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誤字脱字ありましたらお願いします。
プロローグ“深夜夢”
トスが自分に回ってくる。
たった一つのボール。たった一回のチャンス。私はムダにしない。絶対に、絶対にこの戦場で勝ち上がってみせる。手に、ボールの感覚。
「…っし」
最高のスパイクだ。
私の打ったスパイクは、激しい音を立てて床にぶつかる。
そういえば、此処は何処だっけ……。勝負の暑さ故か回らない頭で考える。
………あれ?
本当に……何処だっけ………?
「っっっはぁ!?」
ガバッと起き上がる。
目を覚まして3秒ほどで、暗闇になれてくる。そこで認識したのは、自分の部屋だった。
生暖かい布団の感触、壁に引っかけてある学校指定のジャージ(だがしかし兄譲りの男子用だ)、隣で寝息を立てている一番下の弟、はね。
そこで全てを思い出した。
「夢、かぁ……。」
手を額に添わせると、かなり汗をかいていた。
どんだけ焦ったんだ、私は。
時計を見ると、午前2時を指していた。丑三つ時か。嫌な時間に起きちゃったな。けど、目が冴えてしまってどうにもならない。
弟を起こさないようにもそもそと布団から抜け出した。
春独特のちょっとの肌寒さが頬をかすめる。
とりあえず学校指定のジャージに着替えた。
今日は平日。というか今日から新学期。私は女子バレー部の主将になったのだ。及川と一緒ってのが気にくわないけども。
部屋のドアを開け、廊下を進む。とりあえず、キッチンに行って水を飲もう。それから、どうしよう。暇だし、どうせなら一人でサーブ練でもするか…。
4月9日 深夜一時半
「あ」
「おぉ」
キッチンに入ると、私の5歳年上の長男、そらが居た(兄妹全員平仮名表記なんです)。
高校を卒業してから2年、ほぼほぼニート生活をしていて、そっから大学入学。私はニートと呼んでいた。
「おはよう、兄ちゃん」
「早すぎだわおめえは」
「目が冴えちゃってね。兄ちゃんは?」
冷蔵庫を開けて麦茶をコップに注ぐ。
「俺は大学のレポート作ってた~。大変だね学生は」
「大学生生活3年目の人が言う事じゃねぇだろ」
麦茶を飲み干し、席に座る。必然的に長男――そらと目が会うわけだが、若干私の方が背が高い。
「勝った」
「何を」
「身長」
「こんちくしょおおおおおおおお」
私は花の女子高生とは無縁なほどに男らしい。自分でも認めざるを得なかったというか、どっちかっていうと吹っ切れた。
自分以外の兄妹五人は全員男、父は漁師(海の男ですよえぇ)、母は父顔負けの男勝り。遺伝のおかげか、顔も体格も男らしい。
しかも兄二人のおかげでお下がりが全部男用(下着以外)。
そして決め手が身長。女子高生とは思えない、181という驚異の数字。
因みに長男そらの身長は179。私の方が2㎝ほど高いはずだ。
「てかさ、お前去年から何㎝伸びたんだよ、身長」
「2㎝」
「ちくしょおおおおお……。去年は俺の方が高かったのにいい」
「同じだったでしょうが」
席を立ち、コップを洗う。
蛍光灯がチカチカと点滅している。そろそろ買い換えなきゃダメだな。
コップをタオルで拭くと、私はキッチンを出ようとした。
4月9日 深夜二時
「どこ行くー? コンビニー?」
「いや、サーブ練」
「相変わらずのバレー馬鹿…。ねぇお金出すからコンビニで買い物してきてよ」「いいけど、別に……。」
ついでに走り込みでもしてこようか……いや、よそう。
中三の時こんな感じで深夜走りに行って通り魔に遭った。ていうか倒しちゃってなんか微妙な気持ちになったし何より危ないからバイクで行こう。
「何を買ってくればいいの?」
結局玄関まで着いてきた兄に問うと、そらは自分の財布から500円玉を出して、私の手のひらに置いた。
「少年ジャンプ。ど~しても読みたくなった」
「はいはい」
靴紐を固く結んで、玄関のドアを開けた。
手に手袋をはめて、バイクに乗った。
春の深夜の、肌寒い丑三つ時。私には、数時間後に迫っている驚異を考える思考回路など、存在しなかった。
嗚呼。主将ってたいへんだね。
第一話“春一番”
4月9日 朝七時
「おはよう岩泉」
「あ、おはよう烏鳥」
どうでもいいが私の名字は烏鳥からすどりだ。烏に、鳥。線が一本あるかないかで、心底ややこしい。
朝方途中まで弟(中学生、三男)のはやてと一緒に登校していたが、丁度別れたところで男子バレー部副主将、岩泉と会った。
…え? 主将?
