写真で振り返る2016年
- 2016年12月28日
写真や映像をライセンス販売するゲッティ・イメージズのヒュー・ピンニーさんに、今年最も印象に残る報道写真を月ごとに1枚ずつ選んでもらい、コメントを付けて紹介してもらった。
1月
オバマ米大統領は、大統領令による銃購入の規制強化を発表した際に、2012年にコネティカット州で子供20人と大人6人が殺害されたサンディ・フック小学校の乱射事件について言及し、涙を流した。
オバマ大統領が銃規制に対して、個人的にも強い関心を持っていることをよく表した場面だった。政治家が素のままの感情を見せた稀な出来事でもあった。
2月
シリア北部の主要都市アレッポをめぐる戦いは、年を通じて大きなニュースとなった。反政府勢力やロシア軍、シリア政府軍、過激派組織のいわゆる「イスラム国」(IS)、有志連合の勢力が入り乱れて、気分が悪くなるような「チェス・ゲーム」を続けたことで、世界で最も古くから人間が住んでいたとされる町は、ほぼがれきの山と化した。
戦車の砲撃が起こした衝撃波によって、油絵のような印象を与える非常に珍しい写真。暴力の極限の瞬間が生んだ「美」だ。
3月
ベルギーの国際空港などが標的となった同時爆発攻撃で、ジョージアのテレビ・ジャーナリスト、ケテバン・カルダバさんは空港で爆発現場の近くにいた。難を逃れたカルバンさんは、避難するさなか、携帯電話で写真を何枚か撮影した。
野蛮な攻撃を象徴するものとして、写真はすぐ知られるようになった。携帯電話であっても、所有者の直観と勇気で、このように事件を雄弁に物語る瞬間をとらえることができるのを示す一例ともなった。
4月
ブラジルでジルマ・ルセフ前大統領の罷免を求める大規模なデモ活動が発生し、リオデジャネイロ五輪に向けた準備に影を落とした。追いつめられたルセフ氏を支持するデモも、ほぼ同じ規模で行われた。
この写真はルセフ氏を支持するデモに向かう女性たちが踊っている様子をとらえた。なぜ踊らなくちゃならないのか、私には分からないし、どうでもいい。この写真が大好きなだけだ。光、状況、その場に満ちるエネルギー、緑のスカートをはいた女性の目に宿る鋼のような強い意思――。ただ素晴らしい。自分の部屋に飾っておきたい。
5月
ゲッティの100万枚を超える写真ライブラリーは、まさに宝箱だ。なんらかの理由にかこつけ中身をあさり、古い写真に新しい意味を見出すのは、とても楽しい。
第2次世界大戦中のロンドン大空襲が終わった1941年5月からちょうど75年たったのを機に、写真家のジム・ダイソン氏は当時の写真が撮影された場所を特定し、あらためて訪れ、目に見える形で過去と現在を結びつけた。この写真は、見る人の心をつかむ注目すべき作品群の中の一枚だ。
6月
サッカーの欧州選手権が開かれたフランスで、イングランドとロシアそれぞれのファン同士が乱闘になったのにはあまり驚かなかった。南部マルセイユで起きたこの乱闘を制圧しようと、催涙ガスを容赦なく使った警察の対応の方が驚きだった。
催涙ガスが使われた場面を撮った写真はこれまで何枚も目にしてきたが、この写真には特に注目した。3つの要素がある。椅子と瓶、一人だけ煙に巻かれて立ち止まるファン。実際は騒がしい混乱状況のはずなのに、この写真には静寂さがある。催涙ガスのシーンを捉えた写真では多分、私の一番のお気に入りだ。
7月
トルコで未遂に終わったクーデターの翌朝の一シーン。前の晩には厳戒令を敷こうとしていた兵士たちを、市民らが殴るなど暴行する様子が背景に写っている。中央の若い兵士の表情は、このような時に負けた側にいてしまったらどんな気がするのかを雄弁に物語っている。痛み、必死の思い、そして何よりもこれから起きることへの恐怖だ。
8月
五輪開催を前に、リオデジャネイロは準備を整えられるのか、またその能力があるのか、という問いが何カ月も繰り返された後、大会は盛大な花火と共に始まった。
この写真は、壮麗なマラカナン競技場を貧困層の居住区「ファベーラ」から眺める様子をとらえたことで、背景にあるブラジルの大幅な経済格差を浮き彫りにしている。
9月
キルギスタンで開催される世界遊牧民競技大会は、遊牧民のオリンピックと言われるが、使われる火やワシ、矢、そして格闘の多さに関しては、五輪よりもずっと上だ。さらに多くの競技は馬にまたがって行われる。要は、私や、私以外の多くの人にとっても、ほかに聞いたことがない地球上で最もすごいイベントだ。
この写真の背中に火が付いた人たちは、エキシビションの一部で、競技ではないと思われる。だが、2020年の東京五輪から、新たな馬術競技にしてもいいのではないだろうか。
10月
過激派組織「イスラム国」(IS)がイラク・モスル周辺の油田に放火した時、空は黒煙で暗くなり、モスルをめぐる攻防は終末的な様相を帯びた。
この写真の、真っ赤なバイクにまたがった少年と黒煙を上げる油田との組み合わせは、奇怪ながらもリアルな絵を生み出した。ニュースで報じられる戦闘との直接的な関係は少ないが、状況の本質が良くとらえられた瞬間だ。
11月
トランプ次期米大統領とオバマ現大統領の比較をしなくなる時が来るのか、私には定かでない。あまりに正反対な2人のように見えるからだ。選挙運動でお互いについて語った内容は、この会談の気まずさを和らげる助けにはならなかっただろう。前向きな姿勢や、心がこもっているようには思えない互いへの褒め言葉では、世界のメディアが注目するなかで握手するしかないという、ここで本当に起きていることを隠し切れなかった。
12月
世界の指導者のひとりが亡くなった時、メディア各社は最新ニュースの一つとして追うことになるが、中には、葬儀とその後の展開の報道をよく計画する必要がある、数少ない例もある。例えば南アフリカのネルソン・マンデラ氏、そしてキューバのフィデル・カストロ氏だ。
どちらも、指導者が亡くなれば、いままで彼らが代表してきた社会も激変せざるを得なくなるという感覚に基づいている。
しかし、マンデラ、カストロ両氏の場合、政権を譲ってから長い時間がたっていたこともあるし、支持者たちにとって悲しい出来事ではあるものの、くびきからの解放でもあった。
キューバ国内を巡ったカストロ氏の葬列は、私たちがずっと前に予想していたような混乱からは程遠い、荘厳でシンプルなものだった。
(編集部注:全ての作品には著作権があります)