アルマ望遠鏡のバンド5受信機がファーストライト
【2016年12月26日 アルマ望遠鏡】
南米チリに設置された電波望遠鏡のアルマ望遠鏡では、30~950GHzの観測周波数帯を10に分け、それぞれに最適化した受信機を開発してアンテナに搭載している。周波数の低いほうからバンド1、バンド2、という名前が付けられ、最も高い周波数帯がバンド10だ。このうちバンド4、8、10の3つの周波数帯の受信機は日本が開発し、各受信機について全アンテナに搭載するための66台+予備7台の計73台がすでに稼働している。
今回ファーストライト(初観測)を迎えたバンド5受信機は、スウェーデンのチャルマース工科大学オンサラ天文台が中心になって開発し、オランダの天文学研究組織NOVA (Netherlands Research School for Astronomy)と米国立電波天文台との協力によって量産された。また、チリ現地でのバンド5受信機の組み込みに際しては国立天文台のスタッフも貢献した。
アルマ望遠鏡バンド5受信機(提供:Onsala Space Observatory/B. Billade)
バンド5受信機の観測周波数帯で特筆すべきは、水分子が出す電波(波長1.64mm)が含まれることだ。水は地球大気にも含まれるため、宇宙にある水分子からの電波を観測するには高地や乾燥した場所でなくてはならない。この点、アルマ望遠鏡の立地は他の望遠鏡に比べて大きな利点だ。さらにアルマ望遠鏡の高い感度と解像度を活かして、様々な天体における水分子の分布を描き出せると期待されている。
「バンド5受信機によって、我々が知る生命誕生の必要条件である水を、太陽系内、天の川銀河内、そしてその外において検出することが容易になるでしょう。また遠方宇宙での電離炭素からの放射も観測可能です」(欧州アルマ望遠鏡プログラムサイエンティスト Leonardo Testiさん)。
受信機の性能確認のための試験観測では、へび座の衝突銀河「アープ220」の中心部、天の川銀河中心近くの星形成領域「いて座B2」、年老いて超新星爆発に近づく星「おおいぬ座VY星」などが観測された。
アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で撮影した衝突銀河アープ220の中心部。(赤)バンド5受信機で得られた電波放射の分布(提供:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/NASA/ESA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA))
今回の試験観測では一部のアンテナに搭載されたバンド5受信機だけが使われた。今後、より多くのアンテナに搭載されたバンド5受信機が観測に使用されることで、新しい成果が次々と挙げられることだろう。
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