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Dec 27, 2016 続・将棋スマホカンニング疑惑並びに竜王戦挑戦者変更強要疑惑 
本記事は昨日の記事の続きになります.一応,これだけ読んでも現時点での状況は見えるとは思いますが,昨日のものから読んだ方がわかりやすいとは思います.どちらも長いですが.
http://d.hatena.ne.jp/akisaito/20161226
真面目な話の前に小噺を一つ.渡辺竜王から不正の疑いをかけられていたということについて,三浦九段,渡辺竜王からそういう人だと思われていたなんて…と仰っておりました.この会見,真面目に聞いていたんですが,ここだけ不謹慎ながらちょっと吹き出しそうになりました.10年以上前からそう思われてるのに気づいてないんかい!(質問三羽烏事件参照).いや,そんな時々ちょっと抜けてるけど,将棋の鬼・サムライの迫力を持つ三浦先生を敬愛しており,出場停止は悲しく,また将棋指す姿を見られるのは嬉しいんですよ.だからこそ,なるべく連盟等の立場も配慮して記事は書くように心がけています.
さて,昨日のブログから1日で,3つの大きな進展(と,1つの残念な訃報がありました.伊藤能六段です)がありました.特に28日に予定される週刊誌報道の件もありますので,もう少し待った方がいいのかなとも思いましたが,どうせ昨日の時点で途中経過で書いていますし,ほっといても余計長くなりますから.ということで,今日の話題に向けて繋ぎつつ,今書けることを書いてみようと思います.尚,渡辺竜王に関しては週刊誌の内容がわかるまで書くべきではないと考えますので,今回の稿からは基本的に除外しています.
本題の前にもう一つ,こちらはお断りですが,私は法律の専門家ではないので,前の文章も,この文章も,今後書くかもしれない文章も法的な正しさは保証できません.今回の問題について,ある程度専門的な立場から言えることがあるとすれば,千田六段には悪意はなかったであろうということだけです.彼のような間違いは,データ解析の初心者に珍しいものではないです.データ解析は,同じデータに対しても,様々な分析アプローチがあり得,結果が変わってしまうことも珍しくないです.だからこそ,分析者に有利になるようなデータの操作は厳に慎まなければならないということは学術論文を書くレベルなら常識ですが,一般社会の常識ではありません.彼はそれを知らなかっただけだと思います.
もし悪意があったなら,分析結果の解釈だけ公表し,データや分析方法は公表しなければよかったのです.しかし,彼はデータも分析の仕方も公表しました.これは,彼の誠実さだと受け止められます.間違いがあったとしても,データや分析法をきちんと公開すれば,他の研究者(今回であれば西尾六段など)が間違いを見つけてくれることもあります.これは学問の世界の自浄作用として正しいことです.この場合,間違いを正した研究者が評価されるのは勿論ですが,たとえ誤りがあったとしても,それによって最初に発表した研究者(今回の千田六段)が,少なくとも人間的に批判されることは考えられません.彼の間違いがあったことで,議論が発展し,一致率はプロ棋士の不正判定に対してあまり意味を持たないという新たな発見があったのです.
まあ,研究者の言葉は論理的に厳密な分概してきついので,一見すると責められているように見えることが多いですが,実際のところ悪気はないことが多いです.と言うか,議論が大好きなだけです.ここで心が折れる人は,修士・学会デビューくらいで研究職の道を諦めると聞きます.酷評三羽烏なんて言葉もありましたし,もしかして,将棋界も似たようなものかも知れませんね.基本的には,三浦九段を信じぬいた竹俣女流初段にしても,間違えてしまったにせよ,自分で考えてデータをまとめた千田六段にしても,若い人が自分で一所懸命考えて自分の意見を述べてくれることは嬉しいんです.
さて,正直なところ,前回の考察が高評価を頂いたのは私としては意外でした.と言うのも,私自身,結論が何なのか書いていてわからなかったからです.つまり,第三者委員会は有能と評価している.一方で,連盟の判断は妥当とは思えない.どっちだよ.ということです.これは,私としても考えをまとめるのに少し時間がかかりました.
連盟の判断の問題点は前回述べた通りです.それに対して,何故第三者委員会は有能であると感じたかが不十分でした.ここについて追記します.三浦九段は飽くまでも将棋連盟所属棋士であり,将棋連盟の中で,元の立場を取り戻し,不安なく将棋を指せる環境を取り戻すことが最大の望みです.そしてそれは,将棋連盟にとっての利益に必ずしも反する訳ではありません.つまり,三浦九段と将棋連盟は,利益を共有こそすれ相反は本質的にしていないので,将棋連盟を完全屈服させ,重大なダメージを与えることは,三浦九段も望んでいないはずです.そのため,将棋連盟の顔を潰さず三浦九段の損害に対する回復を行うべきであるという,両者の損失を最少化させる提案した第三者委員会は求めらた立場を理解し,最良の落としどころを示したと言えます.その意味で有能です.
