2016.12.29 08:00
2016年9月18日まで開催された第9回ベルリンビエンナーレは、ニューヨークのアートコレクティブ「DIS」がキュレーションを担当するというネットアート好きには驚きの人選。DISは、ポスト・インターネット的な美的感覚で一目置かれるオンライン・プラットフォーム『DIS Magzine』を運営し、ネット上に皮肉めいた新しい価値観を提示した。今回のビエンナーレは仮想と現実、ブランドと国家、データと人口、首都と文化、政治と健全性、GDPと幸福など2016年の世界を構築するパラドクスを具体的に模索する内容だという。
Timur Si-Qin「A Reflected Landscape」
ベルリンビエンナーレの会場は、市内にある4箇所の施設。メイン会場は「Akademie der Künste(ベルリン芸術アカデミー)」と「KW Institute for Contemporary Art(クンストヴェルケ現代美術館)』。そして、民間のビジネススクール「ESMT European School of Management and Technology」とプライベートアートミュージアム「The Feuerle Collection」。市内を散策しながら日常と接しながら楽しめる。
メイン会場のAkademie der Künste(ベルリン芸術アカデミー)
さて、もともとオンライン上のカルチャー・シーンを追い続けて参加していた、ファッションデザイナーでありアーティストのNukeme。彼は『DIS Magzine』などのビジュアルイメージに魅了され、ベルリンビエンナーレに足を運んだ。展示作品からいくつか興味深い作品をピックアップして紹介と分析をしてもらった。
Jon Rafman「L'Avalée des avalés (The Swallower Swallowed) 」
会場4階のベランダに設置されたVRヘッドマウントディスプレイで体感する作品。ベランダには、動物が動物を丸呑みする彫刻が置かれていて、VR映像が始まると彫刻が動きだし、悪夢的な内容の動画を体験できる。共同監督のSamuel Walkerのウェブサイトで、今回の作品の動画部分を見ることができる。
Jon Rafmanは、InstagramとFacebook上で「#dreamjournal」というハッシュタグで夢日記を綴っており、最近の悪夢っぷりとどう考えても関係があると思われる。北欧神話で「タイタンが息子と娘たちを食べたが、ゼウスだけが腹の中から逃げ出した」という話がこの作品と繋がっているっぽい。すごい......。
彫刻のテーマとなっている「Vore(丸呑みフェティシズム)」は、カニバリズム(人肉食)に近いのかと思いきや、調べてみると、それとは明確に異なるらしい。ヤバい趣味だと思ってサーチしていたら、意外と昔話の「赤ずきん」で狼がおばあさんを丸呑みにすることや、「ピノキオ」でクジラに飲み込まれるシーンもこれに含まれるらしく、なんか合点がいった。巨人が小人を飲み込んだりなど、イラストがメインになる、ファンタジー趣味のジャンルだが、気になる人は調べてみて欲しい。エグくてエキサイティング。
Anna Uddenberg「Transit Mode Abenteuer, 2014-16」
JUAN SEBASTIÁN PELÁEZ「Ewaipanoma (Rihanna)" 2016」
会場内の未来感のあるエントランス
いくつか展示作品を見てもらったらように、アルスエレクトロニカなどのテクノロジーを主軸にしたメディアアートの展示は数多くあった。今回のベルリンビエンナーレのように、現代のテクノロジーを盛り込んだ現代美術の作品が並ぶ展示は少ないだろう。最後に今回のビエンナーレのまとめを聞かせてもらった。
5年くらい前にTumblrを使い始めて、Tumblr上で気になった画像をひたすら溜め込んでいく生活がはじまった。今でも日課として毎日見る。その溜め込んでいる画像たちの中に、いわゆる「ポスト・インターネット」と呼ばれるジャンルが混ざっていた。 当時は英語も話せなかったけど、画像や展示の雰囲気だけで、なんとなく言いたい事や、表現したい「感触」だけはわかる気がするのがおもしろかったし、それぞれのアーティストの問題意識も、密接に繋がりあっていると感じた。
世界中どこからアクセスしても、GoogleはGoogleであるように、インターネットというツールの使い方や見た目に関することには、あまり文化障壁がない。細かいことは違いがあるけど、大きな部分で。国や言葉の壁を超えてダイレクトに伝わってくる、ビジュアルの新鮮さ、チープさ、スピード感にとりつかれた。 今回のベルリン・ビエンナーレはそういう意味では、もう一度、言葉の壁に引き剥がされた展示だった。動画作品内のモノローグや、展示コンセプトのテキスト量が多く、内容も現代哲学についての内容だったりで、英語(もしくは独語)のテキストを読み込まないと、そもそも、どういった問題意識を前提にしているのか、理解するのが難しい作品が多かった。
そういう意味ではさみしい気分になった。しかし重要な展示であったという気はした。全体にどこか退屈さが漂っていて、作品のトーンも全体的に暗いものが多かった気がする。退屈で、暗くて、シリアスなこのムードが、日本で定着する間もなく流行りとして消費されてしまった感のある「ポスト・インターネット」が突入した、新しいフェーズなのだと思う。
筆者も実際にベルリンビエンナーレに足を運んだが、ポスト・インターネットアートが一同に介する機会は今回が最大級だろう。インターネットから影響を受けた作品が今後どうやって価値が付き、浸透していくかの記念的な場となったのは間違いない。そして来年以降も新しいコンセプトの作品が生まれてくることを願う。
1986年生まれ、東京在住。ファッションデザイナー、アーティスト、プログラマ見習い。他分野の作家との共同制作による作品が多い。ミシンの作動データにグリッチを発生させる『グリッチ刺繍』が2012年に第16回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。同作品でARS ELECTRONICA 2013に出展、作品展示とワークショップを行った。主な所属集団にはOkay、Semitransparent Design、IDPW、gokinjo-monozukuri.org、TANUKIなどがある。やたらに所属が多い。 http://nukeme.nu/
たかおかけんたろう: オンラインや雑誌で音楽,カルチャー関連の記事を執筆。共著に『Designing Tumblr』『ダブステップ・ディスクガイド』『ベース・ミュージック ディスクガイド』など。
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