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特集

2016年11月30日(水)

閣僚人事から読み解くトランプ新政権

 
放送した内容をご覧いただけます

田中
「大詰めを迎えているトランプ氏の閣僚人事。
これまでに、こちらのような顔ぶれが発表されています。
今日(30日)の特集は、閣僚の顔ぶれから、トランプ氏が率いる新政権がどのような政権になるのか、読み解いていきます。」

佐藤
「スタジオには、アメリカ政治が専門の慶應義塾大学教授、中山俊宏(なかやま・としひろ)さんにお越しいただいています。」

田中
「人事については後ほど具体的に伺いたいと思いますが、まず、当選からこの3週間のトランプ氏、全体としてどんな印象ですか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「選挙の時は暴走というか、常識では考えられないような発言をいろいろしましたけども、勝利の直後は、勝利演説で非常に大統領らしくふるまったとは言えると思います。
それでもツイッターなどで、かなり危なっかしい、次期大統領でこういうことを言っていいのかなという発言はだいぶしているような気はします。」

佐藤
「中山さんには、後ほどたっぷりと伺います。」

田中
「さて、これまでに決まった閣僚には、人種差別的な傾向があると批判される人物や、強硬な移民政策を掲げる人物が含まれています。」

佐藤
「トランプ氏が、移民問題で排他的な発言を繰り返してきたことに加えて、こうした閣僚人事に、マイノリティの人たちは不安を一層募らせています。」

どうなるトランプ新政権 不安募るマイノリティー

リポート:田中顕一記者(ワシントン支局)

アメリカから移民を排除し「白人国家」の実現を主張する極右勢力が開いた集会です。





かつて、ナチスドイツをたたえた敬礼やかけ声も交えて、「メキシコとの国境に壁を築く」と訴えてきたトランプ氏を礼賛しました。

「ハイル、トランプ!
国民万歳!勝利万歳!」

トランプ氏が勝利してから、差別的な行為が各地で表面化しています。





水飲み場に掲げられた差別的な貼り紙。
白人至上主義団体などを監視している団体の調べでは、選挙後の10日間に報告された脅迫行為や嫌がらせは、およそ870件。

その70%は、移民や黒人、イスラム教徒、それにLGBT=性的マイノリティーの人たちを標的にしています。
こうした動きに抗議する、異例のデモが起きました。




田中顕一記者(ワシントン支局)
「ご覧のように、私の後ろでは、多くの高校生がトランプ氏に抗議の声を上げています。」




「差別反対!移民歓迎!」

デモに参加したのは、ヒスパニック系の割合が多い公立高校の生徒たち。
このデモのために、1,000人が授業を一斉に放棄したのです。




デモを呼び掛けた、高校3年生のアンドレ・ペレスさん。
中米エルサルバドルからの移民です。
トランプ氏勝利の翌日。
ペレスさんは、地元のバス停でこれまでに味わったことのない衝撃的な体験をしました。
それは、見知らぬ白人男性から浴びせられた言葉でした。

中米エルサルバドル出身 アンドレ・ペレスさん
「“俺のトランプが勝ったから、お前はここにいられない”と言われました。
それを聞いても何も返せませんでした。
とても怖くなったのです。」


翌日も、アルバイト先の飲食店で、白人のグループが、トランプ氏が主張してきた「壁を築け」という言葉を言い続けたといいます。

中米エルサルバドル出身 アンドレ・ペレスさん
「(トランプ氏の勝利で)差別的な考えを堂々と表現できるようになってしまいました。
これに対して行動を起こすことが、私たち若者の使命なのです。」



そのトランプ氏。
選挙後は融和的な姿勢をアピールしています。

トランプ氏
「感謝祭で私たちが分断の傷を癒し、前進できることを祈っています。」




しかし、新政権の人事では、白人至上主義者だと批判もされているバノン氏や…。





強硬な不法移民対策を掲げるセッションズ氏が起用されました。
これに対して、マイノリティーの権利向上に取り組む団体などからは、懸念の声が上がっています。




人権団体メンバー
「もしトランプ氏が、米国民を団結させるリーダーになりたいのなら、イスラム教徒などのマイノリティーを悪者扱いするような考えをやめるべきだ。」





人事に懸念も どんなカラー?

