東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第15回】 2015年9月5日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

世界一厳しい「新規制基準」が、
世界一アブナイ理由
――広瀬隆×田中三彦対談<前篇>

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第5刷となった。
本連載シリーズ記事も累計145万ページビューを突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、元福島第一原発の原子炉設計者で、現在、翻訳家・サイエンスライターの田中三彦氏と対談。
田中氏は福島原子力発電所国会事故調査委員会の委員をつとめた。
安倍晋三内閣総理大臣の「世界一厳しい基準」が、「世界一アブナイ」理由を紹介する。
(構成:橋本淳司)

「世界一厳しい基準」は
まったくのデタラメだ

広瀬 隆
(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 田中さんは、福島第一原発4号機の原子炉圧力容器の設計に関わった人ですから、元技術者の視点で「新規制基準」の問題点を話してもらいたいと思っています。

田中 多くの人は「新規制基準」に適合した原発は「重大な事故を起こさない」と思いこんでいるようです。
しかし、そうではありません。まったくの誤解です。
 安倍総理が「世界一厳しい基準」とウソの発言をしたり、メディアが「いままでの基準より強化された」と、表面的な報道をしたりするせいだと思います。

広瀬 実際の新規制基準についてくわしく聞かせてください。

田中 新規制基準とは、重大事故を防止するための基準ではなく、重大事故が起きたらどう対処するか、という基準です。ここに根本的な誤解の源があります。

広瀬 つまり、重大な原発事故は起こる、その時どうするか、という内容ですね。

田中 そうです。原子力産業がスタートした時代、日本だけでなく世界中で「原発の重大事故は絶対に起きない」と言われ続けていました。それで数多くの原発が建設されました。

田中 三彦
(Mitsuhiko Tanaka)
1943年、栃木県生まれ。
1968年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。同年バブコック日立入社。福島第一原子力発電所4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。1977年退社。2012年、東京電力福島原子力発電所国会事故調査委員会委員。翻訳家であり、科学評論家、サイエンスライターでもある。
『科学という考え方』(晶文社)、『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、『空中鬼を討て』『複雑系の選択』(以上、ダイヤモンド社刊)などの著書がある。
おもな訳書には、『複雑系』(M・M・ワールドロップ、共訳・新潮社)、『スピリチュアル・マシーン』(R・カーツワイル、翔泳社)、『デカルトの誤り』(A・R・ダマシオ、ちくま学芸文庫)、『無意識の脳 自己意識の脳』(同、講談社)、『感じる脳』(同、ダイヤモンド社)、『たまたま』(L・ムロディナウ、ダイヤモンド社)などがある。

 しかし、1979年にスリーマイル島原発事故、1986年にチェルノブイリ原発事故が発生しました。シビアアクシデント(重大事故)が実際に起きたわけです。

広瀬 欧米では、それを受けてさまざまな対策を講じるようになりましたね。

田中 ですから、シビアアクシデントへの対応として、米国は1994年に、またIAEA(国際原子力機関)は1996年に、5層の「深層防護」という考え方を採用しました。日本は世界のこうした動きを20年間無視してきました。

広瀬 こうした5層の「深層防護」について、くわしく説明してください。5層ができる以前はどのような考え方でしたか?

田中 3層でした。1層の防護とは、事故の原因となるような異常や故障の発生を未然に防止することです。余裕のある設計、厳重な品質管理、入念な点検検査、地震、台風、津波などに耐えられるようにしておくこと、そして地震による大きな揺れが発生したらセンサーが感知して原子炉を自動的に止める、といったことがこれにあたります。

 2層の防護とは、こうした第一層の防護にもかかわらず異常が発生してしまっても、それを素早く検知して事故へと拡大しないようにすることです。
 たとえば、重要な配管から冷却材が漏洩したら検出器が作動して原子炉を自動的に止める、といったことです。

 そして3層の防護とは、こうした第2層の防護にもかかわらず異常が事故へと拡大してしまっても、放射性物質が周辺環境に放出されないように、たとえば非常用炉心冷却装置(ECCS)や原子炉格納容器を設けていることです。

広瀬 それでもスリーマイル島やチェルノブイリで大事故が起こったのです。

なぜ、日本の原発技術は
周回遅れなのか?

田中 こうした3層の防護にもかかわらず、3層を突破して、燃料が損傷したり、メルトダウンが起きたりしてしまう事故のことを「シビアアクシデント」といいます。

 スリーマイルでもチェルノブイリでも炉心が損傷し、メルトダウンや核暴走が起こりました。海外で3層を超えた事故が発生し、日本の大事故対策はこのままでいいのかと問われ続けましたが、結局、日本は無視しました。

広瀬 なぜ、当たり前の対策を無視したのですか?

