佐藤
「では再び、慶應義塾大学教授の中山俊宏さんとお伝えしていきます。」
田中
「まずは今も話があった、外交トップの国務長官のポストですが、ご覧のような名前が挙がっています。
中山さんはどうご覧になっていますか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「国務長官というのは外の世界に対して『トランプ外交はこういう方針でいく』ということを示すことになるので、早く任命したいのだと思うんですが、ここに挙がっている人を見ると、人からあまり政策が見えてこないんですね。
それぞれ、それなりに大物なわけですが、みんな立場が全然違うんです。
例えばロムニー氏などは穏健派ですし、ボルトン氏などはかなりタカ派的な人で、どういう外交を追求しようとしているのかというのが、ほとんど見えてこないというのが1つの特徴だと思うんです。
格で言えば、ロムニー氏が2012年の共和党の大統領候補ですから、いちばん大物だと思うんですが、どうも陣営の中から、『ロムニー氏は任命するな』という圧力も出てきているようなところがあって、かなり混とんとしているのかなという印象を受けます。」
田中
「この人事によって、どちらの路線を行くかというのが見えてくるということですか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「ともすると、トランプ氏はツイッターで『ファイナリストは自分だけが知っている』なんてことをつぶやいているんですよね。
ですから、この人事がちょっと『リアリティーショー』と重なって見えてしまうところもあって、楽しんでいるのか混乱しているのか、ちょっとどちらか分からないような印象も受けますね。」
田中
「ホワイトハウスの安全保障担当補佐官にはフリン氏を起用していますね。
この関係というのは?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「この人は副大統領候補としても名前が挙がって、どうもトランプ氏は相当気に入って信頼しているということなんですが、この安全保障担当の大統領補佐官というのは、国防総省と国務省と、それからホワイトハウスとのコーディネーションが非常に重要な仕事になるんですが、あまりそういう能力はないのではないかということをよく聞きますね。
ですからうまく回るのかどうか、かなり大きなクエスチョンマークがつくのだろうと思います。」
田中
「そうすると、フリン氏と国務長官との関係というのも重要になってくるということですね。」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「場合によっては、かなりアグレッシブな行動をするような人なので、うまく各省庁間のコーディネートができるかということについては、アメリカのメディアの報道ぶりなどを見ていると、相当大きなクエスチョンマークがついているような印象を受けます。」
田中
「次に注目したいのが、大統領に最も近いホワイトハウスなんですが、これを仕切るのが誰か。
重要ポストにすでに2人の名前が出ています。
従来の大統領首席補佐官に、エスタブリッシュメントのプリーバス氏、そして先ほど名前が挙がっていた上級顧問=チーフストラテジストという新しいポストにバノン氏、それに加えて、娘婿のクシュナー氏、この人が『影の主席補佐官』ではないかという話も出ていますが、一体誰が仕切ることになるんでしょうか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「これはよく分からないところがあるんですが、制度的に言えば、やはり首席補佐官がいちばん重要なポストなんだと思うんですね。
プリーバス氏は共和党全国委員会の委員長だったので、トランプ政権としても共和党のエスタブリッシュメントと仕事をする、きちんと一緒に協力していく準備があるというメッセージである一方で、このバノン氏というのは先ほどのVTRでもありましたが、ともするといろいろ問題のある発言を、本人が発言しているというか、問題がある見方を報道する『ブライトバート』というニュースサイトに深く関わっている人なので、この人自身はあまり危険な発言はしていないんですが、そういう人たちとの関わりがあるということで、若干トランプ政権は大丈夫なんだろうかということで、メディアから相当強い批判を浴びていますね。
クシュナー氏は今のところ正式には何も任命されていないんですが、やはりトランプ氏との距離が非常に近いので、場合によっては非常に大きな影響力を発揮するかもしれないということで、今、どの人がトランプ政権の中枢を担うかというのはちょっと見えてこない状況ですね。」
田中
「次に政策についてお伺いしたいんですが、最初の100日の重点課題として、真っ先にTPPからの離脱を挙げていましたが、それはどのあたりから手をつけていくことになるのでしょうか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「TPPはまだ始まっていないものですから、離脱を表明すれば離脱できてしまうということと、やはり反TPPというのは『トランプメッセージ』の中核を占めているんだと思うんです。
国際社会に対する不信感みたいなものが、この反TPPということに凝縮されているようなところがあるので、他にオバマケアを刻んでいったり、不法移民対策を厳しくしていったりということもやっていくとは思うんですが、時間がかかると思うんです。
ですからTPP離脱というのは非常に分かりやすいメッセージとして、かなり早い段階で見えてくるのかなという印象を持っています。」
田中
「一方の、外交はどうでしょうか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「もしかすると、なかなかポストが埋まらない可能性があるんですよね。
新政権が発足すると、4,000人くらい人を確保しなければならない。
そのうち1,000人以上の承認を議会で得なければならないんですが、その共和党の外交のエスタブリッシュメントたちが、ずいぶんとトランプ政権と距離を置いて、選挙中に批判的なことを言っているので、今さらトランプ政権に協力するというのも言いにくいですし、トランプ政権としても自分たちに批判的だった人をすんなり受け入れるとは限らないということを考えると、場合によっては夏頃、もしくは夏を過ぎても、閣僚の下の次官や次官補などの主要ポストが埋まっていないということも考えられます。
そうすると、そこを突いてくる勢力というのが恐らく出てくる。
それに対してトランプ政権がどう反応するのか、どういう政策で対応するのかというのは、要注意だと思うんですね。」
田中
「最後に、統治スタイルについてお伺いしたいんですが、大統領になった時、トランプ流の統治スタイルというのはどうなりそうでしょうか?」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「解説に出てきながら『予測不可』というのも何なのですが…。
トランプ氏自身が『自分は予測不可能だ』ということを強みにしているんですね。
外国に『何をやるか分からない』という印象を与えることによって、主導権を握るというのを自身のスタイルにすると言っているので、見えないところはあるんですが、例えば 普通このタイミングだと次期大統領は記者会見をやるんですが、まだやっていないわけですね。
それはおそらく、普通の記者会見をやってしまうと、メディア側に自分の印象を作られてしまうと。
それを避けるために、ツイッターなど、自分の指定した場で記者会見をやったりということで、これまでとかなり違う統治のスタイルが見えてくるのではという気がしますね。」
田中
「ビジネスとの線引きなどもありますよね。」
慶應義塾大学教授 中山俊宏さん
「そうですね、利益相反の問題は常に言われています。
つい先ほど、ツイッターで『2週間後に回答を出す』とつぶやいたそうですが、ちょっとこれは分からないですね。」