昔々あるところで、おじいさんとおばあさんが、ベースキャンプを構えていました。周辺では、伝統的な休耕田サイクルが存在し、水田の水路は自然護岸により高い生物多様性が維持されている里地でした。周辺は二次林ながら、植林地帯は一部で常緑樹林と一部夏緑樹林とが交じる森が広がっていました。
おじいさんが山に薪炭採集と毎木調査とシカの密度調査、おばあさんが川に環境DNAと水質の定期サンプリングに行くと、川上から通常の平均値を大きく上回るなんてものじゃない、ともかく巨大な桃が流れてきました。
「こんなサイズの桃は見たことがない。ゴール(虫瘤)?中に新種の寄生蜂(きせいほう)でも入っているかもしれない。リンゴツバキじゃないから共進化モデルは関係ないわね。ありえないかもしれないけどこのサイズ、社会性コロニーが出来ているかも。だとしたら興味深い。持って帰って、調べてみましょう」
おばあさんが桃を家に持ち帰り、只の鉈を使って、フィールド屋の思いっきりの良さで適当に真二つにしたところ、中から寄生蜂ではなく、赤ん坊が羽化じゃない、出てきました。お爺さんとお婆さんの遺伝子は共有していないのは明らかなので、二人の繁殖成功度、包括適応度に変化はありませんでした。
「この子の名前は、そう、研究者は適当な思いつきで名前をつけるので、似たような昔話にあやかって『桃太郎』にしましょう。オス(male)の仔だからM-1にするより、学会ではきっとウケるわ。」
離乳期は終わっていたのか、周辺環境から餌資源を調達して育てると、桃太郎は二人が予想したGompertz曲線でいうヒトの成長速度係数を超えて、ボディサイズを大きくして成長していきました。発育の方は、第二次性徴がボディサイズに合わせて見られるようになりました。
ある日、桃太郎は言いました。
「ここまで遺伝子共有していない僕に対して熱心なparental careをしてくれてありがとう。僕の親は托卵型の一族です。ちなみに、桃の中に胎児を埋め込む方法を作者は思いつきませんでしたので、ご想像におまかせします。」
「托卵型哺乳類とは、想像もしていなかった。やはり新種だった?」「短報レベルでもかなり受けそうだな。この歳までフィールド歩きまわっていても、見たこともないぞ。」
「ええと、いきなり本論ですが、鬼ヶ島という島が、オニとかいう有害超獣によって、生態系被害と農業被害を受けています。それだけでなくかなり凶暴で、人的被害も出ているそうです。捕獲許可の仕事を取ったので行ってまいります。」
桃太郎は、お爺さんにツェルトとキャンピングコンロなど一式を借り、おばあさんにペミカンと自家製のアルファ米を作ってもらうと、ザックに詰め込んで、鬼ヶ島へ出かけました。
旅の途中で、イヌに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼捕獲に行くんだ。」
「私はモンキードッグと巻狩などの猟犬の両方をこなせる特殊犬です。猟犬も余計な吠え声を出さない忍び猟サポートや、レジャーハンティングの巻が利用の犬には真似出来ない、特殊な周回追い込みも出来ますよ。ザックの中のペミカンを1つ下さいな。お供します。」
「分かった、君の装着しているドッグマーカーは国内電波法準拠のやつだな。おいで。」
イヌはペミカンをもらい、桃太郎のおともになりました。
そして、こんどはサルに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼捕獲に行くんだ」
「それでは、ザックの中のアルファ米を1つ下さいな。おともしますよ」
「ところで、君の首に装着してあるGPSはなんで?」
「自治体が間違って装着してしまったものです。一応、火薬取扱資格の要らない遠隔切り離しシステムの付いた国産です。」
「雌に装着しないと君みたいに勝手なところに行くから遊動域追えないのにね。担当者が見様見真似でやったんだろう。」
そしてこんどは、キジに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼捕獲に行くんだ。」
「私は猟友会放鳥事業の生き残りです。狩猟鳥類から、タカ類のように有害鳥獣対策用利用鳥類として、生き延びようと思っています。ザックの中のアルファ米を1つ下さいな。ペミカンでも良いかな。手抜きの軽ローメイトでもOK。おともしますよ。バードアイ型と地上撮影用の2つのWi-fiカメラとを装着しています。ドローンよりも、長時間飛行できますし地上の藪原でも移動できます。警戒されなくていいですよ。」