田中 日本は世界最高の原発技術を持っていると錯覚していたからですよ。天狗になっていた。日本の原発は安全だ、と。昔は米国を師と仰いでいましたが、スリーマイル島原発事故以降原発の新規建設をやめた米国をバカにしはじめた。たとえばこんな話があります。

 福島原発事故で「格納容器ベント」という言葉が有名になりましたね。事故が拡大し格納容器の圧力が高くなったため、格納容器が破裂するよりはと、中のガスを環境中にベント(放出)して圧力を下げようとしました。
 しかし、じつは、東電・福島原発にはもともと格納容器ベント装置なるものはなかった。米国がシビアアクシデント対策の一つとして考えた装置を2000年ごろまでに仕方なく取り付けたものですが、このベント装置に関して、東電はその昔、「日本の原発では事故発生防止を最優先に安全性が高められており、現実に炉心溶融など起こるとは考えられない。現時点では、そのような事故の影響を緩和する対策を講じる必要はないと考えている」などと、偉そうなことを言っていたんです。

 しかし、前に言ったように、米国は1994年に深層防護を5層にする対策を行い、さらに2001年の9.11以降はテロ対策にも力を入れました。テロで全電源を破壊されたときのことを考えたのです。
 あとになって日本の原子力安全・保安院の役人が調べにいったら、「資料は何もあげられない」と言われ、手ぶらで帰ってきています。

広瀬 テロ対策は内部秘密なので具体的な資料はくれない。だから日本は放置してきたのですね。そんな無責任なことがありますか。

田中 スリーマイル以降も、米国に学ぶことをやめていなければ、日本でも3層を超えた対策、つまり本格的なシビアアクシデント対策を行っていたでしょうから、福島の事故は起きなかったかもしれない。日本のシビアアクシデント対策は周回遅れになっていたのです。

住民との重大な契約違反

広瀬 では、たとえば、IAEAモデルの4層、5層というのは、何ですか?

田中 事故が第3層を突破すると、いわば「シビアアクシデント領域」に突入するわけですが、4層は2つの段階に分かれています。
 まずは、シビアアクシデント、つまり、炉心損傷が起きないように事故の拡大を食い止めること。
 もう一つは、それにもかかわらず炉心損傷にいたってしまった場合には、それによる周辺環境への影響を可能な限り緩和することです。

 そして最後の5層というのは、4層でいろいろやったけれどシビアアクシデントの影響を緩和できず、放射性物質を大量放出した場合の、人と環境への放射線の影響の緩和、具体的にはどのように住民が避難するか、要するに防災対策です。

 日本の場合、1~3層はきわめて脆弱で、しかも4、5層はなかったのです。それでも原発事故は起きないと言い続けていました。

広瀬 日本では「原発の大事故は絶対に起こらない」という前提で立地自治体の住民に理解を求めてきたので、原発の至近距離にたくさんの人が住んでいます。フクシマ原発事故では、東京でさえ、われわれが大量に被曝したというのに。

田中 その通り。フクシマ原発事故が起こったので、原子力規制委員会と原子力規制庁はガラッと態度を変えて、原発大事故が起こることを認めました。
 そのときにどう対応するかというのが「新規制基準」
です。

 みな勘違いしていますが、大事故を未然に防ぐという基準ではないですよ。
 原発は「シビアアクシデント」を起こしうる、周辺地域に放射性物質を大量放出する可能性がある、と彼らは認めているのです。

 原発は潜在的に極めて危険であることを認めたというのが、「新規制基準」の基本的立場です。
 これは、重大事故は起きないと言われ続けてきた周辺住民にとって、命にかかわる重大な契約違反ですよ。

広瀬 2014年4月に山本太郎議員が、原発立地自治体の多数の議員さんの代弁者として、新規制基準で事故は起こるのか起こらないのか、イエスかノーで答えろ、と安倍政権に質問主意書を提出して尋ねました。

 住民にとっては100%大事故が起こらないという保証がなければ、再稼働などもってのほかです。
 だから、その明確な回答を求めたのですが、政府は何も答えませんでした。絶対に大事故が起こらないと言えないから、答えられなかったのです。
 新規制基準のもとで、住民にとっては、トンデモナイことが起きているのです。
(つづく)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは?と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い
 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。
 子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

 51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

田中三彦(Mitsuhiko Tanaka)
1943年、栃木県生まれ。1968年、東京工業大学工学部生産機械工学科卒。同年バブコック日立入社。福島第一原子力発電所4号機などの原子炉圧力容器の設計に関わる。1977年退社。2012年、東京電力福島原子力発電所国会事故調査委員会委員。翻訳家であり、科学評論家、サイエンスライターでもある。
『科学という考え方』(晶文社)、『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、『空中鬼を討て』『複雑系の選択』(以上、ダイヤモンド社刊)などの著書がある。
おもな訳書には、『複雑系』(M・M・ワールドロップ、共訳・新潮社)、『スピリチュアル・マシーン』(R・カーツワイル、翔泳社)、『デカルトの誤り』(A・R・ダマシオ、ちくま学芸文庫)、『無意識の脳 自己意識の脳』(同、講談社)、『感じる脳』(同、ダイヤモンド社)、『たまたま』(L・ムロディナウ、ダイヤモンド社)などがある。