「ねぇねぇつばさちゃんー!! おれまた新入生の女の子に囲まれちゃうのかなー!? あーっ、イケメンって辛いぃ~!! 絶対つばさちゃんには勝ってみせるよ!!」
「岩泉、副主将として挨拶考えてきてる?」
「あ、嗚呼。根性論だ!!」
「相変わらずだねぇ」
「ねぇねぇ岩ちゃんもつばさちゃんも聞いてるー!? 俺今年は男の子にも追いかけられちゃうかもー!!」
おー、朝っぱらからこのウザい声を聞くのはちょっと精神が病んじゃうなぁ。…えーと。
コレが男子バレー部主将です。コレが。コレです、このガチの不良品が。
「ねーえーってばー!!」
「ちょっとは黙れないのかな? ん?」
「うるせえクソ川。バスケットボールぶつけんぞ」
「ちょちょちょっ……二人とも酷いな~。この及川さんが声をかけてあげてるのに~! んもうっ!! 素直じゃないんだからぁ~………」
「岩泉、今日の昼飯どうする? 私は学食にしようと思ってるんだけど」
「俺もそう考えていたところだ。一緒に行こうぜ」
「いいよー」
「あのっ、えーと、あの………」
及川の前を二人で並んで歩く。あー、ぴょこぴょこぴょこぴょこ鬱陶しい。
4月9日 朝七時半
「お前に」
「ハイ」
「主将としての自覚は」
「ハイ」
「無いの?」
「あるます」
「日本語」
「あります!!!」
「ったく…」
岩泉と二人でお説教。朝からギャーギャー煩いの!
しょぼん…としている及川と三人で校舎に入る(途中巻き込まれたんだけどね、新入生に)。クラス替えの結果の模造紙が廊下にデカデカと張り出されている。
まずそれを見て教室に行かねば。えーと、烏鳥つばさ、烏鳥つばさ、烏鳥……
「…3年6組」
「じゃあおなじだー」
「ぎゃああああ!?」
気付いたら後ろに居たのは、私と小学生の頃から友達の、神境樹海。変な名前でしょ。その名前と性格と見た目と影に薄さのせいであだ名が幽霊…。
んでもって女子バレー部の副主将、セッター。めちゃくちゃセットアップはいいんだけど、性格が……ね。
「…よ、宜しく…だね……。」
「席も近くだったらいいねェ。そう思ってちょっとこっくりさんにお願いして来ちゃった」
「この野郎」
ガチのオカルト野郎。しかも当たる確率が100%だから、また前の席に来るのか……(知り合った小学二年生の頃からずっとそう)。
「新入部員入るかなー」
「入るんじゃない? つばさが居るから」
「それどういう意味よ」
「まんま」
溜息をついて、鞄からジュースを取り出す。後ろのクソ川の「岩ちゃんと違うクラスー!! 死んじゃうー」という叫びは無視しておこう。やめろクソ川、全校の腐女子がガッツポーズして居るではないか。
ジュースと言ってもバナナオレだったりするのだけれど。
この間下から二番目の弟、くも(小六)と一緒にスーパーに夕飯の買い出しに行ったとき、3つで200円なんていう値段で売ってたからついつい沢山買っちゃってね。普通に美味しいし、文句ないかなー。
…いや、ただ一つ文句が。
バナナオレは樹海の大好物って事を忘れていた。ずっとこっち見てくる……怖いから辞めて……。
「…いる? まだ飲んでないけど」
「えーいいのォ? アリガトー」
確信犯め。
4月9日 朝八時
「よーっす!! つばさ、樹海!」
「あ、おはよう優花」
「おはよう優花ちゃん……。」
優花こと犬吠埼優花は、女子バレー部3年の1人。つっても3年は3人だけだから、私、樹海、優花で全員なんだけどね。
