書いてるよ!!」
「は、はぁ……」

 は、はむらびほーてん、ってなんかハムのブランドなのだろうか、僕は助けを求めるように、弥生さんを見るが、弥生さんは首を横に振り、
「祥平君。求刑の権限のある検察官が求める罰をすべきです。執行を命じます」

 なんだかどっちが罰を受けているかわからなくなってきた。

 こうなりゃやけだ。僕は手を思いっきり振り上げて、

 ぺしん!ぺしん!ぺしん!ぺしん!……

 とたたいてく。

 なるべく音は大きくいい音になるように、だけど、あんまり痛くないようにちょっと工夫をしたつもりで、10回、たたき終える。

「じゃあ、これでいいですよね……」

 そういって僕が退散しようとすると、
「ちょっと待ったぁ!!」
 またみちる検事が僕の襟ぐりをぐいっとつかむ。
「ちょっと、祥平君。君、手心、加えてるでしょ?」
「そ、そんなこと……」
「いや、お仕置きを受けた経験は人一倍、お尻叩きには少しうるさいみちる検事の目は誤魔化せないよ!裁判長!被告に対する尋問を求めます!!」
「……わかりました。どうですか?ミサキ被告。正直に答えてください。今のお尻叩きの刑、痛かったですか?痛くなかったですか?」
「……ふん、全然痛くなかったわよ」
 あああ、ミサキさん、まだ正直モードがそのまんまだ。
「ほら、ごらんなさい。祥平君。スカートの上からなんかじゃだめ。直接お尻、叩かなきゃ!裁判長!直接、臀部表面への殴打を求めます!!!」
「…………検事の求刑です。祥平君、お願いします」
「え”……」
 僕は躊躇しているが、ミサキさんは、四つん這いになったまま、黙って自分でスカートを引っ張り上げる。
 僕の目の前に、黒いストッキングに包まれた白いショーツに包まれた形の良いお尻、そして太ももが突き出されている。

「ちょ、ちょっと、ミサキさん……」
「……裁判長様と検事様のご命令でしょ。いいわよ、減るもんじゃなし。さっさとやってよ。私、忙しいの」

 ミサキさんはそういうと、黒いストッキングを自分から太ももまでおろす。
 ある意味、男前すぎる。が、これも「裁判長の言葉は絶対」という暗示のせいだ。

「あの、裁判長……」
「さっきと同じです。祥平君。続けてください。改めて言うまでもありませんが、検事の求めは『臀部への直接殴打』ですので、きちんとショーツを下して罰をお願いします」

 裁判長、厳しい。どうにも埒があかない。
 僕が下に視線をやれば、改めて目の前のストッキングが途中までずり下がってむき出しになった、ミサキさんのショーツに包まれたお尻が目に飛び込んでくる。
 
 ああ、そうですか。最後の1枚は僕が脱がさなくちゃいけないんですね?

 僕は覚悟を決める。大丈夫。すでに優華さん、みちるさん、弥生さんのお尻、全部見てるんだし、お尻ごときで緊張なんかもうしない。経験は力。
 僕はそう思い込むことにして、思い切ってミサキさんのショーツをずりさげる。その白いショーツに負けないくらい白いお尻が飛び出してくる。

 僕は、その白いお尻をなるべく見ないようにして、少しスローを大げさに振って、叩いていく。

 ぺしん、ぺしん、ぺしん、ぺしん、ぺしん………………。

 ところが、たたいているうちに、奇妙なことに、ミサキさんの口から、最初は「ひぅ!」とか「はぅ!」とかいう悲鳴に近い声だったのに、しだいに「んんっ」とか「あふ…………」とか、妙に色っぽい吐息に移っていく。

 ともあれ、10回をたたき終えた僕。そこに裁判長は、
「よろしい。これで刑の執行は終わりました。被告人、これでいいですね?」
「は……はい……」
「それでは、刑の執行も終わりましたので、これにて閉廷……」

「異議あり!!!!」

 テーブルを弥生さんがたたきかけた瞬間、大声が響き渡る。
 みちるさんだ。
「裁判長!検事みちる、異議があります!!」
「なんですか?もう、すべて終わったと思うのですが、何か問題ありますか」
「はい、問題ありありです!裁判長。罰、というのは、罰を受ける側に苦痛を与えるから罰なのです。したがって、罰を受ける側が快感を感じては、意味がありません。そうですよね?」
「それはそうですが、それが何か?この罰は、被害者の弟が求めた求刑に基づき、被告人の申し立てによって決められた罰ですし、もう20回以上、お尻たたかれてますし、結構赤くなってると思うので、罰としては十分ではないかと思うのですが……」
「いいえ、裁判長。不肖、みちる、求刑も碌にできない若輩者ではありますが、観察力には長けているつもりです。私、見ました。ミサキ被告は、祥平君に叩かれることで、感じていました!」
「か、かんじる?」
「そうです!その証拠に……」
 みちるさんは、そういうと、ミサキさんの近くにカツカツと近づくと、ミサキさんの股の間に、つつ、と手を差し入れる。
「ひゃう!!」
 ミサキさんが思わず震えるのをいとわず、みちるさんはミサキさんの一番大事なところに触れると、そこから指を取り出す。

