サグラダ ファミリア


 

 
第一話






 いつの時の話から書けばいいんだろうか。
 いくら書いても書き尽くせない気がするし、
 それでいて、別に書くことなど何も無いような気もする。
 

 誰かに事実を知ってほしいわけではない。
 でも、このまま何も書かなければ、おそらく全ての事実は誰も知ることが無いのは確かだ。



 −−深く考えることは止めよう。とにかく思いに任せて、今は書くことにしよう。







 あの日。僕はまだ小さい子供だった。
 家族三人でドライブに行った帰りの夜の高速道路で、僕と両親はダンプだかトラックだかの事故に巻き込まれた。
 その事故で両親は即死。奇跡的に助かったものの身寄りが無くなった僕は、遠い親戚に預けられることになった。

 と、言えばあっという間の話のようだけど、そこに至る過程では、随分えげつないものを見させられた。うちの両親はそれなりの事業を営んでおり、結構資産があったのだが、全く見たことも会ったことも無い親戚やら関係者やらサイケンシャやらがわらわらと出てきては、僕が入院している間に砂糖にたかる蟻のようにぼろぼろと遺産を持っていってしまった。それは昼のドラマのネタのオンパレードともいうべき光景で、今だったら鼻で笑ってしまうようなことでも、何がなんだかわからなくなっていた子供心には結構こたえたものだ。


 そうやって金目のものは洗いざらいもっていかれたものの、金目どころか無駄飯食いの、退院しても行く当てのない僕は、なかなか引き受け手がいなかったが、結局、これまた遠い親戚が引き受けることになった。
 親戚といっても自分とは全く血が繋がっていない。関係もまたいとこのはとこの、といった舌をかみそうな間柄だった。
 その親戚でなければ、施設に行く、という話だった。僕はどちらでもよかったので、否も応もなく頷いた。
 
 どうせ、どちらでも大した変わりは無いのだから、とその時は思っていた。



 
 初めてその家に行く時のことは、今でもよく覚えている。
 冷たい雨の日だったから、吐く息は全て白かった。そのくせ駅の構内を足早に歩く人達はやたら黒や灰色の厚手のコートを着ていて、まるで煤が動き回っているかのような眺めだった。

 僕は電車を降り、当座の着替えを詰め込んだ自分の胴体ほどもあるスポーツバッグを地べたにおいて、駅のコンコースで歩き回るその煤たちを眺めながら、ただぼんやりとしていた。
 今度のたらい回し先である住所と、そこの引受人の名前が書かれた紙切れ一つを渡されたものの、正直そこに積極的に行く気は起こらなかった。
 
 つらつらと時間を潰していると、煤けたコートを着た人々の中から、薄クリーム色のコートを着た人が僕に近づいてくる。


 また道でも聞きに来たのだろうか。さっきから何回かトイレの場所を僕は聞かれていた僕は、ぼうっとその人を見た。




「祥平君?」




 その人は僕の名を呼んだ。



 女の人だ。よくわからないけど、多分、死んだお母さんより若いと思う。ショートカットで、優しそうな目をしている。

「・・・はい」

 僕が答えると、その女の人は膝をかがめた。僕の目の前に女の人の顔が来る。
 その人は、すごくほっとしたようににっこりして、
「ああ、良かった。もうとっくに家に着いている時間なのにぜんぜん来ないから、迷子になったんだと思って。無事でよかったあ」
 
 僕が何も言わず白い息を吐いているのを見て、その女の人は自分のマフラーを外して、僕の首にかけた。ほのかな花の香り。シャンプーの香りだろうか?

「こんなところにずっと居て、寒かったでしょう?早く家に帰りましょう?」
「・・・あの・・・」

 僕が躊躇しているのを見て、女の人は始めてまだ自分が名乗っていないことに気づいたのだろう。
「あ、ごめんなさい!私、高坂唯。あなたの、いとこのはとこの・・・ええっとなんだっけ・・・。とにかく、今日から一緒に暮らすことになるから、よろしくね」

「・・・よろしくお願いします」

 ここ数ヶ月くらいで、頭を下げることにだけは慣れてたから、ほとんど反射的に僕は頭を下げた。

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」
 その女の人も、僕よりおでこが地面に近づくくらい、深くお辞儀をした。











 パンパンパーン!!

 そのお姉さん−−唯さんの家に到着してドアを開けた瞬間、クラッカーの音が玄関に鳴り響く。

「いらっしゃーい!・・・わ、かわいい、って男の子にかわいいは失礼よねー。ごめんね、今晩はー、祥平君。私、優華。で、こっちの・・・こら、隠れてないで出てきて挨拶しなさいよー、瑠美」
 優華、と名乗ったポニーテールのお姉さんの後ろで、小さな女の子がもじもじしている。ふわふわした髪の毛が柔らかく揺れている。
「・・・こんばんは」
 チェックのワンピースを着た女の子が、頭をちょこっと下げた。



 その人の家は、郊外にある一戸建てだった。住んでいるのはさっき迎えに来てくれた高坂唯さんと、その子供の瑠美ちゃん、そして唯さんの妹の優華さんだった。
 唯さんは24歳。大学を出た後翻訳関係の仕事で生計を立てているということだった(とはいっても「翻訳の仕事」だなんてその頃の僕にはよく分からなかったけど)。
 優華さんは唯さんの少し年の離れた妹で−−とはいっても僕から見たらずっとお姉さんで−−、高等部に通っている。瑠美ちゃんは僕よりちっちゃい子供で、この間学校に入ったばかりだという。


 最初は打ち解けることもできず−−といっても僕が自分で勝手に遠慮していて−−ぎくしゃくしていたけれども、実の子供でもない僕のことを唯さんは分け隔てなく扱ってくれたし、優華さんは元気なお姉さんという感じで、わからないことは僕に何でも教えてくれた。瑠美ちゃんも最初の頃はおっかなびっくりだったけれど、すぐに僕になついてきてくれた。
 

 唯さんの旦那さん・・・つまり瑠美ちゃんのお父さんも、つい最近交通事故で亡くなったのだという。それに優華さんと唯さんの両親も早くに亡くなっている。肉親を少しずつ失っていた4人が一つの屋根で暮らすことになったわけだ。
「不思議でしょう?この家はね、みんな誰かが居なくなっちゃってるの。・・・だから、みんなお互いを大事に出来るのかもしれないね」
 唯さんはそんなことを言っていた。







 ある日の夜、ご飯を食べた後。瑠美ちゃんがお人形を抱きしめて、僕にままごとをせがみに来た。
「おにいちゃん、あそぼうよー」
「えっと・・・」
 遊んであげてもよかったけど、今日はまだ宿題が残っている。ぼくが少し言いよどんでいると、
「こら、瑠美。おにいちゃんは学校の宿題があるんだから駄目よ」
「そうよー、ほら、子供はさっさと寝るの〜」

 唯さんと優華さんが二人で瑠美ちゃんに集中砲火を浴びせる。

「えー、いつも瑠美ばっかり仲間はずれで。ずるいよー。お兄ちゃんだってまだ子供じゃないー」
「お兄ちゃんはお勉強が忙しいの。いいからお風呂に入って寝なさい!」
「うー、つまんないのー。お兄ちゃんのケチ!お母さんもお姉ちゃんも大嫌い!!」
 お気に入りの人形を抱きしめてままごとをせがんでいた瑠美ちゃんだったけど、唯さんに怒られてプイとむくれて、そのまま寝室に消えていった。
「あらあら、お姫様はおかんむりだわ。さーて、私も勉強してくる。最近しんどいのよねえ〜」
 優華さんも立ち上がると、2階にある自分の部屋に消えていった。


 結局、茶の間には僕と唯さんだけが残された。
「ごめんなさいね。祥平君。瑠美の我侭にいつもつき合わせちゃってて。昨日も一日中瑠美の相手で、せっかくの日曜が潰れちゃったもんねえ」
 唯さんは申し訳なさそうに僕に言う。
「いいえ、全然。僕も瑠美ちゃんと遊ぶの、好きですから」

 僕と唯さんはそんな何でもない話をしながら、しばらくお茶を飲んでたけど、唯さんは唐突に、
「祥平君。私たちに遠慮してる?」
「いえ、そんなことありません」
 僕の返事に、唯さんはクスクスっと笑った。こういう時の唯さんはすごく子供っぽく笑う。
「ふふ、そういう言葉遣いが、もう遠慮しているっていうんだと思うんだけど・・・。仕方ないかなあ」
 最初は笑っていた唯さんだったが、最後の言葉は寂しそうにつぶやいた。

「・・・祥平君がうちに来る、ってことになって、私も優華も瑠美も、すごく嬉しかったんだよ」
 僕が黙っていると、それを疑念の意思表示だととったのだろう。唯さんは真剣な眼差しになって、
「本当だよ。瑠美なんかね、『お兄ちゃんが出来る』っていろんな人に自慢して回ってたんだから。お兄ちゃんが来たら一緒に遊んだり、勉強教えてもらったりできる、ってね・・・」
「・・・・・・」
「瑠美のお父さん・・・私の旦那さんがね、交通事故で死んでから、瑠美はぜんぜん笑わなくなっちゃって。私もすごく心配してたの。でも、祥平君が来てから、あの子、すごく明るくなったんだ。優華もね、弟ができるんだから、これからあれこれ面倒みなきゃってはりきってたし・・・これも、祥平君のおかげだよ?」
「・・・・・・・ありがとうございます」

 僕の返事に、唯さんは吹き出して、やがて大声で笑った。
「ぷ・・・あはははははは。祥平君、あなたって本当に真面目だよね・・・。すごくしっかりしてるし、その年で。びっくりしちゃう。・・・でもね、正直、もう少し甘えてくれてもいいかな、とも思うんだ。あんまりしっかりしすぎてて、私もちょっぴり寂しいし」

「・・・よくわからないけど、ありがとうございます」

 多分、その答えは唯さんが求めている答えではなかったと思うけど、僕にはそれしか言葉が思いつかなかった。
 
 そんな僕のことを見ていた唯さんは、突然僕を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。
「ゆ、ゆいさん?」
「・・・・・・いいよ、ゆっくりで。ゆっくり親子になろうね、私たち。ね?」
 唯さんの言葉に、僕はゆっくりうなずいた。

