【台北=伊原健作】台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープが共同出資するテレビ向け液晶パネル生産会社、堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市)は30日、中国の広州市政府と共同で、世界最大級のパネル工場新設を正式発表した。工場を核とする産業園区の建設へ約1兆円の投資協定に調印。買収完了からわずか4カ月半で鴻海・シャープは攻めに転じる節目を迎えた。
「非常に重要で、非常に意義深い投資だ」。鴻海の郭台銘董事長は30日夕、広州市内のホテルで開いた調印式典で何度も同じフレーズを繰り返した。「シャープはかつて世界のトップを走っていたが、ここ数年は残念ながら投資資金がなかった。私が最初にやることは投資を拡大することだ」と語気を強めた。
SDPと市政府は同日、共同で610億人民元(約1兆200億円)の投資協定を結んだ。巨額投資を双方で負担する。最先端のパネルとインターネットにつながるスマートテレビ、パネルの技術開発などの機能を集約する。世界最大級のパネル工場を中核に生態系(エコシステム)を築くとぶち上げた。
パネル工場は世界最先端の「第10.5世代」となる。より大型のガラス基板を使って生産効率を高め、コスト競争力や品質を磨いて韓国勢などに対抗する。2017年3月に着工し、18年9月ごろをメドに生産を開始。19年には量産に入るスケジュールを描く。
特に期待するのがフルハイビジョンの16倍の解像度を持つ次世代の「8K」だ。式典ではSDPは世界で唯一、「8K」技術に対応した「第10世代」の生産ラインを持っていることが強調された。現行の「4K」では韓国サムスン電子など競合他社に先行された。広州で「8K」の技術と生産体制を築き、世界をリードする地位を取り戻す狙いだ。
鴻海は自ら主導してシャープのパネル事業を強化する姿勢を鮮明にしており、新工場は反転攻勢の象徴となる。直近ではシャープからSDP株の一部を引き取り子会社化。SDPは17年中にサムスンや中国の海信集団(ハイセンス)向けの大型パネルの販売を中断する見通し。パネル需要が回復するなか、取引条件を見直して採算を改善する。
拡大を目指すシャープのテレビ向けに振り向ける狙いもある。シャープは22日、以前売却で手放した欧州のテレビ事業を買い戻すと発表。鴻海・シャープはグループとしてテレビやパネルの世界戦略を再構築しており、広州の新工場建設は攻めに転じる決定打となる。
式典で郭氏は「次回も広州で投資する」と述べ、新たなプロジェクトの検討も進めていることを明らかにした。今後はパネルやテレビ単体ではなく、すべてのモノがネットにつながる「インターネット・オブ・シングス(IoT)」やビッグデータ技術を絡めて事業や製品の開発を進める意向を強調した。
電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界トップに上り詰めた鴻海。シャープ買収に執念を燃やしたのは、自らが持たない総合電機としての幅広い製品や技術力が必要だったからだ。広州はシャープとの相乗効果を試す地になりそうだ。