甲子園の2枚の入場券を大切にしているという首藤さん=大分高校で2016年12月8日、安部志帆子撮影
バレエのスポーツ推薦…甲子園を高校3年間の目標に
甲子園球場のアルプス席で声をからしたあの夏から4カ月。私立大分高野球部の元マネジャー、首藤桃奈さん(3年)は中学時代に高校野球に魅せられ、励んできたバレエの道をいったん休んで、甲子園を高校3年間の目標にしてきた。2014年夏と今夏の2度、夢の舞台をナインとともに経験し、残り少なくなった高校生活を送る首藤さんに聞いた。【安部志帆子】
バレエのスポーツ推薦で中高一貫の大分中学に通っていた首藤さんに、転機が訪れたのは中3の7月。夏の大分大会で準決勝に進出した大分高の全校応援に駆り出され、大分市の別大興産スタジアムで観戦した。
懸命にプレーする選手以上に輝いて見えたのは、スタンドの応援団の姿だった。「応援席の端っこにいる私たちの所まで何度も来て、声をかけてくれました。選手も応援も一体になった野球部の姿に一目ぼれでした」
はじめ周囲は本気とは受け取らなかった。しかし首藤さんは、中学の卒業式の答辞でこう宣言して、両親や校長らを驚かせた。
「高校に入ったら、野球部のマネジャーになって、甲子園に行きます」
自分が野球部を甲子園へ連れて行く、というくらいの熱意を込めた。動転した母はビデオカメラで撮影する手が震え、式典後にカメラをどこかへ置き忘れてしまったという。
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進学後、マネジャーになった首藤さんは、選手たちの練習を陰で支えた。中でも、先輩から引き継いだ内野のノック補助には特別な思いがあった。女性マネジャーがノックを手伝うのが同校の伝統。「誰にも譲りたくない、私の居場所でした」。松尾篤監督に次々とボールを渡し、監督が汗を拭いたり指示を出したりするタイミングも、背中を見れば分かるようになった。
高1の夏、甲子園に入っただけで感激の涙があふれた。2年ぶりの今夏は心の中で「お待たせ」と声をかけ、アルプス席で「勝利の女神?」と書かれた野球帽をかぶった。両年ともチームは初戦で敗れたが、2枚の入場券は宝物だ。
「同学年の部員の皆がどんな時も味方でいてくれたから、何があってもここまでやってこられました」
マネジャーを引退し、最近、バレエの練習を再開した。県予選などで球場アナウンスを担当した経験から、世界で活躍するアナウンサーという将来の夢もできた。「話し方をもっと勉強したい」。優しい声を持つ自称・負けず嫌いの頑固者は、次の目標へ決意を秘めている。