2016年に気になった論文いくつか
明けましておめでとうございます。2017年もどうぞよろしく。本業が忙しい時期を迎えていることもあって、ブログの更新は滞りがちなのだけれど、気が向いたら更新していくつもりなので、今後も読んでいただけたら幸いです。
一年の出だしですが、ここでは昨年紹介記事を書こうと思いながらも書けなかった論文を短いコメントと一緒に紹介していこうと思います。あくまで簡単な紹介なので、詳細が気になる方はぜひ論文を読んでみてください。
では、以下に書いていきます。ある程度吟味したんだけれど、それでも長くなってしまった。
一年の出だしですが、ここでは昨年紹介記事を書こうと思いながらも書けなかった論文を短いコメントと一緒に紹介していこうと思います。あくまで簡単な紹介なので、詳細が気になる方はぜひ論文を読んでみてください。
では、以下に書いていきます。ある程度吟味したんだけれど、それでも長くなってしまった。
RNA修飾の解析
先日、Nature Methodsでも2016年のMethods of the yearにも選ばれていたEpitranscriptomeの解析はとても印象に残った。次世代シーケンサーの技術革新によって、今まで観察することのできなかったRNAの修飾を今までよりも容易に観察できるようになったことが大きい。特にアデニンメチル化についての論文が多く出てきていたが、シトシンのメチル化やイノシンの検出などが今後は増えるだろうと思う。
→ Epitranscriptome sequencing technologies: decoding RNA modifications : Nature Methods : Nature Research
→ The dynamic N1-methyladenosine methylome in eukaryotic messenger RNA : Nature : Nature Research
→ m6A RNA methylation promotes XIST-mediated transcriptional repression : Nature : Nature Research
→ Reversible methylation of m6Am in the 5′ cap controls mRNA stability : Nature : Nature Research
Inflammasome制御
Inflammasomeそれ自体は新しい概念ではないけれど、2016年はInflammasome制御についての論文を多く見かけた。元は自然免疫の分野で提唱された概念だが、幅広く細胞の炎症性応答に関わっているということが知られてきている(特に一番下のScienceの論文がいい例)。細胞内シグナル伝達の新たな概念として知識をアップデートしておくべきところだと思っている。
→ NEK7 is an essential mediator of NLRP3 activation downstream of potassium efflux : Nature : Nature Research
→ NF-κB Restricts Inflammasome Activation via Elimination of Damaged Mitochondria: Cell
→ Inflammasome Complexes: Emerging Mechanisms and Effector Functions: Cell
→ Hexokinase Is an Innate Immune Receptor for the Detection of Bacterial Peptidoglycan: Cell
→ The DNA-sensing AIM2 inflammasome controls radiation-induced cell death and tissue injury | Science
タンパク質を小胞体膜に持っていく新規機構
SRPを介した膜タンパク質の小胞体膜への挿入機構は古くから発見され、教科書にも載っているが、近年Tail-anchored proteinを輸送するGET経路が発見され、さらに年の暮れになって新たにSND経路が発見された。この仕事は教科書を変える仕事だと思う。
→ The SND proteins constitute an alternative targeting route to the endoplasmic reticulum : Nature : Nature Research
CRISPRを応用した細胞系譜の観察
こういった手法は今後役に立つと思われる。
→ Continuous genetic recording with self-targeting CRISPR-Cas in human cells | Science
→ Synthetic recording and in situ readout of lineage information in single cells : Nature : Nature Research
→ Whole-organism lineage tracing by combinatorial and cumulative genome editing | Science
CRISPRとsingle cell RNA-seqを組み合わせた、細胞内シグナル伝達の網羅的解析
年末になって、とんでもない物量の論文が出てきた。こういう研究は面白いと思うけれど、小さな研究室ではとても出来るものではないなと思う。
→ Perturb-Seq: Dissecting Molecular Circuits with Scalable Single-Cell RNA Profiling of Pooled Genetic Screens: Cell
→ A Multiplexed Single-Cell CRISPR Screening Platform Enables Systematic Dissection of the Unfolded Protein Response: Cell
→ Dissecting Immune Circuits by Linking CRISPR-Pooled Screens with Single-Cell RNA-Seq: Cell
放射線を必要としない骨髄移植
バリンを欠乏させるだけで骨髄移植が可能になったという論文が出てきた。この論文はアミノ酸の制御が移植や癌といった分野における新たな治療法となりうる可能性を示している。さらには細胞生物学の分野でも培地のアミノ酸が与える影響を考える必要があるかもしれない。
→ Depleting dietary valine permits nonmyeloablative mouse hematopoietic stem cell transplantation | Science
父親の栄養状態によって子供の代謝が影響される
精子のエピゲノムが栄養に影響され、子供に伝播するのは2015年後半に報告されていたけれど、そのメカニズムについての続報が出てきたのが今年だった。RNAやChromatinは今後も注目を集めていく分野だと思う。
→ Biogenesis and function of tRNA fragments during sperm maturation and fertilization in mammals | Science
→ Obesity and Bariatric Surgery Drive Epigenetic Variation of Spermatozoa in Humans: Cell Metabolism(2015年の論文)
多能性幹細胞から卵母細胞を作る培養系の確立
これはScienceのbreakthrough 2016でも選ばれていたけれど。
→ Reconstitution in vitro of the entire cycle of the mouse female germ line : Nature : Nature Research
Ki-67の機能
細胞増殖のマーカーとして使われていたKi-67の機能が細胞分裂時の染色体表面を覆い、染色体同士を反発させる作用を担っていることが明らかになったのも、2016年だった。マーカーとして知られていながら、つい最近まで機能がわかっていなかったのは面白い。
