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恋姫†異譚 作者:桜惡夢
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−1話 転生ですか?


眠りから目覚める時。
その感覚を人は、どの様に表現するのだろうか。

水中や水底から、水面へと浮かび上がる様に?
深淵の闇の中に淡く浮かぶ薄明かりが広がる様に?
電源を入れた機械に電気が通り巡っていく様に?
冷めていた身体に、暖かい一杯のココアの熱が染みて温まる様に?
テレビを付ける様に?
意識という一滴が身体へと落ちて波及する様に?

その表現とは多岐に渡り、多種多様であるだろう。
同じ人物が表現をしても、その時の本人の有る状況や心情、経験・知識、立場等様々な要因によって違い、異なってしまうだろう。

それは仕方が無い事だ。
誰しもが“不変”のままで在り続ける事は出来無い。
生命が生命である以上は、必ず“変化”を伴い生きて存在するのだから。

生から、死へと。
全ての命の旅路は始まりと終わりが決まっている。
それだけが、不変。
唯一無二の、絶対的な理。
それ故に、時として真理は弱肉強食だと言われる。

生は死を内包する。
生命とは他の命を糧として生きてゆく命である。
それはつまり、全ての命は他の命の死を自らに内包し生きてゆく事である。

命を奪う事を悪とするなら全ての生命は悪を為す事で存在している。
故に、自然界に於ける命は生存競争を伴いながらでも共存する事が出来る。
他の命こそが、自らの命を存在させるのだと。
そう理解しているから。

それが出来無いのは人間。
人類だけである。
人は“知能を得て進化した高度な生命である”等と、偉そうに宣う。
けれど、本当にそうならば何故、人間は人間同士にて争い、殺し合うのか。

一つの答えとして、こうは考えられないだろうか。
人間とは知能という欲望を進化させた生き物だと。
不必要なまでに欲望を高め生物としては退化している愚かな生命。
それが、人間ではないか。

人間が人間たる要因とは、その身に余る過度な欲望を懐くという点だろう。
他の生命では有り得ない、異常性なのだから。
しかも、それは他の生命を侵食している。
野生の動物よりも、人間に飼育されている動物の方が“強欲”に為る。
それは人間の環境に対して適応しようとした結果だと言う事が出来るだろう。

つまり、人間の影響力とは時には生命の在り方までも捻曲げ、歪めてしまう。
犯罪者を生み出すのは常に人間でしかない。
その事実が、人間の愚かな確固たる証拠だろう。

人間は考えるべきだ。
己の行動が本当に正しく、善き物であるのかを。


「──うん、長ったらしい御託はいいから
とっとと起きてくれる?
それとも永遠に眠る?」

「あ〜、はいはい…
起きますよ、起きれば──すすっ、すみませんっ!
起きますっ!、もう直ぐにパッチリバッチリキッチリ起きますからっ!!
だから、その何か物騒なの仕舞って下さいっ!!
お願いしますからーっ!!」




与梨 貴斗、26歳。
起床しました。

目の前に広がるのは何処の社長室だと思ってしまえる位に豪奢な一室。
しかし、壁が無い。
窓も無い、天井も無い。
なのに、部屋だと思うのは如何な物だろうか。
因みに、視力は自慢するが両眼共に2.0だ。
ちょっとした風の悪戯でのパンチラだって見逃さない動体視力も有る。
どうだ、羨ましいだろ。

──というのは置いといて社長室っぽい部屋?に有る大きな机に向かっている、一人の少年?が居る。
もしや、ショタ社長か?
だったら上手く取り入って甘い汁を吸いたいな。


「こう見えても、君よりは歳上なんだけどね
後、私は大人の女だから」


自分で“大人の”だなんて言う辺り、子供な証拠だと思いますけどね。
まあ、お約束的な振りなら乗っかりますけど。
今は自重しますか。
にしても、あれだな。
何と言うか、最悪の目覚めを迎えました。


「…逝くかい?」

「すんませんしたぁっ!!」


その場でジャンピング・ザ・土下座を決める。
技術点・芸術点共に世界でトップクラスの得点が出て可笑しくはないだろう。
何故なら、俺は日本人。
世界一美しい土下座をする日本人なのだから。


「君、大いに謝りなさい、日本人の皆さんに」

「いや、でも…」

「え、何?、自分の過ちも認められないの?
下衆なの?、愚図なの?、人として失格なの?」

「あ、す、すみません…」

「は?、聞こえないよ?」

「こ、この度は、日本人の皆様のイメージ等を損なう様な軽率な発言を致し──って、言ってないよな?!
俺、口に出してないよね!?
だったら、何で俺が此処で記者会見みたいに謝ったりしなきゃなんねーんだっ!!
巫山戯んじゃ──」

「世は情報社会だよね?
“表現の自由”は有るけど同時に責任も有るんだよ?
騒ぐだけ騒いで煽り立てて引っ掻き回して放置をする無責任なマスコミさん達の様な屑に為りたいの?
彼等は地獄行きだよ?
判ってないんだよ?
自分達の罪の深さが?
ねぇ、君も同じなの?
同じなのかな?」

「………ち、違います」

「ふ〜ん…ま、そういう事にしておいてあげるよ
でも、二度目は無いよ?」

「サー、イエッサーッ!」


土下座から即座に起立し、ビシッ!、と敬礼を決めて目の前のロリっ娘に対して敬意と服従を示す。

──って、うえぇっ!?
今何か、右耳の直ぐ側を、ヒュン!、って通過した!
ヒュン!、って鳴った!
えっ?、えっ?