満足そうにバナナオレを啜る樹海と、バナナオレを恨めしそうに見つめる私を見て、状況を理解したのか苦笑している優花。そう、優花はどっかの誰かさんとは違って常識人なのだ。
「優花の妹が今年入ってくるんだっけ」
「うん、そう。女子バレー部に入るって」
「ヨッシャ一人確保」
三人で歩く。
樹海はああ見えて以外に人見知りなので、私の影に隠れるように(実際、ジャージの裾を掴んでてそのまま私が引きずっているだけなのだが)歩いている。
優花はクラスが違ったため、途中で別れる。
「及川と一緒とか最悪だネ」
「そうだねぇ」
うん、それは本当にそうだと思うよ。廊下の窓を見ると、しっかりと制服を着こなした新入生達が友人と喋っている。初々しいね。あの中からどれぐらい女子バレー部に入ってくれるかな。
「新入部員に期待!!」
「そうだネェ」
「ちょっとゴミ押しつけないでよ」
「知ーらない」
「っとに…」
私のジャージに飲み終えた紙パックを押しつけてくる樹海は、通常運転。
嗚呼、まーた同じクラスで、私の前に樹海が来るのか……。
「ふふっ」
「…なに、つばさにしては女の子らしい笑い方できるのね」
「失敬な」
すげぇ、高校3年生生活、楽しみじゃん…。
“期待”
4月9日 朝七時半
昔から私は、スポーツが苦手だった。
小学生の頃のマラソン大会なんか、ビリだった。小学校高学年あたりから、「苦手」は「嫌い」に変わっていた。体育も真面目に参加しなかった。本当、スポーツは心の底から苦手だ。
中学生になって、文化系の部活(小説研究部って所)に入って、それなりに勉強して、成績も上がって、…恋もした。好きな男の子が出来た。同じ部活の、男の子。少しずつ距離を縮めていって、告白した。でも、言われた言葉は…、
「ごめん。俺、体育会系の女子が好きなんだ」
嘘でしょ、って思った。私と正反対じゃないか。
後から聞いたけど、その男の子は別のクラスの女子バレー部の子が好きだったんだって(友達情報)。本当、嫌になった。
その事を友達に相談したら、「じゃああんたも体育会系になっちゃえばいいじゃん」って言われた。えぇっ……、と思ったけど、あの男の子に好かれたいし、第一、苦手な物はいずれ上手くなりたいと思っていた。
これをきっかけに、スポーツが上手くなればな……なんて甘いことを考えていた。
中学を卒業して、「青葉城西高校」と言うところに入った。迷わず、女子バレー部に入った。中学時代の同級生の子には、死ぬほど驚かれた。まぁ、別に嫌だとは思わなかったな。一つ上の先輩にすっごくカッコイイ先輩が居るから。
まぁ、練習厳しいし結果でないしで散々だったけどね。毎日筋肉痛で死にそう。でも苦しくなんかないよ、友達もできたし、色々と楽しいし…。
今日は新しく一年生が入ってくる日。そう、入学式。すごく先輩達がはりきってた。一年をつかまえろーって。
そんなことを悶々と考えていると、服の裾をひっぱられた。
びっくりして振り向くと、私よりちょっと背の低いねねちゃん。白浜ねねちゃん、私と同じ女子バレー部で、リベロなんだ。すっごくレシーブ上手なんだ。
「どうしたの、ねねちゃん…」
「しおりんとおとはんが喧嘩してる…。」
「えっ、何処で!?」
「学校の門の所。いまゆっかんとみどりんが止めてるんだけど、私にはななん呼んでこいだって」
「っわ、わかった!!」
ねねちゃんのあだ名付けはすっごく独特。必ず最後が「ん」で終わる。私の下の名前は「花」だから、「はななん」だって…。
