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「軍神」から解放して…潜航艇で戦死の9人

遺族「みな無謀な戦争の犠牲者」

 27日(日本時間28日)に予定されている安倍晋三首相とオバマ米大統領によるハワイ・真珠湾訪問を特別な思いで迎える女性がいる。1941(昭和16)年12月8日の真珠湾攻撃で戦死して「九軍神」とあがめられた横山薫範(しげのり)さん(当時24歳)の遺族、横山範子さん(69)=鳥取県琴浦町=だ。「薫範さんも他の戦没者と同様、無謀な戦争の犠牲」。今回の慰霊訪問をきっかけに、国におしつけられた九軍神という重しをとき、改めて尊い犠牲者の一人と知ってもらいたいと願う。【高嶋将之】

     琴浦町内に建つ薫範さんの墓。骨つぼには、生前の写真と真珠湾の砂が納められている。範子さんは、薫範さんの兄鶴美(つるよし)さん(故人)の孫で、生家や墓の管理を続けている。

     農家の三男だった薫範さんは水上機母艦「千代田」の乗組員だった23歳で、特殊潜航艇の乗員に選ばれた。10人のうち、捕虜となった1人を除く9人は帰らぬ人に。国は「九軍神」と持ち上げ、国葬も執り行った。突然「神」に祭り上げられたが、戦後は戦端を開いた責任者であるかのように冷たい目を向けられ、家族は口を閉ざした。範子さんは、鶴美さんが「生きとったら、いい相談相手になっただろうな」と漏らしたのを記憶する。範子さんもやりきれなさを感じ、薫範さんの話題を自然と避けた。

     生家に残る薫範さんの私物はわずかだ。「整理して(戦地へ)出て行っている。よほどの覚悟だったんでしょう」。真珠湾攻撃直前、11月10日付の手紙はこう結ばれている。

     「皆様も元気な事と思って居(お)りますから手紙はいりません。私の事は御想像に待ちます」

     半面、アルバムや細かな文字でびっしりと記されたノートからは、1人の青年の素顔が伝わる。「『物覚えが悪いから人の3倍勉強しないと』と言っていたそうです。潜航艇の中で何を思ったのか。人間だから雑念もあったでしょうに」。範子さんはこう思いやる。

     今月5日、安倍首相が真珠湾への慰霊を公表した際、範子さんの胸に「やっと」との思いがこみ上げた。「戦中は特別扱いされ、戦後は忘れられてきた。『ようやく首相が行かれたよ』と教えてあげたい」。慰霊当日には、薫範さんの墓を訪れるつもりだ。


    軍神

     輝かしい武功を残して戦死した軍人を神にたとえた尊称。生家は「軍神の家」と呼ばれ、新聞などが大々的に取り上げ、国民の戦意発揚に利用された。真珠湾攻撃では、米戦艦を標的として特殊潜航艇に10人の若者が乗り込んで出撃、米軍の捕虜となった1人を除き、9人が戦死した。海軍省は1942年3月6日、捕虜の存在を隠して9人を2階級特進と発表し、「九軍神」として祭り上げた。

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