「AI化したドローンよりも君の方が有能だね。わかった、私のNPO(いつから?)に加わってくれ。」
こうして、ガジェットで武装したイヌ、サル、キジの仲間を手に入れた桃太郎は、ついに鬼ヶ島へやってきました。
鬼ヶ島では、鬼たちが近くの村から盗んだ大量の農作物や現金や生態系内の各種希少生物を並べて、酒盛りの真っ最中です。
「いやー、盗掘したラン科の苗と陸貝、固有種の昆虫の何種か、闇オークションでそこそこの値が付いたわ。」
「霞網も今禁止になってるから、しかけると、面白いほど野鳥が捕れるな。」
「そろそろ、海に進出しても悪くないな。」「その前にウナギの密漁でがっぽりよ。」
「ここの国は密漁天国だからな。レンジャーも武装してないし、逮捕権もない。」
ドローン役のキジから送られてくる映像により上空から、鬼の様子と周辺の地形と植生をつかむと、桃太郎は捕獲の手順を3つの下僕に伝えました。
「罠猟は時間がないので、誘引狙撃を基本に、残りは忍び猟で行く。間違ってもレジャーハント的巻狩じゃないので犬は注意をするよう。一応今回は、全部麻酔銃でとれというとんでもないミッションなので、6mmやクマ撃ちライフルは無用だ。プーチンも使っていたDan InjectTranquilizer rifle一本で行く。薬液はヒグマでも死ぬかもって云うような調剤になっているが、鬼の生理特性、体重すら、よく分からん。こちらも命が惜しい。サルは私に追従して、狙撃後投薬器を装填した銃を私に渡して、空の銃を受け取り再装填。インファイトになるかもしれないから気をつけろ。犬は逃げ散った個体を追って、GPSで位置を伝えろ。キジは地上と空から、全部記録するように。後でスティルで切り出してレポートにまとめる。終わったら慌てなくてもいから特殊鋼ワイヤーで保定して檻罠に引きずり込んで閉める。実はこれが一番大変。ワイヤーで脚をくくって、車のウインチで罠に引きずり込む。」
「ベイト(誘引餌)には何を使うんですか?」
「鬼の好きなものを思い浮かべろ。詳細は企業秘密だ。」
「桃太郎さん、最終捕獲頭数は何頭ですか?」
「特定外来生物にまだ指定されていないから絶滅させるのは問題になる。よって、取り敢えず怪我もさせない安全捕獲だ。日本固有種の可能性もあるし、史前外来種という可能性もある。」
「適正捕獲数とかもなんにもわからないんですよね。」
「捕獲一回目だから。個体数推定も無理。ベイズ法ではまだ出せていない。状態空間モデルは、捕獲後の楽しみだ。simOniによるレスリー行列シミュレーションでは、性比や一腹産指数が分からんし、そもそも古文書を調べても雌性がほとんど見当たらんとのことで、OSRもへったくれもない。繁殖集団ではない可能性がある。逆に単為生殖していたらやだなぁ。分布予測はMaxENTでみてみたが案外人家に近いところにいる。とりあえず、全部捕る勢いでやる。生存可能性分析PVAは後でよろしく。」
と、桃太郎はザックの中からMacBook Proを取り出してQGISを立ち上げると、地形、植生等情報の入ったマップを三匹に見せました。
「奴らの塒の位置はここ。誘引餌の地点はここ。水涯線の起点にある。」
「桃太郎さんなのに、リンゴのパソwww」
「Macだとエミュレータで回せばWindowのソフト使えるからそれで良いのだ。OpenBUGSも走る。Macだとな、例えばこれは海外のアナグマの研究者が作ってSE/30で走っていたホームレンジ解析ソフト、こっちが現役のMacで動くコーネル大学の鳥類学研究室の音声解析ソフト、登録すればフリーだがカンパを送ってくれ、後でコーネル大から薄いけど凝った雑誌が届くぞ。・・・これが、・・・」
「Macだと、、、話が逸れていってます。桃太郎さんまさかのマックヲタ!?」
「そういうことはどうでもいい、いくぞ。鬼は強いぞ。ヒグマよりも凶暴で知恵も回る。怪我のないように。最寄りの獣医クリニックのマップの位置と連絡先はここ、私に何かあったら人間用の救急指定病院はここだ。事故を起こすと捕獲作業停止になるから無理はしないように。」
桃太郎が言うと、3匹は各自のデバイスのチェックを始めました。
夜、1人と3匹はいよいよ鬼ヶ島に上陸しました。鬼が島を環境遺伝子汚染、外来種を持ち込まないように事前洗浄してキジ以外は海を泳いで海岸にたどり着きました。鬼たちは酒宴を終えて、酔いつぶれて寝ているのや周辺をうろつき出したものなど、棲家の明かりは全て消えて真っ暗でした。