田中
「ここからは、ワシントン支局の田中顕一記者に聞きます。
トランプ氏の人事、懸念も出ているようですが、どのようなカラーが見て取れますか?」

田中顕一記者(ワシントン支局)
「これまでのところ、トランプ氏が選挙戦で見せてきた強硬派の顔と、融和的な顔のどちらもが、かいま見えます。
強硬派とみられているのは次の3人です。



まず、上級顧問に起用された、バノン氏。
選挙対策本部のトップを務めました。
少数派への差別的な論調が批判されている、保守系ニュースサイトの経営責任者を務めてきました。

また、出入国管理のカギを握る司法長官に、セッションズ上院議員が指名されました。
強硬な不法移民対策を主張しています。

そして、安全保障政策を担う大統領補佐官に起用されたのが、フリン元国防情報局長官です。
対テロ作戦の専門家として知られる一方、イスラム教を敵視するような発言も伝えられています。
トランプ氏がこの3人を重要ポストに起用したことで、新政権が少数派に対し厳しい姿勢で臨むのではないかとの懸念が出ているんです。」


難航の国務長官は?

佐藤
「一方で、焦点の国務長官人事がまだ難航しているようですが、こちらはどうなりそうですか?」

田中記者
「国務長官をめぐっては、『トランプ色』を貫くべきか、または共和党主流派との融和を図るべきか、2つの考えのもとでもめている状態と言えます。
こうした中、直近で動きがあり、注目されるのがこの3人です。

まず、共和党主流派のロムニー氏です。
トランプ氏は29日、ロムニー氏と2回目の会談をし、夕食を共にしました。
ロムニー氏はトランプ氏を厳しく批判してきたこともあり、周囲から起用に反発が出ています。

前日の28日にはペトレアス元CIA長官と面会し、会談後はツイッターで『感銘を受けた』とたたえました。

さらに、トランプ氏の側近の1人、ジュリアーニ元ニューヨーク市長も有力視されていますが、外交経験がない点などを問題視する声もあります。
この3人、それぞれ周囲の反発や経験不足などの問題があることから、ほかにも名前が挙がっていて、トランプ氏の最終的な判断に注目が集まっています。」


どうなるトランプ新政権 閣僚人事から読む

佐藤
「では再び、慶應義塾大学教授の中山俊宏さんとお伝えしていきます。」

田中
「まずは今も話があった、外交トップの国務長官のポストですが、ご覧のような名前が挙がっています。
中山さんはどうご覧になっていますか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「国務長官というのは外の世界に対して『トランプ外交はこういう方針でいく』ということを示すことになるので、早く任命したいのだと思うんですが、ここに挙がっている人を見ると、人からあまり政策が見えてこないんですね。
それぞれ、それなりに大物なわけですが、みんな立場が全然違うんです。
例えばロムニー氏などは穏健派ですし、ボルトン氏などはかなりタカ派的な人で、どういう外交を追求しようとしているのかというのが、ほとんど見えてこないというのが1つの特徴だと思うんです。

格で言えば、ロムニー氏が2012年の共和党の大統領候補ですから、いちばん大物だと思うんですが、どうも陣営の中から、『ロムニー氏は任命するな』という圧力も出てきているようなところがあって、かなり混とんとしているのかなという印象を受けます。」




田中
「この人事によって、どちらの路線を行くかというのが見えてくるということですか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「ともすると、トランプ氏はツイッターで『ファイナリストは自分だけが知っている』なんてことをつぶやいているんですよね。
ですから、この人事がちょっと『リアリティーショー』と重なって見えてしまうところもあって、楽しんでいるのか混乱しているのか、ちょっとどちらか分からないような印象も受けますね。」

田中
「ホワイトハウスの安全保障担当補佐官にはフリン氏を起用していますね。
この関係というのは?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「この人は副大統領候補としても名前が挙がって、どうもトランプ氏は相当気に入って信頼しているということなんですが、この安全保障担当の大統領補佐官というのは、国防総省と国務省と、それからホワイトハウスとのコーディネーションが非常に重要な仕事になるんですが、あまりそういう能力はないのではないかということをよく聞きますね。
ですからうまく回るのかどうか、かなり大きなクエスチョンマークがつくのだろうと思います。」

田中
「そうすると、フリン氏と国務長官との関係というのも重要になってくるということですね。」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「場合によっては、かなりアグレッシブな行動をするような人なので、うまく各省庁間のコーディネートができるかということについては、アメリカのメディアの報道ぶりなどを見ていると、相当大きなクエスチョンマークがついているような印象を受けます。」

