ブランデンブルク門の広場に入るため、検査を受ける市民ら=ベルリンで2016年12月30日、ロイター
【ベルリン中西啓介】ベルリンのクリスマス市(いち)にトラックが突入したテロは1月2日で発生から2週間を迎える。事件を受け、ドイツ国内では公共施設に防犯カメラを増設するよう求める声が高まっているが、ベルリン市はカメラ増設を拒否している。冷戦時代に東西に分断されたベルリンでは、旧東独が作り上げた「監視社会」への嫌悪感が今も市民の間に残り、カメラ設置に慎重な姿勢につながっているようだ。個人の尊厳やプライバシーの保護か、治安確保の徹底か。テロ抑止策を巡り、首都の世論が二分している。
12月19日に起きたテロで、ベルリン警察は当初、目撃情報を基に別人を誤認逮捕。チュニジア人のアニス・アムリ容疑者(24)=イタリア当局が北部ミラノで射殺=を公開手配するまで2日かかった。警察は事件直後からツイッターなどで、事件の動画や写真の提供を市民に求めるなど、捜査情報の少なさが問題化した。
ドイツでは防犯カメラによるプライバシー侵害への懸念が根強い。個人情報保護法は公共施設へのカメラ設置についても「行政機関の業務や侵入者の覚知」などに必要な場合に限定する。厳格なプライバシー保護との兼ね合いから、民間企業もカメラ設置を敬遠しがち。ベルリンでは鉄道駅以外ではほとんどカメラを見かけない。
連邦政府はテロ後、公共施設にカメラを設置しやすくするため、個人情報保護法の改正案を閣議決定した。これに対し、ベルリンのポップ副市長は独メディアに「監視を増やすことはない」と明言。市の治安部門トップも「カメラでテロが防げるわけではない」とし、検察による捜査を見守る姿勢を示した。
ベルリン市は現在、左派系3党が与党。冷戦期、東西に分断された市はリベラル勢力を中心に依然として、旧東独政府の圧政に対し批判的な見方が強い。また、市政最大野党で国政でメルケル氏を支えるキリスト教民主同盟(CDU)が、最近の市議選でカメラ設置を目玉公約にしていたことも、左派系の市議会与党を「カメラ設置反対」に動かしているともみられる。
市内では25日未明、数人の男が地下鉄駅でホームレスに火を付けて逃走する事件が発生。警察が26日に容疑者らの防犯カメラ画像を公表したことで、シリアとリビアから難民として入国していた少年ら6人が出頭、殺人未遂容疑で逮捕された。犯罪捜査へのカメラの有用性を示した結果に、カメラ増設を迫る声は一層強まっている。