ニッコリ、と笑う目の前のろr──美少女に対して、二度と失礼な事を考えない様にしようと心に誓う。




「さてと、漸く正面に話が出来そうかな
与梨 貴斗くん」

「…え〜と、すみません
間違っていたら失礼ですが──初対面ですよね?」


少なくとも、目の前に座る美少女に見覚えはない。
いや、何て言うか、彼女は現実的な美少女ではない。
何方らかと言うと二次元の──漫画やアニメ、ゲームといったキャラクター達の様に、無駄を削ぎ落としたみたいな印象を受ける。
しかし、造り物ではないと一目見て判る。
だから、奇妙な感じだ。
見覚えは全く無いが。


「へぇ〜…うん、面白いね
君の考えは間違ってないよ
私は…君の知識で言うなら“神様”的な存在かな
別に、そういう存在だって訳ではないんだけど…
んー…“魂の管理者”って言った方が早いかな
因みに、名前は有るけど、理解が出来無い言語だから省かせて貰うね」

「はぁ…」


気の無い返事をしてしまうけれど仕方が無いと思う。
急展開過ぎて、思考がまだ追い付かない。


「──あれ?、これって、もしかして神転展開?
異世界チートライフ?」

「…思考が追い付かないで追い越してるのは凄いね
でもまあ、正解かな
それと似た様な物だよ」


マジでっ?!、大逆転で俺、人生勝ち組じゃん!
ヒャッホーイッ!!


「ああ、因みに私のミスで死んだとかじゃないから
君の死因は脳梗塞ね
若いからって健康管理とか適当で、不摂生してるからそうなっちゃうんだよ?
少しは反省しようね?」


お前は俺の母親か。
思わず、そう言い掛けるが何とか堪えた。
まあ、さっきから人の思考読んでるから無意味だとは思うけどね。
でも、流石に反省しよう。
来世は健康管理を頑張って長生きするんだ。


「良い心掛けだね
健康は大事だよ
長生きの秘訣は如何にして健康を維持するかだから
勿論、心身共に、でね
身体が健康でも心が病むと結局は身体が弱るからね
病は気から、って事だよ
健全な心は健全な生活から培われる物だからね
まあ、最近は人間社会自体が病んでるからね〜…
真っ当に生きていくだけで大変だったりするから道を踏み外す者も多いし…
嘆かわしい事だよ
でもね、そんな時代だから真っ当に生きているだけで価値が有るんだよ?
そして、報われる事が有る
例えば、今の君みたいに
特別な事なんだからね」


そう言った少女?の笑顔にちょっとだけ、ドキッ!、とした事は言わない。
読まれても、言わない。




「それじゃ、詳しい説明に入ろうと思うけど…
何か聞いて置きたい事とか有るかな?」

「あー…家族の反応は?」

「太ってるから糖尿だって事は無いし、筋肉質だから骨粗鬆症じゃない訳じゃあ無いって事だよね〜
私達も健康には気を付けて長生きしないとね」

「うん、流石は我が家族」


何故か上手い母の物真似に感心しながらも、悲観せず反面教師の様に教訓として生きていく家族の姿勢には“らしいな”と安堵する。
号泣されたり、“だから、いつも気を付けなさいって言っていたでしょうが!”なんて風に泣き叫ばれたりしていたら後味が悪過ぎるからな。
死んだ身としては、自分の死を悲しむよりも前向きに生きて欲しいから。
あ、でも、犯罪とかに因る死亡は別だけど。
もし、自分が何かの犯罪で亡くなっていたら、自分の死を無駄にせず、再発防止だとか法律の整備・改定・新設に繋げて欲しいな。
同じ被害者が出ない様に。


「…意外に正面なんだね」

「フッ…惚れたか?」

「ごめん、無いから」

「ハート・ブレイクっ!」

「で、君の今後なんだけど選択肢としては二つ
記憶・人格を消去した上で元居た世界の輪廻に従って生まれ変わる場合
これは最短でも百年掛かる訳だけど…まあ、判らない以上関係無い事だね
もう一つは異世界への転生になるね
因みに、こう遣って転生が許可されるのは、百億人に一人だから貴重だよ」


宝くじの比じゃないな。
…ん?、ちょっと待てよ。


「あれ?、こういう時って“天国でのんびりと〜”な選択肢じゃないの?」

「あー…天国なんて場所は存在しないよ?
私達の居る場所を称すれば天国かもしれないけど…
人間の魂が留まれる所じゃないからね
自殺──と言うか、完全な消滅を望むなら、それでも構わない──」

