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【回顧2016】
美術 林立する芸術祭、国内開催は大小100超…再考のとき
現代アートが、まるで地域活性化や経済振興の道具のように矮小(わいしょう)化されているとして現状に一石を投じたのが、文芸評論家の藤田直哉さんの編著書「地域アート」(堀之内出版)だ。「お年寄りが元気になった」などと、社会との関わりばかりが強調される地域アートだが、あくまで評価されるべきは作品の芸術性、芸術としての存在価値だと説いた論考は、美術界を中心に波紋を広げた。
思い出したのは、現在せんだいメディアテーク(仙台市)で個展「まっぷたつの風景」を開いている写真家、畠山直哉さんが、東日本大震災の後に本紙取材に語った言葉だ。
〈アートは、人を治したり、社会を良くしたりするものじゃない〉
壊滅的打撃を受けた故郷の岩手県陸前高田市を撮り続けている畠山さんだが、単純なヒューマニズムに偏ることなく、アーティストとして震災前も後も、自らの美学や批評精神を軸に作品を生み続けている。
アートがすぐに役に立つことはない。しかし芸術が芸術である限り、結果的に、社会を大きく変える可能性を秘める。芸術祭の“即効性”に注意が向きがちだった自戒も込めて、来年以降の動向に注目したい。