まぁさっきからねねちゃんが言ってる「しおりん」とか「おとはん」とかそういうのは、全部私の女子バレー部の友達のこと。
4月9日 朝七時半
「ちょ、ちょっと!! 二人とも…やめなさいよっ…」
「またつばさ先輩に怒られちゃいますよ…」
「るっさい! これはあたし等の問題なの!!」
「そうだよっ! 悪いけど詩織と縁、口出さないで!!!」
あー、予想通り大変な事になってる。
喧嘩してるショートヘアの方が七里川音羽ちゃん。さっきねねちゃんが言ってた「おとはん」で、もう一方の喧嘩してる、ポニーテールの方が鴨川詩織ちゃん。さっきねねちゃんが言ってた「しおりん」。体育会系の部活で浮いてた私にすぐ声を掛けてくれたフレンドリーな子……なんだけど、ちょっっとだけ、音羽ちゃん限定で喧嘩っ早いかな…。
多分理由は彼氏がどうのこうの、イケメンがどうのこうのだろうな…。
音羽ちゃんはすっごくイケメンさんが大好きで(男子バレー部主将のおい、及川…? さんとか)、それに比べて詩織ちゃんはすっごく一途で顔より性格重視だから、なんか真逆っていうか…。
それ故か、すぐに喧嘩しちゃう。
「ほら、二人とも……。」
私は仲の悪い双子の妹がいるので、女子同士の争いは止めるの得意。なので、この二人の事はなんとなく私担当になってる…気がする。
後ろからねねちゃんも来て、二人は肩で息をしながら「ふん!」と背中を向ける。あーあ、疲れた……。
「お疲れ、縁ちゃん、由華ちゃん…。」
「ほんっと、もう…。二人はなんでこんなに仲が悪いんだろうね。」
「ま、まぁ…、喧嘩するほど仲が良いって事で…。」
「あたしははななん呼んだだけだから平気だけどね」
二人を止めていた、背の高い(なななんと169㎝…。)方が勝浦縁ちゃん。ねねちゃんによるあだ名の理由は「縁ゆかりって漢字緑みどりって時に見えない?」という無茶苦茶な理由から。それでもう一方の方が音羽ちゃんの幼馴染み(らしい)の、白子由華ちゃん。まぁ、あだ名は普通に「ゆか」→「ゆっかん」だろうけど。
まぁ、二人の喧嘩はいつものことなので、若干慣れつつもある……………ん?
「二人の喧嘩に慣れつつあるって大丈夫か私!!」
「「わっ」」
…あ、
恥ずかしい。声に出てた………。しかも学校の廊下で……。自然と顔に熱が集まるのがわかる。
やばっ、超恥ずかしい…。
「あー、それわかる…。日常茶飯事だもんね」
「そうですね…。ダメですね私達…。」
「…それな。」
「ちょっと、ダメってどういう事!?」
「喧嘩が日常茶飯事ってそんなしてないわよ!!」
(……いや、してるよ…。たとえば今)
4月9日 朝八時
「……はぁ」
教室に戻り、席に着く。すると、前の友達が話しかけてくる。
「花、大丈夫?
めっちゃ叫んでたけど」
「うぁぁぁ…忘れて……。」
「女子バレー部大変そうだよね。とくにあの、七里川が」
「…あはは、詩織ちゃんと毎日喧嘩してるよ…。」
「毎日じゃないってば!!」
近くに居た詩織ちゃんが叫ぶ。やばっ、聞こえてたな……。ごめん、と謝罪をすると、詩織ちゃんは口をとがらせ、「別に、あいつと合わないのは意見だけで、その、トスは、打ちやすい、…気がする、っていうか……?」と、一人でブツブツ喋り始めた。
今のを通訳すると、「音羽のトスは打ちやすいなんてのは口実だけど本当は仲良くなりたいな」だね。うん、私にはわかっちゃうよ、うん。
「だっ、第一あいつはこの間も「彼氏とデート」とか言って部活休んだんだからね!!