 その人差指は、透明なヌメリのあるジェルのような液でべとべとになっていた。
「これを見てください。これは、紛れもなく、あいえき!愛液なのです。一般に愛液とは、性的快楽を感じた時にのみ分泌されるもの。すなわち、このお尻たたきの罰は、罰になっていなかった、ということになります!!」
「なるほど……ミサキ被告、今のみちる検事の指摘は、事実ですか?」
 ミサキさんは、目をそらせて、だいぶ長く口ごもっていたけど、「ミサキ被告?」と弥生さんにさらに詰められると、根負けしたかのように、
「……………………すみません、その通りです…………私、お尻を叩かれているうちに、なんだか…………変な気持ちになってきて………………」

 普段のミサキさんならこんなことは認めない。「正直になる」という催眠はどこまでも有効なようだ。

 弥生裁判長はため息をついて、
「確かに、検事の言う通り、これではいつまでたっても罰が罰になりません。祥平君、どうしますか?」
「えーと……」
 僕はちらりとミサキさんのほうを見やる。ミサキさんは、真っ赤になった赤いお尻をむき出しにしたまま、気のせいか少し頬を赤くした感じで、だけどふて腐れたような表情でそっぽを向いている。


 待て。ついつい、みちるさんのペースに巻き込まれて忘れてたけど、僕はミサキさんに罰を受けてもらうために、いまここでこんな「裁判」をしてるんだった。
 だけど、今になってわかったんだけど、いくら物理的に罰を与えても、何にもならない。本当に、ミサキさんに、心から自分がやったことが悪かったと思ってもらわなくては。
 
 いまのミサキさんの反応をみてもわかるとおり、ミサキさんは、自分がやったことを悪い、と思っていない。
 いや、正確にいえば、悪いという自覚はあるけど、自分にもセイトウセーがあると思っているから、自分のほうが悪いことを認めていない。
 これじゃ、意味がない。


「ちょっと、ちょっと、祥平君」
 僕がそんな風に考え込んでいるところに、みちるさんが僕の肩をちょいちょい、と叩いて、部屋の隅っこに引っ張り込むと、耳元でひそひそと、
「ねぇ、祥平君。どう思う?ミサキ先輩に対する罰、あれでいいと思う?」
「それは…………ちょっと……」
「だよね。優華先輩にされたことを考えたら納得できないでしょ?祥平君は、ミサキ先輩に『反省』してもらいたいんだよね?」
 僕は、こくん、と頷く。
「……あのさ、多分だけど、ミサキ先輩、多分、『まぞ』だよ」
「は?ま、まぞ?」
「そう、人にいじめられると、気持ちよくなっちゃうタイプ。私は逆だけどねー」
 みちるさんはちゃかすように小さく笑った後、
「だからさ、祥平君。ミサキ先輩、いじめちゃおうよ?因果応報、ってやつ」
「え……でも…………えっと、いじめられると気持ちよくなっちゃう人を、いくらいじめても、それって罰にならないんじゃ……」
 ちっちっち、と指を振るみちるさん。
「違うんだな、祥平君。度を過ぎた快感は、もう苦痛なんだよ。まあ、お姉さんに任せてごらんなさいな」

 にま、とみちるさんは笑うと、僕にごにょごにょと小声で「作戦」を授けた後、弥生さんに手を挙げて、

「サイバンチョー、意見があります!」
「なんですか?」
「お尻叩きの刑では罰にならないので、新たな求刑です。被告には、いじめられることが如何に苦しいものかを味わってもらうため、逆に、被害者の弟にいじめられる罰を、受けてもらおうかと思いますが、いかがでしょうか?」
「なるほど。それは一案ですね。ちなみにみちる検事。さきほどハムラビ法典を引用してましたが、ハムラビ法典は今のような罰をいっているのであって、お尻叩きの回数は規定してません。間違えないように」
「はーい、すみません」
 ぺろっと舌を出すみちるさん。
「それでは改めて、サイバンチョー。検察からは、被告に対して『性的ないじめ』を罰として求めます!!」
 びしっと指をさすみちるさん。
「せ、せいてき?」
 たじろぐ弥生裁判長。
「そうです。裁判長。いじめというのはいろいろなものがありますが、一番女性にとって屈辱的なのは、性的ないじめです。たとえば痴漢行為、あるいはセクハラ。こうしたものを、あえて自分よりも年下の子からなすすべもなく加えられることこそ最大の屈辱であり、いじめという重罪に対して見合う罰と思いますがいかがでしょうか?」
 なんだかめちゃくちゃな理屈にも思えるが、裁判長弥生さんは、少し考えた後、
「わかりました。検察の求めは、裁量の範囲と認めます」
 コンコン、と裁判長は机をたたき、
「それでは、刑を改めて宣告します。ミサキ被告に対して、祥平君、『性的ないじめ』をするということでお願いします」
「ほら、祥平君、裁判長のご命令だよ。ミサキ先輩も、いいよね?」
「ふん、裁判長の命令なら、文句いえるわけないでしょ」
「じゃ、祥平君、お願いね♪うまくやってよ?」
 