「桃太郎さん、我々は、暗視能力はそこそこなので。何か見えます?」
「第*世代の暗視装置をサルにも廻す。各自の位置は相互通信式GPSで把握するよう。それ、かかれ!」
「ラジャー!」
事前の地形データからポジショニングした誘引地点と射撃位置は適正で、効率的に鬼を眠らせていきました。イヌは逃亡した鬼に対して円周を描きながら探索、追跡し、桃太郎の方に誘導しました。おかげで、撃ち漏らしなし。
サルは、最初は麻酔銃運搬と投薬器を装填だけをしていましたが、最後の方は自分でも撃ったりして、桃太郎と同程度のスナイプが出来ることを証明しました。射手が二人になったのはありがたいけど、無資格なので内緒(そもそもサルが麻酔銃の射手としての資格取れるか微妙)。射撃動画は後で丁寧にカットされました。キジは上空を林床を縦横無尽に動き回り、彼らを撮影、フォローしました。野鳥はドローンと違って全然警戒されません。
そして桃太郎は、動物園での数十頭単位で偶蹄類を眠らせたバイトも、ここまでと云うほどの投薬機の連射。バタバタと投薬器が刺さった鬼たちが、次々に倒されて、昏倒していきます。
一度、投薬器の液漏れで、昏倒しない鬼が凄まじい勢いで桃太郎に襲いかかってきましたが、そばに居たキジが、古典的記述通り、鬼の目を嘴で突き、後ろからサルが麻酔銃でとどめを刺しました(なんか違う)。これらは全てキジに装着した迫力のライブ映像でネット回線を用いて配信、ベースキャンプのパソコンでお爺さんとお婆さんが捕獲作業を見守っていてくれたらいいけど、只の桃太郎の願望で、そこまでの装備は、予算では無理でした。
とうとう最後に鬼のアルファ雄が、
「まいったぁ、まいったぁ。降参だ、助けてくれぇ」
と、手をついてあやまりながら、深い眠りにつきました。後ろからサルにヒグマでも死ぬだろうレベルのケタミンの濃いのを打ち込まれたのです。
桃太郎とイヌとサルとキジは、檻罠の施錠を確認すると鬼から取り上げた宝物を戦利品のジムニーに積んで、元気よく家に帰りました。捕獲した鬼については、最初からの契約で、処理業者に任せることにしました。
後は、センサーカメラを大量に仕掛けて、残存個体をモニタリングしましたが、今のところ、捕獲から逃げ切った個体は居ないようです。
おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事な姿を見て大喜びです。現地、生態系も盗掘や勝手な伐採によるダメージから回復し、農業被害はなくなりました。そうです、有害「超獣」捕獲と違って、鬼を何頭捕まえたかではなく、捕獲効果の評価とモニタリングこそが、ミッションの本懐だからです。
その後、お爺さんとお婆さんと桃太郎は「契約では僕ら捕獲現場担当だから」と犬、サル、キジのアシストをもらえず、捕獲後のレポート書きと学会発表用アブストと桃太郎自体出自を記載した短報のアクセプトで苦労したそうです。「学会を愚弄するのか。ありえね~、『ムー』にでも載せればwww」とレフェリーに返されてしまい、諦めて、ムーとかが参考文献に入っている「論文」でも掲載してくれる某大学某学部の紀要に載せることにしました。
処理業者への委託費が思った以上にかかるかと思ったのですが、実は、その後で、鬼を使ったテーマパークが大人気となり、桃太郎も呼ばれて講演会などを行い多少なりとも利益は還元されました。とりあえず、めでたし、めでたし。
なんか、初夢の夢見があまりよろしくなくて、阿呆なネタでも書いて発散しようとしたら、思いのほか長くなってしまった。正月早々、こんなエントリに時間をかけてみて、かなり阿呆であると思ったが、後悔はしていない。おかげで、初詣には大吉が出た。この前、大吉が出たのはいつだったろうか。ほとんど記憶に無い。末っ子は2年連続。世の中にはそういう奴も居る。
エントリのネタ元は、分子生物学用語だらけの桃太郎
この手の桃太郎ネタではなんといっても、
もしも矢沢永吉が桃太郎を朗読したら
が一番の傑作だと思う。比類なき才能を感じます。書籍化されちゃったようだし。
自分のは、大して面白くないけど、他のエントリにはない、タイトル分野の意地でオリジナルの猿犬雉の画像付だっ(ドヤ。
本年もよろしく。
ああいいアイデアですね。最後にチコを登場させ、犬、サル、キジより、猫は役に立つみたいな話にすればよかったです。これをプロトタイプとして、加筆修正、推敲して・・・・・エンドレス。