トスが上手でも許されないわよ!! 今度こそ私がスタメンになってやるんだからーっ!!」
神様、こう言うのをツンデレと言いますか、一人逆ギレと言いますか、教えてください。
そうそう、スタメン、すなわちスターティングメンバーと言えば。まぁ簡単に言うとレギュラーかな…? 最初からコートの上に居る6人。リベロを含むと7人。(まずこのことを理解するのに1週間かかりました)
この7人を最初に決めるんだけど、去年のスタメンは旧三年生の先輩二人、今の三年生のつばさ先輩と神境先輩、そして音羽ちゃん、ねねちゃん、縁ちゃんになった。
詩織ちゃんはスタメンになるために結構練習していたらしく、相当悔しかったんだろう。…でも、新しい一年が入ってくることを考えると、結構スタメン入りって難しいんじゃ……。
“新”
4月9日 朝八時半
「ん、ふあ~~~~~~っ!!」
大きな欠伸を噛み殺すことなく、遠慮無く鵜原櫻子は大きな欠伸をした。すると、その場は静まりかえった。因みに此処は青葉城西高校の体育館である。
本日は入学式、沢山の新一年生がここ、青葉城西高校に入学する。
鵜原櫻子も、その一人だった。女子高生としてはかなり高身長であろう、170ほどある巨体(の、足)を気持ちよさそうにのばした。当然、足は椅子に当たる。ガンッ、と鈍い音がして、椅子に座っていた男子生徒が振り返った。
眠そうだが不満げそうなその目を見て、櫻子は何か言おうとしたが、それはステージの上に乗っている生徒会長であろう男子生徒の咳払いによってかき消された。
「やっば、寝てた…。」
肩をすくめて櫻子は眉を下げた。
だが、また長々とした生徒会長の話が始まると、櫻子の瞼まぶたは降りてきた。うとうと、と前屈みになり始めた櫻子は、気がつけばまた夢の世界へ入っていたのであった。
数十分はたったのだろうか。入学式が終わったのか、それとも校長の話が終わったのか(多分後者であろう)、拍手が鳴り響いた。
「はっ!?」
再び櫻子は目を覚まし、周りの状況を確認した。さっき起きたときとまるで変わっていない。変わっていると言えば、拍手の音だ。周りをきょろきょろと見回し、パチパチと少し遅れて拍手をすると、隣の女子が勢いよく吹きだした。
「ふっ…ふふふっ……。」
「!?」
いきなり笑われたら、誰でも自分かと疑うだろう。
櫻子が隣を見ると、元は黒だったのだろう、金髪の中、数えられるほどわずかな髪の毛が黒になっている、三つ編みの少女が居た。
「な、何だよ…。」
「いや…、いきなり起きたかと思えば拍手始めて。笑わない方がおかしいっつーの…ふふっ…」
少女の意味不明な行動に、不快感をおぼえた櫻子は「意味分かんない…」と呟き、再びステージの方に向き直った。
4月9日 朝十時
廊下を歩くと、上履きのシューズと廊下が擦れてキュッ、キュッ、と音が鳴るよね。私はあの音、バレーしてるときみたいで好きなんだ。お姉ちゃんに憧れてちょっと遠い高校まで来たけど、やっぱり知り合い少ないな…。心細いデス…。
…え? お前は誰かって? ごめんね、自己紹介がまだだったよね。
私は犬吠埼優子。今日からこの青葉城西高校の一員なんだ。私のお姉ちゃんは今高校三年生なんだけど、女子バレー部なんだ。私も女子バレー部に入るの。
「私は……、1年4組ね…。1-4、1-4…」
ブツブツと呟きながら教室へ向かう。普通に見たら危ない人かな…? でも記憶力無い私にとっては呟いとかないと忘れる、かな…? そういう人もいるでしょ!!