 みちるさんは、僕の背中をぽん、と押して、ミサキさんの前に送り出す。
 僕の目の前に座っているミサキさんは――ショーツとストッキングはまだ脱ぎっぱなしだから、足にショーツと脱ぎ掛けのストッキングがひっかかっていて、すごく変な感じなんだけど、そんな状態のまま、ふて腐れたようによそを向いている。

 僕は、その態度に、また、心の中がざわざわする。
 さっきのみちるさんから授けられた「提案」は、ちょっとさすがに「やりすぎ」なんじゃないかと思って、やめようかと思ったけど、今の態度で、僕は方針を変えることにした。


「ミサキさん…いえ、弥生さん、みちるさん、ヒトミさんも、ちょっと僕の手をみていてください」

 そういって全員の視線が集中した、その頃合いを見計らって、

 ぱん。

 僕が手を叩くと、4人の動きが止まり、瞳から光が消える。

 皆が催眠状態になったことを確認して、僕は、ミサキさんの前に立つ。

「ミサキさん、僕を見てください」
 ミサキさんは、虚ろな目をして僕を見上げる。
「ミサキさん。貴方は僕のアネ……優華を、いじめてましたよね」
「……はい……」
「……ミサキさん、貴女は、実は、心優しい人です。だけど、ついつい正直になれず、自分がされたいことを、つい、優華にぶつけてしまっていたのです」
「……自分が……されたいこと……」
「そうです。ミサキさんは、本当は苛められたくて、いじめられたくてたまらない、だけど、誰もあなたの本当の気持ちに気づかず、貴女も正直になれなかったから、それを僕の姉をいじめるという形で発散してきました。そうですよね?」

 これは、みちるさんの授けた「作戦」。みちるさん曰く、ミサキさんみたいなタイプは、本当は苛められたいんだけど、プライドが邪魔をして逆にいってしまうのだそうだ。
 だから、自分自身こそが「いじめられたい」張本人だということを気づかせてあげればいい、ということらしい。
 本音を言えば、半信半疑ではあったけど、この前のみちるさんの「一件」以来、僕は、いい意味でも悪い意味でもみちるさんには一目置かざるを得ないところがある。
 ……こんなことを言うのはなんだけど、人間のドロドロしたところを感じ取るセンスは、僕なんかでは太刀打ちできない感度の良さをみちるさんが兼ね備えていることだけは、否定できない。

 僕の言葉に、ミサキさんは目を泳がせて、
「……それは……そんなことは……」
「でも、ミサキさん、さっきお尻を叩かれて、興奮してましたよね?股、濡れてましたよね?それはどうしてですか?」
「…………それは……お尻を叩かれてるうちに……なんだか……子供のころ……パパや……おにぃちゃんに叱られた時のことを思い出して……変な気持ちになってしまって……」
「子供のころ?」

 ミサキさん曰く、ミサキさんのお父さんや、少し年の離れたお兄さんはすごく厳しい人で、子供のころ、夜帰るのが遅かったり、食べものを残したり、夜更かしをしたりすると、すごく怒られて、そのたびにお尻をたたかれたり、つねられたりしていたらしい。
 だけど、ミサキさんのお父さんお兄さんは忙しい人だったので、ミサキさんに構ってくれるのは、逆にミサキさんが「悪い」ことをして叱ってくれる時だけ。
 そうしているうちに、ミサキさんは、わざと叱られるために、悪いことをする、そして、悪いことをすることでお父さんやお兄さんに構ってもらうようになってしまった、ということだ。
 ミサキさん。見かけによらず、意外と寂しがりやらしい。