 温かい唯さんの胸の中で僕は目を閉じた。
 なぜだか分からないけど、胸の中が締め付けられるような気がして・・・自然に涙が溢れてきた。
「・・・祥平君?」
 ちょっと驚いたような声を唯さんは上げた。
「ご、ごめんなさい・・・」
 僕はぐしゅっと鼻をすすったけど、目からは次から次へと涙が溢れてきて、止まらない。
「僕、泣きたくなんか・・・ぐす・・・無いのに・・・えぅ・・・」
 唯さんは何も言わず、更に僕のことをぎゅっと抱きしめた。唯さんの柔らかい胸に押さえつけられて、僕は鼻水と涙で唯さんの服をべしょべしょに濡らしてしまった。

 何にもなくなってしまった僕に、一度にお母さんと、お姉さんと妹ができた。
 こんなに幸せなことはなくて、・・・それが本当に怖かった。

 もうお父さんとお母さんが死んだときに、こんなに泣くことは無いと思ってたのに、僕はその夜、唯さんの胸の中でわんわん泣き続けた。













 ある夜。

 その日、唯さんは打ち合わせで、優華さんは予備校で帰りが遅くなるということで、僕は瑠美ちゃんと留守番をしていた。

 作りおきのカレーを二人で食べながら、僕と瑠美ちゃんはテレビを見ていた。
 テレビでは「催眠術ショー」が放送されていて、怪しげな音楽が流れる中、催眠術師の男がいろんな人に催眠をかけては、犬の真似をさせたり、記憶喪失にさせたり、ジュースをお酒に変える暗示をいれて酔っぱらわせたり・・・。といろいろなパフォーマンスを繰り広げていた。

「すごいねー、さいみんじゅつ」
 瑠美ちゃんはびっくりしたように僕に話しかけてきた。
「うん、凄いね・・・」

 特に綺麗な女の人が、男の人の言うままにとろんとした目つきになって言いなりになってしまう姿を見ると、なんだかへんな気持ちになって妙な気分になってくる。

 僕は小さい頃からずっとそうで、アニメや漫画を見ていても、催眠術のシーンがあるとすごく興奮するタチだった。そのせいもあって催眠術のことを少し勉強していたので、仕組みとか掛け方とか、本で知っている部分は多かったけど、こうやってテレビで目の当たりにすると、やっぱり驚きだった。

 コマーシャルの時間に入ると、瑠美ちゃんは思いもよらないことを僕に言ってきた。
「ねー、お兄ちゃんも、さいみんじゅつ、掛けられるの?」
 瑠美ちゃんは僕にくりくりとした目を向けてくる。


『掛けられないよ』
 そういっておけば、それで終わりだったのに。


「掛けられるよ」
 僕は思わずそう言ってしまった。

「へー掛けられるんだー、すごいすごい。ねえ教えてよ、催眠術!」
 瑠美ちゃんがあまりに期待で目をきらきらさせているので、僕はつい、いいところを見せたくなって、今更『嘘でした』とは言えなかった。
「あ、えーと、うーん、どうしようかなあ。子供にはなかなか難しいと思うんだけどなあ・・・」
 ぶーと瑠美ちゃんは膨れながら、
「瑠美、子供じゃないよ!催眠術くらい簡単だよ!」
「・・・どうだろうねえ。自転車に乗るよりも、逆上がりよりも難しいよ?催眠術は」
「え、そうなの・・・」

 逆上がりが何よりも苦手な瑠美ちゃんはちょっとだけ怖気ついている。

 僕も前から催眠術には興味があった。ただやっぱり「催眠術かけさせてください」だなんて普通の人には頼めっこない。それに子供の僕が大人にかけるなんて−−ラポールの形成とかなんとかが難しそうで−−そう簡単にできるはずもない、と思っていた。
 ・・・でも瑠美ちゃんなら・・・。僕のことを信頼してくれるだろうし、いざ失敗しても口止めをすれば大丈夫だ。

 唯さんも優華さんもあと数時間は帰ってこない。夜の家。瑠美ちゃんと二人きり。
 このチャンスを逃したら、しばらく機会は無いような気がした。

「でも大丈夫だよ、きちんと練習すれば、ね」
「え、本当?」
 声を弾ませる瑠美ちゃんに、
「じゃあ、教えてあげるね、催眠術」
 僕は瑠美ちゃんを少しだけちらっと見ながら、そう言った。
 真正面から瑠美ちゃんを見たら、自分の真意を見透かされそうだったから。



『催眠術を覚えるには催眠術にかからないと駄目なんだよ。掛けられる人の気持ちが分からないとだめだからね』
 僕はそういって、瑠美ちゃんを催眠術に掛けた。
 勿論、生まれて初めてで、凄く緊張した。だけど、瑠美ちゃんはすごく一生懸命に僕の催眠術に掛かろうとしてくれたので、あっという間に瑠美ちゃんは深い催眠状態にまで落ちてくれた。

 その日は単純な動作の暗示が中心だったけど、毎日遊びで掛けているうちに、あっという間に何でもさせられるようになった。
 



 今日も・・・僕は瑠美ちゃんを自分の部屋に引き連れて、催眠術を掛ける。

「瑠美ちゃん。僕の目を見て・・・」
 僕が瑠美ちゃんの目を見ると、瑠美ちゃんの視点が僕の目に吸い込まれる。
 もうその段階で瑠美ちゃんの目はとろんと眠たそうになって、だけど僕の言葉に従って一生懸命僕の目を見ようとしている。
「僕が指で瑠美ちゃんのおでこをつっつくと、瑠美ちゃんは僕の操り人形になってしまいます。僕の言葉には何でも従ってしまう、操り人形です。いいですね?」
 瑠美ちゃんはこくんと頷いた。
「ではいくよ・・・いち・・・にぃの・・・さん」
 瑠美ちゃんのおでこをつつくと、彼女の瞳からは光が喪われ、僕のことをただ虚ろに見つめている。
 今日の瑠美ちゃんはピンク色のトレーナーに白いフレアースカート、という出で立ちだ。スカートは膝までしかなくて、そこからは白いふくらはぎがすっと伸びている。
「瑠美ちゃん。スカートをまくってごらん・・・」
 僕が言うと瑠美ちゃんは迷うことなくスカートの裾を持ち上げる。白い太腿の上に白くそっけないデザインの下着が僕の目の前に晒される。



 もちろん、一緒に暮らしていたら瑠美ちゃんの下着姿を見ることも、裸を見ることもたまにある。でもそれはちいちゃな女の子だから当たり前のことだし、それを見ても別に僕は興奮しない。
 
 ・・・だけど、こうやって虚ろな表情で僕のいいなりになって下着を見せている瑠美ちゃんの姿は、僕の身体にもやもやとした気持ちを引き起こしていた。



 僕は彼女の前に跪いて、しばらくその太腿をさすったり、下着の上から瑠美ちゃんの大事な部分を触ったりする。
 別にそれが何を意味するのか、僕にもよくわかっていない。ただ、僕はそうすると妙に興奮するし、瑠美ちゃんも少しだけくすぐったそうに「ん・・・」と鼻に掛かった声を上げたりするけど、「操り人形」だから、それ以上の反応はない。

 僕は立ち上がって、瑠美ちゃんの顔を見る。心なしか、瑠美ちゃんの顔は少し赤らんでいるようだ。

 僕は瑠美ちゃんの目の前に人差指を突き出す。
「瑠美ちゃん。瑠美ちゃんは僕の指が舐めたくなるよ、僕の指を舐めるととってもとっても甘いからね。ほら」
 瑠美ちゃんはぼうっと僕の指を見ていたけど、やがて、ふらふらと僕の方に歩み寄ってきてその指をつかみ、紅い小さな舌を伸ばして、指先を舐め始める。
 はじめはレロレロ・・・と周りを舐めまわしていたが、やがてその小さな口で指全体を含むようにしてちゅぷ・・・じゅぷ・・・と音を立てはじめる。
「どんな味がする?瑠美ちゃん」
 瑠美ちゃんは指を口から引き出す。瑠美ちゃんの唾液が瑠美ちゃんの唇と僕の指をべっとりと濡らしている。
「・・・あまい・・・」
 虚ろな表情の瑠美ちゃんは人形のように返事をする。

「そしたら・・・今度は足の指を舐めてみようか。これはさっきより凄く甘いからね・・・」
 僕が座って足を投げ出すと、瑠美ちゃんは僕の靴下を脱がせて、四つんばいの体勢で足の親指から順番に丁寧に舐め始める。
 そんな一生懸命な彼女の姿をみているうちに、ぼくのお○んちんは、すでにカチカチになってしまっている。
 僕は、知識として女の人に男の「あそこ」を舐めさせるやりかたがある、ということはインターネットの動画や何やらで知っていた。けど、瑠美ちゃんにここを舐めさせることにはさすがにためらいがあった。

 しかたないので僕は別の方法をとる。
「瑠美ちゃん、次はね、僕の唇が甘くなるよ」
 瑠美ちゃんに囁くと、瑠美ちゃんは僕の上にのしかかるようにして僕の顔に自分の顔を寄せてくる。その小さな唇から違う生き物のように紅い舌が這い出して来て、僕の唇をちろ・・・ちろ・・・と舐めてくる。僕も瑠美ちゃんの身体を両手で撫で回し、お尻をつかんだり髪の毛をさすったりしてみる。

 瑠美ちゃんの身体はまだまだ子供の身体だ。だけど、瑠美ちゃんにいけないことをしてその身体を触っている・・・。そのこと自体が僕を猛烈に興奮させていた。瑠美ちゃんも僕の頭に手を回して、かき抱くようにして唇を寄せ「んふ・・・れろ・・・ちゅ・・・」と音を立てて僕の唇を分け入って、舌を口の中に入れてくる。
 僕は頭が真っ白になって、ただその舌先のぬるぬるとした感触と瑠美ちゃんの小さな身体の重みに酔っ払ったようになっていた。

「・・・ぷはー」
 瑠美ちゃんが一度息をつくために唇を離した隙をついて、僕は瑠美ちゃんの目を塞ぐ。
「・・・はい、瑠美ちゃん。舐め舐めの時間は終わりです。瑠美ちゃんの身体から力が抜けて、眠くなります。もう何も考えられません。頭の中は真っ白です・・・」
 僕はいつものように瑠美ちゃんに何もかも忘れる暗示をかけて、瑠美ちゃんを解放した。