「異世界転生でファイナル・アンサーッ!」

「清々しい反応だね
先ず、転生先は選べないし私達にも判らない
でも、現在の記憶や人格を保ったままで行けるから、もしかしたら知ってるって可能性は有るかもね」

「更に倍率ドンっ!?」

「選択肢可能な事は性別、赤子から始めるか子供から始めるか、この二つだけ
そして、一つだけ転生時に所謂“特典”を受け取る事が出来るよ」


キタこれキターッ!!
待ってました、チート!。
さて、何にしようかな〜。




「容姿や家柄・地位とかも特典の内に含まれるけど…
君は気にしないか」

「容姿には恵まれたいけど一つだけなら論外だ
逆に容姿の所為で波瀾万丈な人生を送る可能性だって有り得るからな
生きる為の能力、この一択しかないだろ」


問題は何にするかだ。
既存か?、オリジナルか?或いは改良型か?、くそ、悩ましいな。


「──あっ、そうそう
その特典って、新しく行く世界の在り方に反したのは適用されないからね?
希望は自由だけど実質的に無いのと同じに為るから」

「何ですとーっ!?」

「いや、当然の事だから
態々、世界の秩序等を乱す要因を作ると思う?
“私のミスで〜”なんて事だって有り得ないから
有った場合には、対象者の存在自体を消滅するだけ
世界に歪みを生む程重要な存在の扱いを間違える事は先ず無いしね
抑、私達の仕事は死者達の管理だから、現世に関わる事自体が無いもの
だから、ミスで死亡なんて事自体が起きない訳
そういう風に造るんだから貴方達人間の展開は都合が良過ぎて当然だしね」


…至極、最もな事ですね。
反論の余地も有りません。
まあ、そんな事なんて今はどうでも良いんだけど。

遣り直しが利かない事だし真剣に考え無いと…いや、ちょっと待て。
確か、“希望は自由”って言ってよな?
──て事は、基本的に特典自体に制限や可能不可能は無い訳だよな?
要するに、行き先の世界の在り方の内でなら。
たった一つ、でも無制限。
後は、どう考えるかだ。


「…………よし、決めた
俺が特典に望むのは──」


考え抜いた特典を引っ提げ俺は新たな人生を歩む為、光に包まれていった。

クククッ…待ってろよっ、マイ・ニュー・ライフ!。
新たな伝説(おれ)が華麗に世界を賑わせてやる!。



 other side──

一仕事を終え、一息吐く。
百億人に一人の確率でも、私達が管理する世界は別に彼の居た世界だけではなく宇宙規模で見れば、意外とよく有る事でしかない。
しかし、大体は面倒な者で気疲れしてしまう。
実は、選ばれる確率自体は同じだが、善悪老若男女種問わずに選ばれる。
基本的に平等な抽選だから仕方無いが、時に担当者の運の悪さも影響するのか。
そういった輩が続く場合も珍しくはない。
まあ、大体は他の者からも苦情が出て、担当者が交代させられるけどね。

今日の彼は少し馬鹿だけど楽しい相手だった。
久々の当たりだろう。


「入るぞぃ」

「あれ、お祖父様?
どうしたの?、と言うか、腰は大丈夫?」


私の部屋に入ってきたのはぎっくり腰で休養している筈の祖父だった。
あっ、因みに階級は祖父が上だから上司になる。
孫娘には甘いけどね。


「良くはないんじゃがな、片付けねば為らん事が一つ有ってのぉ…
ほれ、お前さんも多分話は聞いておるじゃろ?
例の“ミストルティン”の件じゃよ」

「ああ、この間漸く見付け出してきた…」

「うむ、その者の魂を送る為の書類が途中でのぉ…
時間も無いし、早く呼んで使命に関する説明もせねば為らんのじゃが…
どうも皆の方に割り振った書類に紛れた様でな
探して居るんじゃよ」

「また厄介な事を…
それで、その人物って?」

「うむ、名は与梨 貴斗
第1087L553EOの三次元宇宙の地球出身で、脳梗塞にて死亡して貰った26歳の青年じゃ」

「……………」


──え?、今何て?
え?、お祖父様、マジ?


「嘘ぉおおおぉーーっ!!??
その子ってば、私がさっき送っちゃったよ!?」

「な、何じゃとぉ!?」

「だってだってだってっ!!
書類は普通だったし!
特に可笑しな所なんか全然無かったし!」

「それはまだ儂が書き掛けじゃったからじゃ…
…送ったという事は特典は持って行ったんじゃな?」

「う、うん…」

「…行き先に関しては既に決まっておったから其処は問題は無いのじゃが…
どう遣って彼の者に使命を果たす為には必要不可欠な“アレ”を渡すか…
これは困ったのぉ…」

「他の誰かに持たせて同じ所に送り込むとかは?」

「無理じゃな、同じ世界に同時期に転生者が重複する事は赦されておらん
無用な争乱や闘争を避ける為に設けた規定で有る事は知っておるじゃろう?」

「……っ…」

「特典は…これか…
ふむ…これならば直ぐには死にはせんか…
“禍津靈”が動くまでにはまだ猶予も有るが…
可能な限り急ぎ何かしらの手を講じなくてはのぉ…」



──side out


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