「それでは、ミサキさん。今から、僕は、裁判長の命令にしたがって、ミサキさんを『いじめ』ます。それは、エッチないじめです。ミサキさんは、いじめられていくうちに、どんどん気持ちよくなってしまいますが、ミサキさんが、心の底から、自分がした『いじめ』が悪かったと反省し、後悔し、悔い改めない限り、ミサキさんの気持ちよくなっていく気持ちはとまらない、どんどん気持ちよくなる、だけど『イク』ことはできません。僕は、ミサキさんに『反省しましたか?』と聞きます。ミサキさんは、その質問に、素直に答えます。嘘はつけません。自分が悪かったことを認めて、そして僕がミサキさんを『許す』といえば、ミサキさんは絶頂できます。だけど、否定すると、ミサキさんの快感は2倍に、2回否定すれば4倍に……際限なくその快楽は膨らんでいきます。だけど、ミサキさんが心の底から悪かった、と思うまでは、その快楽は止まりません。どんなに苦しくても、その快楽から逃れることはできません。わかりましたね?」
「……はい……」
「では、今僕がいったことは、ミサキさんの表側の記憶からは抜け落ちます。だけど、心の底に刻まれて、必ずそうなります。では、いまから3つ数えます。3つ数えて手を叩くと、ミサキさんは目を覚まします、そして、ここにいる人たち、みんな意識が戻ります。よ……いち、にの、さん!!」

 ぱん!

 僕が手を叩くと、みんなの目に光が戻る。

「それでは、ミサキさん、罰を始めますよ?いいですね?」
「いいって言ってるでしょ?早くしなさいよ」
 ふてくされたようなミサキさんに対して、みちるさんは、僕の後ろから、
「じゃあ、ミサキ。そこに立って」
「ミ、ミサキ?」
 いきなりみちるさんから呼び捨てされて驚いたような表情を浮かべたミサキさんだが、それ以上反抗せず、ミサキさんは立ち上がった。
 う、高い。僕より頭、いくつ分高いだろうか……。身長、170、いや、175くらいあるんじゃないかな。僕が大人になってもこれだけ背が高くなる自信はあんまりないなあ……。
 と、いけないいけない。そんなことは今は関係ない。僕は意識を元に戻すと、みちるさんは続けて、
「はい、そしたらミサキ。胸、祥平君が触りやすいように、むき出しにしてください。それが終わったら、スカートも、めくって」
「…………」
 黙ったまま、ミサキさんは、みちるさんの命令に従い、上着を脱ぐと、白い制服のシャツのボタンをはずす。上着の上からもわかるくらいだった、大きな胸のふくらみが二つ、僕の目の前に、ふるん、と飛び出してくる。
 ミサキさんは、それほどの躊躇もなく、実に事務的に、その大きな胸を覆うブラジャーも自ら外す。
 
 僕は、目の前の大きな白い二つの塊を見上げる。

 胸のサイズとしては、弥生さんやヒトミさんよりは小ぶりのようにも見えるけれど、それは二人のサイズがかなり大きいせいと、ミサキさんのウェストが引き締まっていて、そしてミサキさんの背が高くてしかも胸の形がすごく整っている分、目の錯覚でそう見えるだけで、ミサキさんの胸はサイズとバランスがすごく取れている気がする……乳首の色もきれいな桜色だし……。
 冷静さを保つために、そんなわけのわからない分析をしている僕の脳内努力を知ってか知らずか、ミサキさんは、両手でスカートをめくる。ショーツとストッキングはすでに脱いでいるから、いやらしい太ももの肉づきと白さがいやでも目に飛び込む。これも腰が高いところにあるせいで、すごく目に近いところに見えて、しかも、毛が、不思議とまるで生えてなくて、なんだかマネキン人形みたいに艶めかしい。

 胸はむき出し、スカートの下には何もはいてない。だけど制服が半脱ぎで、それでいて顔はぷい、と横を向いているミサキさんの図。
 なんだか、いろいろとすごい光景だ。

「さ、祥平君。準備は整ったみたいだから、刑を執行して」
「……」
 僕は、手を伸ばして、ミサキさんのおっぱいを下から持ち上げるように触る。両手では余るサイズのお椀型のふくらみが、僕の手の動きにあわせてふにふにと形を変える。
 僕はちらっと回りのギャラリーを見る。とんでもないことをしているにもかかわらず、弥生さん、ヒトミさん、みちるさん。みんな、かたずをのんで見守っており、誰も止めようという気配がない。……もっとも、そういうシチュエーションに持って行ったのは、僕なんだけど……。

 ミサキさんは、しかし、こんなシチュエーションになっても、相変わらずふて腐れたようによそを向いている。
 こんな状況になっても、ミサキさんはやっぱりあの時の、優華さんをいじめてた時のミサキさんと同じだ。
 僕はそのミサキさんの様子を見て、ゆるんだ心を引き締める。
 これは、ミサキさんに反省してもらうためのもの。二度と優華さんにあんな苦しい目にあわせないためにやるものだ。そうでなければ、今日ここに来た甲斐がないというもの。
 僕が恥ずかしがってどうするんだ。
 僕はそうやって、覚悟を決める。