よって,論理的な正しさはさておき,今後の持って行き方は,この第三者委員会の判断をベースとするべきと考えます.ただ,もちろんそういう意味で有能なのだから,個々に見ると論理的に無理のある部分は否定できませんし,その意味で,三浦九段側からすれば,大人の対応として理解はできても納得できない部分が多いのは当然です.
……と,思っていたのですが,三浦九段の会見の結果,落としどころを調整することを彼らは選びませんでした.ただ,彼らの証言が真実だとするならば,落としどころを言える段階ではなく,全面的な反論になるのは仕方ないです.
三浦九段の会見は,以下の毎日新聞のFacebookでの動画が見やすいでしょうか.
https://www.facebook.com/mainichishimbun/videos/vb.116564768383458/1407874382585817/
前回の記事で,私は処分が妥当であるという理由付けを4点に分けて整理検討しましたが,三浦九段の会見では,5点に分けて整理しています.よって,この5点から検討します.
- 処分当時疑惑が強く存在していた
- そのまま出場させることは大きな混乱が必至である
- 将棋連盟や将棋界に対する信頼や権威が失われることが予想される
- 竜王戦が3日前で余裕がなかった
- 三浦九段が休場の申し出を行ったことを経て挑戦者交代に対する対応を行っており,三浦九段が休場を撤回した段階では後戻りできなかった
といったところです.その上で,連盟側が何か言っているかも確認します.連盟側の会見要旨は以下の通りです.
http://www.shogi.or.jp/news/2016/12/post_1492.html
ここで述べられていること,また,三浦九段の記者会見で述べられていることを合わせてそれぞれについて検討したいと思います.
尚,三浦九段は全面的に連盟の措置が間違っているという立場であり,前回の記事のように,竜王戦はともかく他の棋戦だけでも出場の可能性を探るという立場は取っていないようでした.
1.処分当時疑惑が強く存在していた
この点について,三浦九段側は一部棋士から出た離席や指し手の一致率などが根拠であり,薄弱なものであった.これは疑惑ではなく,一部棋士の邪推に過ぎないと反論しています.
一方連盟側は,7月の関西の報告会での久保九段の発言が発端であり,その段階では真偽を確認することを怠り反省している.離席や一致率については当時は信頼のおけるデータと認識していた.正確な情報を入手すべきであった.と説明しています.
三浦九段の認識は,12月27日現在の認識としては正しいものです.ただ,問題は,10月11日にその判断が可能であったかということです.これは簡単ではなく,連盟にそうする能力がなかったのは事実であるようにも感じます.つまり,三浦九段側の見解は正しいが,正しい行動が出来なかったのを倫理的なレベルで責めるのは酷であるということです.
2.そのまま出場させることは大きな混乱が必至である
この点について三浦九段側は,金属探知機による検査は決まっており,不正が行われることはなく,そのまま出ても混乱は想定できなかったと反論しています.
一方連盟側は,「この時点で週刊誌に三浦九段に関する記事が掲載されることが確定的である、という重い事実がありました。渡辺―三浦戦で竜王戦の七番勝負を行い、第一局の一週間後に記事が出ることになりますと、大きな混乱を招くばかりでなく、竜王戦の中止という最悪の結果となる可能性もありました。」と述べています.
金属探知機があろうがなかろうが,疑惑の雑誌掲載による混乱は必至であるため,三浦九段側の反論は若干ずれているように思います.ただ,結局これだけの混乱になっています.週刊誌記事が掲載されるのが明らかなのだったら,週刊誌記事の掲載前に記者会見を開き,現時点で不正の証拠はない.また,金属探知機による検査を行うため,七番勝負で不正が行われることはあり得ないと発表しておけば,混乱は一番小さかったんじゃないかと結果論としては思います.
さらに,そもそもの話として,週刊誌への疑惑掲載を重要な問題点として挙げていましたが,実際に掲載されたのは,疑惑を提示した側への取材結果だったのですよね.ということは,訴えた側が自ら招いている訳で,メディアを通した処分の強要とも受け取ることができます.そのため,混乱の責任をだれに帰すべきかという点で疑問が多いです.
3.将棋連盟や将棋界に対する信頼や権威が失われることが予想される
三浦九段側からは根拠薄弱な状況証拠から挑戦権を剥奪することの方が信頼,権威を傷つけたのではないか,実際,今に至るまで連盟は信頼を失っているとの反論があります.連盟側からの意見表明はありませんが,これは,三浦九段側の意見に疑問点はないと感じます.実際,信頼は大幅に失われました.これも,連盟側がそれを予期する能力を持っていたかという問題になるのですが.
4竜王戦が3日前で余裕がなかった
という点には,三浦九段側は七番勝負については金属探知機の検査が存在していたし,挑戦者決定戦において監視していたのであれば,調査の時間はあり,後付けの理由に過ぎない.と反論しています.連盟側の意見表明はありません.