 そういうことをした後、僕はいつも部屋に閉じこもり、猛烈な勢いでオナニーをして、自分のもやもやを吐き出す。
 さすがにそういったものを瑠美ちゃんにぶつけるわけにはいかないと思ってたし、かといって放っておいたら自分がどうなるかわからなかったから。





 もちろん、こんなことをしょっちゅうやっているわけではない。ただ週に1回くらい、他の家族が居ない隙をついてやっていた。瑠美ちゃんも暗示がよく効いているようで、僕にされていることを誰にも告げ口したりしなかったし、相変わらずお兄ちゃんお兄ちゃんと慕ってくれている。
 僕も少しいけないことをしているとは思っていたけど、瑠美ちゃんがそこまで嫌がることはしていない(暗示にかかっていたとしても、瑠美ちゃんは嫌な事を命令されると、少し嫌な顔をする)とは思っていた。













 これくらいで終わっていれば、「お医者さんごっこ」のような「小さい頃のいたずら」ですんでいたのかもしれない。

 だけど、ある日。








「ああ、疲れた疲れた。学生をやってるのも楽じゃないわよねー」
「お帰りなさい」
 ある日、唯さんと瑠美ちゃんが田舎のおばあちゃんの所に出かけていくということで、僕が一人で家で留守番をしていると、優華さんが珍しく早く帰ってきた。
「いやーさぶいさぶい。もう寒いのは嫌ねー。冬は好きなんだけど・・・」
 優華さんは玄関口でコートを脱いで、とっとと2階の自分の部屋に上がっていった。



 僕は、紅茶とお菓子とみかんをコタツの上に並べて、優華さんを待ち受ける。
「きょう・の・お・や・つ・は・な・ん・だ・ろ・な〜〜〜っと・・・」
 制服から普段着に着替えた優華さんが顔だけ出してリビングルームを覗き込む。
「ヨーグルトとプリン、どっちがいいですか?」
「プリン!」
 優華さんが飛び跳ねんばかりの勢いでコタツに転がり込んでくる。
 

 優華さんはプリンを、僕はヨーグルトを食べながら、紅茶を飲む。こうして優華さんと二人っきりでおやつを食べるのも久しぶりだ。
 優華さんは最近の僕の学校での様子をあれこれ聞いてくる。最初は勉強の話やらなにやらだったのが、いつの間にか好きな人がいるかどうかとか、そういった話に移行していっていった。

「へぇー、そうかなあ。私、祥平君、結構もてると思うんだけどなあ。見た目も悪くないし、スポーツも勉強もそこそこできるし。何よりこんなに美味しい紅茶いれてくれるんだもん。弟としてはもってこいよねえ・・・」
「いや、弟としてもってこいでも、もてるもてないとは話が・・・」
「いや、そういうのって重要よ?男はやたら女の子が世話をしてくれるのが当たり前って勘違いしているのが多いから、こういうところで気が回るってのはポイント高いよ?」

 プリンの最後の一欠片を名残惜しそうに眺めてぱくついた後、優華さんは意地悪そうに僕を見つめてくる。
「祥平君、好きな人いないの?」
「い、いませんよ!」
「あ、どもったわね。あやしーなー。ひょっとして唯姉?それとも将来性を買って瑠美とか?」
「あ、いや、その・・・」

 猛烈な勢いで攻め込んでくる優華さんに僕は思わずたじたじとなってしまう。

 優華さんは「ふぅん」と言わんばかりの細い目で僕を意地悪そうに見たあと、ふと視線を外した。ちょっとさびしそうな表情だ。
「そうかなあ、私が言うのもなんだけど、唯姉はかなりお買い得だと思うんだけどなあ・・・性格もいいし美人だし、スタイルだって・・・そりゃ後家さんでコブ付きだけど・・・。まあ私たちみたいなのがいるから、なかなか男の人に縁がないのよねえ。瑠美も将来は唯姉みたいにすごく綺麗になると思うんだけどな・・・」

 僕はそれには同意だった。唯さんはすごく綺麗で素敵な人だし、瑠美ちゃんも多分可愛くて綺麗な女の子になるだろう。

 僕はちらりと優華さんを見て、
「優華さんも・・・とても綺麗だと思いますけど・・・」
「うーわー、いつのまにそんなテク覚えたの?祥平君。女殺しよねー」
「え。え。そんなつもりじゃ・・・」

 優華さんはそんなふうに僕のことをにこにこと僕のことをいじめていたが、やがてその顔から、すっと笑みが消えて、いつになく真剣な表情になる。
「・・・祥平君」
「はい?」

 少しためらっていたようだったけど、優華さんは意を決したように口を開く。
「祥平君。あんまりああいうの、良くないと思うんだけど・・・」
「ああいうのって?」
「えーと、あー・・・その・・・、コホン」
 いつもハキハキと言いたいことは言ってくる優華さんがどうも言いにくそうにしていたが、意を決したかのように、
「・・・私、見ちゃったの。祥平君と、瑠美が、その・・・キスして・・・、キスだけならともかく、その、スカートめくったり、裸にして足をしゃぶらせたり・・・」

 ・・・見られてた。
 僕は頭が真っ白になって、そして体中の血が沸騰したようになって、思わず下を向いた。その僕の様子を見てか、優華さんも、気まずそうに黙っている。

「祥平君。顔を上げて」
 優華さんは少し強い声音で言った。
 僕は恐る恐る顔を上げる。優華さんは少し堅い表情をしていたけど、その表情がふっと柔らかくなって、
「・・・・・・・・・祥平君。瑠美のこと、好き?」
「・・・・・・よく、わかりません」
「・・・・・・じゃあ、大事?」
 僕は、こく、とうなずいた。
「そっか。大事か」

 んんー、と猫のように伸びをすると、優華さんは立ち上がって僕のほうに近づいて、僕の隣にしゃがむ。優華さんの整った綺麗な顔が直ぐ目の前にくる。

「・・・あのね、キスって、女の子にとってすごく大事なものなんだよ。いや、男の人にとってもそうなのかな・・・、とにかく、本当に好きな人、恋人にしてあげるものだし、・・・本当に好きな人にだったら、自分の裸も見せられるのね、女の子って」
「・・・・・・」
「今は・・・そうね、瑠美も子供で、まだあんまりキスの意味や男の人の前で裸になる意味、よくわかってないし、瑠美、祥平君のこと大好きだから、祥平君に言われたら、ほいほいーって何でもしちゃうんだけど・・・。瑠美と祥平君は・・・立場上、兄妹なわけだし、・・・そのぅ・・・」
 優華さんはそこで少し口ごもると、
「・・・・・・祥平君ももう子供から大人になり掛けの段階だから、あまり・・・自分の妹にキスしたり、裸にさせて舐めさせたりするの・・・よくないと思うんだ」
 優華さんは、自分で言ってて恥ずかしくなったのか、最後の言葉を言う頃には少し顔が赤くなっていた。

「・・・・・・ごめんなさい」
 僕は謝った。
「あーごめん!私に謝ってもらう必要は無いんだ。だから、もうそういうことはしないって、約束さえしてくれればいいんだよ。・・・できるかな?祥平君」



 優華さんは、一つだけ気づいていない。瑠美ちゃんは僕が好きだから、僕の言うことを聞いてくれていたわけじゃない。






         僕の催眠術にかかっていたから、言いなりになっていただけなんだ。





 だけど、僕も、優華さんが何を言いたいのかはわかったから、とりあえず頷いた。

「・・・はい」
 優華さんは僕の返事を聞いて、ぱぁ、っと明るい表情になって、にっこりうなずいた。
「そっかぁ・・・よかった」
 優華さんはポニーテールを揺らしながら、にっこり微笑んで、
「あのね、祥平君には瑠美とずっとずっと仲良くしてほしいんだ。瑠美は祥平君のこと、すごく好きだよ。でも、その『好き』は、恋人への『好き』じゃないの。お兄ちゃんへの『好き』なの。祥平君はお兄ちゃんだし、頭もいいから、・・・わかるよね?」


 僕は、その優華さんの明るい表情に、ちくり、と罪悪感を抱いた。
 僕は、ずるをしている。
 瑠美ちゃんの『好き』な気持ちを使って、ひどいことをしている。
 催眠で、瑠美ちゃんの心を操って、いやらしいことをさせている。
 
 
 
 僕は、優華さんに、嘘をついていることが嫌だった。
 だから、


「優華さん・・・そのぅ・・・」

 僕は、優華さんに、瑠美ちゃんに催眠術をかけて、エッチなことをさせていたことを白状した。


 でも、優華さんは、僕の必死の告白を聞いてきょとんとした後、


「ぷ・・・あはははははははは・・・・・・」
 と、突然笑い出した。


「何それ、催眠術って、あの5円玉をぶらぶらさせて『あなたはどんどんねむくなーる』っていうやつでしょ?あんなのインチキに決まってるじゃない。まあ、お医者さんやセラピストならともかく、祥平君くらいの子供じゃ、まだ無理でしょう」


 僕は、カチンときた。
 優華さんにとっては・・・僕は所詮子供なんだ。
 そう思うと、なんだか悔しくなってきた。


「・・・じゃあ、優華さんに、試していいですか?」
「何を?」
 まだ優華さんはおなかを抱えている。よほど可笑しかったらしい。
「・・・・・・催眠術です」
 僕は、低い声で言った。
 でも、優華さんは立ち上がると、手をひらひらさせながら、
「いいわよー。でも私にはかけられないと思うわよ。まあ、そのうちにね。今日はちょっと部活で疲れてるから」
と、肩を揉みながら言った。

 優華さんが僕の話を真面目に取り合ってないのは明らかだった。
 ただ、もうこの話を続けるのは嫌だったので、僕は、心の奥底のもやもやを抑えながら、話題を変えようと、優華さんに問いかける。


