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日本の住宅が「資産」ではなくなる日 ~空き家急増という大問題 いよいよ大量相続時代を迎えて…

現代ビジネス 12/29(木) 10:01配信

川越市、習志野市、浜松市……まちづくりの先進事例

 では、大量相続時代を迎える日本で、住宅やまちを、将来世代に「資産」として引き継いでいくためにできることは何か? 
 それは、自分たちの住宅の資産価値や将来世代の税金等の負担増に大きな影響を及ぼす都市計画・まちづくりに対して、これまで以上に目を向け、その本質を見極める目を持つことだ。

 拙著では、たとえば、以下のように、先進事例として様々な自治体のまちづくりを紹介した。

 ◎開発規制は一旦緩和するとそれを強化することは政治的にも難しい中で、市街化調整区域で無秩序に進む宅地開発への規制緩和を全面的に廃止する、という英断をした川越市(埼玉県)

 ◎多くの自治体が棚上げしている公共施設の再生・再編を、公民連携といった画期的な手法を盛り込みながら真摯に取り組む習志野市(千葉県)

 ◎超高齢化した住宅団地のリノベーションによって、世代交代に積極的に取り組む神戸市(兵庫県)

 ◎南海トラフ巨大地震規模の津波被害に備えた防潮堤や津波避難タワー等の整備など、災害がおきる「前」の段階から、市民の安心安全のために、具体的な減災対策に積極的に取り組む浜松市(静岡県)

 ◎日本で初めて、条例で活断層の真上にある土地利用の規制・誘導に取り組む徳島県

 いずれの自治体も、近視眼的な視点ではなく、将来世代にツケを残さないまちづくりをしていこうという、長期的な視点を重視した取り組みに本格的に着手している。

 私たちは、都市計画やまちづくりは行政がするものと考え、無関心を決めたり、行政任せ・他人任せにしたりせず、自分のまちの首長や自治体の都市計画行政に対して、きちんと目を向けることが必要不可欠な時代に突入している。

 そして、もう一つ重要なことがある。

 それは、住宅単体だけの視点ではなく、その住宅が立地する「まち」が、将来にわたって大幅に悪化せずにそれなりに暮らしが維持される見込みがあるのか、そして、もし相続する世代が売ることになった場合に買い手がつく可能性があるのか? といった、これまでよりも「更にもう一歩先の将来リスク」まで見極めるという「新しい価値観」がみんなの常識になることだ。

 そんなことは当たり前ではないか……そう思われる方も多いと思う。

 しかし、私たちが新たに住宅を購入する際、住宅単体のメリットや物件価格の安さなどについつい心を奪われ、そこに営業マンの巧みなトークが加われば、買おうとする住宅やまちの将来リスクを見極めようという長期的視点がおろそかになってしまいがちなのも、れっきとした事実である。

 こうした価値観がみんなの常識になれば、これまで整備していたまちを中心に、中古住宅をリノベーションで質を向上させて住宅市場へ流通させたり、空き家を解体してその土地で新築住宅を建てることに軸足が置かれるなど、住宅市場も変化していくのではないだろうか。

 大量相続時代を迎え、人口だけでなく、世帯数も減少し始めるという折り返し地点が見えてきた今、これからの日本で、住宅が「資産」となりうるためには、住宅という単体の要素だけではもう解けない。

 既にある住宅やまちを、将来世代も暮らしやすいものへと改善し、きちんと「資産」として引き継いでいくためには、まるで連立方程式を解くように、災害リスク、インフラや公共交通・生活利便サービスの維持、公共施設の再編・統廃合、地域コミュニティ、ライフスタイルや暮らしやすさといった生活環境、産業や農業政策……といった多元的要素を、都市計画・まちづくりの中で、横断的・複合的に解いていくことが必要不可欠なのだ。

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<出典・補注>
(1)野村総合研究所NewsRelease(2015年6月22日)
(2)吉田太一『あなたの不動産が「負動産」になる』、ポプラ新書、2015年8月
(3)平成15年の住宅・土地統計調査は、市町村合併前の時期でもあり、市町村合併した人口規模が小さな町村は調査対象外であったことから、市町村合併後である平成20年から平成25年の増加率に着目した(図表3)
(4)山梨県都市計画マスタープラン委員会第1回資料(2016年11月8日)
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野澤 千絵

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最終更新:12/29(木) 10:01

現代ビジネス

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