【シリコンバレー=兼松雄一郎】米アマゾン・ドット・コムが飛行船と小型無人機(ドローン)を組み合わせた「最速配達」を構想していることが特許申請書類で分かった。「空の倉庫」として商品を飛行船に積み込み、空中からドローンで数分以内に注文者へ届ける。1930年代に米国で使われていた小型戦闘機を飛行船に積み込んで燃料を節約する「飛行空母」の物流版ともいえるアイデアで、都市部での大規模販促への活用を想定している。
アマゾンが申請した書類によれば、飛行船は旅客機の巡航高度10キロメートルから十分な距離を確保した高度13.7キロメートル付近を飛行する計画だ。全長100メートル近い、数百トンを運べる設計にする可能性もあるという。空の倉庫内でも地上同様にロボットや人間による仕分けを想定している。長期間飛行する空の倉庫への商品、飛行用燃料、地上で回収したドローンなどの補充には小型飛行船を使う。
ドローンを空中から地上への配達にのみ使うことで、重力によってエネルギーを節約して配達する。ドローン本体の小型・軽量化によるコスト削減も可能になる。
ただ、使う場面はかなり限定されたものになりそうだ。ドローンの飛行高度は約150メートル以下に厳しく規制される見通しで、航空機の飛行域に入ることは厳しく規制されている。飛行船から地上までの運送のためにドローンが航空機の飛行域を頻繁に縦断するのは危険が大きい。ある程度場所と時間を限定した運用にならざるをえない。
アマゾンは想定される場所としてスポーツの試合を挙げている。食品、書籍、小型IT(情報技術)製品、アパレル製品、スポーツ用品、雑貨、玩具、DVDといった商品について、都市部など特定地域でのキャンペーンに活用する公算が大きい。
例えば、都市部の上空を巨大な広告付き飛行船を飛ばす。キャンペーン中の決まった時間だけ高度を600メートル程度に下げ、その下にいる多数の注文者に商品を数分以内にドローンで一気に届ける。大規模なイベント中に飛行船の倉庫内で調理した食品をすぐに配達することも検討している。
対空砲の迎撃性能が低かった第1次世界大戦の頃には長距離・長時間飛行に向いた飛行船が哨戒などに使われていた。飛行機の性能が上がるまでは大陸を横断する旅客や貨物の輸送にも使われた。
1930年代には、米海軍が小型戦闘機を収納した飛行船「アクロン」「メイコン」を「母艦」のように飛ばし、目的地に近づいてから戦闘機を放出して燃料を節約する作戦も一部で運用されていた。着陸用の車輪設備が不要になり、戦闘機自体も軽量化できる利点があった。
アマゾンの構想はこれを現代版として物流に応用したものといえる。ただ、飛行船は事故が多く、第2次大戦前後から使われなくなった歴史もある。アマゾンは忘れ去られた空の歴史に再び光を当てようとしている。