12月12日、ゲーム業界の恒例イベント「黒川塾(二十弐)」がデジタルハリウッド大学大学院駿河台キャンパスにて行われました。今回のテーマは「ゲームミュージックの軌跡と奇跡」。今年発表されたドキュメンタリー番組『Diggin' in the Carts』では、日本のゲーム音楽の歴史が貴重な証言とともに世界中に紹介されましたが、今回は番組に出演した著名なコンポーザーと評論家の5名がゲストとして出演しました。
土屋昇平氏は2003年にフロム・ソフトウェア入社。『アーマード・コア ネクサス』や『METAL WOLF CHAOS』などに参加した後、2008年にタイトーに入社し、同社のサウンドチームZUNTATAに参加。看板タイトルとなるPSP『ダライアスバースト』でメインコンポーザーをつとめました。現在ではタイトーに留まらず、様々なゲームに楽曲提供を行っています。
ローリング内沢氏は1970年生まれのフリーランスのライター・編集者です。『週刊ファミ通』の編集者を経て、2000年よりフリーとして活動。ゲームのみならず、クラブミュージックやグラフィックデザインなども手がけています。『Diggin' in the Carts』では出演及び制作協力を行っています。
Hallyこと田中治久氏はライター兼、コンポーザー・音楽プロデューサーです。チップチューンという言葉を日本にもたらしたゲーム音楽史の第一人者。自らも「カミシモレコーズ」を主宰し、楽曲制作やライブ活動を行っています。『Diggin' in the Carts』では解説者として出演しています。
まずは今回のきっかけとなったドキュメンタリー番組『Diggin' in the Carts』について、内沢氏が説明しました。エナジードリンクで有名なレッドブルは「レッドブル・ミュージックアカデミー」という音楽家支援のイベントを1998年から行ってきました。16 回目を迎える今年は10 月12 日~11 月14 日まで東京で開催され、様々な講演やイベントが行われました。その中でも日本の音楽の独自性としてゲーム音楽にも焦点が当てられ、制作されたのがこのドキュメンタリー番組です。プロデューサーはニュージーランド出身のニック・デュワイヤー氏がつとめ、制作協力として内沢氏やHally氏といった国内の識者に声がかかりました。
また崎元氏のゲーム音楽のモットーは「音数が少ない方が偉い」というのもの。すぎやまこういち氏の譜面の打ち込みを担当していたとき、音数が少ないにもかかわらず、その表現力の豊かさに驚いたそうです。土屋氏もこれに同意し、音数の少なさはゲーム音楽らしさの重要な要素だと語ります。また内沢氏によれば、『Diggin' in the Carts』のプロデューサーのニック氏は音数の少ない日本のゲーム音楽を折り紙や生花といった日本文化にたとえて語っているそうです。
最後に一人ずつゲストからのメッセージでイベントは幕を終えました。Hally氏と内沢氏は『Diggin' in the Carts』も含めて、今後は次世代にゲーム音楽の素晴らしさを伝えていくのが課題であるそうです。土屋氏はゲーム音楽が技術的な制約から解放され、アニメや映画といった他の劇伴音楽と変わらなくなったため、今後は作家性が重要になると述べています。川口氏もゲーム音楽の特徴が失われた結果、同じ方法性のものが多くなったため、今後はディレクターに負けないカラーが必要だと述べています。崎元氏は当時、手探りで進めた音楽が現在では高く評価されていることに戸惑いながらも、感謝しているそうです。