世間に誤解されてきた戸川純、貪欲に生き抜いてきた35年を語る
戸川純 with Vampillia『わたしが鳴こうホトトギス』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 編集:山元翔一
80年代ってある種戦わないとやっていけない、そういう時代だった。
―戸川さんの表現は昔から「伝わる」ということが第一にあった。ただ、『玉姫様』(1984年)が「生理」をテーマに扱った作品だったり、“好き好き大好き”の<愛してるって言わなきゃ殺す>といった歌詞だったりに対して、誤解や風当たりも結構あったのではないかと思います。
戸川:そこにも特に主張があったわけではないんです。生理を扱ったのは、1980年代当時、ニューアカ(ニューアカデミズム)や文化人類学が流行った中で「負性」という言葉が取り上げられて、「女性も負性の1つである」と言われていたんですね。それに対して、別に抗うでも受け入れるでもない、ある種ガンジー的なやり方をしたというか。「違う、女の方が強い」みたいな戦い方は70年代的だと思ったし……。
―「セクシャリティーを題材にすることで、当時の定型化された女性像を解放したい」というような主張があったわけではないと。
戸川:ではないですね。そのあとフェミニズムが台頭してくるまでの狭間くらいの時期で……でも、ガンジー的じゃなかったなぁ。頑張ってたもんなぁ。やっぱり、80年代ってある種戦わないとやっていけない、そういう時代だったの。
生理のことを歌うということは、内容に関係なく、モチーフにするだけで賛否両論がすごくありました。中には誤解されて、「生理があるからって、なに威張ってんだ。男には玉があるぞ!」とか言われて、「別にそういう次元で優劣つける気は全然ないんだけどなぁ」とか思ったり(笑)。
―そんな歌手活動の一方では、女優としても活躍していたわけですよね。
戸川:音楽をやらないで、女優だけをやっていたら、私はずっと「作りもの」だったと思う。“バーバラ・セクサロイド”は女優のことを歌っているんですが、女優って、台本どおり、演出家の意図どおり、自分というものを捨てて、役に徹するものだと思うんです。
<あなたのデータをロードしたわ いいことしてあげる>っていうのは、脚本が本当に言いたいことの行間を読んで演じることを書いた歌詞なんです。女優というものは非常に従属的なものだと思っていたので、正直好きじゃない台詞でも演出でも、言うことを聞いてやってましたからね。
―役者がある意味従属的な分、歌手活動では自分の伝えたい言葉を綴って、そこでバランスがとれていたのかもしれないですね。
戸川:そうですね。だから、続けてこれたんじゃないかな。「アイドルなのかアーティストなのか、どちらなんですか」とインタビュアーの方に訊かれたときも「両方、ってわけにはいきませんかね」と答えました(笑)。
女優さんで、脚本とか衣装に対して、「これは私らしくない」って言うような人は、やっぱりすぐダメになっちゃうんですよ。私の場合、音楽で好きなように表現できたのは本当に大きい。その分いろんなところから石が飛んできたりもしたけど、両方やっていたことがよかったのかもしれないですね。
よく「不思議ちゃん」って言われるんですけど、本当はちゃんと説明するタイプなんです。
―歌手活動35周年記念作品をVampilliaとのコラボで制作するに至ったのは、どのような経緯があったのでしょうか?
戸川:今回に関しては、私がVampilliaさんに「一緒に作ってください」とオファーしました。以前Vampilliaさんのアルバムで「1曲歌ってくれませんか?」と声をかけていただいて、そのときいただいた“lilac”という曲がすごく素敵で、その後もライブのゲストに何度か呼んでいただいたんです。
「Vampillia bombs 戸川純」名義で発表された楽曲。2014年にリリースされた企画アルバム『the divine move』に収録
戸川:普通、どこかのバンドさんが私をライブのゲストに呼んで、私の曲をカバーするとなると原曲に忠実なアレンジでやることが多いんですね。それはそれで嬉しい心遣いだなって思うんですけど、Vampilliaさんのアレンジは、原曲の大事な部分だけ残しながらも非常に彼ららしいものだったんです。それがすごく斬新だったし、よかったんですよね。
―かつてのゲルニカ(1980年に結成された音楽ユニット。細野晴臣がプロデュースを手がけたことでも知られる)やヤプーズ(1983年に戸川が中心となり結成したバンド)、今年の非常階段とのコラボ(『戸川階段』)にしろ、面白い音楽家と出会って、プロデュースしてもらうような感覚というのは、戸川さんの歌手活動の中心にあるものなのかなと感じます。
戸川:そもそも作詞や作曲に対する欲はなくて、「歌さえ歌えれば」みたいな感じでしたからね。ソロで初めて出した『玉姫様』のときは、歌いたい歌詞を書いてくれる人がいなかったから、仕方なく自分で書いたんです。そしたら、作詞も向いてるのかなって手応えを感じて。
―音楽でもある種「演じる」という感覚があったのかもしれないですね。
戸川:それはありましたね。ただ、重要なのは曲や歌詞なので、演劇的な要素はあくまでも補助的なもの。例えば、今回の1曲目に入っている“赤い戦車”は、もともと曲と歌詞だけですべて表現できていたので、演じず、そのまま素直に歌っているんです。
―アルバムには「戸川純」名義での12年ぶりの新曲“わたしが鳴こうホトトギス”も収録されています。
戸川:「1曲新曲を」っていうのはVampilliaさんが言ってくれて、真部(脩一)さんと一緒に歌詞を書きました。<あゝ等身大に>っていう歌詞があるんですけど、私、一時期腰を悪くして声が全然出なくなっちゃってたんですね。それから訓練をして、やっとここまで出るようになったんですけど、今って機械を使えば声ってどうにでもなったりするじゃないですか? でも、そこに頼らずに、「今の自分で、等身大のままやりたい」っていう話をしたのを真部さんが覚えていてくれて、歌詞に入れてくれたんです。
―つまり、今回のアルバム自体、今現在の等身大の戸川さんが投影されたアルバムになっていると。
