自動車業界をはじめ、あらゆる業界から活用方法に注目が高まっている人工知能・AI(artificial intelligence)。そんな中、麻雀AIの開発に挑んでいる大学院生がいる。未来のテクノロジーと言われるAIが、麻雀においても人間を凌駕する日は来るのか。開発者、水上直紀さんに話を聞いた。
水上直紀(みずかみ・なおき)プロフィール
1989年、石川県生まれ。AB型、おうし座。東大大学院工学系研究科電気系工学専攻融合情報学コース。趣味はボードゲームとギター。自身の好きな役はクイタン。麻雀AI『爆打』(ばくうち)が好きな役はリーチ。
麻雀AI開発のきっかけは?
「大学でプログラミングの授業があり、これはしっかり学びたい。そんな直感がありました。でもプログラミングを覚えるために、教科書を読んだりするより、遊び感覚で課題を試せるものがいいなと。そこでパッと浮かんだのが麻雀でした。好きだしよくやっていた麻雀を通じて、アガリ形を見つけたり、役の判定をプログラミングするのがちょうどいい勉強になりそうだと思ったんです」
「そんな矢先、大学3年だった2011年、衝撃を受けたんです。当時、日本将棋連盟の会長だった米長邦雄永世棋聖が、世界コンピューター将棋選手権の優勝ソフト、ボンクラーズと対戦した第一回将棋電王戦です。麻雀でもやれるんじゃないのかと思いました」
麻雀におけるプログラミングとは?
「プログラミングとは、ひとことで言えば〝仕組み作り〟です。こういう処理をしてくださいとコンピュータに入力すると、答えを導き出してくれるというものです。麻雀プログラミングに関して自分の場合はまずアガっているのかアガっていないのかを判定するプログラムを作りました。次にすべての役を判別していくわけですが、七対子はわかりやすい。ピンフは難しい。ピンフは形優先ではなく、成立する条件があるので。しかも麻雀はルールの統一がなく、矛盾や例外も多いのもやっかいでした。ルール作りやシャンテン数作りだけでも1年以上はかかります。そういった基礎的なプログラミングを作っても活用されないと意味が無いので、オンライン対戦麻雀ゲーム『天鳳』のルールに合わせてプログラミングを行っています」
「麻雀AIのメイン、いわゆる脳の働きの中心は〝計算〟になります。盤面を見ることがインプット。打牌はアウトプット。打牌とは視覚に対する反応なので、基本的に計算した上での答えというわけです。だから相手の手牌読み、山読みを推理することも端的に言えば計算です。そういった点では、記憶力は人間より正確になるわけです」
AIを取り巻く現状とは?
「AI分野においては、機械学習(マシーンラーニング)のカテゴリーが注目されています。機械学習とは、人工知能プログラム自身が学習する仕組みです。2016年3月、囲碁界ではAIが、2016年3月に世界チャンピオンだった韓国のイ・セドル九段に勝利し、世界的に話題になりました」
『爆打』ネーミングの由来は?
「自分の所属している研究室の先生が開発されているコンピュータ将棋ソフト『激指』がありまして。麻雀だから『激打』にしようと思ったら、同名のソフトが存在していたんです。それなら『爆打』でというのが由来です(笑)」
『爆打』の打ち筋にはどういった特徴が?
「超攻撃型です。テンパイ後のリーチ率を見てみると24.8%。4回に1回はリーチを打っているわけです。放銃率は12.9%と若干高いかもしれません。でも、アガリ率のほうが断然高いわけです。副露率も高く、全般的にアガりに向かっています。もちろん全ツッパ麻雀ではなく、ベタオリする局もあります。その基準は、攻めるよりもオリたほうが価値が高いと『爆打』が決断しているからです。フリ込んでしまうと持ち点が減るだけなので、オリるほうが賢明だと判断しているわけです」
「また『爆打』はいわゆるモロ引っ掛けを極端に嫌う傾向があります。牌譜から学習しているということは、リーチ宣言牌に関連する牌はアタリ牌となる傾向が多いと判断しているのかもしれません」
▲『爆打』2016年11月1~30日のデータ。天鳳ユーザーの平均リーチ率は1割5分前後。『爆打』は2割超
AIに開発者の思いや嗜好は反映されるものなんでしょうか?