「・・・肩、こってるんですか?」
「うん、大会近いから、毎日毎日練習でね・・・」

 優華さんはチアリーディング部に入っている。単に運動部の応援をするだけではなく、マーチングやバトンの大会にも出る本格的なやつだ。最近は大会が近いらしく、毎日暗くなるまで練習をしている。
 一度ビデオで見せてもらったことがあるのだけれど、チアリーダー姿の優華さんは、かっこよかったし、綺麗だったし、・・・何より、同級生の女の子とかと比べて、段違いで大人の体つきをしていて・・・。僕は思わずその夜、優華さんを「使って」しまった。おかげで次の日は恥ずかしくて優華さんをまともに見ることができなかったけど・・・。


 僕は改めて目の前にいる優華さんを見上げた。白いセーターに包まれた胸は、多分その年頃の女の子と比べても大きい方だと思う。でも、日ごろのチアリーディングの練習の賜物なのか、引き締まるべきところは引き締まり、それでいながら出ているところは出ている様子が、冬の厚手の服装の上からも感じられる。膝まであるチェックのプリーツスカートからは、白いふくらはぎが伸びて、その先に黒いソックス。セーターはVネックだったから、首筋から胸元にかけて、すべすべした乳白色の肌が無防備に晒されている。
 
 僕はおもむろに優華さんに提案した。
「・・・優華さん、なんなら、ちょっとマッサージしましょうか?」
「あ、そう?助かるー。じゃあちょっとやってもらおうかなあ」
 優華さんはニコニコしながら僕に手を合わせてきた。
「・・・ええ、喜んで」
 僕は、湧き上がるもやもやとした気持ちを抑えつけながら、優華さんに笑って見せた。












 僕と優華さんはコタツのあるリビングルームから優華さんの部屋へと移動した。僕もあんまり入ったことのない優華さんの部屋は、きちんと整理整頓されていて、優華さんの匂いが少しだけ漂っている気がする。ぬいぐるみが転がっていたりもするけど、瑠美ちゃんとはちがってあくまでインテリアだろう。

「うー、寒い寒い。いくら北国暮らしが長いったって、この寒さには慣れないのよねー」
 オイルヒーターのスイッチを入れたものの、部屋が温まるまでは少し時間がかかりそうだ。


 僕は時々優華さんや唯さんに肩を揉んだりマッサージをしてあげたりして、結構評判がよかったりもする。

「じゃあ、ベッドに座ってもらえますか?」
「ほいほい、頼んだわよー、プロ♪」


 優華さんは自分のベッドにぽふっと座った。僕は優華さんのベッドに乗っかって優華さんの後ろに回りこみ、肩を揉み始める。
「うう、いいねえ〜、やっぱり祥平君、才能あるわよ・・・」
 僕が肩の筋をほぐすにつれ、優華さんは気持ちのよさそうに声を漏らす。
「あ・・・そこそこ・・・」
 最初は首筋の付け根に近い部分から、次第に肩の端まで丁寧に繰り返す。ちょっといかり肩気味の優華さんの肩は、見かけよりずっと疲れがたまっていた。
「・・・じゃあ次は首いきますよ・・・」
 更に首の裏を親指でほぐしていく。
「んん・・・」
 優華さんのポニーテールが揺れる。悩ましげな声は、もちろん意識してのものではなかったけれど、そのうなじの白さと髪の毛から漂うリンスの香りと相まって、僕の心臓を打ち鳴らすには十分だった。

 僕は優華さんに気取られないようにつばを飲み込んだ後、

「・・・じゃあ今日は少しメンタルマッサージもしてみましょうか?」
「メンタル・・・マッサージ?」
 優華さんがとろんとした目で僕を見上げてくる。
「うん、こないだテレビでやってたんだ。相手の言葉にあわせて意識を集中させたりリラックスしたり、体を緊張させたりほぐしたりを繰り返して、気分をすっきりさせるんだって。プロのスポーツ選手とかがメンタルトレーニングやイメージトレーニングってやるでしょ、あんなかんじです」
「へー、それを祥平君、できるの?」
「うん、簡単なやつだったら」
「祥平君だったらできるかもねー、じゃあやってみてよ」
「うん、でもこれはマッサージされる人にも協力してもらわなくちゃういけないんだけど・・・」
「いいわよ〜、かわいい祥平君の頼みならなんでもやっちゃうわよ〜」
 優華さんはまぶしい笑顔を僕に向けた。

 ベッドの縁に座っている優華さんの前に椅子を持ってきて、僕と優華さんは互いに見つめあう形になる。
「じゃあ優華さん、少し手をこうやって握って、うーーんと伸ばしてみて・・・」
 僕は優華さんに手を組ませると、肘を伸ばさせる。
「そう、伸ばして伸ばして・・・そしてその組んだ手の右手の親指をちょうど僕の目の辺りにもってきて・・・で、その奥にある僕の目に視線を集中させて・・・」
 その指示に従って、優華さんの視線が一点で固まる。眉間に少ししわが寄る。
「僕が手を叩いたら力を抜いてだらんとしてくださいね・・・はい!」

 パチン。手を叩いた瞬間、優華さんの両手がだらりと垂れ下がる。

「ダメダメ、優華さん、反応が遅いです」
「え、そうかな」
「そう。音がなった瞬間に力を完全に抜く。そのためにはそれまでずっと緊張して、自分の指に集中してなくちゃだめなんです」
「難しいのねえ・・・」

 優華さんは首をぐるぐると回しながら呟く。

「じゃーもういちど、手を伸ばして・・・ぐっと伸ばして視線を集中させて・・・・・・・・・はい!」
 優華さんの手がだらりと垂れ下がる。
「そう、もう何回かやってみましょう。そうするとどんどん身体の力がすぅっと抜けて心の底からリラックスできるからね。さあ、ぐぅっと力を入れて力を入れて・・・・・・はい!・・・もう一度力を入れて・・・そう、どんどん集中してくる・・・集中していって・・・力が抜けると同時に頭も真っ白になる・・・はい!」

 僕が繰り返し繰り返し指示するたびに、優華さんの身体は硬直と弛緩を繰り返す。

「どう、リラックスした時、普段より気持ちいいでしょ?」
 僕が語りかけると、優華さんは少しぼんやりしたような表情で僕を眺める。何度か緊張と弛緩を繰り返したせいか、頭の中が少し混乱しているらしい。
「うん・・・何かいつもと違うみたい・・・」
「そう、それでいいんだよ。さあ。もっと続けるよ・・・」
「・・・うん・・・」
 最初はぎこちなかった優華さんの動きも、何度も繰り返すごとに集中と弛緩の切り替えがすぐにできるようになってくる。最初はあれこれ文句を言っていた優華さんだったが、十数回繰り返す頃には、僕が何も言わなくても彼女の身体は直ぐに腕を伸ばす準備をし始める。僕を見つめる目も据わって時々ぴくぴくとまつげが震えている。


 僕はそんな優華さんの様子を慎重に見ていた。
 ・・・優華さんはすっかり僕の言葉を信頼して、僕の言うとおり身体を動かしている。

 よし、失敗したらそのときはそのときだ。

 僕は思い切って更なるステップを実行することにした。
 
 僕は声音を少し低くして囁く。
「・・・さあ、腕が伸びる・・・ぐんぐん伸びる・・・もっと・・・もっと伸びてカチコチになる・・・その指をじっと見て・・・見れば見るほど腕が動かなくなる・・・もう優華さんは僕の目しか見えない・・・頭のなかも腕を伸ばすことで一杯・・・ただ僕の声だけが聞こえてくる・・・・・」
「・・・し・・・しょうへい・・・くん・・・」

 ちょっと苦しい、と言いかけた優華さんを制するように、僕はぱちんと手を叩く。その瞬間、優華さんの身体から、かくん、と力が抜ける・・・だけど、今回はさっきまでとは違う。僕は矢継ぎ早に言葉を続ける。
「はい、力が抜ける!すぅーっと力が抜ける。もう肘も肩も膝も背中の首も、力が入らない・・・目を開くこともできない・・・そのまま身体が後ろに倒れる・・・柔らかいベッドの上に身体が沈む・・・・・・」

 そう言いながら、僕は優華さんの両肩をもって優華さんの体を左右に揺らす。僕の手に支えられ、優華さんはゆっくりと仰向けにベッドに倒れこむ。腕はだらりと垂れ下がり、まぶたもゆっくりと閉じていく。僕に抗議しかかった口は、小さく開いたままだ。
「そう。そのまま・・・そのまま・・・もう頭の中は真っ白だよ・・・何も考えることができない。何も考えなくていい。だけどそれがすごくきもちいい・・・最高にリラックスした気分です・・・そう・・・真っ白な頭に・・・僕の言葉だけが頭のなかに染み込んでいくよ・・・・・・」


 優華さんの身体はすっかりベッドに沈み込んでいる。腕も肩も首筋からも、全ての力が抜けている。まぶたもすっかり閉じて、ただ、僕の言葉に気持ちよさそうに聞き入っている。


「・・・・・・さあ、僕が十数えると、優華さんはもっと深い眠りに入っていきます。何も考えることもできず、何も感じることはありません・・・まるで深い海の底にいるような感じです・・・だけどとても気持ちいい・・・永遠に眠っていたい・・・そういった気分になります・・・いち・・・に・・・さん・・・し・・・ご・・・ろく・・・しち・・・はち・・・きゅう・・・・・・・・・じゅう・・・・・・」

 数え終えた僕は、柔らかい布団に沈み込んだ優華さんの身体をゆっくりと撫でていく。さっきまでカチコチだった肘は、もう壊れた人形のようにぶらぶらになっている。肩をゆすっても、首がくらくらと動くだけで全く反応しない。僕は優華さんの胸に耳を当てる。柔らかい胸の感触、だけれどその奥にとく、とく・・・と鼓動が聞こえる。その鼓動と、すぅすぅと立てている小さな寝息だけが、彼女が今行える活動の全てだ。



 僕は優華さんの足を見た。ふくらはぎから下はベッドから投げ出す形になっている。さっき倒れこんだときの勢いで、チェックのスカートが少しだけまくれ上がり、白い太腿が剥き出しになっている。その上にはベージュ色の下着が・・・。


 僕は慌ててスカートを直して、そのまま何回か脱力させたり、緊張させたりを繰り返し、優華さんの催眠状態を深めていく。

 ある程度深まったところを見計らって、僕は優華さんの耳元で囁く。

「じゃあ優華さん、僕が三つ数えると、優華さんはとてもいい気持ちで目が覚めます。でも優華さんの身体は、僕に見つめられながらが命令されると、そのとおりに動いてしまいます。いいですね・・・では数えますよ・・・いち・・・にぃの・・・さん!」

 ぱちん!