 僕はミサキさんに身体を密着させて、ミサキさんの胸の谷間を通して顔を見上げる形で、
「ミサキさん、気持ちいいですか?」
「……別に。なんか変な感じ、というだけよ」
 ミサキさんは素直になる暗示がかかっているから、これはミサキさんの本音だろう。
「じゃ、もっとレベルを上げますね、例えば……こうされるとどうですか?」
「ひゃう!!」
 僕がミサキさんの股に手を差し入れて、小さな突起をつつくと、ミサキさんの声音が変わる。やっぱりミサキさんもここが弱い。
 僕はミサキさんの豆の部分を手のひらで圧迫しながら、人差し指を割れ目に差し込んで、ぐりぐりと奥の敏感な部分を責めていく。
「あ……う……」
 苦しそうな表情を浮かべるミサキさん。だけど、ミサキさんはスカートは両手をまくったまま離そうとしない。ミサキさん、意外と真面目な人だ。
 僕は右手でミサキさんの左のおっぱいを、左手で股を刺激しながら、左の乳房にちゅぅっと吸い付く。
「んぁぁ!!!」
 ミサキさんは思わず膝から力が抜け、椅子に座り込んでしまう。
「おっとっと……」
 つられるようにして、僕はミサキさんの膝にまたがるような形になってしまう。勢い、ミサキさんに覆いかぶさるような形になる。
「あ……」
 僕を上目づかいに見上げるミサキさん。さっきまでの気の強そうな雰囲気が影をひそめ、涙目になって僕を見上げている。
「ミサキさん、気持ちよくなっちゃいました?」
「す、すこしだけよ。こんなの、大したことないんだから」
 正直なミサキさんの言葉。うん、いい感じ。そう来なくっちゃ。じゃあ、ここからが本番だ。
「じゃあ、ミサキさん、聞きますよ?ミサキさん、アネの優華をいじめたこと、反省してますか?」
「……別に。私だけが悪いわけじゃないし……」
 ミサキさんがふて腐れたような口調で答えた瞬間、僕はミサキさんの胸をわしづかみにする。
「ひゃう!!!!」
 ミサキさんの声音が、さっきとより半オクターブ高くなる。
「ミサキさん。どうしたんですか?僕みたいな子供にいじめられて、気持ちよくなっちゃってますか?」
「そ、そんな、そんなわけ、ない……」
 僕はそんなミサキさんの白い首筋を、かぷっと甘噛みし、そのままつつっと首をつたって、耳たぶを唇で挟む。
「んああ……あぁ……きゃぅ!!」
 ミサキさんは思わず僕をぎゅっと抱きしめかけて、そして慌ててその手を元に戻す。
「ミサキさん、無理しなくていいんですよ?僕のことぎゅっとしてくれて、いいんですよ?僕も、ぎゅっとされるの、嫌いじゃないですから」
「…………そんなこと、できるわけが……」
 ミサキさんの言葉とは裏腹に、その言葉の勢いはさっきよりずっと弱々しい。
 僕はミサキさんの乳首をまたちゅぅっと吸うと、ミサキさんが言葉にならない絶叫を小さく上げる。
「ミサキさん、どうですか?反省、してくれましたか?」
「こ、これくらいで、そんな簡単に……」
「ふーん、じゃあ、次はこっちかな?」
 僕はミサキさんの股にまた指を差し込んで、ぐいっと突く。
「んあああああ!!!」
 さっきとは比べ物にならない絶叫。息もぜいぜいと吐くような形になって、ミサキさんの白い顔も紅潮し、顔から脂汗のようなものがにじみ始める。
「ミサキさん、どうですか?まだ悪かった、って言ってくれませんか?」
「……私は……悪く……ないんだから……」
「そう、じゃあ、ミサキさん、反省しない悪い子のミサキさんの大事なものも、僕、もらっちゃいます」
 そういうと、僕はミサキさんの唇に僕の唇を押し当てる。
「んんん!!!!!!!」
 ミサキさんはびくっと身体をひくつかせる。ミサキさんの身体が小さく痙攣し、それが手や腕、足に広がる。
 最初は抵抗していたミサキさんの舌だったけど、僕がミサキさんの唇を蹂躙するにつれて、やがてその舌が僕の舌にまとわりつきそうになり、それを引っ込まそうとして、また絡みつきかけて…を繰り返すミサキさん。なんとか快楽に耐えようとしているけど、時間がたつにつれてどんどん限界に近付いているのがありありとわかる。それがわかっていながら、僕もミサキさんの舌をなぞったり、つついたりして、ミサキさんの舌を弄んでいく。
 1分、いや3分くらいもキスをしていただろうか。僕がミサキさんから唇をはずしたとき、すでにミサキさんの瞳はうるみきって、虚ろなものとなっていた。
 僕はそんなミサキさんの胸をぎゅっとつぶすように強く握り締めると、ミサキさんは「ひうっ」苦悶とも快楽ともつかない短い絶叫を上げる。
「ミサキさん、まだ反省してくれませんか?僕の姉に謝ってはもらえませんか?」
「あ……う……わたし……わたし……は……わるくない……」
 強がってはいるが、すでに反省を否定すること4回。すでに倍々ゲームで16倍の気持ちよさになっているはず。