戸川:そうなんです。わかりやすいでしょ? 私、よく「不思議ちゃん」って言われるんですけど、本当はちゃんと説明するタイプなんです。“わたしが鳴こうホトトギス”の歌詞も非常に具体的だし、米印まで入れてもらいましたからね(歌詞の中に出てくる「テツペンカケタカ」という言葉に関して、歌詞カードに「※テツペンカケタカはホトトギスの鳴き声」という注釈が入っている)。最後も「ずっと歌っていきたいっていう意志みたいなものを入れたい」って言ったら、真部さんが<何年経つても鳴ひてゐやふ>にしてくれて。
―ホトトギスと、歌手としての自分を重ねているわけですね。
戸川:だからタイトルチューンにふさわしい。ね、わかりやすいでしょ?(笑)
リリース情報
- 戸川純 with Vampillia
『わたしが鳴こうホトトギス』(CD) -
2016年12月14日(水)発売
価格:2,916円(税込)
VBR-0381. 赤い戦車
2. 好き好き大好き
3. バーバラ・セクサロイド
4. 肉屋のように
5. 蛹化の女
6. 12階の一番奥
7. 諦念プシガンガ
8. Men's Junan
9. わたしが鳴こうホトトギス
10. 怒濤の恋愛
書籍情報
- 『戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ』
-
2016年11月25日(金)発売
著者:戸川純
価格:2,484円(税込)
発行:P-VINE
リリース情報
- ゲルニカ
『改造への躍動~特別拡大版~』(CD) -
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304251. ブレヘメン
2. カフェ・ド・サヰコ
3. 工場見學
4. 夢の山嶽地帯
5. 動力の姫
6. 落日
7. 復興の唄
8. 潜水艦
9. 大油田交響楽
10. スケエテヰング・リンク
11. 曙
12. 銀輪は唄う
13. マロニエ読本
14. 夢の端々
15. マロニエ読本(Remix Version)
16. 工場見學(オリジナル・カラオケ)
17. 銀輪は唄う(オリジナル・カラオケ)
18. マロニエ読本(オリジナル・カラオケ)
19. 夢の端々(オリジナル・カラオケ)
- 戸川純 『玉姫様』(CD)
-
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304261. 怒濤の恋愛
2. 諦念プシガンガ
3. 昆虫軍
4. 憂悶の戯画
5. 隣りの印度人
6. 玉姫様
7. 森の人々
8. 踊れない
9. 蛹化(むし)の女
- 戸川純とヤプーズ
『裏玉姫』(CD) -
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304271. OVERTURE
2. 玉姫様
3. ベビーラヴ
4. 踊れない
5. 涙のメカニズム
6. 電車でGO
7. ロマンス娘
8. 隣りの印度人
9. 昆虫軍
10. パンク蛹化の女
- 戸川純ユニット
『極東慰安唱歌』(CD) -
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304281. 眼球綺譚
2. 海ヤカラ
3. 戸山小学校校歌~赤組のうた
4. 無題
5. 家畜海峡
6. 人間合格
7. 極東花嫁
8. ある晴れた日
9. 極東慰安唱歌
10. 勅使河原美加の半生
11. 夢見る約束
- 戸川純
『好き好き大好き』(CD) -
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304291. ヘリクツBOY
2. 好き好き大好き
3. エンジェル・ベイビー
4. さよならをおしえて
5. 図形の恋
6. オーロラ B
7. 恋のコリーダ
8. 遅咲きガール
- 戸川純
『東京の野蛮』 -
2016年12月21日(水)発売
価格:2,500円(税込)
MHCL-304301. さよならをおしえて
2. 海ヤカラ
3. 母子受精
4. 諦念プシガンガ
5. 蛹化の女
6. パンク蛹化の女
7. 遅咲きガール
8. 極東慰安唱歌
9. 眼球綺譚
10. 玉姫様
11. レーダーマン
12. 怒濤の恋愛
イベント情報
- 『戸川純35周年記念LIVE「わたしが鳴こうホトトギス」』
-
2017年1月13日(金)
会場:東京都 恵比寿 LIQUID ROOM
出演:
戸川純 with Vampillia
Vampillia
and more2017年1月20日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
出演:
戸川純 with Vampillia
Vampillia
and more2017年2月1日(水)
会場:東京都 新宿LOFT
出演:
戸川純(ゲスト:ことぶき光、山口慎一)
dip2017年3月11日(土)
会場:岡山県 岡山 DESPERADO
出演:戸川純
プロフィール
- 戸川純(とがわ じゅん)
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女優、歌手。映画、ドラマ、舞台、CMなど出演作多数。CM『TOTOウォシュレット』(1982年から1995年)、映画『釣りバカ日誌』(1作目から7作目)、映画『いかしたベイビー』(1991年。監督・脚本・主演)、近作に二人芝居『ラスト・デイト』(2006年)など。戸川純ソロ名義、ヤプーズとして音楽活動も行っている。作品に『玉姫様』(1984年)、『好き好き大好き』(1985年)、『昭和享年』(1989年)、自選ベスト3枚組『TOGAWA LEGEND』(2008年)など多数。2016年、歌手生活35周年を迎え記念アルバム『わたしが鳴こうホトトギス』を発表。
関連チケット情報
- 2017年1月20日(金)
- 戸川純
- 会場:梅田クラブクアトロ(大阪府)
- 2017年2月1日(水)
- 戸川純/dip
- 会場:新宿LOFT(東京都)