 僕が手を叩くと優華さんはぱっちり目を覚ます。
「あ、あれ?」
「優華さん、どうですか、気分は?」
 優華さんは身体を起こしながら、首をかしげる。
「うーん、いや、すごく気分はいいけど・・・いつの間に寝ちゃったんだろう」
「さぁ、マッサージされると気持ちよくて寝ちゃうことって多いですからねー」

 僕は再び椅子に戻ると優華さんに、
「優華さん、優華さんは催眠術にかからない、って言ってましたよね」
「うん、言ったよ。だって、あんなのインチキだもの」
 優華さんは笑いながら言う。

 僕はいたずらっぽく、
「・・・優華さん。もし優華さんが既に僕の催眠術にかかってるとしたら、どうします?」
「どうします?って・・・だってそんなわけないでしょ?」
 優華さんの反論に、僕は、少し低い声で、
「優華さん、僕の目を見てください」
「え?」
 優華さんはとまどった声をあげたが、しかし、既に僕の目から視線を外すことができない。
「そう。もっと集中する。もっと見る。もっと見つめる・・・さっき集中したよね・・・その時とまったく同じ、ただ僕の目だけを見つめる・・・」

 僕が立ち上がり、少し大回りしながら歩いている間も、優華さんの瞳は僕に向けられたままだ。
 僕は優華さんの目の前に立つ。ちょうど優華さんは首をあげて僕の瞳を見つめる形になる。
「優華さん、催眠術にかかってない、っていってましたよね」
「い、いったわよ」
 何かがおかしいことを感じつつも、優華さんはそれが催眠によるものだとは思っていない。
「じゃあ優華さん、自分の右手を見てごらん。優華さんが動かしたくないのに、右手がどんどん上に上がっていくよ、まるで風船が手首についているみたいに、ふわーっとふわーっと軽くなって、どんどん動いていくよ・・・」
「何を馬鹿なことを・・・」
 優華さんは僕に言われるままに右手を見つめると、その腕がぴく・・・ぴく・・・と動く。

「あ、あれ?」

 優華さんが驚きの声を挙げた途端、優華さんの右手首が、まるで細いピアノ線で引っ張られあげていくかのように、持ち上がっていく。
「ちょ、ちょっと、何で、何で、あれ?」
 優華さんがとまどいの言葉を発するうちに、右手はすっかり持ち上がり、腕が肩から垂直にぴんと伸ばされた状態になる。その間も優華さんは、自分の右手に結び付けられたかのように視線を外すことができない。
「僕が手を叩くと、右腕から力が抜けて、すぅっと右手を下ろすことができます。はい!」
 僕が手を叩くと、手首に繋がれていた糸が切れたかのように、優華さんの右手はだらんと太腿の上に落ちた。

「ちょっとは信じてくれた?優華さん」
「え。あ。何これ、そんな・・・」
 優華さんはまだ半信半疑のようだ。
「優華さん、僕の目を見て」
 優華さんは椅子に座った僕を見つめる。その途端、優華さんのまぶたがぴくっと動き、瞳の色がどんよりと滲む。
「優華さん。もう優華さんは僕の言うとおりになる。僕の言うことが、優華さんの本当になる」
「そんなわけ・・・」
 優華さんが立ち上がろうとした瞬間、
「優華さんは立てない」
 ぼくがぴしゃりというと、優華さんの膝はなにか固まってしまったこのように動かせなくなる。
「え?何これ?」
 優華さんが力いっぱい手でベッドを押しているのに、まったく優華さんの足は言うことをきかない。
「優華さんの足はもう石になっちゃったんだよ。さあ、次は右手が動かない!」
 僕が言うと、さっきまでばたばたさせていた右手が、うんともすんとも言わなくなる。
「や、やだ、ちょっと、なにこれ。ちょっと、いやよ、こんなの」
 抗議する優華さんに僕は語りかける。
「優華さん。このままだと優華さんの身体は全部石になっちゃよ?」
「そ、そんな、や、やめてよ、祥平君・・・」
 優華さんは泣き出しそうな声を出す。
「催眠術、信じてくれた?」
 優華さんは、こくんとうなずく。
「だったら、解いてあげるね、優華さん僕の目を見て・・・」

 優華さんは言われるままに僕の瞳を見つめる。優華さんの綺麗な顔が、僕を真正面から見つめている・・・。僕は少し勃起しながら、言葉を継ぐ。

「そう、もっと見つめる、もっと見つめる。他のものはなにも見えなくなる、ただ僕の目だけを見つめる。ほかの事は何も見えない、何も感じない、何も分からない、ただ僕の目と僕の声だけが頭の中いっぱいに広がる。それだけしか考えられなくなる・・・」

 僕の言葉はすこしずつねじれていっているのだけれど、催眠術を解いて欲しい一心の優華さんは呆けたような表情で、ただ言われるがままに僕の目を見つめている。瞳の色も一層深くなり、まぶたが時々ぴくぴく動く以外、まったく反応がない。

「さあ、僕の顔が近づく、僕の顔が近づくと、優華さんのまぶたはどんどん重くなる。もう目を開けていられなくなるくらい重い・・・」  
 
 僕がそういいながら優華さんの方に歩み寄ると、優華さんは僕の顔を見上げながらも、まぶしいものを見つめるかのようにまぶたが落ちていく。

「・・・僕が優華さんのおでこにこつん、とあたると、優華さんの頭は真っ白になって、体中の力は抜けて・・・優華さんは深い深い眠りにつきます・・・」

 優華さんのおでこに僕のおでこをこつんと当てると、優華さんは目を閉じて、そのままゆっくりとベッドの上に倒れこんだ。





 しばらく優華さんを横にしてリラックスさせた後、僕は再び優華さんの耳元で囁く。
「・・・じゃあ優華さん、立ち上がってみようか。足に力がはいって、すっと立つことが出来るよ・・・いち、にの、さん!」
 僕がパン、と手を叩くと、優華さんは目を閉じたままゆっくりと上半身を起こす。
「そう、そのまま優華さん、目を開いてみよう。ただし、何も見えない、ただ僕の声だけが聞こえます・・・いち、にの、さん!」
 優華さんがゆっくりと目を開く。
 その目は・・・焦点があっていない。目の前にいる僕の姿がその瞳に映っているけど、明らかに僕のことが見えていない。あの豊かな表情も全くない。
 
 半ば眠っているような状態。だけれど、僕の声だけは聞こえている。だから、僕の命令には何でも従う・・・そういった状態に堕ちている。

 瑠美ちゃんを催眠術に掛けたときも興奮したけれど、瑠美ちゃんはある意味普段でも僕のいうことは何でも聞いてくれるから、そういう意味では催眠だからこそできること、というのは、せいぜいキスするくらいだった。
 でも、自分より一回りも二回りも年上の優華さんに催眠術を掛ける興奮は、瑠美ちゃんに掛けた興奮とはまた異質のものだった。

 僕の中で優華さんをむちゃくちゃにしたい、という衝動が首をもたげる。
 一度だけ・・・、僕は優華さんの胸に手を伸ばしかけて、ふと手を止める。


 
 だめだ。
 まだ初めての催眠だ。
 催眠は万能ではない。もちろん忘却暗示は入れるつもりだけれど、瑠美ちゃんと違ってまだ一回目の催眠の優華さんに、そこまで確実に忘却暗示を入れられる自信は、僕にはなかった。
 もしこれで優華さんに催眠をされていたときの記憶が残ったままだったら・・・。
 僕は、もう瑠美ちゃんとも優華さんとも、そして唯さんとも、今までどおりの生活ができなくなるだろう。

 

 ・・・今回はこれだけにしておこう。
 ただ、僕は三つ、仕掛けをしかけておくことにした。
 一つは、キーワード。「優華さんは僕のお人形さん」と言うと、優華さんは今のような深い催眠状態になるように。二つ目。さっきの催眠状態で起きたことは全て忘れる。ただ、心の底からリラックスができたその気持ちよさだけは身体に残っていて、今度また僕にマッサージをしてもらいたくなる。
 ・・・そして三つ目。これから優華さんは目を覚ますけど、僕が自分の唇を舌で舐めると、優華さんは僕にキスがしたくてしたくてたまらなくなる。

 
 三つ目はずるいかもしれない。けれど、あれだけ僕のことを馬鹿にした癖にあっさり催眠にかかったんだから、これくらいは相応の罰ゲームというもんだ。


 僕はその三つの暗示を入れると、優華さんの催眠を解く。
「・・・僕が手を叩くと、すっかり目が覚めます・・・。いち・・・にいの・・・さん!」
 
 パチン。

 ベッドの上に座っている状態の優華さんは目をぱちくりさせている。


「あ、あれ・・・」
「優華さん、どうしました?」

 僕はにっこり笑った。

「あれ、私・・・マッサージ・・・されてたんだよね?」
「そう、すごくリラックスしてたみたいで、眠っちゃったみたいですよ?優華さん」
「あ、そう、そうなんだ。うーん、自分でも気がつかないうちに疲れがたまってたのかなあ・・・」
 優華さんは首をかしげながらも床の上に立ち上がる。
「うわ、すごい、身体が軽いよ。祥平君、さすがだね!」
「いや、こんなことでよければいつでもどうぞ」
 僕はそうやって微笑むと、ちょっとだけ舌をだして自分の唇をぺろっと舐めた。
 
 その瞬間、優華さんの目が見開かれて、身体がびくっと震えたようになる。

「・・・優華さん?どうしました?」
「あ、え、ええっと・・・ううん、なんでもないよ・・・」
 優華さんは笑いながら返事をしたものの、なんだか落ち着かない様子だ。
「変な優華さん」
 僕はそういいながら、もう一度、これ見よがしに唇を舌でぺろっと舐める。
 
 優華さんはその様子を見て、ごくっと喉を鳴らした。

「じゃあ、僕もそろそろ学校の宿題があるから・・・」
「あ、待って」
「・・・はい?」
 優華さんの部屋から出て行こうとする僕を優華さんは慌てて引き止める。
「あ。あ。あの、もし、祥平君がよかったら、だけど、・・・宿題、見てあげようか?」