 明らかに快楽に理性が蝕まれかけているミサキさんの様子を冷やかに眺めながら、僕は、
「まだみたいですね。だけど、自分の罪を認めるまで、この罰はずっと終わりませんからね……」
 そして、僕がミサキさんの乳首をつねり、唇を嬲り、胸を掴み、股の間の小さな突起や割れ目を指でくちゃくちゃといじめては、そのたびにミサキさんの「反省」を求め、そのたびにミサキさんが拒絶する……。
 だけど、そのやりとりが何度も続くうちに、やがてミサキさんの反応がほとんどうわごとのようになってきて、僕がちょっと頬っぺたや首筋、そして太ももを撫でただけで、身体がびくびく震えるようになり…………………更にそんなやりとりを10回ほど繰り返した後、
「……………………………………る……………………まる……」
 僕は、椅子に座っているミサキさんにのしかかるような形でいじりまわしている状態になっていたのだけれど、ミサキさんが、そんな僕の下で、荒い息をつきながら、上目づかいで、涙目になって、僕に懇願するように、
「………………謝る、……………………謝るから、…………………………………………もう……いかせて………………………………………………お願い……」
 僕はわざと冷たく、
「ふーん、でも、それは嘘じゃないですか?口だけだったら何とでも言えますよね」
「ち、違うの……本当に……本当に……ごめんなさい……」
 僕はそんなミサキさんの懇願を無視して、さらに乳首をつまむ。
「あ”……ち、違う、本当に、本当にごめんなさい……ミサキが……ミサキが悪い子でした……ミサキがいけない子だったの……だから、だから許して……許して、おにいちゃん……じゃない……祥平君…………これ以上……これ以上されたら……わたし……………………わらひ……………………おかしくなっひゃう……ひゃう””!!」
 僕はそんなミサキさんの言葉を無視して、ミサキさんの乳首を甘噛みすると、ミサキさんが思わずのけぞる。
 そんなミサキさんの反応を見ながら、僕は、
「……ミサキさん、どうですか?本当に、反省してますか」
「は……はい……ミサキ……ミサキが……いけない子でした……ミサキが、ミサキが悪い子でした!!……ごめんなさい……ごめんなさい……ぐず……ひぅ……」
 ミサキさんは、もう涙目だ。言葉も舌ったらずになってきて、表情も心なしか幼くなっていて、まるで子供返りしてるみたい。
「もう、優華さんをいじめたり、しませんか?」
「し、しない、しないよ……ぐず……だから許して……祥平おにぃちゃん……ミサキ……もう悪いことしない…………」
 子供返りしすぎて、僕をお兄ちゃんだと思い込んできてしまってるみたいだけど、まぁ、パパよりはいいか。と僕は気を取り直して、この際、ミサキさんの「お兄さん」に成り代わって、ミサキさんをしつけることにする。
 僕はミサキさんを呼び捨てにして
「そうしたら、ミサキ。祥平おにぃちゃんに誓ってください。これから、いい子になるって。祥平お兄ちゃんと、優華お姉ちゃんのいうことには逆らわないって。約束できますか?」
「はい。約束……約束する……ミサキ、いい子になる……祥平……お兄ちゃんと……優華……お姉ちゃんのいうことには……逆らいません……ミサキ、いい子になります……ごめんなさい……ぐす……だから……ミサキを……ゆるしてくらさい……ひぅ……」
「じゃあ、ミサキ、今から僕がミサキにキスをすると、ミサキは、祥平おにぃちゃんに許してもらえます。そうすると、ミサキの身体の中にたまっていた、悪い子、悪い子のばい菌が飛んで行って、その代りに、天国から天使の気持ちが、いい子いい子の気持ちが入ってきます。そうすると、ミサキはいい子に生まれ変わります。いい子になることは気持ちいこと。だからミサキは、すごく気持ちよくなっちゃう、天国に行くくらいすごくいい気持ち。そんな気持ちいい気持ちが、ミサキの体の中にきゅーーーと入ってきて、どかーーんとはじけて、ミサキはいっきに気持ちよくなっちゃうよ?」
 そうミサキさんの耳元で僕はささやくと、ミサキさんの瞳をじっと見つめ、
「ミサキ、いい子になる?」
「なる!なるよ!!」
「もう悪いことしない?」
「しない!絶対にしない!!!」
 ぶんぶんと首を振るミサキさん。
「僕の言うことは絶対なんでも聞くいい子になるね?」
「なる、なるから、はやく、はやく、ミサキに、ミサキに、キス、キスして!!!」
 そう叫ぶミサキさんに、僕はちゅぅっとキスをする。
「んんん!!!」
 一瞬不意を突かれたのかうめくミサキさん。その瞬間、ミサキさんの身体がびくん、びくん、と痙攣し、ミサキさんの目がみるみる光を失っていく。
 唇をふさがれたミサキさんの口の中から、くぐもったうめき声が漏れる。僕の身体をミサキさんの両腕がぎゅっと抱きしめ、両脚も僕の腰に絡むような形となる。

