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【社会】

首相の真珠湾慰霊 国内から注文「これで和解成立でない」

 日米開戦の地となったハワイ・真珠湾で二十八日に演説した安倍晋三首相は「和解の力」と日米の結束を繰り返した。演説を聞いた国内の戦争被害者や在日米軍基地が集中する沖縄出身者からは「言葉よりも行動を」「まずアジアへの謝罪を」という厳しい声が上がった。 

 「安倍首相は日米関係を希望の同盟と強調したが、沖縄にとっては絶望の同盟になりつつある。沖縄が置き去りにされていると実感した」。沖縄在住や出身の学生らでつくる「SEALDs(シールズ)琉球」の中心メンバーだった国際基督教大四年、元山仁士郎さん(25)=東京都杉並区=はそう受け止めた。

 首相は「(日米は)共通の価値のもと信頼を育てた」と語った。元山さんは「日米が共通して持っているはずの民主主義や地方自治の価値観をないがしろにして、沖縄に米軍基地の負担が押し付けられているのに」と違和感を覚えた。

 「歩み寄って慰霊したのは意義のあること。でも広島と真珠湾の相互訪問で、これで戦後が終わった、和解が成立したんだというふうにはしてほしくない」と思う。「沖縄では、あの戦争が米軍基地の集中という形で現在も変わらずに引き継がれている。沖縄も含める形で戦後を終わらせ、沖縄の人にも希望だと思えるような日米関係を築いてほしい」と訴える。

 中学生の頃、長崎で被爆した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)事務局長の田中熙巳(てるみ)さん(84)は「和解、不戦の誓いなど一語一語は良い言葉だが、スピーチ全体を通して何を言おうとしているのか分からなかった」との感想を持った。

 首相は「和解」を強調したが「私たちは原爆被害者として政権に対して『和解』は求めていない。軽々しく和解という言葉を使ってほしくない。言葉よりも、その後の行動が大事だ」と語った。

 東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)の館長で作家の早乙女勝元さん(84)は「極めて情緒的で、きれいな言葉が並んでいる。歴史的な事実が裏に隠れてしまう」と危ぶむ。

 大空襲を生き延び、戦争被害を語り継いでいる早乙女さんは、当時の米軍パイロットからも話を聴いた。「彼らにとって、十万人もの命が失われた東京大空襲は『リメンバー・パールハーバー』だった」といい、「安倍首相の演説は真珠湾攻撃のつけが国民に回ってきたことに、言及はなかった」と残念がった。

 さらに「真珠湾攻撃以前に日本は中国や朝鮮半島を侵略し、マレー半島に上陸した。本来、アジア太平洋諸国への謝罪をまずすべきではないのか」と疑問を投げ掛けた。

◆靖国参拝の遺族「憎しみよりも戦争なくして」

 東京・靖国神社を参拝に訪れた静岡県吉田町の遺族会婦人部役員の曽根玲子さん(74)は「二度と戦争を起こさないと一生懸命言ってくれた」と評価した。

 父親の広次さんは三十九歳の時にフィリピンで戦死したという。潜水艦に乗っていたと聞いているが、詳しい状況は分からず、骨も遺品もなかった。「米軍に爆撃されて亡くなったとは思うけれど、米国を憎む気持ちはない」と話す。

 「米兵にも遺族はいて、気持ちは同じ。憎しみよりも、戦争をなくしてほしい。スピーチがその一歩になる…なってほしい」

 

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