 優華さんはどもりながら、そして顔を赤らめながら、僕を誘ってくる。

「・・・ご迷惑じゃないですか?」
「ううん、全然いいの。マッサージのお礼もしたいし・・・」
 優華さんは僕の唇を見つめながら、熱に浮かされたように、そういった。


 宿題といっても算数のドリルを2ページほどだ。
 僕は優華さんの机に座ってそのドリルをさらさらと解く。優華さんは僕の隣に座って、特に何か指示をするでもなく、僕の顔を見ながらぼうっとしている。
「優華さん、優華さん」
 僕がゆすると、はっと気がついたように、
「あ、もう終わったの?」
「はい。今日はちょっとだったので」
「あ、そうなんだ、あはは。ごめんね、全然役に立たなくて」
「いえ、優華さんが隣で見てると僕も気合が入りますから」

 自分でも何をいっているんだか、と思う台詞をしゃべりながら、僕はノートとドリルを片付けようとした、その時、
「祥平君・・・」

 優華さんが白い指を少しだけ震わせながら、僕の顔にゆっくりと近づけ・・・、僕の唇に触れる。

「祥平君の唇・・・ちょっと・・・荒れてるね・・・」
 優華さんは、少し熱っぽい瞳で僕の唇を見つめながら、ゆっくりと僕の唇をなぞる。

「・・・スティック・・・つけてあげる・・・」
 ふらふらと立ち上がると、優華さんは学校用のバッグの中からポーチを取り出して、その中にある薬用リップスティックを取り出した。

「あ、あの、優華さん?」
 それって間接キスなんじゃあ・・・、と思わず言いかけたが、既に優華さんの手にはスティックが握られている。
「動かないで・・・」
 優華さんは片手で僕の頬をおさえながら、もう片方の手でスティックをぬる・・・と塗り始める。
 スティックのハーブの香りと、間近にある優華さんの熱っぽい息が混じり合う。
 お互い、ちょっと口を近づけたら簡単にキスできてしまう距離。
 もちろん、僕はそ知らぬ顔でなされるがままになっている。優華さんは、時々いきつもどりつしながら、丁寧に僕の唇にスティックを塗りつけていく。

 優華さんは塗り終わると、名残惜しそうにスティックを仕舞う。
「これで・・・大丈夫だよ・・・」
「あ、ありがとうございます・・・」
 僕はカチンコチンになりながら言った。
 優華さんはしばらく僕の顔をぼうっと見ていたけれど、やがて、
「・・・あ・・・スティック、少しはみでちゃったね・・・ごめんね・・・」
 と、僕の顔に自分の顔を近づけてくる。
「・・・取ってあげる・・・」
「・・・え?」

 僕が異議を申し立てる間もなく、優華さんの紅い舌が伸びて、僕の唇のへりをちろっと舐める。
 あたかも僕の唇の縁からはみ出たリップステッィクを舐め取るような動き。そのまま優華さんは僕の肩を軽くおさえながら、唇を縁取るように舌を動かしていく。

「・・・これで、もう大丈夫」
 顔を上気させて、目を潤ませながら、名残惜しそうに優華さんはそういって顔を剥がそうとする。あたかも全ての理性を総動員しているかのようだ。
 僕はその瞬間、もう一度、舌で唇を舐めた。

 その瞬間、優華さんが突然はじけたように僕に抱きついてくる。
「ゆ、優華さん?」
「祥平君・・・ごめん・・・」
 優華さんは僕にそう囁くと、僕の唇に唇を押し当ててくる。あまりに激しかったので、一瞬優華さんと僕の前歯がかち合う。優華さんは少しだけためらった後、さっきまで僕の唇を濡らしていた舌が僕の唇の中に押し入って、歯茎や舌に吸い付き始める。
 
 そりゃ、瑠美ちゃんともさんざんキスはしていたし、ディープキスも別に初めてじゃない。だけれどもあれはあくまで子猫同士がじゃれあうようなそういうキスなわけで・・・こんな荒々しいキスは初めてで、僕の頭も真っ白になってしまった。


 じゅぷ・・・ちゅぷ・・・。

 やがて僕の舌が優華さんの口の中に、僕の口の中に優華さんの舌が互いに絡みつくようにぐちょぐちょと動き始める。優華さんの熱くて甘い唾液がじゅる・・・と僕の喉奥に流し込まれる。お返しに僕も優華さんの口の中にとろ・・・と流し込むと、優華さんはそれを美味しそうにごくっと飲み込む。

 僕は優華さんの胸に手を押し当てた。「んん・・・」と優華さんはくぐもった声をあげて少しだけ身を捩じらせたが、舌は相変わらず僕と絡めあったままで、それ以上逃げることはできない。僕はその隙に優華さんのセーターの下から手を差し入れてブラジャーごしに優華さんの乳首のあたりをさすり始める。
「んふ・・・あふ・・・や・・・やめて・・・祥平君・・・ちゅぷ・・・」
 優華さんの声に甘い声音が混じり始める。やめて、という割には、自分からするキスはやめようとしない。
 やがて椅子から転げ落ちるように僕は床に押し倒される。優華さんは僕をの頭を抱きしめ、やわらかい体で僕を押さえつけるようにしながら、一方的にキスの嵐を浴びせ続ける。
 その気持ちよさとそのむせ返るような唾液の匂いと粘膜の感触に、僕の頭は真っ白になって、なすすべも無くただ唇は犯され続けた。

 やがて、優華さんはようやく僕の唇を解放した。

「あ、あ、あ・・・」
 ぐったりと床に倒れている僕を見て、優華さんは、ようやく自分がしたことに気づいたようだ。


「ご、ごめんなさい!」
 優華さんは土下座をするように額を床にこすり付けて謝った。

「わ、わたし、わたし、こんなことするつもりじゃ・・・ただ、祥平君の唇を見てたら・・・何がなんだかわからなくなって・・・あ・・・ごめん・・・そんなの言い訳にもならないよね・・・本当に・・・本当にごめんなさい・・・」
 優華さんは涙目になって、慌ててティッシュペーパーを取り出して僕の頬や唇についた唾液をふき取る。
 あまりの激しさにしばらく茫然としていたけど、ただひたすら謝罪の言葉を口にする優華さんを見ながら、僕は次第に冷静さを取り戻し・・・あることを考えていた。


「優華さん。いいよ、謝らなくて。・・・僕も・・・優華さんとキスできて・・・その・・・気持ちよかったし・・・」
「え?」

 優華さんの手が止まる。この時僕は、多分自分でも笑っちゃうくらいのさわやかな笑みを浮かべていただろう。

「本当です」
「・・・・・・・祥平君・・・」

 優華さんの強張った表情が緩む。その隙を捉えて、僕は意地悪く指摘する。

「・・・でも、優華さん。さっき言ってましたよね。『キスは本当に好きな人とする、大事なものだ』って。・・・優華さんにとって、僕は、本当に好きな人、なんですか?」
「え・・・それは・・・」

 優華さんはたじろいだ。
「もちろん、祥平君のことは大事な弟だし、弟としてはもちろん大好きだけど・・・」
「弟として好き、なだけなのに、本当に好きな人とだけするキス・・・しちゃったんですか?」
「それは・・・その・・・」
 優華さんは目を泳がせながら、頭の中で一生懸命自分の行動に対する辻褄をあわせようとしている。もちろん自分が後催眠暗示でキスさせられたなんて気づくはずも無い。


「優華さん、立ってください」
 僕が少し強い口調で言うと、優華さんは少しためらったあと、言われるままにふらっと立ち上がる。ちょうど僕がしゃがんでいるので、優華さんが僕を見下ろす形になる。

 だけど、立場は全く逆だ。
 もう優華さんは、僕に逆らうことができない。



「『優華さんは僕のお人形さん』」
 僕はぼつっと言うと、途端に優華さんの瞳から意志の光が喪われ、無表情になる。

 僕は立ち上がると、自分より頭一つ分高い優華さんに話しかける。
「優華さん。優華さんは僕のお姉さんです。だから、僕に嘘を教えるわけにはいきません。自分が言ったことはきちんと責任を持たなくてはいけない。そうですよね」
「・・・はい」
 優華さんはこくりと頷く。
「そう。優華さんは僕にキスをしてしまった。キスは好きなひと、それも兄弟としてではなく恋人として好きな人とだけやれること、そう優華さんは言いました。・・・だから、優華さんは僕のことを『恋人』として好きです。・・・そうですよね?」
「・・・・・・はい」

 何かが違う、という「常識」が、優華さんを一瞬躊躇させたが、既に罪悪感と催眠に囚われた彼女にそれ以上の抵抗は不可能だった。優華さんは僕の言葉をただ言われるがままに飲み込んでいく。

「そして恋人として好きな人になら裸を見せられる・・・そう優華さんは言いました。だから、僕のことを好きな優華さんは、僕に裸を見せることができます・・・そうですよね?」
「・・・はい・・・」
 うつろな目をしたまま、優華さんはこくりと頷く。
「・・・もう一つ、優華さんはさっきのキスのせいですごく体が敏感になってしまっています。だから、本当に好きな人に身体を触れられると、それだけでいつもの何十倍も感じてしまいます。口の中も、腕も、胸も、乳首も太腿も、どこを触られても、アソコの大事な部分が飛び跳ねるくらい感じてしまいます・・・。それは、貴方の身体を触ってくれる人が、貴方の大好きな人だからです。・・・そうですよね?」
「・・・・・・・・はい・・・」


 僕はそれだけの言葉を彼女に流し込むと、催眠を解除する。
「僕が手を叩くと、優華さんの目は覚めます。いまいわれたことを優華さんは思い出すことができません。だけれども、さっき僕に言われた言葉は、優華さんの頭の奥底にしみこんでいます・・・だから、優華さんの身体も気持ちも、そのとおりになります。いいですね・・・では手をたたきますよ・・・いち・・・にの・・・さん」

 パン!