 やがてミサキさんの身体から痙攣が収まったのをみはからって、僕はミサキさんの唇を解放する。
 ミサキさんはぼぅっとした表情を浮かべていたが、やがて僕と目が合うと、蕩けるような表情を浮かべる。
 今までの冷たいミサキさん、身勝手なミサキさん、いじめをして、傲慢で、いやな雰囲気だったミサキさん……そんな今までのミサキさんの雰囲気が嘘のように消えて、今、目の前にいるミサキさんは、素直で、従順で、小さな女の子のような瞳をして、僕を見上げている。

 そんなミサキさんは、顔を赤らめて、
「あ……祥平……おにぃちゃん……悪いミサキをおしおきしてくれて……悪い子のミサキを許してくれて……ありがとう……なの……ミサキ、いい子になる……ミサキ、お兄ちゃんのいうことならなんでもきく…………だから、だからね?お兄ちゃん……これからも、ミサキが悪いことをしたら、叱って……いじめてくらさい………お兄ちゃん……」

 そううつろな表情でつぶやくミサキさん。僕は思わずミサキさんの頭を撫でると、ミサキさんは目を細めて幸せそうな表情を浮かべ、僕の首筋にぎゅーーっとしがみついて、頬っぺたをすりすりとこすりつける。そのたびに、大きな胸が僕の身体にぐいぐい押しつけられて、長い両脚と両腕が僕の身体にぎゅぅっと絡みつく。そのボリュームと力は完全に大人の女の人そのものなのに、もう完全に頭の中は、小さなころの、お兄ちゃんに叱られた後、許してもらえて甘えきっている精神状態になりきっている。
「おにいちゃん、おにいちゃぁん……」
 さっきのキスでは飽き足らないのか、うわごとのように僕を呼びながら、僕の唇に唇を押し付け、キスをねだるミサキさん。
 
 み、ミサキさん。何もかもギャップが激しすぎ……。

 と。ようやくその段階で、僕はほかの3人の視線が、僕に集中していることに気が付く。

「え、えっと……そ……その…………………………………………ぼ、ぼくは、…………………………その、…………判決にしたがって罰を加えただけなんで……変なこと、して……ませんよ……ね?」

 自信なさげな僕の言葉に、裁判長こと弥生さんは、深々と頷き、ぱちぱちぱち、と手を叩き、
「ええ、そのとおりです。単に罰を与えるだけでなく、被告を更正させてくれて、ありがとう、祥平君」
「うん、立派、立派。祥平君。優秀な監獄の刑務官か教戒師になれるよ?今度いい就職口を紹介しようか?うちのパパ、刑務所とかそういうとこ、知り合い多いから、コネ、あるよ?」
 どこまでも大真面目なミサキさん。一方、なんだかみちるさんはニヤニヤしてる。ぅ”−−−この人、やっぱり、油断できない。
「いや、そんなのになりたくないです……」

 僕がみちるさんの太鼓判にもにょもにょしていると、

「あ、あの!!」
 そこに突然割って入ってくるヒトミさんの声。

「どうしたんですか?ヒトミ証人」
「あ、あの!わ、わたしも、祥平君をいじめたんです!!だから、ミサキ先輩だけ、罰を受けるのは、不公平です!!!私も、罰を受けるべきだと思います!!!!」

 あー、なんだか話がややこくなってきた。僕は頭を抱えようとしたが、頭を抱えようにも、僕の身体は妹モードのミサキさんに完全にホールドされていて、身動きが取れない。
 そんな僕の心理を知ってか知らずか、弥生裁判長はどこまでも真面目に、
「と、いう申し立てがありましたが、みちる検事、どのように考えますか?何か、いい罰はありますか?」
「……えーと、……あ!いいもの、あります!!」
 そういうと、みちるさんは、自分の部屋のほうにトタトタと駈け込んでいく。
 六法全書でもとってくるのだろうか、と思っていると、みちるさんが持ってきたのは、ルーレットのようなものだ。
「これ、罰ゲーム用のルーレットなんです。なんで、これを回してもらって、当たったところの罰をしてもらえば、公平です!裁判長!!!」
 みちるさんの持ってきたルーレットは、しかし、そのオプションが「ご奉仕フ●ラ」とか「シッ●スナイン」とか「外で露出プレイ」とか「ワンワン肉奴隷」とか、そんなやつばっかりだ。
「み、みちるさん、これって……」
「え?これ?うん、パーティーグッズで売ってたやつ。こんなこともあろうかと、用意してたんだー」

