コラム

アクティヴィストを自称する「インスタグラムの王」

2016年12月29日(木)11時00分
アクティヴィストを自称する「インスタグラムの王」

両手を上げても殺される同胞の黒人たちに対して、その現象的になったジェスチャーを示して連帯の意を表すアメリカ南部の綿花畑の労働者 From Ruddy Roye @ruddyroye

<無名だったが、インスタグラムの登場と2012年の災害取材で一気に名声を獲得した写真家ルディ・ローイ。「写真家もフォトジャーナリストも活動家だ」という彼を紹介するのは、これまでは気が引けていた>

 今年最後に紹介するのは、ジャマイカで生まれ育ち、ニューヨークを第2の故郷とするルディ・ローイ、47歳だ。2人の息子をもつ父親でもある。インスタグラムが登場するまでほぼ無名だった。それが2012年にアメリカ東海岸を強襲したハリケーン・サンディの取材以来、アメリカのさまざまな社会問題を伝えて一気に名声を獲得した写真家だ。

「インスタグラムの王」とさえ言われている。作品はアートギャラリー、フォトフェスティバル、美術館でも紹介されている。アメリカの大手メディアや大学などで、数え切れないほどの講演も行っている。だが、当初からローイのことを気にかけていたにもかかわらず、私は紹介するのに気がひけていた。

 大きな理由が2つある。1つは写真そのものについて。ストレートな写真、わかりやすい最大公約数を狙った通信社・新聞社的な写真が多く、平凡に見えてしまうことが多いからだ。

 もう1つは、写真のスタイルや取材対象、アプローチが、確実にフォトドキュメンタリー/フォトジャーナリズムの範疇に入るにもかかわらず――少なくとも写真家が行う手法と同様なのに――ローイは、インスタグラムで自らをHummanist/Activist と称しているからだ。彼を写真家として語る上で何か矛盾を感じたのである。

 とはいえ、私自身が写真を、アートを、時代の進展の何かを、あるいは自分が抱いていたアートの概念さえも見落とし、忘れてしまっていたのかもしれない。何と言っても、自分の信念や哲学を純粋に表現するものは、すべてアートなのだ。アクティヴィズム(政治的・社会的な活動)はもちろん、政治そのものさえアートになる。

 ローイはこう言う。「ジャーナリズムやフォトドキュメンタリーをアクティヴィズムと切り離すことはできない。本質的に写真家もフォトジャーナリストも活動家だ。取材し、ドキュメントすることは、誰かの物語を支持することにつながる」

June 12, 2016 Cameron Sterling is only 15 years old. He is posing with a composite image he made this morning using a picture of himself and an old picture he had of his father. "The police took his phone so all the pictures he took are gone with his phone," he told me. The whole time I am with him, he does not say more than two sentences without conjuring up some memory of his father that brings him close to tears. A song by Drake blares from his cell phone and he immediately starts a sentence with, "that was my dad's favorite song." He tries to smile. "Today has been a peaceful day so far. There was less drama today. It's quiet and calm today. But this morning started with my mom coming to get me so I can meet my lawyer and she had to call down to social services to get some money so our utilities would not be cut off." Both Cameron and his mother Quinyetta seem to hold each other up with words of encouragement. "Why you crying now big boy, see I know my little teddy bear," she said smiling as she watched her son hold back his tears. Photo and text by @ruddyroye #onassignment #batonrougeportrait #streetphotography #streetportrait #makeportrait #makeportraits @time @leicaakademieusa @leicacamerausa #blackportraiture

"Humanist/Activist."さん(@ruddyroye)が投稿した写真 -

警官2人に取り押さえられた上、射殺された父アルトン・スターリングの写真の入った携帯電話を手にする15歳の息子のカメロン。この携帯電話以外に父親の写真はほとんど保存していなかったが、それも警察に没取された

【参考記事】アメリカの貧困を浮き彫りにする「地理学」プロジェクト

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

ニュース速報

ビジネス

中国、人民元指数算出に用いるバスケットの構成通貨数

ビジネス

インタビュー:投資への資金、物価1%半ばで顕著に=

ワールド

台湾総統、米国経由で中米訪問へ 中国は反発

ワールド

韓国の特別検察官、前保健福祉相の逮捕状請求

MAGAZINE

特集:ISSUES 2017

2017-1・ 3号(12/27発売)

トランプ就任の衝撃波はアジア、欧州そして中東へ。地殻変動を起こし始めた2017年の世界を読む

人気ランキング

  • 1

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろう!」

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    ナッツリターンの悪夢再び 大韓航空、機内暴力の男に翻弄される

  • 4

    2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の…

  • 5

    慰安婦問題合意から1年 日韓合意はパク大統領と共…

  • 6

    【再録】キャリー・フィッシャー「肖像権を手放して…

  • 7

    埼玉の小さな町にダライ・ラマがやってきた理由

  • 8

    靖国参拝で崩れた、真珠湾追悼の「和解」バランス

  • 9

    意外とトランプ支持者にウケた?真珠湾訪問「ショー」

  • 10

    中国新疆ウイグル自治区で政府施設に車突入 犯人は…

  • 1

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 2

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間違い

  • 3

    軍拡競争起こればいい、米国は勝つ─トランプ氏

  • 4

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 5

    大韓航空、暴れる乗客に対しスタンガンの「即時使用…

  • 6

    ナッツリターンの悪夢再び 大韓航空、機内暴力の男…

  • 7

    大韓航空パイロットがスト 元凶は高給で引き抜きを…

  • 8

    【再録】キャリー・フィッシャー「肖像権を手放して…

  • 9

    「メリークリスマス禁止」をあの男が変える!?

  • 10

    埼玉の小さな町にダライ・ラマがやってきた理由

  • 1

    オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃

  • 2

    トルコのロシア大使が射殺される。犯人は「アレッポを忘れるな」と叫ぶ

  • 3

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 4

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間…

  • 5

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 6

    軍拡競争起こればいい、米国は勝つ─トランプ氏

  • 7

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 8

    トルコでロシア大使銃撃され死亡、犯人は非番の警察官

  • 9

    「女たちが国を滅ぼした」――韓国のデモに紛れ込む「…

  • 10

    今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!