田中
「次に注目したいのが、大統領に最も近いホワイトハウスなんですが、これを仕切るのが誰か。
重要ポストにすでに2人の名前が出ています。
従来の大統領首席補佐官に、エスタブリッシュメントのプリーバス氏、そして先ほど名前が挙がっていた上級顧問=チーフストラテジストという新しいポストにバノン氏、それに加えて、娘婿のクシュナー氏、この人が『影の主席補佐官』ではないかという話も出ていますが、一体誰が仕切ることになるんでしょうか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「これはよく分からないところがあるんですが、制度的に言えば、やはり首席補佐官がいちばん重要なポストなんだと思うんですね。

プリーバス氏は共和党全国委員会の委員長だったので、トランプ政権としても共和党のエスタブリッシュメントと仕事をする、きちんと一緒に協力していく準備があるというメッセージである一方で、このバノン氏というのは先ほどのVTRでもありましたが、ともするといろいろ問題のある発言を、本人が発言しているというか、問題がある見方を報道する『ブライトバート』というニュースサイトに深く関わっている人なので、この人自身はあまり危険な発言はしていないんですが、そういう人たちとの関わりがあるということで、若干トランプ政権は大丈夫なんだろうかということで、メディアから相当強い批判を浴びていますね。
クシュナー氏は今のところ正式には何も任命されていないんですが、やはりトランプ氏との距離が非常に近いので、場合によっては非常に大きな影響力を発揮するかもしれないということで、今、どの人がトランプ政権の中枢を担うかというのはちょっと見えてこない状況ですね。」

田中
「次に政策についてお伺いしたいんですが、最初の100日の重点課題として、真っ先にTPPからの離脱を挙げていましたが、それはどのあたりから手をつけていくことになるのでしょうか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「TPPはまだ始まっていないものですから、離脱を表明すれば離脱できてしまうということと、やはり反TPPというのは『トランプメッセージ』の中核を占めているんだと思うんです。
国際社会に対する不信感みたいなものが、この反TPPということに凝縮されているようなところがあるので、他にオバマケアを刻んでいったり、不法移民対策を厳しくしていったりということもやっていくとは思うんですが、時間がかかると思うんです。
ですからTPP離脱というのは非常に分かりやすいメッセージとして、かなり早い段階で見えてくるのかなという印象を持っています。」

田中
「一方の、外交はどうでしょうか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「もしかすると、なかなかポストが埋まらない可能性があるんですよね。
新政権が発足すると、4,000人くらい人を確保しなければならない。
そのうち1,000人以上の承認を議会で得なければならないんですが、その共和党の外交のエスタブリッシュメントたちが、ずいぶんとトランプ政権と距離を置いて、選挙中に批判的なことを言っているので、今さらトランプ政権に協力するというのも言いにくいですし、トランプ政権としても自分たちに批判的だった人をすんなり受け入れるとは限らないということを考えると、場合によっては夏頃、もしくは夏を過ぎても、閣僚の下の次官や次官補などの主要ポストが埋まっていないということも考えられます。
そうすると、そこを突いてくる勢力というのが恐らく出てくる。
それに対してトランプ政権がどう反応するのか、どういう政策で対応するのかというのは、要注意だと思うんですね。」

田中
「最後に、統治スタイルについてお伺いしたいんですが、大統領になった時、トランプ流の統治スタイルというのはどうなりそうでしょうか?」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「解説に出てきながら『予測不可』というのも何なのですが…。
トランプ氏自身が『自分は予測不可能だ』ということを強みにしているんですね。
外国に『何をやるか分からない』という印象を与えることによって、主導権を握るというのを自身のスタイルにすると言っているので、見えないところはあるんですが、例えば 普通このタイミングだと次期大統領は記者会見をやるんですが、まだやっていないわけですね。
それはおそらく、普通の記者会見をやってしまうと、メディア側に自分の印象を作られてしまうと。
それを避けるために、ツイッターなど、自分の指定した場で記者会見をやったりということで、これまでとかなり違う統治のスタイルが見えてくるのではという気がしますね。」

田中
「ビジネスとの線引きなどもありますよね。」

慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「そうですね、利益相反の問題は常に言われています。
つい先ほど、ツイッターで『2週間後に回答を出す』とつぶやいたそうですが、ちょっとこれは分からないですね。」

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