 みちるさんの「こんなこともあろうかと」はワイドレンジ過ぎる。本当に。

 僕が口を挟もうとしたところで、弥生さんはマジマジとそのルーレットを見つめて、
「なるほど、これなら罰になりそうですね。それでは、ヒトミ被告。このルーレットが指す罰を受ける、ということでいいですね?」
「は、はい!」
 ヒトミさんは深々とうなずく。すでに証人から被告人扱いなのに、なんだかすごくうれしそうなヒトミさん。それもどうかと。
「よろしい、それではこの罰で……」
「ちょ、ちょっと待ってください、こんなるーれっとは、それはさすがに……」

 「異議あり!!!!」

 またそこで割り込むのはみちるさんだ。

「ケージソショーホーによれば、求刑を求めるのは、検事の専権事項であります!!裁判長。証人に量刑に関して異議を申し立てられる権利はありません!!」
「……検察の異議を認めます。文句ありませんね。祥平証人」
 そこでケージソショーホーが出てくるなら、罰の種類だってケーホーに書かれてるんじゃなかったっけ?外で露出プレイって、江戸時代ならいざ知らず、現代の刑罰としてありなんだっけ??とも思ったけど、僕には反論のよすがもない。
「それでは、ルーレットを回します。被告人は、このルーレットに従うこと」
 裁判長たる弥生さんがルーレットを回す。10回ほど回った後、指し示されたのは、「ご奉仕フ●ラ」だった。

「刑は、ご奉仕フ●ラとなりました。それでは、執行を願います。被告人は、祥平君の前に。祥平君は、ズボンを下ろすように」

 重々しく、どこまでも真面目に告げる弥生裁判長。

「あ、あの、裁判長、一つだけ、ちょっと時間をください!!」

 僕はなんとか間を遮り、ヒトミさんに顔だけ向ける。

「ヒトミさん、いいんですか?僕に、そんなことして、いやじゃないですか?」

 僕がそう尋ねるも、ヒトミさんは、

「悪事をした以上、報いをするのは当然だと思います……」
 
 神の前で懺悔するかのように胸の前で手を組んで、虚空を見据えてそう呟くヒトミさんの目の色は虚ろで、もう、この場の歪んだルールを守ること、弥生裁判長の言葉を執行することのみが正しい、ということ以外、受け入れる余地はないのがありありと見えていた。
 きっと、さっきの僕とミサキさんとのやりとりを見て、興奮してしまったというのもあるだろう……ミサキさんが「隠れまぞ」だとしたら、ヒトミさんは、みちるさんの言葉を借りれば「真性」で、その苛めてオーラの出具合ったら、半端ないかんじだし。僕とミサキさんのやりとりを見ていて、もう我慢できなくなってしまったのだろう。

 もう、なんとでもなれ。僕は目をつむって、身体の力を抜く。
 僕が抵抗する気がなくなったことを気取ったか、ミサキさんは僕の身体を解放する。すると、僕の目の前には、少しうるませたような虚ろな瞳をして、ヒトミさんが近づいてくる。いや、それだけでない、ミサキさんもその後を追うように――まだお仕置きが足らないとかなんとかを口実に――跪いて僕の足元に近づき、やがて、二人は、ゆっくりと僕のズボンに手を伸ばしていく……。


 ………………そのあとの話はあまり細かく書いてもしかたないけど、僕は、僕の妹になり切ってしまったミサキさんと、罰を受けたくてたまらないヒトミさんの二人の攻撃に、それほどこらえることもできずあえなく射精してしまい――ちなみに、ミサキさんへのフェラの指導はヒトミさんがやったんだけど――ヒトミさんには「罰」としてのどろどろの一番搾りの精液を飲ませ、そして妹モードのミサキさんにはご掃除フェラをさせることになった。






 もちろん、これが終わった後とんでもないことになってしまった部屋を片付け、全員の記憶を消去し、単に「楽しいお茶会でした」という記憶にすり替えた。
 こんな記憶が戻ったら本当に大変だから、記憶が全員の中から跡形もなくなったことを何度も何度も検証して。
 ついでに、妙に精液臭くなってしまった部屋に一生懸命全員で消臭剤を吹きまくって。
 そんな作業が終わった後は、すでに外は真っ暗になってしまい、僕はへとへとに疲れ切ってしまっていた。






 こうして、「ミサキさんに罰を与える」という僕の目論見は、なんというか、果たせたような果たせなかったような結果となって、終わりとなった。


















 うん、ご覧のとおり、これは、僕の失敗。慣れないことなんてするもんじゃない、というお話。

 こんな笑い話みたいなお話をちょっと長々と説明してしまったのは、僕が、少しはのどかな感じに「催眠術」をつかえた、これが最後の機会になってしまったから。
 もちろん当時は、そんなことになるとは、全然思っていなかったけど。

 
 


 

 

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