これは,前回私が書いたことと同じです.あとは,当事者がその時点ではここまで考えるのは難しかったという意味で,悪意があったとまでは言えないのかも知れません.という点がどうかというところです.
5三浦九段が休場の申し出を行ったことを経て挑戦者交代に対する対応を行っており,三浦九段が休場を撤回した段階では後戻りできなかった
これまでの話など前座に過ぎず,この点が今回の本題でした.三浦九段側の反論は概ね以下の通りです.
- 10月11日に不正行為を指摘され,竜王戦辞退,休場を要求された.
- 拒否すると,竜王戦中止の連絡がその場に入ったと伝えられた.
- 承知するかと三浦九段と渡辺竜王に問いかけがあり,両者承知した.
- 連盟にとって大きな問題であるということで,休場届を出すことを求められ,それを踏まえ,その段階では仕方ないのかと認めた.
- 後で考え直し,それは不正を認めたことになるのでできないと拒否した.
それに対して,連盟側としては,産経新聞の記事によると,質疑応答の中で,「連盟から三浦九段に『休場』を強要したことは間違いなく、ありません」と述べたと伝えられています.三浦九段側のコメントのどこまでが正しいかという質問ではありませんので,どこまでを連盟側が事実と考えているかはわかりません.
ここは,間違いなく言った,言わないの水掛け論になり,そして,証拠は決して出てきません.なので,どちらが正しいかの判断もするつもりはありません.一つ重要なのは,何故三浦九段側が今になってこの情報を提示したのかです.恐らく,疑惑の初期段階でこの情報を提示し,同じように言った言わないの論争になったら,疑われている三浦九段側は信じてもらえないだろうという認識があったのではないでしょうか.でも,三浦九段側の見解は概ね正しいと多くの人が感じている現在になってこの情報を提示すれば,それを否定する連盟側と,どちらがより信じてもらいやすいでしょうか?恐らく,両方読んだ結果,三浦九段側を信じた人が多かったのではないでしょうか?
それこそが,三浦九段側唯一の弱みである,休場を申し出たことに対する反論の,切り札を今切った狙いだったのだと思います.この判断は絶妙です.正直,こんな手の込んだことを朴訥な三浦九段ができるとは思えません.弁護士の良い助言だったのではないでしょうか.こんなことを言うと,三浦九段には指せない手だからカンニングだろうと言っているみたいですかね.
いずれにせよ,これは途中経過で結論は出せません.ただ,連盟側は,出場停止処分を取ったのは妥当であるという第三者委員会の結論が,処分に対するお墨付きではないことを理解しなければならないと思います.第三者委員会の言っていることは,前述のとおり,落としどころの提案,三浦九段への譲歩のお願いと理解すべきです.つまり,三浦九段と本気で争ったら,余程のことがない限り連盟側は勝てません.勿論,対外的には妥当であったと言わざるを得ないのはわかります.ただ,三浦九段に対する今後の補償を考える際には,その点を十分理解する必要があります.
さて,こんな感じで,感情を押し殺し,押し殺し書いてきたつもりなのですが,一回だけ,感情的にならせてください.谷川会長は,「丸山九段に繰り上がり挑戦者として七番勝負に出て頂いたおかげで、タイトル戦も無事終了致しました。」と発言されました.これを聞いたとき,正直頭に血が上りました.判断は正しかったとするためには,無事に終わったと言わざるを得ないのかも知れませんが,それにしてもちょっと受け入れかねる見解です.会長は,タイトル戦が本当に無事に終わったと思っているのでしょうか?竜王戦史上最悪とも言える汚点を残している自覚があるのでしょうか?読売新聞社の顔にどれだけ泥を塗っているのかわかっているのでしょうか?ファンが,どれだけやりきれない思いでこの竜王戦を見たのかわかっているのでしょうか?この発言だけはどうしても許せず,本当に悲しいです.
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ここは議論の余地があるのでは。実際の記事から差し替えられたとも考えられますし、週刊誌と将棋業界の蜜月を背景とするならば、掲載を遅らせるかわりに取材に応じたとも捉えられます。真偽は不明でしょう。
そうですね.確かに仰る通り,そこは私の議論に穴がありそうです.ただ,だとすると,疑惑の段階の三浦九段をここまで貶める記事の取材,記事掲載を認めたというのがちょっと怖いです.
勿論,連盟に罪ががないとは思っていません.ただ,その時点で本当に十分可能であったかと言われると,部分部分に切り分けて考えれば,一般論としてもそこまで簡単な判断ではなかったのじゃないかと思うところが複数見られるんじゃないかと感じています.自分がその立場でも,判断を誤っていた可能性は否定できないです.岡目八目で,当事者になると判断って難しいよなと思うところが多いです.
普通に書いてしまうと,私は三浦九段を全面的に応援する記事を書いてしまいます.なので,可能な限り連盟の立場を斟酌しようと努力しています.