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シリコンバレーが戸惑う日本の起業家の質問
ブランドン・ヒル(米ビートラックスCEO)

2016/12/27付
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 先日、福岡市の「グローバル起業家育成プログラム」の参加者がシリコンバレーにやってきて、こちらのスタートアップ(ベンチャー企業)を訪問した。彼らからは日本とシリコンバレーにおける起業に関する様々な質問が寄せられた。シリコンバレーの起業家たちはその多くに快く答えていた。

札幌市生まれ。サンフランシスコ州立大学デザイン学科在学中からウェブサイトのデザイナーとして活躍。卒業後の2004年にブランディング・ユーザーエクスペリエンスデザインを手掛けるビートラックスを設立。趣味はバイク、テニス、ロック音楽。

札幌市生まれ。サンフランシスコ州立大学デザイン学科在学中からウェブサイトのデザイナーとして活躍。卒業後の2004年にブランディング・ユーザーエクスペリエンスデザインを手掛けるビートラックスを設立。趣味はバイク、テニス、ロック音楽。

 だが、シリコンバレーの起業家たちを困惑させる質問もあった。年商や利益、投資総額といったお金に関する質問だ。彼らはけげんそうな表情で「わからない」「知らない」「なぜそのようなことを聞くのか」と応じ、違和感を持っていた様子だった。

 シリコンバレーでは、お金もうけを主眼にして起業する人はそれほど多くない。むしろ、お金もうけを第1の目的にしてビジネスをしている人に対しては、軽蔑に近い感覚を持っている人が多い。

 この地で起業する人が最も重要視しているのが世の中の問題の解決だ。その次にユーザー(顧客)のメリット。お金もうけの順番は最後に来る。イベントなどで初めて会う起業家たちと話をするときでも、開発しているプロダクト(製品やサービス)がどのように役立つのか、世の中にインパクトを与えられるのかが主な話題になる。お金の話を先にしてしまうと「つまらないやつ」と思われかねない。

 米国のフェイスブックやツイッター、レストラン評価サイトのイェルプなど、売り上げや利益をあまり意識せずにサービスを提供し、ユーザーの支持を集め、結果的に株式を上場するような企業は多い。その背景には、彼らのビジョンに共鳴する個人の篤志家(エンゼル投資家)やベンチャーキャピタルからのサポート、そして何よりも世の中の風潮がある。世の中にポジティブな影響を与えられるスタートアップには多くの人の支持が集まり、最終的には大きなビジネスになり得る――。投資をする側もこのことをよく理解している。

 年商を増やし、利益率を高めて、事業や会社の規模を大きくするのが経営者の仕事だ。しかし、それだけにこだわっている人は米国ではあまりクールだとは思ってもらえない。起業家や経営者を評価する基準として、米国(特に西海岸)では、ロマンが重視されるのに対し、日本では、そろばん(収益)が優先されているように思われる。

 イノベーションを起こしたり、世の中を変革したりしようとするスタートアップに、着実な売り上げと利益も求めることに無理がある。まずはとにかく世の中に役立つ面白いビジネスを始めることがシリコンバレーのスタートアップの最大のミッションである。

 起業家が興味を持っているのは、ビジネスを通じてどのような面白いことをするのか、どのように社会に貢献するのか、他の会社とどこが違って、自分たちは何が得意なのかということなのだ。

 日本と米国とでは、社会がスタートアップに求めていることが大きく異なるように思う。日本のスタートアップは経済の活性化(お金もうけ)の担い手として期待されている。

 日本における「稼いだもの勝ち」の風潮が存在し続ける限り、ユーザーや社会に良い製品やサービスを提供するのは難しいのではないか。このような風潮も世界で勝負できるスタートアップが日本からなかなか出てこない理由なのかもしれない。

[日経産業新聞2016年12月27日付]

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