日韓が慰安婦問題の解決策に合意してから、きょうで1年となる。
元慰安婦の名誉と尊厳を回復し、心の傷を癒やすことが合意の目的である。着実に履行されるよう、両国は協力を続けていってほしい。
韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は弾劾訴追され、職務停止に追い込まれた状態だ。憲法裁判所が弾劾を認めれば、来年前半にも大統領選が行われる。
早期の大統領選をにらむ政界では朴政権の成果を否定しようとする動きが広がる。攻撃対象の一つが慰安婦問題での日韓合意である。
主要候補と取りざたされる人物の中で合意に肯定的とみられるのは、1年前に国連事務総長として歓迎声明を出した潘基文(バンキムン)氏くらい。野党側には見直しや破棄を主張する有力政治家が多い。
反対論者は、当事者である元慰安婦たちの意見を聞かないままに行われた合意だと主張する。
だが実際には、合意時点の生存者46人のうち7割超が合意に基づく事業を受け入れた。この事実は重く受け止めるべきであろう。
慰安婦問題を巡って初めてなされた日韓の政府間合意だ。2012年に韓国の李明博(イミョンバク)大統領(当時)が島根県・竹島に上陸してから険悪化する一方だった日韓関係の流れを変えた意義も大きい。
日韓両国は、慰安婦問題を巡る国際社会での相互非難を自制するようになっている。北朝鮮の核問題でも連携を取りやすくなった。懸案だった軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結は、日韓関係が改善基調にあることを象徴する。
現実には、誰が韓国の大統領になっても政府間合意をほごにするのは難しい。外交には継続性が重要だ。大統領選をうかがう政治家には、そのことを認識してもらいたい。
日本で関心が高いのは、在韓日本大使館前に建つ少女像である。合意では、韓国政府が日本の「懸念」を認識した上で「適切に解決されるよう努力する」とされた。
日本側が韓国世論を刺激すれば、少女像の問題にも悪影響を与える。韓国の状況が落ち着いてから改めて懸念を伝えたい。
韓国側にも自制が求められる。釜山の日本総領事館前への新たな少女像建立を計画する団体があるというが、そうした行為は日本側に感情的反発を生む。
米国のトランプ次期政権の東アジア政策が不透明なことも考えねばならない。
これまでは米国が日韓関係を改善させようとしてきたが、今度は逆に米国の関与を引き出すために日韓の協力が必要になりそうだ。合意が生み出した前向きの流れは、米国への説得材料にもなる。