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艦隊これくしょん 艦これ二次創作 光の彼方~五航戦の翼~ 作者:豆腐@高橋ハク
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前編

日が昇ってきた。
「んん~~っ、ふう」
……眩しいな。すごく。
遥かな水平線に光る朝日は、うん、やっぱりいいね!


艦隊これくしょん艦これ 二次創作
光の彼方~五航戦の翼~

海軍・横須賀鎮守府。
赤レンガに三月の空は映え、炬燵と涙ながらにさよならするこの時期。淡い陽気にてらされてか、遠く果てまで続くこの海も心なしか明るさを帯びているように思う。
しかし季節と相反に、俺たちの気分は真冬のままであった。
ーーーーコンコン。
「提督さん?起きてますか~」
ん……ッっ!しまった、ついうっかり……!
「済まん、入ってくれ」
「やっぱり寝てましたか」
そう微笑んで俺、提督の執務室に入ってきたのは秘書艦の赤城である。
「大丈夫ですよ。今朝はつつがなく」
「今朝……もう朝だったのか」
確か俺は、午前三時過ぎまでは書類相手に格闘しつつ、先の戦闘の報告をどうするか考えていた、はずだ。そういえば書類が一段落した頃、考えがつい駆逐艦の子達にちょっかいをかけることに行ってしまって、ああ、遠征から帰ってきたら思いっきり褒めちぎってやったらどんな顔するかな~なんて思っている内にうとうとと……
「はっ!期限が今朝の仕事はっ」
「ちゃんと仕上がってましたよ、提督。流石は私の……あ、わ、私達の提督ですね!」
「ん、いや、そうか?ハハハ……」
「きっと一週間後の作戦のことで頭が疲れきってたんでしょう?少しくらい休んでもバチは当たりませんよ」
……駆逐艦の子達に構うことで頭がいっぱいだったとは言わない。
「別に艦娘と戯れることを考えてた訳じゃないですよね?」
「も、も、もちろんだっ!そんなことは断じてない。断じてだ」
「ジーッ」
「痛い痛い、視線が痛いよ赤城さん」
「……さん付けはナシです」
「もう、いいじゃん別にぃ……」
なんと女々しい俺氏。うーむ、今日も厄介な一日になりそうだ。
空には暗雲がのさばる。
「それはどうでもいい話なのですが……」
「あれ、どうでもいいの?」
「、提督。茶化さないでください」
「……スマン。用事がなきゃわざわざ来たりしないよな」
「……。用事、というより相談でしょうか」
「ああ、赤城が来たってことで大体話の内容には想像がつく」
そう。我が鎮守府はひとつ大きな問題を抱えている。
「ええ、お察し通り、瑞鶴の話ですよ。」
「やっぱり、か。……こうなることは、予測できてたはずだったんだがな」
「誰も提督を責めたりなんかしませんよ」
「いや、瑞鶴には俺を責める権利がある」
「提督……」
先日、我が鎮守府に新たな正規空母を迎えた。翔鶴型正規空母二番艦・瑞鶴。艦娘達から伝え聞く『あの戦争』においても大きな活躍を見せたという、有力な空母。上の連中も大きな戦力として、また艦娘達からは頼れる仲間としての期待が寄せられていた。
一部、事情を知るものを除いて。
「今更そのことを蒸し返しても事態は解決しませんよ。大事なのは、今からです」
「うん、まぁ、確かにそうなんだがな」
「あの日のことも提督の責任ですが、これからあの子を支えていくのも、貴方の責任なんですよ」
「……」
うちに来てから、瑞鶴は一度も部屋を出ていない。……彼女には優秀な姉がいた。翔鶴型正規空母一番艦・翔鶴。過去の我が鎮守府最大の主力であり、艦娘達の心の支えであった。……ほんの二ヶ月前までは。
あいつは、翔鶴は。俺の妻だったあいつは。

沈んだのだ。皮肉にも、瑞鶴が見つかったあの海域で。
あれからもう二ヶ月か。
沈んだのだ。
沈めたのだ。
俺が…………っ!
手元の書類が破けてしまった。印刷し直さないとな。
……ダメだな、俺。手元に残ってる艦娘の顔も曇らせるなんてな……
彼女の死は、この海軍横須賀鎮守府に暗い影を落としていた。

食堂にて。
「そういえば大井っち、あの新しく入った娘、まだ引きこもってるんだって?」
「そうですね、もう三ヶ月になると言うのに……。仕方ないと言えば仕方ないですけど」
食堂の一角、重雷装艦の艦娘、北上と大井の最近の話題は専ら、引きこもり空母、瑞鶴のことばかりである。
「私だって目覚めたときに北上さんがその、ええと、しず……んでたら……なんて思うと……っッ」
「なぁに縁起の悪いこといってるのさ。私はいつでも大井っちのそばにいるよ」
「嬉しい……!で、でも、そんな嬉しい言葉を、瑞鶴さんは一度も掛けてもらえない、んですよね」
「……そっかぁ」
この二ヶ月、幾度となく二人の間を支配した沈痛な空気が漂う。……もし二人に回りを見渡す心の余裕があったならば、その空気は食堂全体、いや、この鎮守府全体に広がっているのが見てとれただろう。もっとも、見渡さずとも二人にはよくわかっていることではあるのだが。
「でも、くよくよばかりはしてられないですよね。翔鶴さんも、私たちがこんな風になることなんてきっと望んでなんかいません」
「そう、だよね。そろそろ、前をむかなくっちゃ」
そう話す声は、無いように反し、明るさを内包してはいなかった。


………………。
私は、どうしたらいいの?
暗い部屋の中、一人瑞鶴はもうここにはいないという姉に問いかける。煮え切らない感覚は、ここに姉、翔鶴がいたという実感すらないことからくるんだろう。それでも、折角もう一度与えられた人生の中に姉がいないということそれだけで、瑞鶴の心に穴を開けるには十分過ぎるのであった。
姉は、翔鶴は、ここでもとても優秀な艦……娘であったらしい。そんなことは当たり前だ、とも思う。私には今だよく分からない、艦娘、というものになっても、きっと姉は輝いていただろうと想像できる。何かと私に世話を焼こうとするあの高速戦艦の金剛さんが言うことには、翔鶴は他の艦にもとても慕われていた、ということらしい。ワタシなんかぜーんぜん敵わなかったデス、なんて言っていた。私の目から見れば、金剛さんは比べるものもないぐらいのいい人なのだが。
「翔鶴……姉……。」
そのとき、突然喉がつまるような感覚に襲われる。息をしようにもつまりはとれず、半ば喘ぐように息をする。苦しさのなか、ふと頬に温かさを感じる。それはすうっと流れていき、そのうちに冷めて、しかし込み上げてくるのはずっと熱いものだ。
「うぐっ、うっ、っッ」
また。そしてまた。断続的に熱が溢れ、頬を濡らす。かつて姉が着ていたものと同じデザインのこの服も濡れる。
心が、濡れる。
……慟哭は夜半まで続いた。

「……泣くのはいいことデス。これで少しでも楽になってくれたら、いいデス、けど……」
「涙は心を洗うといいますしね。……しかし、そう簡単には彼女の心の傷は癒えないと思いますよ」
「分かってるデス。でも、これで済んだらって、思いたくもなるネー。榛名も感じてるはずネー」
「…………。」
窓の外には綺麗な月が浮かんでいる。澄んだ空気は一段とその寒さの刃を研ぎ、逃げたい思考を切り伏せる。
今夜も眠れそうにない。野戦があるわけでもない三月の夜空に、二人はそんなことを想うのであった。

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