 僕が手を叩くと、優華さんは目をぱちくりとさせている。
「あ、あれ・・・わたし・・・」
 自分の記憶がはっきりしないのだろう。少し混乱していたが、僕と視線がぶつかると、あっという間に顔を真っ赤にして俯く。そんな優華さんに、僕は追い討ちをかける。

「優華さん。もう一度聞きます。・・・なんで僕にキスをしたんですか?」
「え?・・・そ、それは・・・・・・祥平君のことが・・・好きだから・・・」
「でも、それは『弟』として、好き、ってことですよね。さっき優華さんは言いましたよね。僕と瑠美ちゃんは『兄妹』として好き合ってるだけだから、キスをしちゃだめなんだって。なのに・・・自分はキスをしていいんですか?」
「ち、違う!」
 優華さんは突然大声を出す。
「・・・わ、わたしは・・・わたしは・・・」
 優華さんは少しセーターの裾を弄ったり、目を天井に泳がしていたが、やがて俯きながら、
「・・・私・・・多分・・・祥平君のことが・・・その・・・男の人として・・・好き・・・なんだと思う・・・」「・・・『多分』とか『思う』とか・・・それくらいの気持ちなのに、僕にキスしたんですか?」
「ち、違うよ。す、好き。本当に好きなの。祥平君・・・」
 二周りも小さな子供の僕に問い詰められて、優華さんは少し涙ぐんでいる。

 しばしの沈黙の後、僕は口を開く。

「・・・もし・・・優華さんが本当に僕のことが好き、って証明してくれるんなら、僕は優華さんにキスされたこと、誰にも言いません」
「証明?」
 優華さんは潤んだ瞳を僕に向ける。衝動に任せて自分の義弟にキスをしてしまった、という罪悪感に打ちひしがれ、当惑し、どうすればよいかわからない状態。キスをしたからには『好き』でなくてはいけない、と思い込んでいる状態。

 
 そんな彼女に、僕は『救い』の手を伸べる。
 

「・・・優華さん。『本当に好きな人の前なら女の子は裸になれる』っていいましたよね」
「・・・・・・」
 優華さんの顔が強張る。僕が何をいわんとしているのかを悟ったのだろう。
「・・・言いましたよね?」
「・・・うん」
 優華さんはこくりと頷く。優華さんはそういうところで嘘をつけない。そこにつけこんでいく。

「・・・優華さん、スカート。まくってもらえませんか?」
「え!」
「・・・もし、僕の言うことを聞いてくれるんだたら、僕は今日あったことを・・・そしてこれからあることを・・・誰にも言いません。僕と優華さんだけの秘密にします」

 僕は優華さんの目を見る。優華さんは僕の瞳に吸い寄せられたように目をそらすことができない。潤んだ、何かに取り付かれたような、熱っぽい瞳。

「・・・・・・・僕のこと・・・好きなんだったら・・・できますよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・」
 しばしのためらいのあと、頷いた優華さんは、自分の前言と辻褄を合わせるために、スカートの裾を手でつかみ、そろりそろりと引き上げていく。

 やがて・・・僕の目の前に、優華さんの白い太腿と、ベージュ色のショーツが露わになる。

 僕はひざまづいて、優華さんのそのショーツの一番下の部分に指を伸ばす。
「ひゃ・・・や・・・やめて・・・」
 しかしその言葉とうらはらに、スカートの裾を持ったままの優華さんは抵抗らしい抵抗をする様子は無い。
 くちょ・・・。
 そのショーツは湿っている。
「濡れてるよ・・・優華さん」
 僕はショーツの上から、優華さんの割れ目を何回もさする。

 瑠美ちゃんの裸は何回か見ているから、女の人の身体がどうなっているかはわかっているつもりだったけど、(僕から見たら)大人の女の人のアソコを触るのは初めてだった。
 −−−瑠美ちゃんよりも大きい。くちょくちょしてショーツがじんわり濡れている。それに毛がはえて少しごわごわしてる−−。

「んふ・・・んあ・・・あふ・・・」
 優華さんの足ががくがく震えている。さっき僕が入れた何十倍も気持ちいい、の暗示が効いているのだろう。歯を食いしばって、大きな声を出さないように我慢しているけど、僕の指の動きにあわせて腰がもぞもぞと動いている。
 優華さんの体の奥から溢れ出した液でぐしょぐしょになったショーツをずらし、僕は指で直接優華さんの肉を触り始める。ぬめった襞にそって進むうちに、何かコリコリした豆のようなものに指が触れる。
「あれ・・・これは・・・」
「や、やめて、それは・・・ひう!!」
 その豆のようなものをつまむと、優華さんの声が裏返って、そのままへなへなとへたりこんでしまう。
 
「優華さん。今度は胸を・・・見せてもらえませんか?」
「あふ・・・・・・は・・・い・・・」
 僕が言うと、優華さんは熱っぽい呼吸をしながら、セーターとその下のシャツをいっしょに捲り上げる。下着と揃いのベージュのブラが、ボリュームのある胸を包み込んでいる。
 僕はそのブラのホックを手探りでなんとか外すと、白い柔らかそうな胸が飛び出してくる。
「・・・すごい・・・」
 それは瑠美ちゃんにはまだない、大人の女性・・・いや、まだ大人になりかけなんだとは思うけど、それでも十分大人の女性の膨らみだった。
「そ、そんなに・・・見ないで・・・」
 優華さんの抗議を僕は無視して、右の乳首を指でそっとつまむ。
「んは・・・ああ・・・やぁ・・・」
 僕はそのまま左の乳首にむさぼりつき、乳首の周りを舌で舐めまわす。
「あぅぅ・・・やめて・・・そんなにされたら・・・んあ・・・」
 僕が右手でぎゅっと乳房を揉みしだくと、あまりに感じてしまったのか脱力して、床に仰向けに倒れこんでしまった。

 床下暖房が効いているとはいえ、フローリングの床は少し冷たい。ここだと風邪を引きかねない。
 僕は半ば気絶しかかっているような優華さんを立たせると、ベッドの中に抱きかかえるようにして引きずり込む。
 こんなとき抱きかかえて上げられれば格好いいのだろうけど、如何せん僕のほうがずっと体格が小さい。
「どっこいせっと・・・」
 情けない掛け声を出しながら、できるだけそっと優華さんをベッドの上に横たえた。





 優華さんは少しポニーテールが乱れてる。顔は上気して、艶やかな桜色の唇も少し潤んでいる。胸元のセーターはまくれ上がり、白いたわわな乳房がほとんど形崩れをすることなく、その存在をアピールしている。乳首の周りは僕の唾液がついて、あたかも野生の動物に獲物としてマーキングをされたかのようになっている。スカートは捲くれ上がり、ベージュ色のショーツは変色して透け、その裏にある翳りが浮かび上がる。
 
 そんな優華さんを見てると、ズボンの奥のものがズボンに押し当たって痛くてたまらなくなってくる。
 僕が自分のモノの位置をずらす。カチコチになったアレの先からは、もう少し液が溢れてきていて、下着が気持ち悪い感触になっている。

「・・・祥平君・・・」
 ふと見ると優華さんは体を起こし、僕の方を見つめている。その熱っぽい虚ろな視線はぼくの下半身に注がれている。

「・・・祥平君・・・・・・・・・固く・・・なっちゃったの?」
 優華さんは四つん這いになって僕に顔を寄せてくる。セーターがずれあがったままなので、剥き出しになった乳房が、優華さんが腕を動かすたびに揺れているが、優華さんはそれを隠そうともしない。

「・・・・・・ごめんね・・・私だけ・・・気持ちよくなっちゃたら・・・ダメだよね・・・」
 そういうと、優華さんは虚ろな眼をしたまま僕のズボンのベルトを緩め始める。
「ちょ、ちょ、ちょ・・・や、やめましょうよ、優華さん・・・」
 慌てふためく僕。だけど優華さんの口は虚ろな言葉を紡ぎつづけながら、その手を止めようとはしない。
「さっきのマッサージ・・・すごく気持ちよかったよ・・・その後のキスも・・・胸舐められちゃったときも・・・。あんなに気持ちよかったの・・・初めて・・・。・・・だから私、お礼がしたい。・・・祥平君にも・・・気持ちよくなって欲しいよ・・・」



 優華さんは、そこでふと言葉を区切った後、輝きを失った瞳と、紅潮した顔を僕に向けて、微笑みながらこう言った。
「・・・だって・・・祥平君のこと・・・大好きだから・・・・・・・」



 僕のズボンの前を開け、トランクスをずり下ろすと、僕の膨らんだお○んちんが優華さんの目の前に晒される。
「私も・・・初めてだから・・・うまくできるかどうかわからないけど・・・でも・・・一生懸命頑張るから・・・」

 優華さんは先走りの汁が染み出している僕のモノをそっと両手で握り締めて、あたかもいい香りのする花の匂いを嗅いでいるかのようにうっとりとしている。ひんやりとした優華さんの指が心地よいものの、優華さんに握り締められているという事実が更に僕のモノに血流をどくどくと注ぐ込んでいる。

 優華さんは上目づかいで僕を見つめて、
「・・・祥平君・・・どうか・・・私に舐めさせて・・・」
僕のモノを大切そうに捧げ持ちながら、そう言った。



 
 まだ幼い僕には、女の人の性欲というものがよく理解できていなかった。だから、女の人が自分からエッチなことを望むことがあるなんて思ってもいなかった。ましてや、あんなにはきはきとして元気で明るくて、僕のお姉さん代わりの優華さんが、僕のお○んちんを舐めさせて欲しいといいだすなんて、もう僕の想像力の遥か彼方の出来事だった。

 
 僕も、何かに取り憑かれたように、うなずくしかなった。




「ありがとう・・・ちゅ・・・ちゅる・・・」
 優華さんはすぐに僕のモノの先に舌先を伸ばして、先走りの汁を掬い取る。そして僕のモノの先に唇を擦り付けるようにキスをしながら、ちろちろと舌で舐めていく。鈴口、カリ、サオ・・・僕の膨らんだモノに自分の唾液をまぶしていく。
 僕はそのぬめぬめした物理的な感覚と、優華さんの口でしゃぶらせているという倒錯感が相まって、僕の下腹の中で何か得体の知れないものが動き回っているような感覚に囚われる。
「いたっ!」
 優華さんの歯が僕の肉に当たって、思わず僕は声をあげる。
 優華さんは唇を離し、僕を見上げる。
「・・・・・・祥平君、大丈夫?」
「う、うん、少し歯が当たって痛くて・・・」
「ご、ごめんなさい。気をつけるから・・・。あ、ここに当たっちゃったんだ、ごめんね・・・」
 優華さんは僕に謝って、今度は歯を立てないようにより奥まで肉棒を飲み込み、、唇で茎を、舌で亀頭を包み込むようにして、顔をゆっくり動かしながら刺激する。
 優華さんの太腿にも、少しだけ光るものが見えている。多分、優華さんのあそこももうぐしょぐしょになって、液が垂れてきているんだと思う。さっき口でもめちゃくちゃに感じるように暗示を入れていたから、口にいれるだけでアソコが猛烈に感じてしまうのだろう。