→ Ki-67 acts as a biological surfactant to disperse mitotic chromosomes : Nature : Nature Research
Adeno-associated virus受容体
自分は使っていないが、神経科学の分野ではツールとして使わない人はいないのではないかというぐらい有用なウイルスの受容体が報告されたのも今年だった。受容体が同定されたことで新たな実験手法の開発に着手している人がいるかもしれないな、と思っている。特定のプロモーター制御下でCreを発現しているマウスを使えば、感染細胞を限定できるな、とか分野外の人は想像する。
→ An essential receptor for adeno-associated virus infection : Nature : Nature Research
T細胞の作り換え
Wendell Limのグループから。既に報告されていたsynNotchを用い、完全に独立した転写活性系をT細胞内に構築して、治療に必要な任意の分子を癌の近くでのみ発現させる手法を確立していた。実際の治療にはまだ多くの課題が残るけれど、synNotchという分子の構築は個人的にとても興味を惹かれた。
→ Engineering Customized Cell Sensing and Response Behaviors Using Synthetic Notch Receptors: Cell
→ Precision Tumor Recognition by T Cells With Combinatorial Antigen-Sensing Circuits: Cell
→ Engineering T Cells with Customized Therapeutic Response Programs Using Synthetic Notch Receptors: Cell
分泌される小分子代謝物による細胞間コミュニケーション
まだまだ黎明期にある分野の研究だと思うけれど、この論文で提唱されているような小分子代謝物による細胞間の情報伝達は今後伸びる分野だと思っている。何らかの技術革新があれば、一気に伸びそう。
→ A branched-chain amino acid metabolite drives vascular fatty acid transport and causes insulin resistance : Nature Medicine : Nature Research
界面活性剤を使わない膜タンパク質の単離
この手法、今後役に立つ事があるんじゃないかと思うんだけれど、どうだろう。実際、この手法を使った論文がScienceにも出てきたし。
→ A method for detergent-free isolation of membrane proteins in their local lipid environment : Nature Protocols : Nature Research
→ Characterization of a dynamic metabolon producing the defense compound dhurrin in sorghum | Science
蛍光タンパク質新種2つ
mCherryと同様のRed proteinだけれど数倍明るいmScarletと、Far-red proteinとして新たに作られたsmURFP。
→ A far-red fluorescent protein evolved from a cyanobacterial phycobiliprotein : Nature Methods : Nature Research
→ mScarlet: a bright monomeric red fluorescent protein for cellular imaging : Nature Methods : Nature Research
分裂1回10分の細菌
大腸菌の置き換えなるか。でも大腸菌も十分早いと思うけれども。
→ Vibrio natriegens as a fast-growing host for molecular biology : Nature Methods : Nature Research
JUNO-IZUMOの複合体の構造
昔このブログでも紹介した(参考)、精子と卵細胞の融合に必要なタンパク質、JUNOとIZUMOの複合体の構造が相次いで複数のグループから出てきた。構造の論文はあまり読まないんだけど、ブログで紹介したよしみもあり、気になって読んだ。
→ Molecular architecture of the human sperm IZUMO1 and egg JUNO fertilization complex : Nature : Nature Research
→ Structure of IZUMO1–JUNO reveals sperm–oocyte recognition during mammalian fertilization : Nature : Nature Research
→ Structural and functional insights into IZUMO1 recognition by JUNO in mammalian fertilization : Nature Communications
DNAで作られたイオンチャネル
DNA origamiが最初に報告されたのが2006年だったが、ここまで技術革新したのかとこの論文が出てきたときは驚いた。Wikipediaによると、drug deliveryへの応用などが研究として進んでいるようだ(参考)。
→ A biomimetic DNA-based channel for the ligand-controlled transport of charged molecular cargo across a biological membrane : Nature Nanotechnology : Nature Research
DNA用のプログラミング言語
MITが開発したCelloによって大腸菌内で論理回路を構築できるようになった。似たようなことを他の生物で出来たら面白いが、細菌はともかく真核生物で実現するのは難しいかもしれない。
→ Genetic circuit design automation | Science
→ DNA用の「プログラミング言語」をMITが開発。望みの機能をコーディング~コンパイルし、細胞へインストール - Engadget 日本版
羽毛恐竜の尻尾が琥珀に!
恐竜はやはり羽毛が生えていた。
→ A Feathered Dinosaur Tail with Primitive Plumage Trapped in Mid-Cretaceous Amber: Current Biology
→ 「鳥は恐竜の子孫」ではなく「鳥が恐竜そのもの」?恐竜の学説は20年くらいで大きく変わった - Togetterまとめ
ヘビに脚がない理由
これはたまたま時間があったので、ブログで紹介した。
→ Pursuing Big Oceans : ヘビ化するネズミ〜ヘビに脚がない理由〜 - livedoor Blog(ブログ)
酒好きのための論文
様々な酒類の発酵に使われる酵母157種類についてゲノムを調べ、ゲノム変化と、酒の特徴とを相関させようとした研究。酒が好きでなくても人類史に思いを馳せることのできる面白い研究だと思うし、ゲノムの解析についていい勉強になった。
→ Domestication and Divergence of Saccharomyces cerevisiae Beer Yeasts: Cell
磁気遺伝学が出てきたけれど、否定される
タイトルの通り、磁力は弱すぎた。
→ Physical limits to magnetogenetics | eLife
紙でできる簡易遠心機
これ夏休みの自由研究にもってこいだと思う。
→ Paperfuge: An ultra-low cost, hand-powered centrifuge inspired by the mechanics of a whirligig toy | bioRxiv
おわりに
本当なら個別の記事で一つ一つの論文を紹介したかった。今後も個別記事で紹介する時間の余裕を確保するのは難しいので、少しずつ書けるようにしたい。けど難しいだろうなあ。