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 広告大手の電通とその幹部が、社員に違法な長時間労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検された。

 今から1年前、新入社員の高橋まつりさん(当時24)が長時間の過重労働が原因で自殺し、労災と認定されたのを受けて、厚生労働省東京労働局などが捜査してきた。高橋さんを含む社員2人に対し、労使で決めた時間外労働の上限を超えて働かせていた疑いである。

 電通は、過去にも過労自殺した男性社員を巡って会社側の責任を認める最高裁判所の判決が示されたり、違法な長時間労働で労働基準監督署から是正勧告を受けたりしている。今回の捜査でも、複数の部署で違法な時間外労働や、勤務時間を実際より過少に報告させていた例が見つかっているという。

 長時間の残業を当然とする空気が電通の社内全体にあったということだろう。全容の解明を目指して捜査は続く。石井直社長は辞任を表明したが、実効性のある再発防止策を実施することが企業としての責務である。

 もっとも、これは電通だけの問題ではない。

 今年初めて公表された過労死白書によると、労災認定の目安とされる月80時間を超える残業をした社員のいる会社は約2割にのぼる。すべての会社、すべての職場が自らを省みて、社員に無理をしいていないか点検し、問題があれば改めていかなければならない。

 朝日新聞社も今月、社員に違法な長時間労働をさせたとして労基署から是正勧告を受けた。電通事件をはじめ違法残業問題を報じる立場として、自らが問われることを肝に銘じたい。

 政府が力を入れる「働き方改革」でも、長時間労働の是正は喫緊の課題だ。厚労省は、違法残業のあった企業名の公表対象を広げることをはじめ、緊急対策を示した。

 ただ、従業員を大切にすることは、政府に迫られてではなく、企業が自主的に取り組むべき課題だ。働く時間を抑えるには、仕事の中身やそのやり方を見直すことが欠かせない。

 難しい課題だが、従業員の意欲と生産性を高め、企業の収益改善にもつなげうるテーマである。集中して働き、給与もしっかりもらう理想の姿を目指し、まずは経営者が方針を明示して職場で知恵と工夫を重ねたい。

 「日本の働く人全ての人の意識が変わって欲しい」

 高橋まつりさんの母、幸美さんが、まつりさんの命日に公表した手記の言葉である。社会全体で受け止めねばならない。

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