「もちろん反映されます。自分の使っている定石だけをインプットすれば、そこに特化することになります。ただ私の場合は、決めつけないことを意識しています。麻雀はシンプルにしてしまえば、いくらでも決めつけて出来てしまいます。要するに決めつける方が楽なわけです。たとえばテンパイしたら即リーチなのか否か。リーチ条件を列挙してインプットするのは簡単です。でも内容の濃いシミュレーションを増やし、その上でリーチするのか否かを、多角的に判断させたい。テンパイした段階で手変わりを待つのか否か、押すのか、引くのか等。あらゆる状況に合わせて、賢い判断が出来る環境を整えてあげることが私の役割です」
▲テンパイ即リーチをリーチしなくてもよいと設定したら、勝率が飛躍的に向上したという
メンタル面はどう捉えているんでしょうか?
「同卓してくれた天鳳プレイヤーからは、判断スピードが一定でとにかく早いと言われたことがあります。相手が3副露していても瞬時の打牌選択スピードは変わりません。相手から見れば迷いがないと感じるわけで、メンタルが強いというより、常に一定です(笑)」
「終始一貫して手牌と盤面を状況判断したうえでの選択を繰り返すので、今まで常識とされてきたことが間違っていたと気づかせてくれる部分はあります。前例や常識、相性や先入観などに左右されることは一切無いので、固定概念に捉われることもありません。いろんな可能性があるんだよということを『爆打』が冷静に教えてくれているんだと思います」
『爆打』の行き着く先とは?
「麻雀に解はあるのか? それをずっと問い続けています。4人ゲームなので相手は3人。手牌も山牌も見えない中、一打一打が自分にとって正解なのかどうかは常にわからないわけです。お互いが死力を尽くして最大限マイナスにならないように対局することもあれば、自分より弱いターゲットを見つけて徹底的に狙うことも考え方としてはあるわけです。相手が自分より強い場合は、徹底的に守ってミスを減らすことを強さとも言えます。でも相手に合わせて打つのは、対戦者の情報がある程度わからないと対策が立てられません。将来的には相手のデータをわかったうえで戦えたら面白いですね。何十年かかるんだって話ですが」
「ただ試行回数だけで言えば人間は月200局、頑張っても年間2400局。『爆打』は24時間フルに打てば月に1500局、年間1万8千局打てます。ここから得られる結果をベースに、将来的には『爆打』が打ち手の指針になっていけたら、活用法は広がると思います。『爆打』何切るみたいになっていけたら面白いですね」
水上さんにとって麻雀AIとは?
「そもそも私自身が麻雀好き。強くなって勝率を上げたい。だから、わからないことは強い人に聞きたい。でも身近に強い人がいたとしても、毎局毎局聞けるわけではありません。でも選択した一打が、正着打だったのかどうかだけでも知りたい。その疑問を『爆打』が解決してくれる存在になってくれたらと願っています。最近の『爆打』は、間違いなく私より結果を出しています。嬉しい反面、認めたくはないのですが(笑)」
▲麻雀AI開発はメディア媒体からも注目の的。写真は2016年4月28日発売の日刊スポーツ新聞
インタビューを終えて
「最初はなんでそんな打ち方するんだと、イライラしたこともありました」と語る水上さん。しかし開発から2年目以降、『爆打』はあきらかな進化を見せ、人間が間違いやすいことを教えてくれている実感があるという。麻雀AI『爆打』vs人間。『爆打』が日々積み重ね続けている膨大なビッグデータを読み解いていけば、人間の先入観や固定概念を修正してくれる可能性はとてつもなく大きい。そのビッグデータを分析し、どう活用していくのか。それを考えるのは、人間であることも紛れもない事実だ。
インタビュー・文責:福山純生(雀聖アワー) 写真:河下太郎(麻雀王国)
◎爆打(旧麻雀を打つ機械)公式ツイッター
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この記事を書いた人
- 雀聖アワー代表。マージャン普及を目的とした様々な事業を展開。好きな手役は面前混一色七対子。
雀聖アワーオフィシャルサイト:http://8141.info/jansei/
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