…誰もいないのに何言ってんだ、私…
「わっ」
「へぶっ!?」
下を向いて歩いていたからか、人にぶつかってしまう。
見ると、私より10㎝ぐらい背の低い女の子。大きなおだんごが特徴的、目がくりくりしてて可愛いなぁ……って、何やってんだ私……。
「ご、ごめんね!! 大丈夫!?」
「あ、あの、私こそっ……。前見て無くて…」
「いえいえ見てなかったのはこっち…。」
この子も前見てなかったのか…? ほら居たじゃん、下向いてる人…(違うかな?)。
「新一年生、だよね…?」
「あっ、はい、うん。」
「じゃあ同い年だ!! 何組だった?」
「1年4組、です。」
「わっ!! クラスも同じじゃん…」
「本当!? 一緒に行こうよ!」
「うん。私犬吠埼優子。貴方は?」
すごい偶然…と言っても、これだけ人がいるんだからたまたまぶつかった女の子が同クラって事ぐらい、普通に有り得るか…。それにしても本当に可愛いな……。肌白いし、ちょっと太い下がり気味の眉毛も可愛い…。
「私、万祝冬乃。友達できるか心配だったんだ……。友達になってくれる?」
「もちのろん!」
二人で廊下を歩く。結構体育館から1年4組まで遠いので、冬乃ちゃんと世間話。
「へぇ、優子ちゃんは女子バレー部入るんだ!」
「うん!! 希望はMB!!!」
「み、みどりぶろっかーって何…? 緑色…?」
「違う違う、み・ど・る・ぶ・ろ・っ・か・ー!!」
「…? 何それ…」
み、緑ブロッカーって……ブロッコリーじゃないんだから……。少し笑ってしまった。全世界のMBさん、ごめんなさい。
4月9日 朝十時
「なんだよお前!」
「こっちの台詞よ人間の形したらっきょうが」
「俺は人間だわ!!」
ったく、どういういきさつでこのらっきょうと私は知り合ったのかしら。
…多分こいつが自販機にお金入れたところで私が後ろからボタンを押すというイタズラを仕掛けたという所かな。
「人の金取んじゃねぇよ!!」
「心狭いのね、そんなんだかららっきょうって呼ばれるのよ」
「お前以外には呼ばれてねぇだろ!!」
「さっき三年の女子生徒が『らっきょだ、らっきょ…』って写真撮ろうかどうか迷ってたわよ…あ、この新味やっぱり美味しかったわ。130円ありがとうね、返す機会があれば返すわ」
「俺写真撮られたの!? 撮られなかったの!? そこ大事でしょ!? あと返す機会無くても返せよ!!」
キレッキレのツッコミね…。どんだけ個性的な人に囲まれてたんだか…。恐らく苦労人だったようね…。
「…ハァ、あんた、名前とクラスは」
「何だよその俺が駄々こねたみたいな言い方は。
…金田一勇太朗だよ。ちゃんと名前覚えろよ! らっきょうじゃ無ぇからな!! あと1年5組だよ」
「うわっ同クラだ」
「じゃあ返せよ130円! つぅか名前!!」
「ハイハイハイ返しますよそんなに貧しくないのでね。千倉千春よ。」
「じゃあなんで俺の金で買ったんだよ! 貧しくないのに! お小遣い日前の俺の130円!!」
「らっきょうが金持ってるだけですごいと思うけど」
「金田一だぁぁ!!」
最悪、同クラだ…。一応同中は数人いるけども。友達も居るけども。このらっ…金田一と一緒のクラスなんてねぇ…。席が出来る限り離れることを祈るわ。
「それじゃ、また後でねー。らっきょう。」
「な、なんか含みを感じるんだけど…!」
チッ、ばれたか。
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