- Tweet
- 2016.12.31
1.HIROSHI WATANABE『MULTIVERSE』
2.石野卓球『LUNATIQUE』
3.Oval『popp』
4.Zomby『Ultra』
5.DJ Katapila『Trotro』
6.Jacek Sienkiewicz『Hideland』
7.牛尾憲輔『聲の形』オリジナル・サウンドトラック
8.Daedelus『Labyrinths』
9.Seiho『Collapse』
10.KEITA SANO『The Sun Child』
2016年の年間ベスト・アルバム、洋邦ジャンルを問わない総合ベストは『ミュージック・マガジン』誌で、邦楽のみのベストは『MUSICA』誌で選出している。なのでここでは、テクノ/ハウス/エレクトロニカ系のみに絞ってのベストを選んだ。自分で勝手に線引きして無責任なようだが、こういうジャンル分けも結構曖昧でいい加減なものなので、笑って読んでいただければ幸いだ。
1、2位で日本人の、それもベテランといっていいキャリアのあるアーティストの力のこもった新作を選べたのは素直に嬉しい。フロアへの対応度、アレンジの作り込み、音色の練り込み、ビートの研ぎ澄まし方、どれもアーティストの……というよりは、長年培ってきた日本のテクノ・シーンの歴史と伝統の集積であり、成熟であり、ある種の完成形、到達点を示しているのではないだろうか。特に両作品とも録音が圧倒的に素晴らしく、ハイレゾの恩恵を強く感じたアルバムでもあった。ストリーミング配信サービスの普及で、お手軽リスニングの利便性は圧倒的に向上しているが、その一方で良い音楽を良い音で聴くという音楽鑑賞の原点も、今後は見直されていくのではないか。
その一方でSeiho、牛尾憲輔、KEITA SANOと、新世代のクリエイターたちが着実に結果を残しているのも頼もしい。特に劇伴音楽ながら、音響アートとしても恐ろしく斬新で完成度が高かった牛尾憲輔の『聲の形』サントラは、牛尾にとっても、また映画サウンド・トラックとしても、エポックメイキングな作品だと思う。
キャリア25年にして、素晴らしく新鮮で瑞々しくポップなエネルギーを感じさせるアルバムを作ったオヴァルは、変化を恐れない勇気こそがアーティスト活動の根幹だと感じさせてくれた。エレクトロニカ〜IDM系の大ベテランにしてこのポジティブな変化は、ほかのアーティストに与える影響も大きい気がする。先日取材したマーカス・ポップは、以前と比べるとずいぶん友好的になっていて、彼がとてもいいコンディションで音楽活動に集中できているのがよくわかった。
またガーナの怪人DJキャタピラの一作は2009年に現地発売されたものの世界リリース盤だが、ダンス・ミュージックの世界の今年の潮流でもあった、越境と異文化混合の音楽異種格闘技戦を象徴するアルバムで、これは第二のワールド・ミュージックの波ではないかとひそかに思っている。
候補にあがっていて最終選考で落ちたのはニコラス・ジャー、ジ・オーブ、ライヴァル・コンソールズ、ローン、ロメアー、フローティング・ポインツ、アンカーソングなど。World's End Girlfriendはエレクトロニカという範疇からはみ出しているように思えた(もちろん、いい意味で)こと、またSerph『PLUS ULTRA』も新録ベストということで泣く泣くオミットした。
なお洋邦ジャンル問わず、レコード・オブ・ザ・イヤーを選ぶなら、NxWorries『Yes Lawd!』です。アーティスト・オブ・ザ・イヤーは、アンダーソン・パークとチャンス・ザ・ラッパーに。
では皆様よいお年を。
■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebook/Twitter