 じゅぷ・・・ちゅぷ・・・じゅる・・・。

 涎をシーツに垂らしながら、ポニーテールを揺らしながら、優華さんは何かにとりつかれたように、僕の肉棒を刺激し続ける。
 その動きは、多分まだはじめてで上手ではなかったのだと思う。
 だけれど、優華さんがやってくれている、という異常な事態と、優華さんの体中から吹き出す発情した女の人の独特の香りにあてられた僕は、もう既に限界に達していた。
「優華さん、もう・・・出るから・・・外に・・・」
 優華さんの口の中から僕はお○んちんを出そうとしたけれど、優華さんは僕のモノを咥え込んで離さず、更に刺激を激しくする。
「だ、だめ・・・う・・・ああ・・・」
 猛烈な射精感に襲われた僕は、優華さんの頭をぐっとつかんで思いっきり優華さんの喉奥に僕の棒をねじりこんで・・・・・・・・・。

 どく、・・・・・・どくどく・・・どく・・・。

 ・・・その瞬間、喉一杯に射精した。

「けほ・・・けほ・・・」
 優華さんは僕のモノを口から出すと、少し咳き込む。
「・・・ゆ・・・ゆうかさん・・・」
 声をかけると、優華さんは顔を僕に向ける。
「大丈夫・・・少しむせただけだから・・・」
 口を開いた優華さんの唇の脇から、とろっと白い粘液が垂れる。
「・・・あ・・・」
 優華さんは反射的にその垂れる粘液を指で掬って、口で吸い取る。

 僕にとっては、精液なんておしっこする場所から出てくる汚いものだったから、僕はあわてて、
「・・・優華さん、それ、飲んで・・・大丈夫なの?」
 優華さんは、とろっとした目をして、ぼそっと、
「・・・え?・・・うん、わからないけど・・・多分、大丈夫だよ。雑誌とかだと、男の人の、飲んでる女の人の話・・・出てるし・・・」
 それってどんな雑誌なんだろう。
「それに・・・祥平君のだから・・・私、大丈夫だよ・・・」
 全然、根拠がないことをいったあと、優華さんはちょっとはにかむようにして、
「・・・私、全部初めてだったんだよ。キスも・・・胸を揉まれたりするのも・・・フェラチオだって・・・初めて・・・全部・・・祥平君にあげちゃった・・・私・・・」

 ファーストキス、だったんだ。
 僕は女の人のファーストキスは大事なものだ、とどこかで読んだ気がしたので、とてもいけないことをした感覚に襲われた。いや、それを言ったら瑠美ちゃんにだって・・・。
 
 そんな僕をよそに、優華さんが泣き笑いのような表情になって、さらにこう続けた。

「お、おかしいよね?私と祥平君は姉弟なんだよ?なのに、なのに、こんなことしちゃって・・・おかしいよね?ダメだよね。お姉さんなのに・・・」

 つつっと優華さんの目から涙が溢れる。


「・・・なのに、ね、私、さっき祥平君のおちん○んを舐めてる間、ずっと・・・おかしな気分になっちゃって、・・・今も・・・ほら・・・」

 胸を剥き出しにしたままの優華さんは、少し足を広げてベッドの上に立つと、しわだらけになったスカートを捲り上げる。ぐっしょりと濡れたベージュ色のショーツが僕の目に飛び込む。その一番下の暗がりから何本もの光る筋が流れ出して、優華さんの白い太腿に絡み付いている。

「こ、こんなに・・・ぐしょぐしょに・・・なっちゃって・・・・・・もう・・・あう・・・」
 優華さんの大事な部分を隠すショーツを優華さんの指が触った瞬間、また、とろっとねばっこい液が溢れて、太腿をゆっくり伝う。

「もう・・・何がなんだか・・・わからないよ・・・祥平君・・・どうしよう・・・私・・・こわれちゃったのかな・・・んふ・・・あん・・・」

 優華さんの身体がびくんと震えて、そのままへなへなとシーツの上にへたりこむ。きっと大事な部分に指が当たってしまったのだろう。

「と、とまって・・・だめ・・・もうだめ・・・これ以上はだめ・・・だめなんだから・・・」

 優華さんは俯きながら、全ての理性を総動員して情欲を押さえつけようとしている。だけど、身体の奥でたぎる肉欲があまりにも烈しいのか、時々、肩がびく・・・びく・・・と動く。必死で止めようとするのだが、本能的になのか指も時々動いては、優華さんの敏感な部分を刺激する。

 時々呻く優華さんの声と、もぞもぞと動く太腿とシーツが摺れる音だけが、しばらく部屋の中で響いていたが、


 ・・・やがて・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・しょうへい・・・くん・・・・・・わた・・・し・・・」

 優華さんが顔をゆっくりあげる。
 

「・・・わたし・・・しょうへい・・・くんの・・・おねえ・・・ちゃんだけど・・・・・・・・」


 その瞳は・・・さっき僕の肉棒を舐めたときよりも・・・ずっと深い闇と、赤黒い炎を湛えていた。


「・・・・・・しょうへいくんのこと・・・すき・・・だから・・・・・・・・・・・・・・だいすきだから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい・・・よね・・・?」


「だ、だめだよ、優華さん。ダメ。それはダメ!優華さん初めてなんでしょ?それは本当に好きな人のためのものだよ。ダメ!!」
 僕は優華さんのことを思ってそう言ったのではない。
 本気で怖かったのだ。

 優華さんは僕の言葉を聞いて口元を笑う形に歪めながら、にじりよってくる。


「・・・だいじょうぶ・・・・・・・だって・・・わたし・・・しょうへいくんのこと・・・だいすきだもん・・・」


 僕の肩を優華さんの右手が掴む。メスのカマキリがオスを捕まえるときの動き、ってこういうものなんじゃないだろうか。

「・・・しょうへいくん・・・だいすきだよ・・・」

 優華さんが僕の顔にキスをしようとした、その瞬間、


「・・・・・・・『優華さんは僕のお人形さん』」


 僕の言葉をきいた優華さんの瞳から、情念の炎が消え・・・ただ静かな夜の海のような色になり、ゆっくりとまぶたが閉じられ・・・やがて糸が切れた操り人形のように僕にその柔らかい身体を預けてきた。








 僕は、優華さんにいくつかの暗示を与えた。
 今日は僕が優華さんにマッサージをした。ただ、それだけ。その後のキスもフェラチオも、無かったことにする。
 僕のことを好き、というのも、あくまで姉弟としての「好き」で恋人としての「好き」ではないこと。
 僕と瑠美ちゃんがしていたこと、それは全て忘れること
 僕がキーワードを言うと、優華さんはまた催眠状態になること。・・・これは、もちろん積極的に使うわけではなく、また今日の最後のような状態になったときのためのあくまで保険だ。
 それらを僕は慎重に優華さんに刷り込んだあと、優華さんの洋服を着替えさせ、精液と愛液と唾液でベロベロになったシーツを洗いものに出して、床にこぼれた涎やらなにやらもティッシュで拭き取って後始末をした。






 その後しばらくして、唯さんと瑠美ちゃんが帰ってきたけど、僕は体調が悪いからと言って、夕御飯も食べずにベッドにもぐりこんだ。



 明日がまた昨日と同じでありますように。
 元通りの優華さんになりますように。



 僕はそれだけを念じて、堅く目をつぶってベッドの中で震えていた。

 ただ、まぶたを閉じると虚ろな目をして迫ってくる優華さんの姿が浮かんできて、何度寝返りをうっても、夜遅くになるまでなかなか寝付くことはできなかった。













 次の日、僕はおそるおそる起きだす。

 朝ごはんはトーストとミルク、スクランブルエッグにベーコンといったアメリカンスタイルだった。

 いつもは美味しい唯さんのカリカリに焼いたベーコンの味すら感じる余裕がない。そんな朝食を台所のテーブルでのろのろととっていると、
「おっはよーー」
 明るく元気な声で、制服姿の優華さんが僕に笑いかけてくる。

「・・・おはようございます」

「おやー?祥平君、元気無いじゃない。さては夜更かししたな?目がしょぼしょぼしてるぞ?」
 僕のほっぺをうりうりと優華さんはつつく。

「こーら、優華。もう行かないと遅刻するわよ?」
「へいへい、わかってますって」
 唯さんの言葉に舌を出して返事をした優華さんは出かけようとして、突然台所に戻ってくる。
「あ、祥平君、またマッサージよろしくね。おかげで私はぐっすり眠れたから」
「う・・・うん」

 僕がしどろもどろになって返事をすると、唯さんが流しから尋ねる。
「あれ、祥平君にマッサージしてもらったの?」
「うん、すごく上手なんだから、祥平君。私なんかすぐふわーと眠っちゃって、もう気がついたら夜になってたくらい」
「そうなんだ。私も頼もうかなあ・・・」

 唯さんの言葉に優華さんは意地悪そうに、
「唯姉ももう年だからねえ、頼んだ方がいいわよ?」
「まあ、この娘は言ってくれるわね。言っておきますけどね、あなただって祥平君からみたらおばさんよ?」
「えー、ひどーい」
「・・・・・・優華さん、遅刻するんじゃないですか?」
「え。わ。やば。それじゃいってきまーす!」

 優華さんは慌てて家を飛び出した。



 それはいつもどおりの高坂家の朝食の光景だった。

 よかった、優華さんはいつもの優華さんだ。
 昨日のことも何も覚えていない。
 今までどおり、馬鹿なことを言いあったり、甘えたり、笑ったり、そういう関係でいられるんだ。

 僕はほっとして、残った朝ごはんを平らげた。





































































































      それが、大きな考え違いだということに僕が気づくのは、もう少し後のことになる。











 
 


 

 

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